【ライブレポート】黒子首 / afloat storage / WALTZMORE|ゴガツハズカム0128「東京は地上に星がある。」

池田 小百合

池田 小百合

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「東京は星が見えない」という話を聞いたことはないだろうか。都会で育った筆者は「星は見える。しかし、空が狭く見上げることがほとんどない」と返答したい。

2022年2月2日にTOY’S FACTORYからメジャーデビューを果たした黒子首、1年4ヶ月ぶりに再始動したafloat storage、昨年末に東名阪ツアーを成功させたばかりのWALTZMORE。若手3組を迎えたイベント“ゴガツハズカム0128”「東京は地上に星がある。」が、1月28日に新代田FEVERで開催された。

「東京は地上に星がある。」という副題は、きのこ帝国「国道スロープ」の歌詞の一節だ。〈246号線をまたぐ歩道橋〉と歌い出しにある国道246号線は、東京から静岡に至る首都圏の主要な幹線道路である。この歌詞を聴いて筆者がイメージしていたのは三軒茶屋あたりの玉川通りと呼ばれる付近だ。高速道路にふさがれた狭い空を見上げることはほとんどない。代わりに、歩道橋の上から通りを見下ろすと、確かに〈地上に星がある〉ことに気付く。

246号線に交差する環七通りを北上した場所にある、新代田駅に降り立つ。冬晴れの夜、冷えそうな両手をポケットに入れ、環七通りをまたぐ信号を渡るとすぐにFEVERの看板が見えた。


「音楽的純度を上げる」
ゴガツハズカムの新たな試み

ゴガツハズカムを主催する吉田学氏は、現在活動休止中のきのこ帝国の佐藤千亜妃(Vo./Gt.)をはじめ、多くの若手アーティストとイベントを開催している。

今回のイベントは基本的にノーカメラで開催されたため、ライブフォトの掲載がないことをご了承いただきたい。吉田氏によると、撮影機材に視界を遮られるという観客からの指摘をきっかけに、カメラの重要性は理解しつつも「出演者・観客・スタッフだけがライブハウスに存在することで音楽的純度が上がるのではないか」と考えた末の試みだったという。

会場に入ると、イベントに関連するアーティストの楽曲が流れていた。コロナ禍にある現在、観客は床に貼られた立ち位置シールの上に立つ決まりになっており、フロア内はシールに合わせてすでに前方からギッシリと埋まっていた。タイムテーブルが事前に発表されていることから、特定のアーティストだけでなくイベント自体への期待値が高いことが伝わる。年齢層は幅広く男女比もほぼ半々。イベントの幕が上がる瞬間をみな心待ちにしている様子がうかがえた。

シティ感あふれる鮮やかな景色を描く
WALTZMORE(ワルツモア)

イベントのトップバッターは2018年結成のWALTZMORE。ポップスをベースに、ヒップホップを思わせる韻を踏んだ歌詞とシティ感のある楽曲、男女混声のコーラスが鮮やかな景色を描く、5人組のバンドである。

ステージに登場した5人がドラム前に集まり、手を重ねて気合いを入れた後、「from 1995」からライブは始まった。上下共に白い衣装をまとったこうのいけはるか(Vo./Gt.)のエレクトロなエフェクトがかかったラップ調のパートと、夏未(Key./cho.)のコーラスが重なるサビのパートに、夢と現実の間を行き来するような感覚を覚える。

〈夜の帳を下ろした街は綺麗だよ〉というフレーズからは、1995年に発生した阪神大震災直後の神戸の景色が見えた。停電から復活しても街は機能しておらず、自動販売機だけが光る風景に近未来の映画のような異物感を抱いたことを憶えている。オリジナルメンバーの4人は1995年生まれであり、あの風景は知らないはずだ。しかし〈間違いだらけの’20〉との歌詞が続き、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策で夜が早くなった現在と、あの日の風景が重なった。

続く「アイの映画」は、エレクトロな同期音と語るような16ビートの主旋律で無機質な印象もあるが、歌声から滲み出る感情は生々しい。サビで前に出たこうのいけがフロアをあおり、それに反応した腕が多数上がる。序盤の2曲で早くも発揮された彼らの音楽的才能と完成度の高いパフォーマンスを目の当たりにし、FEVERのステージがいつもより狭く感じられた。

誰もたどり着いたことのない場所にみんなと一緒に行きたい

最初のMCでは、イベントを無事に開催できたことと、主催者の吉田氏への感謝が述べられた。こうのいけの地元はここから遠くはないが、FEVERのステージに立つまで新代田に来ることはなかったという。「このステージに立ちたいと夢見たライブハウスがたくさんなくなりました。おしゃれしても、すてきな靴を履いても、たどり着けない場所があることを知って作った曲です」。そんなMCに続いて披露されたのは「シティライト・ラプソディ」。サビのファルセットが醸し出す、映画を見ているような浮遊感。その中から時折覗く〈錆びたアスファルトに唾を〉吐くようなとがった一面に、幾度もドキッとさせられた。

