【ライブレポート】Conton Candy / tambi / 輪廻|スリーピースバンド集結の3マン企画『3×3×3』vol.7

潮見 そら

潮見 そら

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冬の匂いが残る3月初旬の夜はまだ肌寒くて、無意識に片手の掌をもう片方の手の甲に擦りつけて温めたくなる。

そんな3月3日の夜。渋谷駅から恵比寿駅方面に明治通りを真っ直ぐ進んだ先にあるライブハウスCLUB CRAWLにて、スリーピースバンド3組による対バンイベント『3×3×3』が開催された。この日CLUB CRAWLに訪れたのは、男女比はおよそ等しく幅広い年齢層の、ライブハウスを愛する観客たち。何らかの事情で現地に足を運ぶのが困難な人々も楽しめるように、配信ライブの収録も行われた。

※記事内のライブ画像は配信映像から抜粋しています。


スリーピースの新たな化学反応を求めて 
『3×3×3』vol.7 

雛祭りの3月3日に開催されるのが恒例となった『3×3×3』。CLUB CRAWL店長の小池さん曰く「元々スリーピースバンドが好きで、スリーピースバンド縛りで企画をやったら面白いかなと思って。でも普通にやってもつまらないし、3をキーワードに、3/3にスリーピース3マンを333円、3ドリンクでやったら話題になるかなと」と、言ってしまえば“悪ノリの延長線上”で企画したのが始まり。

2017年の3月3日に始まった本イベントのこれまでを振り返ると、おいしくるメロンパンやSIX LOUNGEなど、現在バンドシーンの第一線で活躍中の面々も出演歴があり、間違いなく注目必至のライブイベントだ。

この日CLUB CRAWLに集結したスリーピースバンドは、小池さんが「この3組を組ませたら面白い化学反応が起きそう」と選んだConton Candy、tambi、輪廻の3組。ライブでは実際、どんな化学反応を見せたのか。

開演予定時刻の数分前。店長による場内ナレーションが流れ始めると、ライブハウス全体が徐々に開演直前特有のムードに染まっていく。照明が落ちるまでの一分一秒が恋しく、スローモーションのようにゆっくりと時が刻まれている気がした。

キャッチーなメロディーに乗せて歌う無垢な感情
輪廻(りんね)

“3”にこだわり抜いて迎えた開演時間の19時03分。トップバッターを華々しく飾ったのは、2019年結成のスリーピースガールズバンド輪廻。

「キラキラな瞬間をあなたに」をキャッチコピーに掲げ、嘘偽りのない感情を無垢なギターロックや透明感のある双葉(Vo./Gt.)の歌声、キャッチーなメロディーに昇華している。普段はりぃこ(Dr.)がドラムを叩いているのだけれど、この日はりぃこの代わりに現役大学生ドラマーの旗野ごうがサポートドラムとして加わった。

ライブハウスの爆音に賛辞を捧げて

ステージ後方のドラムセット正面に集まり、手を重ねる素振りを見せて意気込みを入れる3人。スローテンポで《生まれ変わっても信じてよ》とライブアレンジでサビを歌い出す所から、1曲目『君の記録』をスタートさせていく。イントロでステージを照らした黄色い照明の煌びやかさは、先鋒としてステージに立つ彼女たちの勇姿を盛大に称えているかのように映った。

サビでは「待ってました」と言わんばかりにオーディエンスの拳が半径5m以内あちこちで突き上がるのだけれど、心の中で“これこそがライブハウスの良さなんだよな”と噛み締めながら、リノ(Ba.)の柔軟なベースの指使いに釘付けになり、大サビ前に沸き起こる手拍子の高揚感にはふわり心が舞い上がった。

リノ(Ba.)

《生まれ変わっても信じてよ/君の選んだ爆音を》。ド平日の夜にライブハウスへ足を運んでしまうほどのバンド好きにとっては、爆音は日常の一部であり、時に傷心を癒す特効薬にもなり得る。彼女たち自身も爆音に日常を支えられてきた過去があるからこそ、『君の記録』を1曲目に選び、ステージ上から爆音を届ける側として《君の選んだ爆音》を観客と共有したかったのではないだろうか。

双葉が「今日は最後まで楽しみましょう!」と一言。イントロを奏でながら「ワンツー!」と軽快な掛け声を発し、緑色の柔らかなライトが灯るステージ上で『大人になったらさ』をスタートさせていく。《大人になったらさ/もっと近くで笑えるように/もっと近くで歌えるように》。憧れのバンドの背中を無我夢中で追いかけて、必ずいつか同じステージに立ってやる、といった気概を感じるパワフルなステージングには、若さがあふれていた。

双葉(Vo./Gt.)

