ライブハウスは死なない。『Live Eggs –Seven days–』ライブレポート【GOING UNDER GROUND / 一寸先闇バンド / peanut butters / Lilubay】

三橋 温子

三橋 温子

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10代のころから小さなライブハウスに通っていたわたしにとって、ライブハウスは新しい音楽との出会いの宝庫だ。現代には配信もYouTubeもある。もちろん日々利用するし、だれでも音楽を発信し受信できる時代を豊かだとも思う。それでも、未知の音楽を欲するときはやっぱりライブハウスに飛び込みたくなる。「生でライブを観るまでは好きかどうか判断しないぞ」という頑なな信条さえあるほどだ。

「ライブハウスの魅力や音楽の楽しさをあらためて知ってほしい」という想いのもとEggsが開催した『Live Eggs –Seven days-』は、ウィズコロナ時代のライブカルチャーの行く末を力強く照らす灯火である。今年2月の開催につづき、今回も渋谷LUSH・渋谷HOMEで7日間開催。計27組が出演した。

そのうち12月1日のライブの模様をレポート。コンポーザーとボーカルによるユニットのpeanut butters、きのこ帝国の西村“コン”率いるLilubay、シンガーソングライターのおーたけ@じぇーむず率いる一寸先闇バンドという若手ラインナップに、大トリを飾ったのはキャリア30年のGOING UNDER GROUND。なんとも贅沢で、世界観にどこか共通項を感じさせるブッキングだった。


peanut butters
(ピーナッツバターズ)

ドラムが刻む印象的なリズムのなか、ボーダーTにベージュパンツのVo.紺野メイの姿が浮かびあがる。両手はポケットにつっこんだままで、体を小さく軽やかに揺らす。これが「peanut buttersの紺野メイ」のトレードマーク。もともと所属するバンド、あみのずの紺野とは雰囲気ががらりと変わり、peanut buttersのローファイポップな音楽性をみごとに体現している。

今年9月、コンポーザーのニシハラによるソロユニットであったpeanut buttersに、サポートボーカルの紺野が正式加入した。1曲目「Peanut butter 2021」をエフェクトがかったボーカルで歌う彼女の声は、音源で聴いたときのボーカロイド感に生の人間味が加わり、淡々と、でもやさしく話しかけるような魅惑の色をしていた。中毒性の高いニシハラサウンドを構成する一要素として自然となじみ、かつ楽曲を彩っている。

アップテンポの「ツナマヨネーズ」「メロンD」で、遠慮がちだったオーディエンスも徐々に体を揺らし始める。ギターとコーラスで出演したニシハラは裏方に徹するように控えめにフロント下手に立ち、生配信された映像では顔を映さないカメラワークに。MCで紺野が「(セブン-イレブンの)からあげ棒がなくなる」という話題を持ち出したときも、マイクが拾うか拾わないかの声量で「関東はある」とボソリ。楽曲のポップさとのギャップに思わずにやけてしまった。

中盤で披露された「夕焼けハローワーク」は、peanut buttersではめずらしい三連符のスローナンバー。夕焼け色の照明に切なさが募る。こういうシンプルなメロディの繰り返しで心に深く残る楽曲をつくれる人は、本当に実力があるんだろうなと思う。そんな彼のルーツはRed Hot Chili Peppersだというから驚きだ。サポート3人のグルーヴィーな演奏がメロディのよさを一層引き立てる。

キャッチーな2曲を挟み、ラストは「グッドモーニングおにぎり」。心躍るイントロと紺野の笑顔に会場がはずむ。曲もいいが、もっと好きなのは歌詞だ。自分の書く歌詞に意味はないと語るニシハラだからこそ書ける、どこか気の抜けたちょっとネガティブな言葉たち。〈さよなら どうもグッバイそうですね〉なんて詩人は絶対思いつかない。まだ彼らの音楽に触れていないかたは、キッチュなアニメーションのMVと一緒にpeanut buttersワールドをぜひご堪能あれ。

【Setlist】
1. Peanut butter 2021
2. ツナマヨネーズ(band ver.)
3. メロンD
4. パワーポップソーダ
5. スーパーハイパー忍者手裏剣
6. 夕焼けハローワーク
7. びーちQ
8. 夕方5時
9. グッドモーニングおにぎり

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Lilubay
(リルベイ)

