【cadode 独占インタビュー】目に見えるすべてと生き、目に見えないすべてを想う。廃墟系ポップユニット・cadode

望月 柚花

望月 柚花

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誰かを失うと、絶対に忘れないと思っていたはずの笑顔や泣き顔、繋いだ手の温かさ、他の誰とも似ていない声、そういった大切なものが少しずつ薄れていってしまう。

あなたがどんなふうに喋って、どんなふうに笑っていたのか。

存在は記憶から薄れていってしまうのに、不在だけが大きな傷となって残ってしまう。悲しいし苦しいだろう。後悔も数え切れないほどあるだろう。それでも残された自分が抱える傷跡は、あなたが存在していた証になる。

楽曲『暁、星に』は、そんなことを考えてしまう喪失と再生の歌だ。

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cadodeは「廃墟系ポップユニット」として、廃墟の持つ時の流れの歪さや寂寥感、美しさ、そしてわびさびを「虚無感と情動」として表現している。

初めて曲を聴いてからずっと頭から離れなかったし、そういった音楽を作る人たちに純粋に興味があった。今回は幸運にも機会があり、cadodeについてメンバーのみなさんから話を伺えることになった。


メンバープロフィール

cadode(かどで)

koshi(Vocal)
1994年11月28日生まれ 福岡県出身・神奈川県育ち
2017年にebaと出会い、cadode結成とともにボーカルと作詞活動を開始。それまでは旅とアメフトと哲学とゲームと遊園地に傾倒し、IT企業で働いたりしていた。音楽経験はないが幼い頃バイオリンを習っていたことがある。入眠が苦手。

eba(Music Producer)
1987年6月20日生まれ 富山県出身
高校卒業後、工場で勤務しながら二次元コンテンツに傾倒。2010年に『けいおん!』の音楽制作に携わっていた川口進との出会いをきっかけに作家としてキャリアをスタート。LiSA、斉藤壮馬、OLDCODEXなどのアーティストをはじめアニメ作品の楽曲を中心に手掛ける作曲家。秋山瑞人の『イリヤの空、UFOの夏』に大きな影響を受けている。

谷原亮(General Manager)
1988年3月26日生まれ 兵庫県出身
音楽制作会社F.M.Fにてディレクターとして勤務しながらcadodeのメンバーかつマネージャーを務める。元々IT企業に勤めるサラリーマンであったが、飲食店でたまたま出会った所属作家の紹介によって音楽業界へ転職した。学生時代はハードコアバンドをやりながらアニメ・ゲーム・アイドルに傾倒していた。

ゼロ地点から結成、そして現在まで

koshi(Vocal)

——今回はインタビューを受けていただきありがとうございます。早速ですがcadodeの結成に至るまでの経緯をお聞きしたいです。

koshi: ebaさんとぼくが友達の友達の友達としてたまたま出会い、ともに廃墟好きであったことから意気投合し廃墟探索仲間となりました。

eba: 元々自分は職業作家で、発注をいただいてそれに沿って楽曲を作ることが多いのですが、もっと自由に制約のない中で音楽を作れる場が欲しいと元から考えていて…。たまたまkoshiとカラオケに行った時、彼の声がとてもよかったので、koshiを誘ってなにかやろうという話になってcadodeを発足させました。

——そしてそこから谷原さんがメンバーとして加入されるのですね。

eba: そうです。cadodeの結成にあたり外部とのやり取りやマネージメント的な部分を担う人物も迎え入れたいということになり、所属事務所の制作マネージャーであった谷原くんをメンバーとして誘い、現在の構成になりました。

マネージャーもろともメンバーとして活動したほうが、より自分事として考えられるのがよいと考えて誘ったところ快諾してもらえたので、そこから活動がスタートしていった形です。

——cadodeのメンバー編成は面白いですよね。今までにない形というか…。皆さんそれぞれが担っている役割、その内容を詳しくお聞きしたいです。

koshi: 僕は主に作詞とボーカルを担当しています。表で話すときも僕が出ていくことが多いですね。

大人になってから音楽を始めたぶん、先入観が少ないのが強みかなと思います。高校生のときから哲学や宗教研究が好きだったので、その思考構造と作詞やボーカルとしての表現へのぶつかり合いを、いつも新鮮な気持ちで楽しんでいます。

