誰がなんと言おうと! マイ名盤10選 − ライター・五辺宏明の場合

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音楽好きなら誰しも、世間的な名盤とは別にきわめて個人的な「マイ名盤」を心に秘めているものだ。音楽の趣味も世代も異なるヂラフライターたちのマイ名盤とは? 気になる感性の持ち主を見つけたら、そのライターのほかの記事もぜひチェックしてみてほしい。新しい音楽との出会いが待っているかも。


『A LOVE SUPREME』(1965年)
JOHN COLTRANE

コルトレーン率いる黄金カルテットによる60年代ジャズの金字塔

この世に存在する膨大な数のレコードやCDの中から10枚の名盤を選ぶのは、至難の業である。

昔から音楽好きの間で定番化している「無人島に持っていきたい10枚」というお題があり、これまでにも何度か考えたことがあるが、毎回同じ10枚が選出されることはまずない。熟考して選んでも、翌朝には「やっぱり、あのアルバムは外せないよな…」などと思ってしまうのだ。

ちなみに、10年ほど前に「無人島に持っていきたい10枚」をブログで発表した際には、ジョン・コルトレーンの作品を3枚も選んでしまった。いくらコルトレーンがジャズ史上最高のサックス奏者とはいえ、さすがに3枚は多すぎだろう。

今回、その中から1枚だけ選んだのは『至上の愛』の邦題で知られる『A LOVE SUPREME』。ジャズのリスナーだったら誰もが知ってる名盤だし、5月に公開された『BLUE GIANT』の記事でも紹介しているので、他の2枚を選ぶことも考えたが、今のところ(ぶっちぎりで)生涯最も聴いたレコードなので、外すわけにはいかないのである。

コルトレーン(ts)、マッコイ・タイナー(p)、ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)の黄金カルテットによる歴史的名演。1964年録音。

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『FIEL LÄRM』(1992年)
SHELLSHOCK

スラッシュメタルの枠を超越したSHELLSHOCKの最重要作

私の音楽遍歴を語る上で絶対に欠かせないのが、10代の頃にのめり込んだスラッシュメタル。海外のバンドはもちろん、国内のバンドにもどっぷりハマり、ライブハウスに通うようになった。DOOM、OUTRAGE、UNITED、LAWSHED、そしてSHELLSHOCK。

SHELLSHOCKが1992年に発表した3rdアルバム『FIEL LÄRM』(フィール・レルム)は、ハードコアやノイズ、インダストリアルといった様々な要素を消化した独自のサウンドで、メタルファンを驚愕させた。

オリジナルメンバーの伊藤彰(g,vo)、本作の制作にあたり大きな役割を担った千葉“Die”政己(b,vo)、後にCOCOBATやCOALTAR OF THE DEEPERSのギタリストとして活躍する保坂幸治(g,vo)、1988年からバンドの屋台骨を支えてきた北沢勝(ds)の4人が生み出した意欲的作品。
(余談になるが、同じ町内に住んでいた北沢氏のご自宅で、発売前の『FIEL LÄRM』を聴かせてもらっていた)

1994年1月にミニアルバムを発表後、北沢が脱退。後任にDOOMのPAZZを迎えるも、同年11月に活動を停止(事実上の解散)。

長い沈黙の後、彼等が再びライブハウスに戻ってきたのは2009年。幾度かのメンバーチェンジを経ながらも、精力的に活動を続けている。

なお、SHLLSHOCKを脱退した北沢はキックボクサーに転向し、2002年に新日本キックボクシング協会のウェルター級王座を獲得。2009年から数年間、SHLLSHOCKに復帰していたが、現在はキックボクシングジム「NINEPACK」の会長を務めている。

『IT TAKES A NATION OF MILLIONS TO HOLD US BACK』(1988年)
PUBLIC ENEMY

ヒップホップ史上初のコンセプトアルバムとして知られる歴史的名盤

「ANTHRAX feat. Chuck D from PUBLIC ENEMY」名義で19991年に発表された“Bring The Noise”の再録版は、ラウドミュージックの歴史に残るエポックメイキングな作品と位置付けることができるだろう。

人気ラッパーとスラッシュメタルバンドの共演は大いに話題を呼び、同曲を収録したPUBLIC ENEMYの4thアルバム『APOCALYPSE 91… THE ENEMY STRIKES BLACK』は世界中で大ヒットを記録。かく言う私も、本格的にヒップホップを聴くようになったのはこのアルバムから。

同アルバムを聴き込んだ後に彼等の過去作をさかのぼり、辿り着いたのが2ndアルバム『IT TAKES A NATION OF MILLIONS TO HOLD US BACK』。ANTHRAXと共にスラッシュメタル四天王の一つに数えられるSLAYERの代表曲“Angel of Death”をサンプリングした“She Watch Channel Zero?!”に、さらなる衝撃を受けた。

“Bring The Noise”のオリジナルバージョンや“Don’t Believe The Hype”といったヒット曲を収録したPUBLIC ENEMYの最高傑作と言われる本作からヒップホップに傾倒し、そこからメアリー・J.ブライジやアリーヤといったR&B、そしてソウルやジャズ、レアグルーヴ等のブラックミュージックを聴くきっかけになった個人的にも重要な作品。

