【ライブレポート】関西と関東のインディーズシーンを繋ぐ合同企画|森公一&寝屋川VINTAGE Presents『結晶の讃歌』

池田 小百合

池田 小百合

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茨城県出身のアーティストである森公一が、ライブハウスと合同企画したイベント『結晶の讃歌』。その第2弾が11月27日(土)に寝屋川VINTAGE・SPLAYの2会場で同時開催された。

森が「地元の音楽シーンを活性化するために、全国のアーティストを地元に呼びたい」との趣旨で開始したこの企画。第1弾は今年8月に東京・八王子Match Voxで開催され、第2弾の今回は大阪・寝屋川での開催となった。

1984年に創業した寝屋川VINTAGEは、yonigeやthe paddles、Hump Backなど多くの有名アーティストを輩出している関西屈指の老舗ライブハウスだ。合同企画の名の通り、VINTAGEからは中道店長おすすめの地元若手インディーズアーティスト、森からは友人である茨城や東京出身のインディーズアーティストのブッキングとなった。

『結晶の讃歌』は、結果として違う世代のアーティストが音楽を通じて繋がると同時に、関西と関東のインディーズシーンを繋ぐイベントとなった。本記事では、イベント主催者である森、活動2年目で精力的にツアーを行っているCantwell、森と共に茨城から来たベップヨシヒデ、高校時代に結成してVINTAGEで育ったBlue Mashの4組のライブレポートを掲載する。


地元茨城のインディーズシーンに新しい風を

森公一は過去に茨城アーティスト特集で紹介した通り、2011年に活動休止したWARPHOLLのVo.で、現在はソロ活動をしている。また地元茨城のインディーズアーティストが主体となった地元密着型音楽サーキットフェス『LIVEHACK IBARAKI』の発起人としても活動中だ。

地元アーティストが中心のイベントを開催している森は、「茨城を盛り上げたいと思っているが、地元アーティストだけのライブやイベントを行っていると慣れ合いになってしまう」と感じた。そこで地方のバンドを地元に呼びたいと考えたという。

ソロとして活動を再開後、WARPHOLL時代にライブを行ったライブハウスを中心に2回の全国ツアーを行った。その経験から「『LIVEHACK IBARAKI』とは違う形でライブハウスと合同企画を行い、地元のライブハウスに寝屋川のバンドや全国のバンドを呼んでイベントができたら」と思いついたのだと話す。

森は41歳であるが、これから活躍する若いアーティストとも対バンをしたいと考えている。そして地元アーティストに新しい風を吹かせたい、刺激を与えたいと考える彼の想いは、寝屋川のアーティストにどのように伝わったのだろうか?

『結晶の讃歌』ライブレポート
出演アーティスト

【at VINTAGE】
ichiru
a frankenlouie
zan80z
Cantwell
Blue Mash

【at SPLAY】
森公一
野口貴良(KARAN)
Charmant coco
アキ(World’s End Super Nova)
ベップヨシヒデ

大阪の中心地から電車で30分ほどのベッドタウンである寝屋川。11月最後の週末は、秋晴れであるが肌に当たる風が冷たい。寝屋川駅から延びるアーケード商店街の途中で右に曲がると、水色の壁がひときわ目立つライブハウスVINTAGE、そしてアコースティックライブ会場のSPLAYが見える。

本日のイベントは、VINTAGEではバンド編成のアーティスト、SPLAYではアコースティックライブを行うアーティストの合計10組が出演する。SPLAYの入り口には「サーキットイベント」と書かれた紙がさりげなく貼られており、扉を開けて入場する。観客や出演者が詰めかけフロアの熱気が高まったところで最初に登場したのは、なんと主催の森だった。

森公一(もりこういち)

森公一は2018年にソロとして活動再開後、2021年4月に1st ALBUM『灰色の空と赤き太陽』をリリース。ライブはアコースティックギターでの弾き語りが中心だが、音源はバンド編成でロックを奏でており、圧倒的な歌唱力を持った歌うたいである。

本来イベントの主催者はトリを務めることが多いが、本イベントで森は最初に出演した。活動歴が長くなると最初の出番を任されることが少なくなる。トリは重要だが、1番目もイベントを作っていくにあたり重要な役割を担っていると考える森は、あえて1番目に出演するのだ。

「茨城から来ました森公一です!」と挨拶の後にギターをつま弾き歌ったのは、〈この声で伝えなくちゃいけないことがあるんだよ〉と歌う「メッセージ」だ。自身のバンドWARPHOLLのロンTを着て叫ぶ森の声は、聴く者の心臓を掴むように感情を揺さぶる。〈この声じゃなきゃダメなんだ〉、だから歌うのだという意思を1曲目から示す。続く「夜走」の間奏では、弾き語りをしているとは思えない勢いで頭を振り乱し、フロアをにらみつけるように〈この声を寝屋川へ届けよう〉と歌詞を替えて歌い、観客の心を沸かせる。