——歌詞の言葉選びや世界観がとてもユニークで印象的だったのは、哲学や宗教研究といったルーツがあるからなんですね。

koshi: はい。世の中には歌詞として使い古された表現も、まだ誰にも使われていないであろう表現もあって。突拍子もない別世界ではなくて、地続きの超現実的な世界を表現するために、その両方を使い分けて分かりやすくも世界が拡張されていくような歌詞を心がけています。

——ありがとうございます。お次はebaさん、お願いします。

eba: 僕は主に作曲、編曲など音周り全般を担当しています。

——cadodeの楽曲はビートの独特さというか幅が広いと感じたのですが、その理由はありますか?

eba: そう感じていただけた理由は、僕自身が普段作家として仕事をしているおかげでもあると思います。必然的に多ジャンルの音楽と向き合うので、自分たちの世界観の中に幅広く色々な要素を入れ込むことができるのが強みだと思っています。

——谷原さんはゼネラルマネージャーとしてどのような役割を担っていますか?

谷原: いわゆるマネージメント的業務を行っています。事務作業や外部とのやり取りが主です。例えば、ライブするとなればライブハウスとのやり取りは僕が主に行います。レコーディングするとなればスタジオやエンジニアさんの手配なども僕が行うといった形です。

ただ、メンバーでもあるので普通のマネージャーとは違って音楽制作もメンバーとして参加しています。企画出しもしますし、上がったものに対してもメンバーとして平等に意見する感じです。

A&R(Artist & Repertoire)的な宣伝なども率先して行いますが、この辺りはメンバーそれぞれが独立してやっていることでもあるので、役割としてはこのような部分が中心だと思います。

——なるほど。今のお話を聞いて、メンバーのみなさんがそれぞれの特性を活かしていることがcadodeの「らしさ」に大きく影響しているのだと感じました。

谷原: そうですね、いろんなジャンルをルーツに持っている人間がそれぞれ集まっているので、そういった部分が出ているのかもしれません。

——ちなみに、cadodeの楽曲アートワークはいつも一貫したデザインが印象的ですがどなたが制作されているのでしょう。ロゴの意味なども詳しくお聞きしたいです。

谷原: ロゴやジャケットのデザインなどのアートワークは、一部を除き全てtakahiro miyakeさんに担当してもらっています。

ロゴマークは、C、D、D という形の省略と水平線から立ち上がる日の出を象徴的に表す配置によって成り立っていて、これは人と音楽との新しい関係性の門出を作り出す姿勢を象徴的に表現したものです。

辿ってきたそれぞれのルーツ

eba(Music Producer)

——cadodeの楽曲は洗練されているのにどこか懐かしいムードがあり、既存のジャンルのどこにも当てはまらないオリジナリティを感じます。音楽性についてみなさんどのようなルーツがあるのでしょうか。

eba: 僕の音楽の目覚めは、中学生のころに聴いたIRON MAIDENです。

そこからメタルに傾倒していくのですが、その中でも特に惹かれたのが各々の地域に根付いた土着的なもの、つまり思想や民謡などを取り入れたフォークメタルと言われているようなバンドで、バンドでいうとFinntrollやEquilibriumなどです。特にヴァイキングメタルと言われるメロディックデスメタル的な要素が入ってくるバンドをよく聴いていました。

——現在のcadodeの楽曲となかなかイメージが結びつかないです…!

eba: たしかに。現在cadodeで作っている音楽からはあまり想像できないかもしれないとは思いますが、根底にはずっとあります。かなり影響は受けていますね。

それから高校生の時にはアニメにのめり込むようになり、必然的に色々な音楽を聴くようになりました。同時期にナンバーガールと出会ったのも大きかったです。ナンバーガールを聴いて、日本語でロックをやることのかっこよさを知りましたね。

——その体験を経て、聴く音楽に変化はありましたか?

eba: ありました。そこから聴いたことのない音楽を聴きたい気持ちが強くなり、実家に沢山あったレコードを漁ってジャズやフュージョン、オールドロックも聴くようになりました。アーティストでいうとRobben Ford、Fourplay、Kansasなどです。

——多感な時期に多くの音楽に触れたことが、現在のcadodeの音楽にどのように繋がっているのかがとても気になります。

eba: そうですね…ジャンル関係なくかっこいい音楽は何でも好き、というのと、フォークメタルとアニソンにみられるような要素の融合みたいなものがcadodeの音楽の根底に現れているのかなと思っています。

——谷原さん、koshiさんはどのような音楽的ルーツをお持ちですか?

