もっと音楽を好きになりたいなら「トリビュート・アルバム」を手に取るべし

曽我美 なつめ

曽我美 なつめ

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トリビュート・アルバム。それは多くのアーティストたちが捧げる特定のアーティストへのラブレターと言っても過言ではない。

誰かが誰かのことを慕っている様は見ていてとても暖かな気持ちになると同時に、それが自分の好きなミュージシャンであればなおのことその気持ちは大きくなる。自分の好きな人のことをもっと知りたいと思う気持ちは、きっと人間誰しも一度は身に覚えのあるものだろう。

今回は、そんな数多のアーティストからアーティストへの愛、ひいては音楽への愛に溢れたトリビュート・アルバムの素晴らしさをお伝えするべく、ぜひ手に取って頂きたい作品をいくつかご紹介しようと思う。好きなアーティストの新たな一面を発見するも良し、新たなアーティストに心惹かれるも良し。ぜひ思い思いの形で、この素晴らしい作品たちを楽しんで頂ければと思う。


エレファントカシマシカヴァーアルバム3
〜A Tribute To The Elephant Kashimashi〜

まずはデビュー30周年記念にリリースされた、エレファントカシマシのトリビュート・アルバム。タイトルからお察しの通り、彼らのトリビュートは今作でなんと3作目。彼らが積み重ねてきた30年で、どれだけ多くのミュージシャンに敬愛される存在となったかが如実にうかがえるのではないだろうか。

またエレカシのトリビュートに関しては、各ジャケットを名だたる漫画家のイラストが飾っていることも大きな特徴となっている。個人的には、あまりトリビュートに馴染みがないという方にはこのうすた京介によるジャケットの3作目を、音楽フェスが大好きなバンドキッズには新井英樹のイラストが目印の2作目を、よりコアな音楽ファンには松本大洋の絵が描かれた1作目をそれぞれオススメしたい。

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Yes, We Love butchers
〜Tribute to bloodthirsty butchers〜

1アーティストにつき複数枚のトリビュート作品が出ていると、各アルバムに重複して収録される曲ももちろんある。しかしそれもまたトリビュート・アルバムの面白さであって、各曲のアーティストならではの解釈の違いが楽曲の中に歴然と現れるのだ。

そう言った意味では、この唯一無二のミュージシャンズミュージシャンであるbloodthirsty butchersのトリビュート4作品は、コアな音楽好きにとっては非常に楽しめるものとなっているように思う。2013年に急逝したボーカル吉村秀樹を偲び制作されたこの作品は、どれだけbloodthirsty butchersというバンドが多くのアーティストに愛と恐れを以て慕われていたかがビシビシと伝わってくるのだ。

かねてより交友や影響を語っていた怒髪天やeastern youthなどの道産子ロック勢から、bed、向井秀徳、climb the mind、メジャーシーンからはASIAN KUNG-FU GENERATION、BRAHMAN、THE BACK HORN、そして海外からは+/- {Plus/Minus}やVERSUSなども参加している。

今は亡き吉村秀樹の、bloodthirsty butchersの音楽の遺伝子が今でもこんなにたくさん鳴り響いていることを、この作品を通して強く実感することができるだろう。

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I LOVE FC MORE THAN EVER
〜FLOWER COMPANYZ TRIBUTE〜

先ほどとは一転、こちらのフラワーカンパニーズのトリビュート・アルバムは彼らの25周年を祝して制作されたものだ。この作品を一言で表すのであれば、良い意味で「原曲を再度聴き直したくなる」音源である。ある意味トリビュートとしては非常に理想の形を実現している1枚とも言えるだろう。

もちろん収録されている各アーティストの楽曲完成度も非常に高い。クリープハイプはフラカンらしさを残しながらもどこまでも自分たちの曲のように作り上げているし、THE BACK HORNの原曲を越える疾走感は楽曲の焦燥感を極限まで引き出している。フラカン芸人に名を連ねる面々は発見と驚きに満ちているし、名曲『深夜高速』は新山詩織によって新たな曲の世界観を示されているようにも感じる。

