【cadodeインタビュー】メジャーデビュー&ベストアルバム発売! 虚無感と無常、寂しさと孤独、誰かや自分の救済の先へ

望月 柚花

望月 柚花

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彼らの音楽に漂う独特の空気を吸うと、見たことがないはずなのになぜか懐かしい情景が浮かぶ。

cadode(かどで)は、koshi(Vocal)、eba(Music Producer)、谷原亮(General Manager)からなる「誰かの生きづらさを熱量に変える」音楽ユニットだ。2018年に活動をスタートしてから現在まで、ハイペースに楽曲を制作・発表し続けている。

TVアニメ『サマータイムレンダ』のエンディングテーマであるメジャーデビューシングル『回夏』のリリースを2022年4月27日に、初のワンマンライブ『独演 回夏迄』を2022年5月19日に予定しているなど、より大きな注目が集まっているcaodde。

2022年2月22日には、活動開始からの4年間を詰め込んだベストアルバム『TUTORIAL BLUE』『TUTORIAL RED』をリリースしている。

彼らは何に触れ、何を感じ、どんな想いで音楽を作ってきたのだろうか。今回のインタビューでは、cadodeのこれまでを振り返りながら、その深層部にどんなものが存在しているのかをひもといていく。


cadodeの描く「あのころの夏」
——2022年4月から始まるTVアニメ『サマータイムレンダ』のエンディングテーマに決定した、4月27日発売のメジャーデビューシングル『回夏』の制作の経緯を教えてください。

谷原(General Manager): 最初、私の方に現在の担当者さんから「アニメのエンディングテーマとしてcadodeの楽曲を提案させてもらいたい」という連絡をいただきました。「世界観がとても合うと思う」と。正式に決定するまで、『サマータイムレンダ』の原作を読みながら返信を待ちわびていたことを覚えています。

koshi(Vocal): オファーをいただいた時は、ただただ感激しました。cadodeと『サマータイムレンダ』の世界観はぴったりですし、個人的にとても好きな作品ということもあり、制作もスムーズに進みました。

——原作の世界観とcadodeの世界観、楽曲としての方向性はどのように決まっていったのでしょうか。

谷原: 打ち合わせでは、原作の持っている要素のひとつであるサスペンスに寄せるか、あるいは人間関係に寄せるか、どちらが適切だろうかという話をしました。基本的には最初から今の方向でまとまっていたのですが、1話の台本を読ませていただき、最初に楽曲が流れるポイントでどういう風に感じてもらいたいかという部分を意識した結果、楽曲が出来上がっていったという感じですね。

——シングル表題曲「回夏」を聴いた時、根底にあるものは変わらないまま、cadodeの世界がより深く澄んで、どこまでも広がっていきそうな印象を受けました。この楽曲に込められた想いをお聞きしたいです。

eba(Music Producer): 「回夏」は、自分の中にある「あのころの夏」というイメージや、その純粋さみたいなものに『サマータイムレンダ』の要素を落とし込んで、再構築した曲です。作っている時は「戻りたい夏」と「先に進みたい想い」という、過去と未来が交差するような感覚が頭の中に浮かんでいて、それがとても廃墟的で美しかったですね。そんな美しさのような部分も、作品と一緒に感じてもらえたらなと思っています。

koshi: 「回夏」は『サマータイムレンダ』でもあるし、人生そのものの曲だとも思っています。忘れられない後悔と、いまできることと、それらのどうしようもなさ。そういったcadodeという存在そのものが描かれている曲でもあります。

