【ライブレポート】『cadode live “SAK” 』1/19渋谷Spotify O-WEST|小さな光と新たな門出

望月 柚花

望月 柚花

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2024年1月19日(金)、渋谷Spotify O-WESTにて音楽ユニット・cadode(かどで)のワンマンライブ『cadode live “SAK” (サク)』が行われた。

2022年4月のメジャーデビュー以降、cadodeにとってバンド編成でのライブは初の試みとなる。開演前の会場には、この日を待ち望んでいた観客が作り出す熱を帯びた静かな期待感が満ち溢れていた。


LIVE REPORT

同じ音の鳴る場所で

盛大な拍手の中、koshi(vo.)の「よろしくお願いします」という声と共にeba(Music Producer)、谷原亮(General Manager)がステージに現れる。今回のライブではドラムに坂本暁良、キーボードに高尾奏之助を迎え、ギターはeba、ベースはcadodeメンバーの中で唯一のバンド経験者でもある谷原が担う編成となった。

最初に披露したのは、cadodeの原点とも言える『Unique』。koshiの繊細ながらも力強い歌声、さらにebaが奏でるギターのアルペジオが重なり、楽曲の切迫感とドラマチックさ、その中に潜む小さな感情の揺れを絶妙な塩梅で表現していく。

『TOKYO2070』では、バンド編成ならではの奥行きと質量を感じる演奏で観客との距離をぐっと縮めた。続いて披露された『IEDE』では、全体を支えるベースとドラムに華やかさを添えたピアノのメロディと、ebaと谷原のコーラスがいきいきと光る中でkoshiが楽しそうに歌い踊る鮮やかなパフォーマンスが印象的だった。

内側からあふれる光と熱、今ここで肉体を持って生きているということ、そのどうしようもなさを、この場にいるあなたと共有したい。ステージにいる彼らからだけではなく、会場にいる人々の眼差し、揺れる肩、掲げられた手のひらからも、そんな想いを感じとることができた。

境界線を超えていく

MCでは、koshiが感謝の意とともに自身の抱える想いを口にした。社会で巻き起こる様々なつらい出来事を前にして、自身もメディアから遠ざかっていたということ。つらいことがあった日も、誰かにとっては門出の日であるということ。様々な想いがある中で、今日は何か一つでも持って帰ることができるものがあれば、とても嬉しい。そんな心情を述べ、いつもの彼らしく「自由に楽しんで」と微笑んだ。

『誰かが夜を描いたとして』『三行半』は、初となるピアノバージョンで披露された。キーボード・高尾の紡ぐ柔らかで芯のある音色と、痛いほどに真っ直ぐ届くkoshiの歌声にぐっと心を掴まれる。音と歌声、それぞれの持つ熱がぶつかり合い、化学反応を起こしてきらめく様には圧倒された。繊細でありつつダイナミックなパフォーマンスには、聴く人の心に肉迫する強さがある。

続く『かたばみ』の冒頭では、アルバム『浮遊バグ』に収録されている楽曲『hunch』と共に散文詩のように紡がれる言葉が会場に流れた。やがて音が止んでステージが明るくなると、koshi、eba、谷原の3人の姿が現れる。

様々な想い、言葉にできないほどの痛みや孤独を抱えながら、それすら軽やかに超えていくようにkoshiが歌い出す。彼らが促す必要はなく、客席から自然と手拍子が生まれていく。境目が無くなって、何かが一つになっていく。それはライブハウスではよくある光景なのかもしれない。しかしそれでも、心に迫るものがあった。

これまでよりも「自由に楽しむ」こと

TVアニメ『サマータイムレンダ』の1stEDテーマ曲『回夏』では、メンバー3人でステージに立つ。代表作とも言えるこの楽曲のパフォーマンスを見つめていると、今までのcadodeのライブと異なるポイントがいくつか見えてきた。

これまではとにかく構成美や世界観、「見せること」を重視している印象を受けていたが、今回はとにかく「遊び」がある。観客だけではなく彼らも楽しそうで、歌メロやギターリフのアレンジ、伸びやかなコーラスなど、音楽を介して演者だけではなく会場にいた全ての人々と一緒に遊んでいるようだった。

ふと、ステージ上の彼らが一瞬だけ小さな男の子に見える瞬間があった。自転車、虫取り網、西瓜の匂い、生ぬるい風とひたいに浮かぶ汗。夏休みに集まって、他愛無いことで笑い、小さな冒険に繰り出すような、いきいきとした瞳。それは次に演奏された『カモレの夏』でも感じとることができて、持っていないはずなのに感覚的に憶えている「いつかの夏」と今が混ざり合うような、不思議なあたたかさが心に芽生えた。