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『HARVEST FOR THE WORLD』(1976年)
THE ISLEY BROTHERS

ヒップホップ以降の世代からも愛されるアイズレーの名盤

THE ISLEY BROTHERSの存在を知ったのは、ヒップホップソウルと呼ばれていた90年代R&Bのシンガーの中で最も好きだったアリーヤの1stアルバム『AGE AIN’T NOTHING BUT A NUMBER』に収録された“(At Your Best) You Are Love”のカバー。

サンプリング全盛だった90年代ヒップホップ/R&Bの数多くのヒット曲に、アイズレーの楽曲が使用され、カバーも続出していた。アリーヤのカバーは、それらの最高峰に位置する(と断言しておく)。

“(At Your Best) You Are Love”を収録した『HARVEST FOR THE WORLD』は、初めて買ったアイズレーのレコード。

人気ラッパーのアイス・キューブやコモン・センス、ノトーリアス・B.I.G.等のヒット曲の元ネタを目当てに買い揃えたアイズレーのレコードは、次第にラッパー達のレコードよりもターンテーブルに乗る頻度が高くなっていった。

『HARVEST FOR THE WORLD』は、最初に聴いたアイズレーの作品ということもあって思い入れもひとしお。タイトル曲の“Harvest For The World”と“So You Wanna Stay Down”は、アイズレーの中でも一二を争う大好きな曲。

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『ATTICA BLUES』(1972年)
ARCHIE SHEPP

世界中のレアグルーヴファンに愛されるブラックジャズ

コルトレーンと深い交流があり、『A LOVE SUPREME』のセッションにも参加していたサックス奏者のアーチー・シェップが、1972年に録音した『ATTICA BLUES』。ファンクやゴスペルの要素を取り入れたブラックジャズの名盤として知られる本作は、1971年にニューヨーク州アッティカ刑務所で起きた黒人囚暴動をテーマに制作された。

1992年にGALLIANOがリメイクしたことで再評価され、アシッドジャズやレアグルーヴのリスナーから絶大な支持を受けたタイトル曲の“Attica Blues”、ソウルフルなジョー・リー・ウィルソンの歌に魅了される“Steam”、タイトル曲と共にレアグルーヴ愛好家に人気の“Blues for Brother George Jackson”、あどけない少女の歌声が印象的な“Quiet Dawn”。一瞬たりとも聴き逃すことのできない、完璧と思える数少ない作品の一つ。

私が『ATTICA BLUES』のLPを入手したのは、90年代中頃。それ以降、「無人島に持っていきたい10枚」を考えた際に、本作と『A LOVE SUPREME』を選ばなかったことは一度もない。

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『Alive』(1995年)
Love Tambourines

四半世紀経っても色褪せることない、Love Tambourinesのフルアルバム

1995年2月。ふらっと立ち寄ったレコード屋の邦楽フロアで、英詞の曲が流れていた。日本人とは思えない強烈なヴォーカルと楽曲の完成度に驚き、そのCDを購入。Love Tambourinesが初めてリリースしたフルアルバムだった。

全曲最高。それ以前に出ていたシングルCDを買い揃え、プロモオンリーのアナログ盤を探し求めた。

毎日のように作品を聴いていれば、ライブも観たくなるのは当然のこと。雑誌やレコード屋で情報を集め、3月に渋谷公会堂でリリースライブがあることを知った。しかし、日付を確認すると、BLIND JUSTICEというハードコアバンドの7インチ発売記念ライブと同日。近しい存在の彼等が初めてレコードを出す記念すべきイベントを優先した。
(その後、BLIND JUSTICEはenvyと名を改め、国内外で人気を博す)

残念ながら、Love Tambourinesは『Alive』発売記念ツアーを終えた直後に解散。一度もライブを観ることができなかった。『Alive』は、彼等が残した唯一のフルアルバムということになる。

Love Tambourines解散後、ヴォーカリストのEllieは、ソロ名義やELI+HIROSHI、girl it’s Uといったユニットで作品を発表。girl it’s Uのイベントで、初めて生で聴いたEllieの歌に感動して震えたことを、今でも覚えている。

2018年7月にはミニアルバム『STAY GOLD』をリリース。11年ぶりの新作ということで、注目を集めた。

今年の11月3日に、Ellieのニューシングル『マジ無理 NO WAY / Midnight Parade 2020』が7インチ(アナログレコード)でリリースされる。もちろん、既に予約済み。ライブでお馴染みの新曲と、Love Tambourinesの代表曲を再録してカップリングしたアナログ盤を買い逃すわけにはいかない。

『BLACK MAHOGANI』(2004年)
MOODYMANN

現時点での今世紀最高傑作

デトロイトの奇才、ムーディーマンことケニー・ディクソン・ジュニアが2004年に発表した5枚目のアルバム。

ダンスミュージックの枠を超越した21世紀版ブラックミュージックの傑作として後世に語り継がれるに違いない大名盤。個人的には現時点で今世紀に出た全てのアルバムのランキング1位がこのアルバムだったりする。