ここまでハンドマイクで歌っていたこうのいけが「水際の花」ではアコースティックギターを持ち、メロディアスな楽曲でフロアを深い世界へと導く。続く「VERONICA」では夏未がメインボーカルを交代し、澄んだ声をフロアに響かせた。

afloat storage 稲見繭(Vo./Gt.)との対バンや、2020年9月に黒子首と対バンした無観客配信ライブについて触れたこうのいけは、「afloat storageも復活して、無観客じゃなくてみんなの前でライブができてうれしいです。行けなかった場所や立てなかったステージがありましたが、これからは誰もたどり着いたことのない場所にみんなと一緒に行きたいと思います」と話し、Kounoike Haruka名義の『NUDE』にも収録のバラード「Love & Hate」を披露。好きな相手の良くないと感じる部分にもひかれてしまう葛藤を描き、最後に〈小匙ほどの毒混ぜて どうぞ〉と締める刺激的な楽曲だ。

ガレージサイケの要素を取り入れた「Paper Moon Romance」では、エフェクトでつぶれたボーカルと赤い照明がムードを一変。フロアも盛り上がり、本日が初ステージのサポートメンバー・ミネムラ(Gt.)も楽しそうな笑顔を見せる。そして最後は「SWAN DIVE」。鮮やかに転調するサビがフロアを高揚させ、イベントの幕開けにふさわしいステージとなった。


【Setlist】
1. from 1995
2. アイの映画
3. シティライト・ラプソディ
4. 水際の花
5. VERONICA
6. Love & Hate
7. Paper Moon Romance
8. SWAN DIVE

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包み込む声とエモーショナルな轟音との共存
afloat storage(アフロート・ストレージ)

次はafloat storageの復活ステージだ。彼女たちに期待するフロアの熱気はさらに高まっていた。

afloat storageは2015年に稲見繭が中心となり始動。2020年のメンバー脱退をきっかけに“長いねむり”についていたが、本イベントで目を覚ました。バンド最大の特徴は稲見の歌声だが、胸に迫るエモーショナルな演奏もリスナーを魅了する要因のひとつ。今回サポートメンバーとしてyu-ya(Gt.)、白石はるか(Ba.)、せとりゅうご(Dr.)の3人が、サポートとは思えないグルーヴ感のある演奏で参加した。

こうのいけ同様、白い衣装を身にまとった稲見は、最初にエレキギターで短い弾き語りを行った。あえて弾き語りにしたのは、稲見の声に観客をひきつけるための戦略だろうか。彼女の声は音感の良さや透明感、かわいらしさ、甘さなどの特徴を備えているが、簡単に説明できない唯一無二の魅力がある。ソロでは日清食品「旅するエスニック」のWeb CMの歌を担当した実績もあり、視聴者から「この声は誰?」と、YUIをはじめ有名アーティストの名前が推測で挙げられて話題となったほどだ。

「afloat storageです。よろしくお願いします」という一言を挟み、バンドの演奏が開始。エモーショナルな楽曲「ハナシノブ」のイントロが流れ、フロアからは歓喜するように腕が上がった。次に演奏された初期曲「刹那に灯たる」は、YouTubeで25万回の再生数を誇る彼女たちのアンセム。フロアから上がる腕がさらに増える。個人的に序盤のアレンジは、イベントの副題になっているきのこ帝国の「国道スロープ」にも重なった。

カラーコードの白であり“しろ”と読む「#ffff」に続き、「landscape」では白石とyu-yaがアイコンタクトを取り6拍子を刻む。〈忘れないように〉と祈るように歌う稲見のファルセットを堪能するために、そっと目を閉じてみた。

「だからバイバイは言わないでいようか」

稲見のMCはあいさつと曲紹介だけだ。「『昆虫』という曲をやります」という簡潔な紹介のあと、玉虫色のミラーボールが回り出すと、その軽やかさに横揺れする観客も。

2020年9月に前体制のafloat storageを締めくくる楽曲としてリリースされた「そのまま」では、鼓動のようなベースが刻むリズムと、リバーブが強くかかった稲見の声が心の奥に染みこんでいく。言葉にならない叫びから轟音のアウトロへなだれ込むそのエモーショナルな部分こそが彼女たちの真骨頂だ。せとのTwitterにこのパートのドラム目線での演奏シーンがアップされていたが、この部分だけでもafloat storageがどんなバンドか十分に伝わるだろう。

「次で最後の曲です。出られてうれしかったです」。そう語り、〈「だからバイバイは言わないでいようか」〉と始まる「バイバイ」を最後に演奏。afloat storageが今後も続いていくことを予感させるセットリストである。まさに一瞬で駆け抜けた圧倒的な復活ステージだった。


【Setlist】
1. 弾き語り
2. ハナシノブ
3. 刹那に灯たる
4. #ffff
5. landscape
6. 昆虫
7. そのまま
8. バイバイ

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泥の“底”と“上澄み”を併せ持つ声と、懐かしいサウンド
黒子首(ほくろっくび)

