Festival Eggsライブレポート|新世代インディーズバンド&アーティストを先取り!【Festival Eggs 2021 -NO MUSIC, NO LIVE.-】

三橋 温子

三橋 温子

「Festival Eggsライブレポート|新世代インディーズバンド&アーティストを先取り!【Festival Eggs 2021 -NO MUSIC, NO LIVE.-】」のアイキャッチ画像

猛暑をさらに加速させるほどのアツイ6時間だった。

インディーズアーティストとリスナーをつなぐプラットフォーム『Eggs』が8月に開催したサーキットイベント『Festival Eggs 2021 -NO MUSIC, NO LIVE.-』。札幌・東京・名古屋・大阪・福岡の7つのライブハウスを舞台に、これからの活躍が期待される全44組がエネルギッシュなステージを披露した。

会場での有観客ライブに加え、観たいステージを画面上で切り替えながら視聴できるマルチストリーミング形式の配信ライブも実施。今回わたしは配信で参戦させていただいたが、全国のライブハウスをワンクリックで瞬時に行き来できる感覚はなかなかユニークなものだった。

ほぼ全組を視聴したうち、個人的にとくに心に残った12組をレポート。みなさんが新しいアーティストと出会うきっかけになれば幸いだ。

※本記事は、Eggsならびに各アーティストに掲載許可をいただいています。


生絹
(すずし)
  • 出演:福岡 Queblick 14:00〜
  • メンバー:suzushi(Vo./Key.)、sae(support Ba.)、support Dr.
  • Eggs:@suzushi_fuk

福岡のオーディション枠を勝ちとりオープニングアクトを務めた生絹。生絹(すずし)とは、精練していない絹で織った織物のこと。軽くてハリがあり、夏物によく使われるという。

ギターレススリーピースバンドと自称する彼女たちの音楽は、浮遊するようなサウンドと歌声が印象的。suzushiのピアノ弾き語りで披露された1曲目『midnight dancer』は、絶望的でありながら、バンド名のようにどこか軽やかで心地いい不思議な楽曲だった。MCを挟まずに続けて披露されたのは『海月』。ブルーの照明のなか、水泡のようにリズムを刻むベースが会場を深海に変えた。

写真やイラストも手がけるというsuzushi。自身の感性を活かし、バンドの世界観により一層磨きをかけていってほしい。大手レーベルに所属することだけがゴールではなくなったいまの時代、セルフブランディング力は大きな強みになる。

『midnight dancer』
youtube動画
ケプラ

高校3年生の4ピースバンド。制服姿で出演する高校生らしいMVとは裏腹に、とても落ち着いていて大人びたステージだった。自主レーベルからミニアルバムをリリースするなど、活動もたいへん地に足がついていて頭が下がる。

フレッシュなギターロックのなかに昭和ポップスの香りも漂う『16』や『百獣の唄』をはじめ、ラストは爽快なアップテンポナンバー『春が過ぎたら』。青春を描いた等身大の歌詞と、柳澤のまっすぐで伸びやかな歌声に思わず笑みがこぼれる。

まだ高校3年生。このまま音楽を思いきり楽しみながら、さまざまな経験を積んで引き出しを増やしていくであろう彼らに注目したい。

『春が過ぎたら』
youtube動画
平理央
(たいらりお)
  • 出演:東京 新宿LOFT Bar 14:35〜
  • 活動開始:2019年
  • Eggs:@Clairdelune0428

アパートの一室でギターをかき鳴らし歌う『告白』(YouTube)に心を奪われて以来、この日のライブを楽しみにしていた。本人が事前に「初めてギターを持たずにライブに出演」とツイートしていたとおり、ステージにはマイクと機材のみで登場。半年かけてチームで制作したというトラックの打ち込みを流しながらのパフォーマンスだった。

1曲目の『告白』はR&B調にアレンジされており痺れた。平の22歳とは思えない色気ある歌声がトラックに絡み合う。中学時代の初恋がきっかけでギターと作曲を始めたという彼だが、現在も恋愛をテーマにした楽曲が多い。高校時代に好きだった女の子とのエピソードから『It’s December』を披露し、失恋のエピソードから『天文部』を披露し…と、笑いを誘うMCは意外だったがそれも彼の魅力なのだろう。

今度はギターでのライブも観てみたい。

『告白』
youtube動画
umitachi
(うみたち)
  • 出演:名古屋 CLUB UPSET 15:00〜
  • 活動開始:2020年
  • メンバー:マキノアンジュ(Vo./Gt.)、サワ(Dr./Cho.)
  • Twitter:@_umitachi

岐阜で結成されるやいなや即話題となったバンド。結成から数か月でメンバーふたりが脱退し、一時はマキノのみになるも、今年7月にサワが加入。同時に名古屋のインディーズレーベル『TRUST RECORDS』に所属が決定するなど、激動の初年度を駆け抜けた。