アルバムタイトルに起用された“Black Mahogani”(シングル発売時は“Black Mahogany”)をはじめ、“Shades of Jae”、“Runaway”、“I’m Doing Fine”といった既出のシングル曲が収録されているにもかかわらず、曲間にインタールードを挟んだことで、コンセプトアルバムのような感覚で聴ける。

なお、アナログ盤は3枚組。収録内容も微妙に異なる。

『all the footprints you’ve ever left and the fear expecting ahead』(2001年)
envy

世界にその名を知らしめた『君の靴と未来』

ここからは、若かりし頃にライブハウスで濃密な時間を共有したバンドの作品を紹介する。

90年代に足繁くライブに通っていたenvyのメンバーと知り合ったのは、BLIND JUSTICE名義で活動していた1994年。SUPER JUNKY MONKEYやWRENCH、GMF、ジェイソンズといった同世代のバンドマン達と仲良くなった時期と一致する。

彼等が国内のみならず、海外からも熱狂的な支持を受けるようになった2000年代の快進撃を、残念ながら私は見ていない。2001年から始めた柔術という格闘技が生活の中心になり、それまでは月の半分以上足を運んでいたライブハウスから10年ほど遠ざかっていた。

怪我の影響により柔術の活動ペースを落とした2013年。ヴォーカリストの深川哲也氏からの依頼を受け、結成20周年を記念して制作されるブックレットに載せる資料を提供したことがきっかけとなり、再びenvyのライブに顔を出すようになった。

『君の靴と未来』という日本語タイトルで知られる『all the footprints you’ve ever left and the fear expecting ahead』のアナログ盤がターンテーブルに乗る機会が増えたのは、その頃。柔術を始めた年に発表された同作の楽曲をライブで聴いたのは、20周年記念のワンマンが初めてだった。ライブで感銘を受けた曲は、レコードの聴こえ方も変わってくる。

数あるenvyの名盤の中でも特に人気の高い『君の靴と未来』は、海外でもリリースされ、絶大な評価を得たマスターピース。

メンバーチェンジを経て、今年の2月に発表されたフルアルバム『THE FALLEN CRIMSON』も必聴。

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『weak』(2019年)
WRENCH

12年ぶりに発表された最高傑作

これまでに最もライブを観に行った回数が多いバンドはWRENCH。90年代だけでも100回以上観ている。柔術を始めていなければ、ずっと通い続けていただろう。

WRENCHの作品は思い入れの強いものばかりだが、昨年リリースされた『weak』を迷わず選出。12年ぶりに発表されたフルアルバムは、どんなジャンルにも属さない独創的なサウンドで、各方面から絶賛されている。

2020年7月24日。諸事情により『weak』リリース直後からバンドを離れていたMUROCHIN(ds)の復帰ライブが、無観客配信ライブとして開催された。アーカイブでじっくり観ることもできたが、ライブ感を重視してリアルタイムで視聴。久々に揃ったWRENCHの4人がステージに立つ姿を見て泣きそうに

終盤、MUROCHINに代わってドラムを叩いてきたABNORMALSのMASATOを加え、ツインドラムを披露してくれた頃には、涙腺が崩壊していた。「ライブって素晴らしいな」と改めて実感。

それでもやはり、実際にライブハウスで体感したかった。コロナが収束した暁には、彼等が奏でる『weak』の曲を爆音で浴びたい。

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『SUPER JUNKY ALIEN』(1996年)
SUPER JUNKY MONKEY

最愛のバンド、SUPER JUNKY MONKEY

最後に紹介するのはSUPER JUNKY MONKEY。このバンドに出会っていなかったら、私の人生は全く違うものになっていただろう。

SUPER JUNKY MONKEYのメンバーやスタッフとの思い出は数えきれない。レコーディングに参加したり、テレビ収録を手伝ったり、イベントのDJを担当したり、地方に遠征したり、USツアーに同行したり。

WRENCHやenvyといった同世代のバンドマンと知り合えたのは、SUPER JUNKY MONKEYのヴォーカリスト、Mutsumi623のおかげだ。1999年2月5日に亡くなったMutsumi623には、本当に多くのものを与えてもらった。彼女の訃報を知らされた瞬間の絶望感を忘れることはないだろう。

SUPER JUNKY MONKEYの全作品に強い思い入れがあるので、本当だったら全てランク入りさせたいところではあるが、そんなわけにもいかない。ベスト盤を選出するという手もあるが、ずっとアルバム単位で聴いているので、選外とした。

Mutsumi623の逝去直前に録音されたデモ音源等をまとめた『E・KISS・O』(2001年)の楽曲が素晴らしく、アルバムとして完成していればこちらを選んでいたかも知れないが、今回はMutsumi623の存命中に発表された最後の作品『SUPER JUNKY ALIEN』を挙げることにする。

僭越ながら選曲にかかわらせていただいた7インチのA面曲“R.P.G”は、本作の収録曲。詳しくは、過去記事をご覧いただきたい。

SUPER JUNKY MONKEYは私のオールタイムフェイバリット。昔も今もこれからも。

(文・五辺宏明)
(カバー撮影・髙田みづほ)