「茨城の田舎者が大阪で企画をやると大きいことを言ったけど、今じゃないとできないし、やらなければいけないと思った。寝屋川のみんなに感謝しています」と想いを語り、「聞こえているならマイクはいらないよな!」と後半はマイクから離れて歌う。

「鈍色の街で」では〈何度でも 何度でも 歌にして 日々を越えてゆけるように〉歌いつづける覚悟を示す。マイクを通さずとも繊細な声の振動が小さめのフロア全体に響く。最後には「どんなことがあってもそれぞれが素晴らしい世界にしていきましょう!」と語り、「素晴らしきこの世界」を演奏。最後に〈いつかこの身枯れ果てても 繋いでゆき生きようと〉と歌われる歌詞は、このイベントでの出会いをしっかり繋いでいく決意にも聞こえた。

【Setlist】
1. メッセージ
2. 夜走
3. 君がいる空
4. 鈍色の街で
5. 素晴らしきこの世界

Cantwell(キャントウェル)

Cantwellは、それぞれにバンド活動をしていたメンバーが2020年秋に結成した寝屋川出身の3ピースロックバンドだ。バンド名の由来であるアラスカ州キャントウェルのように荒涼としたサウンドと爽やかな疾走感が特徴だ。活動歴は短いが、2021年3月に1st EP『Scenery by the sea』を配信リリースするなど精力的な活動を行っており、茨城へのツアーも予定している。

VINTAGE名物の螺旋階段からメンバーが登場し、演奏が開始すると続々と観客がフロアに入ってくる。幕開けにふさわしい壮大で爽やかなギターロックナンバー「sons」でライブがスタート。田中洸助(Vo./Gt.)のエモーショナルな声とギタープレイが響き、続く「jp」では5弦ベースを指弾きで操る城(Ba./cho.)が観客を煽る。

MCは田中が担当しており、今日はフロアに観客が多く「コロナ前のVINTAGEに近い感じがします」とイベントの印象を伝え、主催の森に感謝を述べる。また「俺たちは最年少のBlue Mashの1歳上でまだ若手ですが、ライブはバシっとやって帰ります!」と意気込みを語る。

後半で演奏された「うみべのまち」は離れてしまった君への想いをノスタルジックに描いており、この晩秋の時期に似合う楽曲だった。そして最後に演奏された「ブルーライン」は疾走感のあるイントロに繋ぐ3拍子のライブアレンジが挿入され、解放感のあるサビに拳を上げる観客も。最後の「寝屋川のCantwellでした」との挨拶からは、地元寝屋川を誇りにしていることが伝わってきた。

【Setlist】
1. sons
2. jp
3. 生活
4. 三人
5. うみべのまち
6. ブルーライン

ベップヨシヒデ

SPLAYのトリはベップヨシヒデだ。茨城県出身の3ピースロックバンドobiのVo.で『LIVEHACK IBARAKI』発起人の一人としても活躍中だ。茨城県鹿島エリアを中心に各地でライブを行っている。バンドのエモーショナルなサウンドとは一転、優しいロックをアコースティックギターで弾き語る。

ベップは裸足でステージに立ち、観客がVINTAGEからSPLAYに移動し終えるまで雑談を始めた。寝屋川でのライブはobiで来てから3年ぶりで楽しみにしてきたこと、早朝に森と茨城を出発したが、新幹線で寝過ごして岡山まで行った話にフロアからは笑い声が漏れる。そんな人懐こくフロアに語り掛けるベップだが、演奏が始まるとエモーショナルに歌い叫ぶ姿は、森に近いものを感じる。

1曲目の「わがまま」は、先輩の娘が上京するときに書いた楽曲。1曲の中で娘と父親、両方の視点が描かれており、切なさが増す。その後のMCでは「自分の娘が生まれたから、今は娘に重ねてしまう。彼氏なんて一生作らないでほしい! バンドマンの彼氏なんてご法度です! 金なしだし!」と出演者の笑いを取る。

いろんな迷いがあってもそれでいいと肯定する「それでいい」は、アルペジオで語るように歌い〈それでいい それがいい あなたが笑ってくれれば〉とサビのファルセットが優しく響く。

「友達と会えなくなったのは寂しいけど、そこまで深刻に捉えずに過ごせた」とコロナ禍について語った。そして「なんでもないことに幸せを感じる日々でありたい」との想いを込めた楽曲「なんでもない物語」では、3拍子を刻むストロークに乗せて全力で叫ぶ。

最後のMCで「バンドを組んだ15歳からずっとバンドのことばかり考えてきた。この休暇期間にやっぱり歌が好きだと思った。だから一生懸命歌っていきたい。その場所が寝屋川でも茨城でも変わらない! 茨城のベップヨシヒデでした!」と語った彼がラストに選んだ楽曲は「血の味」。生きていくために歌にして歩いていかなければ!と自分を鼓舞する楽曲だ。想いを届けようとフロアを突き抜けるように〈歌にして生きていく〉と叫ぶ。その姿からにじみ出る覚悟に、確かに血の味を感じた。