10月にバンド名をaddから改名したばかりのLilubay。映画『Bittersand』の主題歌として書き下ろされた「ニヒルな月」からステージは始まった。この日はアコースティック編成。アコギを抱えて座るシンガーソングライターのタグチハナ、上手には可愛い連中のベーシストであるバンビ、そして下手にはきのこ帝国のドラマーである西村“コン”。ドラムではなくカホンを叩く姿が新鮮だ。

つづく「kaerimichi」「ローレンス」はバンド編成の原曲と雰囲気が一変。とくにカントリー調の「ローレンス」は、西村の軽快なカホン、バンビの歌うようなベースライン、タグチの可愛らしくも声量のある伸びやかな歌、それぞれが少ない音数のなかで際立つ。アコースティックでも物足りなさを一切感じさせない、3人の演奏力と表現力とアレンジ力を見せつけられた気分である。

「改名後、初ライブということで、練習の時点から『こんばんは、Lilubayです!』って言うのにドキドキしちゃって。まだ慣れないね」とタグチ。ここ渋谷LUSHで5〜6年前にバンビと対バンした際、怖くて話しかけられなかったエピソードをこぼしながらも、「(みなさんに)幸せな気持ちで帰ってもらえるように」と今日の想いを語った。なんて癒される声なんだろう。美空ひばりや宇多田ヒカルは「1/fゆらぎを発する声」とされているが、タグチもそうなんじゃないかと勝手に思っている。

西村のグングル(足鈴)の音色が夢想世界を見せた「Fine day」など、3曲を披露したころには、会場には満ち足りた空気が広がっていた。テンションの上がった西村がカホンを強く叩きすぎて壊す(?)というハプニングも発生しつつ、ラスト曲「舌鼓」へ。この曲は、ゲスの極み乙女。の休日課長のレシピ本が原案となったドラマ『ホメられたい僕の妄想ごはん』のエンディングテーマでもある。

「大切な人と一緒にテーブルを囲んで、あたたかい時間を過ごしている。そんな曲です」とタグチが紹介し、歌とアコギだけの旋律がささやかに始まった。2年近くも新型ウイルスと共存しているわたしたちは、初期にあれだけ痛感した「あたりまえの日常の尊さ」を再び忘れつつある。すでに手にしているはずの幸せをわたしたちが見失わないように、Lilubayには〈パーフェクトなんてないけど/明日も早いけど/きみがさ 嬉しそう/それが僕の、全部だよ〉と歌い奏でつづけてほしい。

【Setlist】
1. ニヒルな月
2. kaerimichi
3. ローレンス
4. Fine day
5. 鯨
6. もっともっとみたいな気持ちになってよ
7. 舌鼓

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一寸先闇バンド
(いっすんさきやみばんど)

「一寸先闇バンドっていいます!」。ブルージーなアコギのアルペジオにのせ、Vo./Gt.おーたけ@じぇーむずが叫ぶ。自然と体が揺れるシャッフルビートにギターリフ、そしてPf./Chor.かくれみののピアノリフが重なり、代表曲「一寸先闇」のイントロが始まる。

ファルセットや巻き舌を使いこなすおーたけの歌声は、小柄な体のどこからそんな声が?と思わずにいられない迫力がある。ソロとして年間200本近くのライブを経験してきたという、まさに叩き上げのシンガーの声だ。ギターから離した手を伸ばし、落ちサビ〈一寸先は闇さ/生き延びるたびに思い知る〉を絞り出すように歌う彼女からは、切迫感にも似た感情があふれ出るのを感じた。

「飲んでるか!」とおーたけが会場を煽り、披露されたのは「テキーラ」。サビではオーディエンスがリズムに合わせてグラスを掲げる。その後、11月にリリースされたばかりのEPの表題曲「知らんがな」から畳みかけるように曲がつづき、Syn./Chor.山口竜生とDr./Chor.大山拓哉がクールに刻むリズムで会場の一体感がさらに増す。ツイン鍵盤編成が織りなす重厚で洗練されたサウンドも心地いい。

おーたけと3人による「楽しい?」「もちろん!」というコントのようなMCを挟み、この日もっとも胸に迫った楽曲「新しくなる」。シンコペーションが癖になる不穏なメロから、おーたけの歌唱力が際立つシャウト混じりのサビへの展開は、生で体感すると鳥肌が立つほどドラマティックだった。その余韻を残したまま鍵盤2人がポジションを交代し、EP『知らんがな』に収録されている混声コーラスが印象的な「身の丈」へ。

