今や若者だけでなく幅広い世代から支持を集め、青春パンクロックを掲げ邦楽ロックシーンを席巻する女性3人組ロックバンド・Hump Back。彼女たちの代表曲に「ティーンエイジサンセット」という曲がある。《もしも永遠がないなら 終わらない歌を歌おう》と声高らかに夢追う人々を鼓舞する、メッセージ性が凝縮されたロックアンセム。浪費した日々に気づく余裕もなく、大人になることにただ怯えていた10代の自分に聴かせてやりたい。
10代、あるいはティーンエイジャー(teenager)。これは厳密には13歳(thirteen)〜19歳(nineteen)の少年少女を指す言葉である。”人生100年時代”の到来を待つ現代社会においては、国民的大ヒットRPGゲーム『ドラゴンクエストV』に例えるならば、序章を旅する少年期の主人公一行同然。まだ立派な剣も頑丈な鎧や兜も装備しておらず、未熟であどけない、夢見がちな生き物だ。
だがそれで良い。むしろ、10代はそう在るべきだと思う。10代だからこそ放てる、等身大の輝きがある。大人になってからでは挑むことすら躊躇ってしまう物事にも果敢に挑戦できるし、どれほど失敗を重ね続けようが、それら全てが人生の糧となる。
新型コロナウイルスが変異を繰り返し猛威を振るう中、ロックバンドの真価が問われる2022年。今後の邦楽ロックシーンで頭角を現し、多くのファンを獲得していくであろう、10代女子3名で構成された気鋭のガールズバンドを3組発掘した。いずれも結成満4年に満たない、大注目の若手ガールズバンドがラインナップ。10代女子たちが放つ等身大の音を、あなたの肌で感じてほしい。
恋心を走らせる推進力に富んだアンサンブル
Conton Candy(コントン キャンディ)
2018年6月に高校の同級生で結成された、東京都発の平均年齢19歳スリーピースガールズバンド・Conton Candy。2020年に当時のボーカルが脱退した後、およそ9ヶ月の無期限活動休止期間を経た2021年3月、ギターの紬衣がギターボーカルとしてフロントに立つ形で3人編成での活動を開始。
昨年10月に自身初の配信シングルとしてリリースした「ロングスカートは靡いて」(1st EP『PURE』収録)は、インディーズ音源配信サイト『Eggs』における「Eggs年間ランキング」で2020年度、2021年度と2年連続で首位に輝いた。メンバー全員が10代という若さに加え、バンドを形容し得るヒットチューンをすでに1曲誕生させているのも、ネクストブレイク候補の筆頭たる所以ではないか。
繊細さと力強さが共存した紬衣(Vo./Gt.)の伸びやかな歌声は、恋するティーンエイジャーに突き刺さり、時に優しく寄り添う。実の双子ふうか(Ba.)、さやか(Dr.)のリズム隊が織りなすグルーヴも安定感抜群。
ライブハウスでみせる演奏力も伊達ではなく、今後の大化けが非常に楽しみなガールズバンド。混沌とした時代に、ピュアネス溢れるラヴソングを投下し続けてくれるのを期待しよう。
「ロングスカートは靡いて」
Conton Candyの1st EP『PURE』1曲目を飾る「102号室」、サブスク未解禁の「リップシンク」など、個人的フェイバリットソングたちをおすすめしたい気持ちは山々だが、やはりまずはこの「ロングスカートは靡いて」を聴いてほしい。YouTubeでのミュージックビデオ再生回数は、昨年10月15日の公開以降、27万回を突破している(2022年1月末現在)。
《夜はあなたの返信が早いから/ぷつりと切れる連絡が怖いから/眠い目擦ってずっと待ってるよ》と、一途で心配性な主人公像が浮き彫りとなる印象的な歌い出し。そこに覆い被さり、ボーカルの音圧を底上げするコーラスワーク。真夜中に家のドアをこじ開け、無性に駆け出したくなるようなエイトビートの疾走感。曲の再生コンマ0秒からグッと心を掴まれる悦びを味わったのは、いつぶりだろうか。
ふうか(Ba.)とさやか(Dr.)による、双子ならではの非常に息の合った緻密なコーラスワークの美しさも然ることながら、「あなた」の都合良い振る舞いのせいで不安定に揺れ動く「わたし」の一途な想いを、ロングスカートがひらひらと靡く様子に重ねたタイトルも秀逸。
サビの《抱きしめたその背中/加速する自転車》といフレーズには、心が何度もときめかされる。こんな青春がしたかった。正体は失恋ソングだけれども。
丁寧に磨かれた無垢なギターロックの煌めき
輪廻(りんね)
2019年1月にSNSを通じて結成された、双葉(Vo./Gt.)、リノ(Ba.)、りぃこ(Dr.)の3名からなるスリーピースガールズバンド・輪廻。「SNSを通じた出会い」だなんて、そんな新鮮な響きを聞くだけで、現代を生きるキラキラな10代が羨ましくて仕方なくなる。
「キラキラな瞬間をあなたに。」をキャッチコピーに活動する彼女たちは、昨年11月、都内開催の総合学園祭イベント『AGESTOCK2021 in TOKYO DOME CITY HALL』に出演。同イベント内で行われた「Next Age Music Award 2021」にて、グランプリを受賞した。