——今のお話を聞いて気づいたのですが、「回夏」も含め、「夏」というモチーフはcadodeの楽曲の大きなキーワードになっていますよね。

eba: 子供のころの楽しかった思い出はいつも夏で、梅雨が明けると毎年あのころの夏を思い出します。気を抜くと何故か泣きそうになって、もう戻れないのに何故か戻れるような気もして、一瞬でいろんな画や感情に頭の中を支配される不思議な季節だなと思います。大人になってもまだあのころの夏にとらわれてるなと思うのですが、でも、それが音楽を続ける理由の一つでもあるんだろうなと思っています。

koshi: 人生は青春に、青春は夏に象徴されると私は思っていて。これは「回夏」の話でもあるんですが、夏は時に人生の全てになるんです。見たこともないけど泣きたくなるような夏の情景は、ずっと大事にしていきたいなと思っています。

koshi(Vocal)

歩いてきた場所から見えるもの
——ベストアルバム『TUTORIAL BLUE』『TUTORIAL RED』の発売に際して、これまでの活動を振り返った時、メンバーの皆さんご自身はどこが大きなターニングポイントだったと感じていますか?

koshi: 「タイムマシンに乗るから」(2019年)ですかね。

——それはどうしてでしょう。

koshi: 初めて誰も書いたことのないテーマで、伝わるレベルで、美しくポップな曲ができたな、と思ったんです。cadodeとしての自我がはっきり出来上がった気がしました。突き放しすぎるわけでもなく、でも直接的に無粋なことを言うわけでもない。うまい塩梅だったなと思っています。

あとは「回夏」と、そのカップリングに入っている未発表曲は、作詞という面でひとつ自分の壁を越えた感じがしています。

——谷原さんはどうでしょう。

谷原: 個人的には、大きな変化やターニングポイントがあったと思うシーンはないかもしれません。1st配信シングル収録の「Unique」(2018年)のデモを聞かせてもらった時に感じた「懐かしさ」のような感覚が印象的で、各楽曲には常にその「懐かしさ」のようなものを感じています。今、根底にある「cadode感」が様々な方法で表現できているのは、活動していく中でゆっくりと培われてきたものなのかなと思います。

——ebaさんはいかがですか?

eba: 『TUTORIAL』には入っていないのですが、「完全体」(2018年)ができた時に自分の殻が破れた気がしました。元々そんなに幅広く何でもできるタイプではありませんでしたが、やってみるとやったことのないタイプの曲がストレスなく作れたので、やればできるなと自信になりました。あと、新しいことをやればやるほど発見もあって、それが作家としての仕事にも良い影響をもたらしてくれて良い循環が始まったなと思いました。

eba(Music Producer)

活動初期からミニアルバム『0』まで
——ここからは時系列に沿ってお話を伺いたいと思います。2018年に活動がスタートして、cadodeの最初の一歩目である1stシングル『Unique』がリリースされましたが、当時の心境はいかがでしたか?

koshi: 曲のリリースはおろか、作詞も、インターネットで顔を出すのも初めてで、少しだけ宙に浮いたような気持ちでした。「始まるぞ!」と興奮しつつ、どこか現実感がなかったです。

——そんな「始まり」である『Unique』リリースの後、同年11月には1stミニアルバム『0』をリリースするなど、ハイペースで楽曲を制作・発表されていましたよね。あの時期に印象に残っているエピソードがありましたら、ぜひ教えてください。

koshi: 当時は「とりあえず作ってみよう」のノリでどんどん作っていったので、cadodeと自分は何者なのか、というようなアイデンティティの問題がなく、精神的には一番楽に歌詞を書いていた時期かもしれません。今聞き直すと、粗削りだけど名曲が多いなと思います。

——確かに、「Unique」「暁、星に」「空空寂寂」や「完全体」など、今でも強く印象に残っている楽曲が多いですね。ちなみに、作家としての活動もあるebaさん、当時大変だったことはありますか?

eba: 作家としての仕事とスケジュールが被ったりでシンプルに時間がなかったのが一番大変でした。cadodeの楽曲制作は、その時その瞬間のやりたいことをダイレクトに反映できるおかげであまり悩むことがなく、作り始めるとわりとすぐ形になるので、時間がない状況でも早いスパンで出せたのかなと思います。