サポートベースとともに3人で登場すると、まずはステージ中央で深々とお辞儀。演奏前には拳を突き出し合って気合いを入れる、そんな彼女たちの健気な姿にほのぼのとした。

マキノの歌声は凪いだ海のようにやわらかく、音源で聴くよりもずっと魅力的に感じた。かと思えば、『息をしている』のなかの〈友達ってなに〉〈僕のことだよ〉という一節を急に感情的に歌う場面も。彼女が心を救われた、友人とのTwitterでのやりとりを歌詞にしたのだという。派手さはないが安定感があって落ち着くリズム隊も、バンドの世界観を引き立てていた。

『海たち』
youtube動画
マリナ
  • 出演:東京 渋谷HOME 15:15〜
  • 活動開始:2018年
  • Eggs:@marina_ssgg

神奈川の大学生シンガーソングライター。高校2年から活動を開始し、『RO JACK for COUNTDOWN JAPAN 20/21』9月入賞アーティストに選ばれるなど早々に実績をあげている。

ギター1本で歌う女性シンガーソングライターは近年巷にあふれていて、彼女たちが自身をいかに差別化して魅せてくるか、そこが見ものだったりもする。インフルエンサーとしても活動するマリナは、そのキュートなルックスから想像される音楽性をみごとに裏切り、こぶし混じりのパワフルな歌声と情熱的なギターで会場を魅了した。

〈ライブハウスでの叫びが唯一の抵抗になるの 笑えるよな〉と歌う『革命』、〈ヘッドホンからは銀杏BOYZが鳴ったまんま〉と歌う『缶コーヒー』を聴き、わたしとはひとまわり以上も歳の違う彼女の音楽的ルーツが垣間見えて親近感が湧いた。『hero』のラスト、〈主人公は僕しかいないんだ〉の伸びやかなアカペラからは、次世代を担う若きアーティストの決意が感じられた。

『hero』
youtube動画
Art title
(アートタイトル)
  • 出演:福岡 Queblick 15:35〜
  • 活動開始:2019年
  • メンバー:山本大斗(Vo./Gt.)、コモリタケル(Gt.)、吉川颯(Gt.)、長野詠吉(Ba.)、栗崎廉(Dr.)
  • Eggs:@art_title_info
  • TOWER RECORDS 通販サイト

ひと昔前に比べて少数派となった5ピースバンドのなかでも、トリプルギターという編成をとるArt title。この音の厚みが、オルタナティブな世界観に非常によくマッチしている。

2曲目に演奏された『垢』は、シンプルながらもクールなベースラインから徐々に音数が増えていく、ストーリー性のある構成に引き込まれる名曲。YouTubeで初めて聴いたとき、地元のライブハウスでインディーズロックバンドたちが奏でるポエティカルで少々荒削りな音に酔いしれていた、2000年代初頭の高校時代を思い出した。そうそう、こういう音楽をもっと聴きたいのだ。若い世代の感性でアップデートされた、懐かしくも新鮮なオルタナティブロックを。

コピーバンド時代にアップした動画がYouTubeで50万回再生されたという、山本の気怠くも美しい歌声がまたいい。ラストは夢のなかに誘うようなスローナンバー『2001』。しばらく余韻から抜け出せなかった。

『垢』
youtube動画
Rose One
(ローズワン)

キャスケットから伸びるロングヘア、瞳を覗かせない濃いサングラスにシャツワンピース、抱えたアコースティックギター。ミステリアスな存在感を放ちながら、ハリのある声と巻き舌で〈クソッタレの〉と歌い始めた彼女のステージを前に、オーディエンスは思わず息を飲んだだろう。

音楽好きの両親のもとで育ち、4歳でピアノ、小学6年でアコギを始めたRose Oneにとって、音楽は気づけば「日常にあったもの」だったという。自らの日常の一部である音楽という手段を通じ、あえていじめやハラスメントなどの社会問題を媚びずに歌いあげる。彼女の堂々としたステージを見ていると、自分の些細な嘘や見栄やしたたかさがくだらなく思えてくる。

ライブでは『常識なんてからっぽだ』『嫌いな奴』、有線で流れ話題を呼んでいる『普通に良い子』などを披露。MCの声がかわいらしく、歌声とのギャップにほっこりした。

『普通に良い子』
youtube動画
レベル27
(れべるにじゅうなな)
  • 出演:東京 新宿LOFT ステージ 16:20〜
  • 活動開始:2016年
  • メンバー:奥田大地(Vo./Gt.)、オオタ13月(Vo./Gt.)、アーサー(Gt.)、ノリタソ(Ba.)、アトモスフィア大西(Dr.)
  • Eggs:@level27official
  • TOWER RECORDS 通販サイト

『Eggs』のランキングで上位を独占するなど、近年勢いにのっている大阪のツインボーカルバンド。今年11月には心斎橋Pangeaで初のワンマンを開催予定。インディーズバンド界を牽引する注目株だ。

この日演奏されたのは『終わらせたって構わないと笑った君へ』『オーディション』『誰かの綺麗事』など全5曲。甘さがクセになるツインボーカルにトリプルギター、ともすれば散らかりかねない編成をキャッチーなギターロックに仕上げるセンスはさすが。難解なことばは使っていないのにハッとさせられるリリックも、多くのリスナーに支持される所以だろう。