谷原: 僕は学生時代にハードコアバンドをやっていて、偏りはありますがメタルもよく聴いていました。

——ハードコア、メタルとなるとebaさんと近い感じでしょうか。

谷原: 近いですね。だけど、ルーツとして言うならばぼくはJpopです。あとはアニソンとV系とアイドルとハードコアといったところでしょうか。オタク丸出しですが(笑)

洋楽をよく聴くようになったのは大人になってからでした。空耳アワーと山下達郎さんのラジオが僕の洋楽の先生でしたね。いまだに一番好きなのはDIR EN GREYですが。

——koshiさんはcadodeの結成まで音楽経験がなかったという情報をプロフィールで拝見しましたが、cadodeの楽曲を聴いているととてもそうは思えません。現在に至るまでどのように音楽を聴いていたのかをお聞きしたいです。

koshi: 僕の場合、はっきりと覚えている音楽への目覚めはQueen『made in heaven』でしたね。その後、中学生になるとインターネット音楽に傾倒し、ボカロ、平沢進、そしてケルト系を中心とした民族音楽も聴くようになりました。Farmers Marketというブルガリアンフォーク・ジャズロックの変態じみたバンドがあって、特に衝撃を受けたのを覚えています。

それから今に至るまで、ソウルやジャズばかり聞く時期もあればEDMだけを聴いている時期もあり、ジャンル問わず聴いてきました。もちろんアニソンやゲーム音楽も好きですし、今でも変拍子の曲をよく聴きます。

——とても幅広く聴いてきた中で、特別好きなジャンルはありますか?

koshi: 好きなジャンルはこれ、というよりは、僕の場合もebaさんと同じように「美しい音楽は何でも好き」といった感じですね。

僕はあくまで作詞とボーカルがメインですが、どこかをセオリーから外しつつ美しくまとまった作品が大好きなので、cadodeの音楽でも常にそうあろうとしています。

音と言葉を紡いでいくこと
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——2018年のシングル『完全体』は英詞が印象的でしたが、それ以外の作品はほぼ全て日本語詞になっています。これについて意図がありましたら教えてください。

koshi: 『完全体』や『redo』ではまだ方向性を探っていたので英詞が多いですが、自分らしさを考えた結果、ルーツを受け入れることにしました。わびさび、神道・仏教観など、日本語でしか伝えられないニュアンスも多いので、基本的には日本語でできる表現を模索しています。

その後も、『リメンバー』ではMelanieパートが主に英語になっていますが、このときは異なる民族を表現するために英語を使いました。

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——最新シングル『オドラニャ』、シングル『たらちね』、『IEDE』では、ビートや音使いから民族楽器や民謡・お囃子、民間信仰などがイメージとして浮かびました。活動初期から現在のモードに至るまでどのような変化があったのでしょうか?

koshi: cadodeの世界観には「架空の民族」がよく登場します。『空空寂寂』『リメンバー』『社会卒業式』『TOKYO2070』『たらちね』あたりは特に色濃いですね。

これは、ミニアルバム『2070』を1年間かけて作ったなかで、過去から未来まで、部族や民族といった概念が(形を変えつつ)人間の軸であり続ける、と気付いたこと、それに先ほどお話ししたebaさんと自分の音楽的ルーツの影響もあります。

民族音楽はみな土着の歴史や伝統を感じさせるので、それを現代日本のポップサウンドに落とし込んでいく手法は、cadodeの考え方にフィットしているなと思います。

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——歌詞を書く上で何か他の作品から着想を得たりインスピレーションを受けることはありますか? また、メンバーのみなさんが音楽以外で影響を受けている作品などありましたらぜひ教えてください。

koshi: いつも参考にしている特定のものは特にないのですが、小説はよく読みますしノベルゲームもよくやります。小説家の伊藤計劃さん、シナリオライターであり作曲家の麻枝准さん、あとアニメ監督の今敏さんには、特に影響を受けていると思います。伊藤計劃『ハーモニー』は、10年以上前の作品ですが、ぜひ今読んでほしい作品です。

eba: 松本人志さんの『VISUALBUM』『ダウンタウンのごっつええ感じ』『働くおっさん劇場』には影響を受けていると思います。特に『VISUALBUM』の『荒城の月』や『システムキッチン』は今観ても刺激を受けます。小説だと秋山瑞人さんの『イリヤの空、UFOの夏』、アニメ映画だと今敏さんの『パプリカ』にも影響を受けていると思います。