——メンバー兼ゼネラルマネージャーとしてcadodeのマネージメント的業務も担う谷原さんは、当時を振り返ってみてどうでしょう。

谷原: 大変だったエピソードで言うと、マスタリングの工程でどうしても検証し直したい部分が出てきてしまい、一度工場に出荷したものを戻してもらうということがありました。これは普段の仕事なら絶対にやらないと思いますし、時間も全くない状況でしたので、その時は各所にご迷惑をおかけしてしまいました。

楽しかったことで印象に残っているのは、『0』のアルバムのジャケット制作。自分たちで朝日を撮影しに行ったりと、青春感があって楽しかったです。

谷原亮(General Manager)

前向きと後ろ向きのバランス
——2020年リリースのEP『2070』についてなのですが、EPタイトル『2070』と収録されている楽曲それぞれのタイトルと曲順に、連作短編小説集のような物語性を感じます。このEPはどのようなテーマで制作したのでしょうか?  EPに潜んでいるストーリーについても気になります。

koshi: いつもは音が先なのですが、このEPだけは私が短編のプロットと設定を先に作り、それをもとにebaさんがサウンドを作る、という手法で進められました。

——短編のプロット・設定とは、どんなものなのでしょうか。

koshi: 2070年の世界を、収録曲順に「社会卒業式」(部族化と社会分離)、「明後日に恋をする」(恋愛)、「現世界転生」(医療と死生観)、「TOKYO2070」(スポーツ)、「タイムマシンに乗るから」(恋愛その2)、「楽園」(終活とコロニー)、といったテーマで描き、まさにコンセプト短編小説集のような作りになっています。断片的な補足はcadodeの公式サイトにありますので、ぜひご覧ください。cadodeの中でも異端で色の濃い作品が多く、可能性を示せた点でも、良い試みだったなと思っています。

——koshiさんに作詞についてお聞きしたいのですが、歌詞を書く時は白紙の状態からどうやってイメージを膨らませ、どのように言葉をつかんで繋げて、どんなふうに世界を作っていくのでしょう。

koshi: EP『2070』のような例外を除いて、基本的にebaさんのデモがあり、白紙は白紙でも絵具の色やキャンバスの素材などは大体用意されている感じかもしれないです。はまって気持ちのいい音を探しながら、普段書き溜めているメモやら転がっている小説からまずはテーマを考えます。大体ここまでが時間で言うと8割で、テーマが決まってからは早いです。

——作詞で思い出したのですが、楽曲「たらちね」(2020年)では、喪失を描写しているのに「悲しい」という気持ちが前面に出てこないのが面白いと感じました。それでいて無理に前を向かせるようなものでもないことと、誰かの「死」と自分の「生」がとても張り詰めたバランスで存在しているというか…。この楽曲を制作する時、どんなことを意識されていましたか?

koshi: 「たらちね」は「暁、星に」(2018年)以来の母の死を題材とした楽曲なんですが、時代もそうですし、私自身の飲み込み方も変わっていて、「この前向きと後ろ向きのバランスがcadodeだ!」と胸を張って言える曲になったなと思います。ebaさんと谷原さんと、ちょうどいい塩梅を相談しながら進めた記憶があります。

——「前向きと後ろ向きのバランス」、すごくわかります。白と決めるわけではなく、黒と決めるわけでもない。灰色があることを受け入れて許してくれるのがcadodeらしいなと思います。ちなみに、「たらちね」のMVはkoshiさんが自ら撮影したというお話を聞いたことがありますが、こちらはどういった経緯での制作だったのでしょう。

koshi: コロナ禍でライブも頓挫し、人前に出ることもしばらくなくなりそうだったので、「髭を伸ばしてみよう」と思いました。一度はやってみたかったんですよね。

時勢もありましたが、何よりみんなが感じているであろう孤独感や閉塞感を、直接的すぎない形で表現したかったので、自撮りで散歩している絵にしました。意外と腕を伸ばさないといい画角にならなくて、後半は腕が攣りそうになったのを覚えています(笑)。

photo by 横山学(COUNTER COLOR)