『タイムマシンに乗るから』『光』では、ebaの生み出すギターの豊かな音色にひき込まれ、koshiの歌唱に寄り添う谷原のコーラスにぐっと心を掴まれる。全てが美しく調和しているのに、ひとつひとつが独立して輝いている。そんな様子が特に印象に残った。

抑えきれない熱を共有する

新曲『感嘆符』で、会場の一体感と熱量がさらに上がっていく。『逆風』と新曲『ジガトラ』、続く『寺にでも行こうぜ』では、肉体に訴えかける力強さとコントロールされた正確さが混在するパフォーマンスを見せ、『さかいめだらけ』『空空寂寂』ではドラムの坂本とキーボードの高尾が加わり再びバンド編成に。

細部まで美しく情感のある演奏に、ebaと谷原のしっかりと耳に届くコーラス、koshiの熱のこもった歌声が乗り、まるでこの場にいる人たちと何かの秘密を共有するような、密やかな喜びを感じるひとときだった。

2度目のMCでkoshiはライブのタイトルである「sak」の由来について語り、4月17日にEP『カモレの夏』のリリースと、それに伴い5月8日に渋谷スターラウンジにてライブを開催することを発表。感謝の言葉でMCは締めくくられ、沢山の拍手で和やかな空気になった会場を強い風が吹き抜けるように『ライムライト』の演奏が始まった。

輝くものたち

バンド編成の『カオサン通り』は、躍動感という言葉では足りないほどの生命の輝きに満ち、この曲自体がまるでひとつの独立した生き物のように思える。

喪失とそこから見える光を歌う『暁、星に』では思わず胸が熱くなり、堪えきれずにそっと会場を見渡すと、自分と同じように涙をたたえる瞳がいくつもあった。しかしそこに宿るのは悲しみではなく確かな光で、ステージの上の彼らから分け与えてもらったものであり、反対に彼らを照らす光でもあった。

最後は新曲『旅に立ってまで』を披露し、koshiが「また会いましょう」と笑い、この日の20曲の濃密なライブが幕を閉じた。

彼らの「また会いましょう」という言葉の「また」が好きだ。有限である存在の私たちに未来を約束することはできないし、つらいことばかりが起こる世界もひとりでは変えられない。何もかもを投げ出したい時も、全てを自分の手で終わりにさせたいと思う時もある。

しかしそれでも、彼らの音楽や「また」という言葉を聞くと、これから訪れる未来に明るい兆しがあるように思える。

私たちが宿す光はひとつでは弱く、目の前の道すら照らせないほどに小さい。でも、小さな光をいくつも持ち寄ったら、きっと何かを照らし出せるだろう。

cadode
Oneman Live『cadode live “SAK” 』
2024年1月19日(金) @渋谷Spotify O-WEST

1. Unique
2. TOKYO2070
3. IEDE
4. 誰かが夜を描いたとして
5. 三行半
6. かたばみ
7. 回夏
8. カモレの夏
9. タイムマシンに乗るから
10. 光
11. 感嘆符(新曲)
12. 逆風
13. ジガトラ(新曲)
14. 寺にでも行こうぜ
15. さかいめだらけ
16. 空空寂寂
17. ライムライト
18. カオサン通り
19. 暁、星に
20. 旅に立ってまで(新曲)

【セットリスト公開中!】
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(取材/文・望月柚花)

INFORMATION

RELEASE
2024.04.17 Release
2ndEP『カモレの夏 EP』
cadode

2023年リリースの楽曲『カモレの夏』『旅に立ってまで』のジャケットデザインを担当したクリエイターチーム「カモレの夏」とcadodeのコラボレーション企画の集大成として、新曲を含む6曲を収録。「SAK盤」と「通常盤」の2形態で販売し、SAK盤には「cadode live “SAK”」のライブ映像とバックステージ映像を収録したDL Card付き。さらに両形態とも『カモレの夏』紙ジャケット仕様で40Pブックレットを封入。


カモレの夏 EP<SAK盤>

品番:USSW-0472
価格:6,600円(税込) 
発売元 / 販売元:MAGES.

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カモレの夏 EP<通常盤>

品番:USSW-0473
価格:3,850円(税込) 
発売元 / 販売元:MAGES.

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