しかしだからこそ、どの曲も完成度が非常に高いからこそ、このトリビュートを聴き終えた後に、鈴木圭介の声で、フラワーカンパニーズの演奏で原曲を聴くことで、改めてこれらの楽曲が私の胸を打つのである。日々の暮らしの中で忘れそうになる大事なものを、フラワーカンパニーズの曲はいつだって思い出させてくれるのだ。

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CHATMONCHY Tribute
〜My CHATMONCHY〜

00年代のバンドシーンにおいて触れたことのない人はいないであろう伝説のガールズバンド、チャットモンチー。惜しまれながらも2018年に「完結」した彼女らの曲を、多くのアーティストが愛情をもってカバーしたのがこのトリビュート・アルバムである。

チャットモンチーの楽曲が持つ圧倒的な「可愛さ」と「芯の強さ」を併せ持った雰囲気はそのままに、各アーティストが思い思いのチャットモンチー像を表現しているこの作品。その中でもトリビュートとしては貴重な、そしてインディーズシーンの音楽家にとっては挑戦し甲斐のある一般公募を取り入れたのは、この作品の特筆すべき点だろう(余談だが筆者も自身のバンドで公募作品を送ったクチである。悲しいかな、箸にも棒にも掛からぬ結果ではあったのだけれど)。

応募総数645組の中から栄えある収録作品として選ばれた2組の楽曲も、ずらりと並ぶ名アーティストのアレンジにまったく引けを取らない仕上がりだ。月の満ち欠けによる『小さなキラキラ』、そしてペペッターズの『こころとあたま』。両曲とも一聴すべき作品となっているし、これを機に彼らが自身で作っている楽曲にも、もっと多くの人々に触れて頂きたいと思っている。

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JUST LIKE HONEY
-『ハチミツ』20th Anniversary Tribute-

最後に紹介するのはこちらの作品。知る人ぞ知るスピッツの大名盤『ハチミツ』を元のアルバムそっくりそのままにカバーしてしまったという、なんともユニークなトリビュート・アルバムである。1アーティストの様々な楽曲が入り乱れるのが通常のトリビュートの概念である為、1枚のアルバムをそのままパッケージングしてしまうこの手法はなかなか異色と言えるだろう。非常に面白い挑戦である。

蓋を開いてみればこの『ハチミツ』に収録されたそれぞれの楽曲について、スピッツらしさを大きく残したアーティストもいれば、一方で自分たちの楽曲に近いレベルまで昇華させたアーティストも。1枚のトリビュートにここまでテイストが違う楽曲がずらりと並んでいると、面白くなってなんだか頬が自然と緩んでしまうのである。

スピッツというバンドに持つ各アーティストそれぞれの解釈の違いや、それもすべて受け入れてこのようなトリビュート作品にしてしまったスピッツというバンドの懐の深さにただただ頭が下がる、そんな1枚となっている。

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今回は「トリビュート・アルバム」という縛りを設け、様々なアーティストの新たな一面を垣間見れる作品をご紹介した。

のだが、個人的にはトリビュート作品の魅力を語るには圧倒的にスペースが足りなさすぎる。本当は以前話題になった椎名林檎のトリビュートも、いぶし銀のメンツが光る和田アキ子のトリビュートも、つい最近リリースとなったBUCK-TICKやサンボマスターのトリビュートについても語りたいのだ。

しかし全てを私の口から語ってしまうと皆様の楽しみが減ってしまうので、今回はここで一旦筆を置くことにしようと思う。配信リリースが少ないのが唯一の難点だが、ぜひ興味が湧いた作品は実際に手に取って視聴してみて欲しい。私も引き続き「トリビュート・アルバム」という沼に潜り、今日もたくさんのアーティストの愛に溢れたカバー曲を聴き漁ることにしようと思う。

(文・曽我美なつめ)