いつか救われる日まで
——2020年10月リリースの楽曲「誰かが夜を描いたとして」以降、これまでもはっきりしていたcadodeの音の世界がより深みと複雑さを増していったと感じます。ebaさんにお聞きしたいのですが、技術的に大きく変えたのはどんなところですか?

eba: アーティスト写真が3人からkoshi 1人に変わったタイミングというのもあり、曲調的にもよりボーカルにスポットが当たった曲が必要という話になりました。「三行半」(2021年)に関してはアレンジをシンプルにしつつ、その分コードやメロディを複雑にしたのが大きな変化かなと思います。今まで使ったことないようなコードを沢山使いました。

——楽曲を作る時は、最初からその曲の情景というか、音からイメージする風景が見えているのでしょうか。それとも、作っていく過程でその景色が見えてくるのでしょうか。

eba: どちらのパターンもありますが、cadodeに関しては最初から見えていることが多いです。「回夏」に関しても、最初からなんとなくイメージがあり情景は見えていました。イントロができた時点で一気に靄が晴れたような感じで、さくさく進みました。

——楽曲「三行半」を初めて聴いて歌詞を読んだ時、これまでcadodeの作る世界の中で「自己」に向かっていた感情や想い、あるいは思考が、「他者」へ向かった気がしました。その後「あの夏で待ってる」(2021年)を聴いた時、cadodeの大きな変化を確信したのですが、MVにもそれが色濃く現れていると感じています。この2つの楽曲を制作した時のことを教えてください。

koshi: 私がcadodeでやりたいことは、〈誰かと自分の救済〉〈青春〉〈裏方の認知度向上〉の3つなのだと改めて認識したのが「三行半」から「あの夏で待ってる」あたりでした。近しい人が立て続けに亡くなったことも影響しました。より静かな悲しみ、怒り、喜びを覚えたことが、出力を変えたのかもしれません。苦しみながらでしたが、なんというか、自分に素直になれるようになったと思います。

——「誰かと自分の救済」と「裏方の認知度向上」とは具体的にどんなことですか?

koshi: 音楽を始めて、「結局自分は何がしたいのか」と考えてみた時、「助けたい」「救われたい」が根源的な気持ちだな、と感じました。誰かの好転するきっかけになれたら音楽を始めた意味があるし、明確に生きた意味があると思うんです。青春しながら誰かのためになれたら、そんなに最高なことはないので。 

「裏方の認知度向上」というのは、初めにebaさんから聞いて強く賛同した話なんですが、日本ではアレンジャーやエンジニアの知名度・地位がまだまだ低いので、優れたプロがもっと知られるようになればなという思いです。cadodeのメンバー構成もそういった意味があります。

——なるほど。最後に、これからcadodeとしてどんな音楽を作っていきたいか、どんなことをしたいか、聴く人にとってどんな存在になりたいかを教えてください。

eba: 自分達がワクワクするような曲じゃないとやる意味がないので、そこは一番大事にしつつ、cadodeの活動が聴く人にとってもワクワクさせられるような、日々生きていく中での楽しみの一つになれれば幸いです。

koshi: 誰かの救い、自分の救いのための音楽を、我々なりの青春を続けながら作っていきたいです。重たいことを重たく伝えるのではなくて、ポップでありながら深く入り込む曲が理想です。今はとにかく多くの人に聞いてもらいたい! そして一人でも多くの誰かの傍らにいられたら、と思います。

(取材/文・望月柚花)


ベストアルバム
『TUTORIAL BLUE』
2022.2.22 Release

配信・ダウンロードサイトへ

『TUTORIAL RED』
2022.2.22 Release

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メジャーデビューシングル
『回夏』<通常盤>
2022.4.27 Release

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『回夏』[CD+DVD]<アニメ盤>
2022.4.27 Release

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cadode 公式サイト
TVアニメ『サマータイムレンダ』 公式サイト
cadode 2020年インタビュー