「この後のかっこいいバンドに繋げられるように、トッパー輪廻、よろしくお願いします!」とアクセルを踏み、赤い照明がムーディーな雰囲気を引き連れた『actor』、8ビートが肩を弾ませる『クラスメート』と畳み掛け、フロアに充満する熱気はその温度を急上昇させていく。

「皮肉も入ってますが、そんな曲を」と曲フリして披露した『バンドマンきらいかも』では、バンドマンとしてステージに立つ3人が口を揃えて《あー!めんどくせぇー!》とあまりに清々しく皮肉混じりに叫ぶものだから、「なんかもう人生色々あるけど、自分に正直に生きていこう」といったどこまでも前向きな感情を呼び起こしてくれた。

「自分たちのやりたいことをやるだけやる」

3月19日に幕張メッセの舞台に立てることを嬉しそうに語った双葉は、「応援してくれる人が居てくれるから、大きなステージに立てたり、そういう機会が増えたりする」とMC。彼女たちには自然と応援したくなる天性のタレント性が備わっているし、さまざまな箱、さまざまな土地でライブ活動を続けていれば、支えてくれるファンの母数を増やして間違いなくその“大きなステージ”に何度だって立てると思う。

「自分たちのやりたいことをやるだけやってるのを皆さんに見せることが、精一杯できること」と語っていたのがMCのハイライト。ラストナンバー『お月様』では疾走感あふれるサウンドが観客の肩を激しく揺らし、輪廻の精一杯が結実したアンサンブルに魅了された。

《今日はいつもより空の月が綺麗だ》という最後のフレーズに観客と企画そのものに対する感謝の想いを再び託して、彼女たちはステージを後にした。りぃこ不在で言ってしまえば”不完全体の輪廻”ではあったが、サポートドラムの旗野ごうは、りぃこの想いをしっかり受け継ぎ、フロントに立つ2人の背中を頼もしく支えていた。

旗野ごう(Support Dr.)


【Setlist】
1. 君の記録
2. 大人になったらさ
3. actor
4. クラスメート
5. バンドマンきらいかも
6. お月様

日常生活に溶け込む柔らかなサウンドの手触り
tambi(タンビ)

ステージ転換作業中の場内に流れていたBGMが徐々にフェードアウトし、ステージに姿を浮かび上がらせたのはtambiの3人。

tambiは日常生活で起きたことや素直に感じたことを真っ直ぐな言葉、突き抜ける歌声で歌う男女混合スリーピースバンドだ。うだがわ(Dr.)による美しいコーラスの響きも相まって、彼らの演奏はまるで白昼夢のようなサウンドスケープを描き出す。

優しさに満ちた音楽を、日常に

1曲目に投下した『ブルー』では、スモークがかったステージ上が青々しく照らされ、朝靄を思わせる幻想的なライブ空間が作り出される。真っ直ぐで淀みのないれーさん(Vo./Gt.)の歌声がフロアの隅々まで行き届き、MASSHU(Ba.)の操る4弦ベースが醸し出す渋味とうだがわの透明感のあるコーラスが織りなすグルーヴは、フロアにいる観客たちをtambiの聡明な音世界へと誘いこんでいた。

れーさん(Vo./Gt.)

MASSHU(Ba.)

うだがわの「ワン、ツー、さん、ハイ!」と軽快な掛け声に合わせてスタートした『SWELL』、ドラムセットを中心にステージ後方全域が白いライトで照射された『世界から』とメロディアスなナンバーを畳み掛けていく。

うだがわ(Dr.)