10代ならではの等身大の心情を、思わず口ずさみたくなるような歌詞に乗せるセンス、覚えやすさを意識したキャッチーなメロディー。加えて、賞レースで実績を残す確かな演奏技術とメンバー間の信頼に裏打ちされた一体感のあるアンサンブルこそが、輪廻の真骨頂だと思う。バンド名には「輪廻転生しても、同一のメンバーでバンドを組む」との意味合いが含まれており、3人の結束力は筋金入りだ。
「お月様」
「お月様」は、輪廻の1st demo single。ストレートな歌詞が胸を打つ失恋ソングだが、メンバー曰く「恋愛に留まらずに、大切な人への思いを馳せて聴いてほしい曲」とのこと。輪廻にとって初期の曲でもあり、彼女たちを知る上では欠かせない1曲となっている。
傍にいたはずの「君」を失い、真夜中あてもなく微かに残る面影を追い求める「僕」の心象風景を模すように、音数の少ないギターと双葉(Vo./Gt.)の抒情的な歌声、切なさ全開のグルーヴを帯びて曲は幕を開ける。《新宿改札前、頬に降る雨》と物憂げなシチュエーションを鮮明に描き出し、《あぁ君を失ってから人生つまんないな/つまんないな》と独り言を呟くような歌唱に心惹かれていく。
このまま「僕」の喪失感を内包したバラードが展開されていくのかと思いきや、そうはいかないのが輪廻のトラックメイカー・双葉の実力。さすがは「キラキラな瞬間をあなたに。」をキャッチコピーに音作りするバンドのフロントマンといったところ。
《今日は月が綺麗だ》のフレーズをきっかけに、堰を切ったように疾走感を帯びていくサウンド。BPMも急激に高くなる。りぃこ(Dr.)がリズミカルに連打するドラムは、リスナーの心拍数を上昇させていく。この疾走感が表しているのは、《君はもう此処にいないそんなの分かってるよ/分かってるよ》と、「君」を失った事実を何度も自分に言い聞かせ、溢れる涙を乾かすために走り出した「僕」の行き場のない気持ちだ。
1曲通して歌われているのは、「君」を失った現実から押し寄せるどうしようもない喪失感と対比するように描かれる、月の綺麗さ。曲の最後で《今日はいつもより空の月が綺麗だ》と双葉は歌うが、空の月が”いつもより”綺麗に見えているのは、拭いきれなかった涙のせいでキラキラ輝く両目を通して、月を眺めているからなのではないだろうか。
あらゆる感情を旋回させる強靭なグルーヴの渦
アカネサス
アカネサスは、高知県・四万十発のスリーピースガールズバンド。2019年に高校の軽音楽部で結成され、バンド名「アカネサス」には「3人で明るい光の差すほうへ行けるように」という願い、また万葉集の一節「茜差す」の2つの意味が込められている。
“見てくれた人や聞いてくれた人の胸にぶっ刺さるようなバンド”を目指して活動中のアカネサス。メンバー全員が現役高校3年生で、昨年11月開催の全国高校生アマチュアバンド選手権「MUSIC DAYS 2021」でグランプリに輝いた実績を持つなど、その実力は折り紙付き。
愛(Vo./Gt.)が放つのは、10代のそれとは思えない、憂いを帯びた艶やかでダイナミックな歌声。ミニマルなアンサンブルを乗りこなし、存在感を最大限発揮するボーカルには圧倒される。
濃密なグルーヴを醸し出す骨太なロックサウンドも実に魅力的で、時に退廃的なムードが漂う。10代特有の瑞々しさではなく、誰もが抱きがちな漠然とした不安感を焦燥感溢れるメロディーへと昇華する様は、実に頼もしい。
「アサガオ」
アカネサスの全オリジナル曲の中で、唯一ミュージックビデオが制作されている「アサガオ」。YouTube再生回数は3万回を超えており、アカネサスの代表曲として浸透していくに違いない。
朝顔の花言葉は、「愛情」「固い絆」「儚い恋」など。テーマを”切ない恋”として制作された楽曲「アサガオ」において、最も近しい意味合いはおそらく「儚い恋」だろう。
《もう戻れない あの日を想ったりしても》と始まる1サビの歌詞が、葛藤と後悔渦巻く儚い恋のストーリーを想起させる。そんなストーリーの結末に描写されるのは、《もう戻らない あの日の私に》と決意する「私」の姿。妖艶なベースラインが生むグルーヴの波に乗った愛(Vo./Gt.)の凛々しいボーカルは、そんな葛藤や後悔をすべて振り払わんとする、前向きな感情を吐き出しているように思える。
10代という若さ、スリーピースのミニマルな一体感を武器に、今だからこそ鳴らせる等身大の音で挑む大注目のガールズバンドを3組紹介した。10代を生きる彼女たちが描き出すリアルな感情、スリーピースで奏でるバンドサウンドの質感を、ぜひその耳で確かめてほしい。
続々と新たな芽が息吹くガールズバンドシーンから、今後も目が離せない。これを機に、お気に入りのガールズバンドを発掘してみてはいかがだろうか。
(文・潮見そら)