イベントのトリを務める黒子首は、ポップであることを大切にしながらも、多様性のあるサウンドメイクにチャレンジする2018年結成の3人組だ。路上ライブなど精力的な活動を行い、UNISON SQUARE GARDENをはじめ数多くの時代の先駆者に見いだされている。2022年2月2日にはTOY’S FACTORYからメジャーデビュー。配信リリースされた「やさしい怪物 feat. 泣き虫☔︎」は、謎に包まれた男性アーティストの泣き虫☔︎とのコラボ楽曲だ。そんな2022年最も見逃せないバンドである黒子首のインディーズ時代最後のライブをレポートする。

懐かしくも、時代の最先端を走る音楽

トーク調のSEにあわせて3人が登場。最初のナンバー「エンドレスロール」は、堀胃あげは(Vo ./Gt.)が奏でるアルペジオから始まった。その音色はエレキではなくアコースティックギターのものだ。音源ではキーボードやエレキギターが加わるが、黒子首が奏でる音はどこか懐かしい。それでいて時代の最先端を走っていく予感がする。堀胃は、泥の底のような濁った声とその上澄みのような透明な声を併せ持つ、類いまれなボーカリストだ。そんな二面性のある声を1曲の中で自在に操る才能は、末恐ろしく感じる。

田中そい光(Dr.)が「みなさまどうも黒子首でございます! いろいろあって今年初ライブです!」とドラムを叩きながらあいさつ。そしてすぐに演奏を止め、「新年とかけまして、化粧とときます! その心は。どちらも、鏡もちいるでしょう!」というなぞかけを突如披露した。堀胃の「ああ……」というクールな反応に、声を出せない観客の頬がさらに緩む。ボーカルがクールなバンドは、個性的なキャラでMCを担当するメンバーが他にいることが多いが、黒子首のムードメーカーはまさしく彼だ。

みと(Ba.)のピッチカートが印象的な「チーム子ども」、続いてからっとした暑さを感じる「熱帯夜」。紫やピンク色に照らされたステージが、初期曲の「胎の蟲」と「拝啓アサシン」では真っ赤に染まり妖艶な雰囲気に。堀胃の声もよりハスキーに傾く。メンバー紹介からの流れで代表曲「Champon」へ。タイトルの由来は堀胃によると、歌詞にあるタイ語の〈チャンラックン ポムラックン〉の2つの頭文字から取っているそうだ。

コロナ感染で受け止めた「愛の暴力」

MCでは、堀胃が対バンの2組に「自分たちの意思を曲げない姿勢がすてき」と敬意を示した後に、自身が1月上旬に新型コロナウイルスに感染したときの話をした。

「声を失ってしまって、曲を作ろうにもメロディを発声できないし、2週間何もできなくて。ライブも1本飛ばして『なんて自分は無力なんだ』って思いました。それでも『いい加減にしろ』とか言ってくる人はいなくて。逆に優しい言葉をもらって。愛の暴力でした。こんなわたしにたくさん愛をくださって。返すべき愛や恩があるって気づいて逆にメラメラとして、無事に復活できました!」。1本飛ばしたと話した1月9日のイベント『ビバラ コーリング!』では、Hakubiの片桐(Vo./Gt.)がヘルプで参加して黒子首の穴を埋めた。しかも、出演者全員が黒子首のカバー曲を演奏する温かいイベントとなった。

「自分がダメなとき、助けてくれた人の曲」と添えて次に披露したのは、〈潰れかけた僕の夢を/君がそんなに大事そうに/守ろうとするもんだから/もうちょっと/頑張らなきゃいけないじゃんか〉と歌う「夢を諦めたい」。愛を受けて頑張り続けてきたのであろう堀胃のメッセージが、心の奥底に浸透するように響く。前述の歌詞部分のBメロのドラムが音源より加速しているように感じ、そこに乗る堀胃の歌声からは切実な想いがより強く伝わってきた。

アンコールがないことをあらかじめ伝えた堀胃は、ハーモニカホルダーを首にかけて「前日譚」を最後に演奏。その姿は70年代のフォーク・ロックのスタイルを彷彿させたが、なぜかとても新鮮だった。〈まだ全然/始まってもいない〉と歌い上げ、明るくなったフロアを納得するように穏やかな顔で見渡した堀胃。今回、療養明けのライブで彼女は何を感じたのだろうか。

イベント終了後、CHARAの「やさしい気持ち (しあわせ Version)」が流れる。堀胃の“あげは”という名前は映画『スワロウテイル』の主人公の少女アゲハに由来しているから、映画内のバンド・YEN TOWN BANDのボーカルでグリコ役だったCHARAの曲がエンディングSEとして選曲されたこともうなずける。熱気の残るフロアでは、FEVERのバックドロップがかかったステージを記念撮影する観客が多数いた。この1日を記録せずにはいられない。そんな素晴らしいイベントだったからだろう。

東京は地上に星があった。この日のステージには、たくさんの星が輝いていた。これからも活動を続けていけば必ずや日本の音楽シーンを代表するアーティストになっていくであろう3組の輝きが、レポートから伝われば幸いである。


【Setlist】
1. エンドレスロール
2. チーム子ども
3. 熱帯夜
4. 胎の蟲
5. 拝啓アサシン
6. Champon
7. 夢を諦めたい
8. 前日譚

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(取材/文・池田小百合)