小池店長に向けてイベントのお誘いに対する感謝を述べ、「誰かの、遠くても近くても良い、微かでも良い。そういうものになりたいという曲を」と次曲を紹介したれーさん。バンドマンだから云々、とかそういうプライドみたいなものはどうでも良くて、あくまでリスナーと同じ目線で、同じ景色を見つめて、そばに寄り添う形で音楽を作り続けたい。そんな姿勢がこの言葉から感じ取れたし、この瞬間彼らのことをより一層頼もしいヒーローのような存在に感じたのは、僕だけではないはずだ。

ステージがオレンジ色にパッと染まり演奏をスタートさせた『燈』では、演奏前に語った先ほどの言葉を裏付けるかのように、フロア全体はたちまち陽だまりのような温かみに包まれた。

オレンジ色が似合う優しい音風景を残した後、スモークが焚かれる中に青色と薄紫色のライトが溶け合う。そんな幻想的なステージ上で、れーさんがギターを爪弾きスタートさせたのは『春だった』。

3月初旬でまだ肌寒さが残るけれど、これから日々を重ねて徐々に春本番へと近づいていく。tambiの温かみのあるバンド像によく似合う“春”という季節への期待が、終盤に向かうに連れて力強さを増すボーカルに表れていた。ラストでうだがわが歌うソロパートに感じた柔らかな手触りだってそうだ。男女混成の3人で奏でる優しい音楽は、桜の新芽がまさに息吹き始めるその瞬間を予感させる。

「僕なりのラブソングを」

最近できた新曲だという『wonder』では、滑らかなメロディーライン上で時に鋭く歪んだギターが炸裂する。「面と向かっても、言葉にしづらいことやうまく伝えたいことは、中々伝えられない。だから音楽やってるんです。僕なりのラブソングを。また会いましょう」。れーさんがそう語り、MASSHUの爪弾くクールなベースラインを起点にラストナンバー『眠れる君へ』を披露。ステージ最前部で前のめりになり、リバーブがかった轟音をかき鳴らすれーさんの姿に一同釘付けになっていた。

「また会いましょう、tambiでした!」。挨拶の後、長々とお辞儀を続ける3人の姿は、彼らの温かくて優しいバンド像を最後までしっかりと印象付けていた。


【Setlist】
1. ブルー
2. SWELL
3. 世界から
4. 燈
5. 春だった
6. wonder
7. 眠れる君へ

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緩急のあるメロディーと真っ直ぐ突き抜けるボーカル
Conton Candy(コントンキャンディ)

スリーピースバンド3組が一同に会したライブ企画『3×3×3』のトリを飾ったのは、Conton Candy。2018年結成、前ボーカルの脱退を機に9ヶ月の活動休止を経て、今年3月に待望の復帰を果たした3ピースガールズバンドだ。

紬衣(Vo./Gt.)の繊細かつ力強いボーカルを武器に、リズム隊のふうか(Ba.)とさやか(Dr.)が実の双子だという特異性を発揮し、非常に息の合ったリズムワークを繰り広げる。

観る者を一瞬で虜にする牽引力に満ちた演奏

夜も深まった20時35分頃。仲睦まじげな様子で、にこやかな表情を浮かべて3人が登場。フロアに立つ観客と配信ライブ越しの人々に「これがConton Candyです!」と言葉の要らない自己紹介をするかのように、代表曲『ロングスカートは靡いて』をいきなりドロップ。コンマ0秒からタイトな8ビートで観客の肩を弾ませる。

ステージ下手側で膝を屈伸運動させ、独自のリズムの取り方で魅せるふうかの姿に思わず釘付けになった。ボーカルと重層的に絡み合うコーラスワークも一際美しく、思わず数秒目を閉じてコーラスの繊細な動きを堪能したくなってしまう。

ふうか(Ba.)

サビで紬衣が放つ牽引力のある力強い歌声はフロア目がけて真っ直ぐに突き抜け、フロアサイドでは自然と手拍子が沸き起こり、多数の拳が頭上高く上がっていた。この1曲のみでConton Candyのステージが幕引いてしまうのではないか、と不安になりそうなくらいに、僅か数分で観客との距離感を限りなく近づけ、ライブハウスの空間を彼女たちのカラーで染め上げていく。

胸の高鳴りを抑える暇もなく、「新曲やります!」と紬衣の言葉を皮切りに『執着』を披露。バンドマンにとって“新曲初披露”はある種特別な行事そのもので、一際プレッシャーがかかる瞬間だ。それ故に、Conton Candyの代名詞ともいえる『ロングスカートを靡いて』を披露した直後に新曲を投下する選択には、漢気を感じた。未発表の新曲であるにもかかわらずサビで手を掲げる観客の姿が散見されるものだから、彼女たちが繰り広げるアンサンブルがとてつもない牽引力を秘めていることを確信した。

紬衣(Vo./Gt.)