奥田とオオタが27歳になる年に結成されたレベル27。27歳からでも諦めずにバンドを始めるという覚悟がバンド名に込められているそうだ。ジミ・ヘンドリックス、ジム・モリスン、カート・コバーン…いわゆる27クラブのジンクスは、今後の彼らの大躍進によって前向きに塗り替えられるかもしれない。

『終わらせたって構わないと笑った君へ』
youtube動画
Seethrus
(シースルーズ)

こういう「音楽バカ」(いい意味です)なバンドが大好きだ。やたらと長尺の間奏&アウトロ、速弾きありピッキングハーモニクスありの派手さがぶつかり合うツインギター、シャウト混じりのボーカル、変則リズムを刻むベース&ドラム。ガレージ・サイケ・メロコアなどをルーツにもつ4人のテクバトルを見ているようなステージは、ライブ至上主義のわたしとしては無条件にテンションが上がる。

前身バンドでの活動を経て2018年にスタートしたSeethrus。翌年にはオーディエンス参加型ライブグランプリ『Mudia』にて、BiSHやBiSのサウンドプロデューサーとして知られる松隈ケンタ賞を受賞。今年7月に現体制となり、新たなスタートを切ったばかりだ。

イントロですでに期待感が爆発する『ヘラヘラ』に始まり、『Queen』『アイラブユー』など全5曲を全力疾走。Ba.イマニヒロの「喋りはうまくないから音で伝えます」という辿々しいMCも実にロッカーらしかった。

『Queen』
youtube動画
LAUSBUB
(ラウスバブ)

我が地元、札幌が誇る高校生テクノユニット。コロナ禍で軽音楽部の活動ができなくなったことを機に、当時ふたりが傾倒していたテクノ音楽によるバンド活動をリスタート。今年1月に『Telefon』がSNSでバズり、同じ北海道出身のサカナクション山口一郎に紹介されるなど一躍脚光を浴びた。

今回配信のみで出演したLAUSBUBは、待望の『Telefon』でライブをスタート。圧倒的な中毒性をもつサウンドと高橋の人間離れしたボーカルは、彼女たちがまだ10代である事実を瞬時に忘れさせる力をもっている。トラックがフィーチャーされがちだが、携帯電話が普及する前と現在の「電話」の存在について書いたというリリックもユニーク。

2曲目は、ギターとベースを手放しふたりで歌う『The Catcher in the Die』。〈ナンを求めて三千里〉から始まる摩訶不思議な楽曲だ。「本当は会場でライブをしたかったけど、受験生なので学校の用事に振りまわされて配信になりました。会場が盛り上がっているのを想像してがんばります」と高校生らしいMCを挟み、全4曲を披露した。

The Floor
(ザ フロア)

コロナ禍で閉店に追い込まれたCOLONYのスタッフたちが、情熱を絶やさず新たに立ち上げたライブハウス・PLANT。その場所でトリを飾るアーティストとして、The Floorはこの上なくふさわしい。

1曲目『イージーエンターテイメント』ではサビをシンガロングしたくなり、『リップサービス』では速弾きギターに痺れ、最新ミニアルバムのリード曲『雨中』では思わず感傷的になってしまった。その演奏クオリティの高さは、配信だとなおダイレクトに伝わってくる。MCでは「ここ最近、なにかと不穏なことばかりあるけど、30分だけでもその感情をなくして楽しいほうへシフトしていただけたら。一緒に来ていただけますか札幌!」と会場を煽った。

すでに大型フェスやメディアにも多出しているThe Floor。札幌バンドシーンの期待の星として、バンドを志す若者たちの起爆剤として、コロナ禍を乗り越え今後も輝きつづけてほしい。

『雨中』
youtube動画
声にならないよ

「あなたの声にならない想いを歌えますように」という願いを込め活動しているピアノポップバンド。てっきり夜好性系のユニットかと思っていたが(なんならボーカルは女性だと思っていた)、違った。小気味よく踊る芸術的なピアノに天性のジェンダーニュートラルな歌声がのる、ピアノロックともポップともいえるニュージャンルのバンドだ。

普段はギター・ベース・ドラムを加えた5人編成だが、この日はsupport Gt.おーしゃんが渋谷LUSHでアポロノームとして出演していたため、彼の顔を大写しにしたタブレット(?)をステージ上に置いて演奏。観客のクラップやハンズアップで盛りあがった『いつかの話』、クラウドファンディングでアニメーションMVが制作された『sumire』、有村藍里のMV出演が話題を呼んだ『あの日のふたり』などがつづいた。

「このような素敵な場所を与えてくれて本当にありがとうございました」。そう感謝を口にし、「当たり前の日常が大切だという曲」と前置きして最後に披露されたのは『soundless』。バンドがいちばん伝えたいメッセージを音に込めて、大トリを締めくくった。

『soundless』
youtube動画


(取材/文・三橋温子)


TIME TABLE