谷原: ぼくは実質的なクリエイティブには参加していませんが、音楽的な趣味嗜好の影響という意味でCLAMPさんはあるかもです。小説なら村上春樹さんの長編は全部読んでますね。エッセイも好きですけど。ぼくも今敏さんや麻枝准さんや松本人志さんも好きなので共通してる部分も多いですね。

どこでもないここから過去・現在・未来を想うこと

谷原亮(General Manager)

——以前ラジオ番組に寄せられたkoshiさんのコメントを拝見したのですが、廃墟系ポップユニット・cadodeの「虚無感と情動」に関するお話にとても興味をひかれました。そこで改めて、cadodeにとっての「虚無感と情動」についてのお話を伺いたいです。

koshi: 「虚無感と情動」の例を挙げると、たとえば僕は虚弱だったので、「10代にやり逃した青春」が多くて。時間は戻らず一生手に入らない、それは分かっているけれど、諦めきれず燻っている自分がいる。cadodeは、そんな僕らが青春をやり直そうとするユニットであり、誰かの生きづらさを熱量に変えるためのプロダクトです。

今の日本には、どうにもならない無力さ、虚無感を覚えながらも、ぶつけどころのない熱量を抱えている人が多いと思っていて…それは生きづらさであると同時に、次の文化への希望でもあると思うんです。

静と動、陰と陽、虚と実、過去と未来、そして虚無感と情動も、バランスは違えど皆に同居しています。そしてそれが表面に現れた時がいちばん人間味があって、儚くも美しいと感じますね。廃墟はまさにその象徴なので、cadodeの音楽性を廃墟に例えることもあります。

——大なり小なり形は違えど誰もが生きづらさを抱えているのが現代だと思っているのですが、「誰かの生きづらさを熱量に変えるためのプロダクト」というキーワードはcadodeの活動の本質であると感じました。

koshi: そうですね。「人生は遊び場だ」とみなが思える世界を作りたいし、誰かが何かを始めるきっかけになり続けたいな、と思っています。

——今お話しいただいた本質的な部分からさらに内側に踏み込んだ場所に存在する、cadodeの「核」となっている世界はどんなものでしょうか。

eba: 僕には思春期の頃にやりたかったけどできなかったことや、あの頃にしか得られなかった感覚を当時と同じ鮮度で追体験したいという気持ちがあります。そして少なくとも今の技術では不可能なこのような体験を、音楽を作ってると本当にできてしまうような錯覚に陥ることもあって…。

単に過去を想うということではなく、過去を想いつつも未来も想い、過去の自分から視る今、つまり過去視点の未来を想ったりする。

——様々な視点から過去や未来や現在を見つめるということですか?

eba: はい。そうやって色々な世界線の過去と未来と今が交じり合ってできているのがcadodeの世界観なんじゃないかなと思っています。

僕が廃墟に惹かれる理由も、そこに色々な過去と未来と今が詰まっているからです。たしかにあった人の営みの跡を自然が飲み込んでいくでいくように、過去と未来と今が存在している。そこに美しさを感じます。

——ありがとうございます。それでは最後に、cadodeのみなさんからリスナーへひとことお願いします。

koshi: cadodeの音楽には色濃くメンバーのルーツが出ていると思います。人間的な部分であったり音楽的な部分であったり。そういった所も知ってもらった上で更にcadodeの音楽を聞いてもらえると嬉しいです。今回のお話がそのきっかけになったらと思います。

(取材/文・望月柚花)

リリース情報
7月29日(水) 最新デジタルシングル『ワンダー』配信開始


PROFILE

cadode(かどで)

日本の音楽プロダクト。名前は“新しい音楽の門出、誰かの新しい発見や体験の門出になって欲しい”という思いから命名。“廃墟系ポップユニット”のコンセプトの下、ジャンルの概念を撤廃した曲作りが特色。2018年に初EP『0』を発表。その後、配信シングル『タイムマシンに乗るから』がFMラジオ局や配信チャートにランクインして注目され、好評価を獲得。以降、精力的に配信作品などを手掛ける。2020年に1stミニ・アルバム『2070』をデジタル・リリース。(TOWER RECORDS ONLINEより抜粋)

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1st Mini Album 『2070』

1st EP 『0』

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