山口の華麗なピアノのアウトロが終わると、「またライブハウスで元気に会えるのを楽しみにしています!」というおーたけの言葉とともにラスト曲「高円寺、純情」が披露された。岡山から上京した彼女が歌う〈しんぱいないよ/げんきでね/ここは/高円寺/高円寺〉のフレーズは、かくれみののピアニカの音色も相まって涙を誘う。〈げんきでね〉。何気ない、でも一生の別れのようにも聴こえるその声は、ステージが終わり会場が明るくなったあとも耳に残っていた。

【Setlist】
1. 一寸先闇
2. テキーラ
3. 知らんがな
4. 日記
5. ごみ屋敷
6. あそぼう
7. ものわすれ
8. 新しくなる
9. 身の丈
10. 高円寺、純情

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GOING UNDER GROUND
(ゴーイングアンダーグラウンド)

エレクトロニックなSEとともに、メンバー3人とサポートメンバー2人が渋谷LUSHのステージに現れる。通常ならそのまま1曲目に突入するのが粋だが、GOING UNDER GROUNDはひと味違う。「最年長じゃないですか? 今日」とVo./Gt.松本素生がまずしゃべり、「ふだんはお風呂入ってあと30分したら寝る時間」と会場を笑わせる。

ベテランの余裕を感じさせる和やかなムードは、Gt.中澤寛規のギターにピアノとボーカルが重なり、5人全員の音が結束した瞬間に一転。これがキャリア30年のバンドの爆発力だ。インディーズ時代最後のシングル曲「アロー」、メジャーデビュー曲「グラフティー」と、20年前のリリースにもかかわらずまったく色あせない楽曲を立てつづけに演奏。個人的には2016年『SKULLSHIT 20th ANNIVERSARY 骸骨祭り』以来の生ゴーイングだったので、仕事も忘れて最前列で彼らの音を浴びる。

「久々に平日夜の時間に(ライブを)やってます。ワンマンは昼間にやって夕方に終わるからね」(松本)、「そのあとごはんにも行けるし、2番目に好きなアーティストのライブをハシゴできる」(中澤)といつもの漫談のようなMCのあと、小金井公園で突然できたという新曲「ムーンダンス」を含む3曲をつづけて披露。松本の「いいとこどりのセットリストを組んできました」という言葉どおり、定番曲を中心としたライブ映えするセトリで若い世代を魅了した。

松本がゆったりとアルペジオを奏でる。コードが「トワイライト」であると気づいた瞬間、胸が熱くなった。この名曲はおそらく、2003年当時から一切変わらぬ鮮度でわたしの胸を熱しつづけている。〈約束しよう僕らは それぞれの地図を持って〉。ここでステージが照らされオーディエンスが腕を突きあげる光景は、何度観ても恍惚としてしまう。「俺とまた一緒にバンドやってくれよ!」と松本が叫び本編最後に演奏されたのは、MCにもほとんど加わらないクールなBa.石原聡の雄々しいカウントから始まる「the band」。バンドマンの弱さと強さが描かれた、このイベントにふさわしい選曲だった。

アンコールで再登場した松本は「いい? 独断と偏見で僕がやりたい曲やらせてもらって」と、本編中のMCで“ルーズソックスのリバイバル”が話題にのぼったことから「ルーズソックス」という曲を即興で弾き始める。中澤のギターも加わり洒落たイントロだったが、〈ローファーの♪〉の歌い出しに中澤が輪唱のコーラスを入れて台無し(?)に。

自分よりも年上であるthe pillowsの山中さわおやELLEGARDENの細美武士に敬語をつかわれたというおもしろエピソードも飛び出しつつ、最後の最後にはオーディエンスや対バンメンバー、そして渋谷LUSHに熱い感謝の言葉を述べた松本。アンコール曲に選んだのは2005年のアルバム『h.o.p.s.』収録曲である「東京」。〈イッツオーライ 僕らの音楽を大きな声で…〉と繰り返されるフレーズは、ライブハウスを超え、渋谷の街を超えて、この混迷する時代に音楽を愛するすべての人へ歌いかけているような頼もしさを携えていた。

【Setlist】
1. アロー
2. グラフティー
3. 同じ月を見てた
4. ムーンダンス
5. モンスター
6. トワイライト
7. the band
Ec. 東京

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(取材/文・三橋温子)
(撮影・蓮実藍)

Eggs 公式サイト