【Setlist】
1. わがまま
2. それでいい
3. トワイライト
4. なんでもない物語
5. 血の味

Blue Mash(ブルーマッシュ)

イベントのトリは、2018年に寝屋川で結成した4ピースギターロックバンドのBlue Mashだ。「僕らの日々を歌う」をテーマに掲げ、音源のリリースや精力的なライブ活動をしている。自主企画はソールド必至で人気爆発直前の注目バンドだ。森がソロ活動を始めた2年前に初めて対バンをしたときは高校生だった彼ら。その当時からエモーショナルなライブに森が惹かれ、寝屋川では毎回対バンをしている関係である。

ファンが最前列を埋めるフロアからは、このイベントの終わりを飾るライブの開始を心待ちにする空気がただよっている。メンバーが登場し、優斗(Gt./Vo.)が「大阪寝屋川のBlue Mashです! 森公一さん呼んでいただきありがとうございます」と挨拶。ライブはミディアムバラード「大人になること」で開始した。10代の優斗が少しハスキーな儚い声で、これから大人になることを自覚しながらも、忘れたくないことや大切にしたいことを等身大で歌う楽曲だ。

先日、好きな子に告白をしたら「お前は無理」と言われて落ち込んでいると話す優斗は、「年齢とかトリとか関係なく、寝屋川のバンドなんで寝屋川のライブをします!」と気合いを見せる。続く「海岸線」は〈大人になんてなれなくても 僕は僕でいい〉とティーンの自分たちを肯定する。サビのコーラスワークで、声を出せない観客は拳を上げて応える。スギちゃん(Dr.)とサポートのきぬがわ らむ(Ba.)からなるリズム隊は堅実な演奏を行っているが、優斗はアグレッシブに動きまわりながらギターをかき鳴らす。また、げんげん(Gt.)も肩までの伸びた髪を振り乱し、ギターソロでは座りこんで表情を歪め、顔で弾いているような姿を見せる。

失恋ソングの「17歳」、ミディアムバラードの新曲、再び顔で演奏するげんげんのギターソロがある「この街から」と、立て続けに披露。

次のMCでは優斗が「同期や先輩がいっぱい辞めていった中で、続ける意味がわかった」と真面目に語りだす。「ライブハウスが素晴らしい場所だと教えてくれたのは、ここ寝屋川VINTAGEです。それが俺らがバンドを続ける理由です。今日出ていた先輩方が教えてくれた。俺らいろんなところにライブやりに行って、友達や先輩を見つけてまたここに呼びたい! それをいろんな人やバンドがやれば、この場所がもっとよくなるんじゃないか」と、出演者にも想いを伝えるように話した。

最後に演奏されたのは、結成初期に「この場所で作った」と語る彼らのアンセム「愛すべき日々」だ。抑えきれない初期衝動の塊のようなBメロで、感情が爆発した優斗は歌詞にはない今の気持ちを全力で叫び倒す。その姿に圧倒され身動きが取れない観客も。〈君の街まで歌うよ ただそれでいいんだ〉との歌詞が、結果的に今日MCにのせた想いを示していたのではないだろうか。

各方面で話題となっている彼らのライブを見て、なぜここまで支持されているのかがわかった。彼らは今、最も見逃してはいけないブレイク必至のバンドである。手の届かないところに行ってしまう前にライブハウスで目撃してほしい。

【Setlist】
1. 大人になること
2. 海岸線
3. 17歳
4. 新曲
5. この街から
6. 愛すべき日々



今回、森公一&寝屋川VINTAGE Presents『結晶の讃歌』で4組のアーティストのライブをレポートした。

地元茨城を愛しているからこそ、地方にも積極的に行く森。彼の想いは寝屋川のアーティストにしっかり伝わっていたことがこの1日のライブを通してわかった。Blue Mashの優斗がイベント最後で話した内容は、奇しくも森がこのイベント『結晶の讃歌』を通じて目指すものと同じだったのだ。

『結晶の讃歌』第3弾は、2021年12月12日(日)に東京府中Flightで開催され、今後も全国各地で開催予定である。あなたの住んでいる地域で開催される際は是非足を運んでほしい。

(取材/文・池田小百合)
(撮影・蓮実藍)

森公一&府中Flight presents『結晶の讃歌』
Flight 31th Anniversary!!

日程:2021年12月12日(日)
時間:open 18:00 / start 18:30 
料金:前売り ¥2,500 / 当日 ¥3,000(+1Drink)
出演:森公一、rootrunk、LITTLE WONDERS、pale diary、三浦果南

※チケット予約は各出演者まで
※森公一ライブ&イベントの最新情報は公式Twitter(@warpho11ko)で発信中

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