続くMCでは3づくしの本企画『3×3×3』について話し、「スリーピースバンドっていいよねって思う」とMC。初期のボーカルが脱退し4ピースでの活動が困難となり、長期の活動休止期間を経て3ピースとして再始動した彼女たちが語るこの言葉は、その重みが違う。

先ほど初披露した『執着』を振り返り「春の風が吹けばいいなと思って新曲やらせていただきましたが、いかがだったでしょうか?」と疑問符を投げかけると、フロアサイドは温かい拍手でしっかりと応えていた。

メロウな音像の『ディープレッドタルト』を披露し、甘い香り漂う空気でフロアを満たすと、「思い返してみると春に出会いなんてなかったななんて思います、別ればっかりで」と紬衣。「でも別れのときにまだ一緒に居たいなとかまだちょっと隣に居たいなとか思っていたような気がします」——。

スモークがかったステージ上で紬衣ひとりがスポットライトを浴び、別れの記憶を辿るかのようにしみじみと『WAY BACK HOME』を弾き語り始める。演奏する手を静止中のふうかとさやかが時折顔を見合わせ、紬衣のギターを弾く素振りを真似して戯ける様子が目に映り、ここでもやはりメンバー間の仲が良いことを悟った。

終盤にリズム隊2人のバンドサウンドがなだれ込み熱気が高まると、「手拍子できますか! Conton Candyからポップな1曲を」とフロアを煽り、『envy』を投下。ポップなメロディーとステージをカラフルに彩る照明が溶け合い、鮮やかな音世界を作り出していた。

さやか(Dr.)

「音楽は絶対に裏切らない」

最後のMCパート冒頭では、「3弦のチューニングが永遠に合わないんだけど…」という紬衣のぼやきに対して、さやかが「3の日だから3弦合わないの?」と秀逸な返しをねじ込み、場内は和やかな雰囲気に包まれた。

MCで垣間見える3人の和気藹々とした飾らない姿が魅力的なConton Candyだけれど、「コロナとか色々あったり世界は戦争してたり、テレビをつけたら嫌なニュースが流れてきたりとか色々あるけど、音楽は絶対に裏切らないと思う。好きな音楽を聴いて好きなライブを観に行って音浴びて、楽しかった、と帰れる日を、1日でも多く作っていって欲しいと思います」——。

自分なりの言葉で、音楽の力が持つ可能性をMCで語るのが、紬衣が理想とするフロントマンとしての在り方なのだ。 Conton Candyの奏でるラブソングが表面的なラブソングに留まらず、胸の深部にまで響いてくるのは、紬衣のそうした想いがバンド内でしっかりと共有されているためではないか。MCで紬衣の口から語られた音楽の力を信じる強い意志は、彼女が敬愛する銀杏BOYZ峯田和伸の音楽への向き合い方と重なった。

その直後16ビートが心地よい『エンジェルスモーク』を披露し、「ラスト1曲」と掛け声を放つとライブアンセム『102号室』を最後に投下。フロアには無数の手が突き上がり、曲の終盤で場内のボルテージは最高潮に達する。

大サビ前の歌詞にライブアレンジを加えて《こんな最低なこの世界を/愛していけるように/音楽で救っていきましょう》と歌っていたのが印象的で、彼女たちが音楽を続ける意義を、フロアの観客と画面越しの人々に向けて余す所なく共有していた。


【Setlist】
1. ロングスカートは靡いて
2. 執着
3. ディープレッドタルト
4. WAY BACK HOME
5. envy
6. エンジェルスモーク
7. 102号室

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「スリーピースは僕が思うバンドの最小単位だと思っていて。その洗練された形は、4人より音数も少ない分、ある程度の技術もないと成り立たないし、魅せる要素も少ないからこそ熱量で魅せていく様は、まさにストロングスタイルとでもいうべき、漢気に似た潔さを感じる」。

CLUB CRAWL店長の小池さんはスリーピースの魅力をこのように語っていたが、この日CLUB CRAWLに集った3組は、三者三様の魅せ方で大勢のオーディエンスを虜にしていた。

(取材/文・潮見そら)


CLUB CRAWL 公式サイト

http://bighitcompany.com/crawl/

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