【MUSIC DRUNKS #8】VC広報・森真梨乃 / 脳内をめちゃくちゃに混乱させてくれる、愛すべき音楽たち

三橋 温子

三橋 温子

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Twitter界で「マリノス」といえば、サッカーチームではなくひとりの女性を思い浮かべる人も多いだろう。ベンチャーキャピタル(VC)の株式会社KVPに勤務する森真梨乃さん。Twitterフォロワー1.8万人を有する会社員インフルエンサーだ。

長い黒髪に、目力のある端正な顔立ち。歯に衣着せぬユーモアたっぷりのツイートとのギャップがまたおもしろい。昨年、彼女の正体を存じ上げずにはじめてお会いした際も、人を強く惹きつける存在感に「ただ者ではないぞ」と直感したものである。

これまであまり公表する機会がなかったそうだが、実は森さんも音楽に心酔する「MUSIC DRUNKS」のひとり。彼女はどんな音楽とともに生き、なにを感じているのだろうか。


音楽への扉を開いてくれたLOVE PSYCHEDELICO
——バズツイートを量産している森さんですが、普段は会社員として企業にお勤めなんですよね。どんなお仕事をされているのですか?

KVPというベンチャーキャピタルで、広報兼アシスタントとして働いています。社内のアシスタント業務や、投資先企業のPR業務など。ふつうの会社員です!

——いやいや、ふつうの会社員はこんなにフォロワーいません!(笑)Twitterのアカウントはあくまで会社のPRの一環とのことですが、プライベートもおもしろおかしくツイートされていて思わず笑ってしまいます。一方で音楽のお話はあまりされていないですよね。

そうなんです。わたしといえば「本」や「犬」好きというイメージを持ってくださっている方が多いと思いますが、音楽も昔から大好き。

——いつごろからお好きですか?

小学生のころ、家の近くに大きいTSUTAYAができて、親によく連れていってもらっていて。いつもはビデオを借りていたんですが、たまたまCDコーナーに行ったときにLOVE PSYCHEDELICOの『LOVE PSYCHEDELIC ORCHESTRA』のジャケットを見かけて「かっこいい!」とひと目惚れしたんです。借りて聴いてみたら、日本語のような英語のような不思議な雰囲気に一気に引き込まれました。

わたし、大学は外国語学部を出ているんですけど、英語に興味をもったきっかけはデリコ。最初に聴いたときからいままでずっと好きなアーティストです。去年はじめてライブに行きましたが、すんごい素敵でした! 歌うんまい!!

——小学生でLOVE PSYCHEDELICOとは早熟ですね!

まわりにも広めたくて、中学に入ってから友達に無理やりCDを貸したりしていましたが、あんまり広まらなかったですね(笑)

中学時代にASIAN KUNG-FU GENERATIONとELLEGARDENを好きになってからはバンド音楽もたくさん聴くようになって、高校時代はくるりが大好きでした。あと、高校生ってカッコつけたい年ごろじゃないですか。軽音部の友達からおすすめの洋楽を教えてもらって、Green DayやThe Strokes、The White Stripesなども聴いていましたね。いまプロドラマーとして活躍している長良祐一も、当時わたしに音楽を教えてくれた友達のひとりです。

——はじめて行ったライブは憶えていますか?

高校1年の終わりに行ったELLEGARDENです。当時はエルレ全盛期でワンマンライブが全然とれなかったので、エルレが出演する新木場STUDIO COASTのフェスに同級生と行ったんです。フェスのスタートがお昼前で、大トリのエルレは夜から。「もったいないから最初から行かなきゃ!」と張りきって行ったはいいけど、次の日が試験だったので、すきまの時間に持参した教科書をみんなで読んだりして(笑)

はじめてのライブだったからお作法がわからず、「アクセはつけないほうがいいよね」とか「パンプスはダメだよね」とかみんなで話し合って、ワクワクしながら行ったことを憶えています。楽しかった!

それ以降はライブにもフェスにもたくさん行っています。フェスでいうとROCK IN JAPANやSUMMER SONIC、くるり主催の京都音楽博覧会、RISING SUNなどですね。

留学先で出会い、心を奪われたThe Knife
——その後はどんな音楽を聴いてきましたか?

大学3年のときにカナダに留学したんですが、そこのクラブでThe Knifeというスウェーデンの姉弟エレクトロニックデュオの曲を聴いて衝撃を受けました。もともとクラブミュージックはあまり好きじゃなかったんですけど、The Knifeの曲は繊細で暗くて、ダークなのにキュートで、ふざけているんだか真面目にやっているんだかわからないようなところに心を奪われてしまって…。

カナダで買えるだけCDを買って日本に帰国したら、日本ではまったく知名度がないし来日もしていない。休みが合ったら海外公演に行きたいと思い続けていたんですが、2012年に解散してしまいました。めちゃくちゃショックでしたね。最後に少しでも貢献したいと思って、CDは全部持っていましたが全曲ダウンロードし直しました(笑)

——カナダでは人気があった?

いえ、クラブでたまにかかる程度でしたね。でも、『アグリー・ベティ』というマンハッタンが舞台のアメリカのテレビドラマを見ていたら、おしゃれなクラブでThe Knifeの曲がかかっていて、「イケてる音楽と認知されてるんだ!」と嬉しくなりました(笑)

The Knifeがスウェーデンのグラミー賞に決まったとき、彼らは「僕たちはステージの上に立ってありがとうと言うべき人間ではない。あくまでもスタジオワークが仕事だから」と受賞を辞退しているんです。そういう姿勢も大好き。ちなみにその年の賞は、次点のThe Cardigansに贈られました。

——さすが、詳しいですね!

わたし、彼らのことが好きすぎてWikipediaまで書いていますから(笑)

——あはははは!

まわりに知っている人が全然いなくて寂しいですけど、いまでも「The Knifeをどうしようもなく聴きたい」というときがあって、よく聴いています。

——ほかに最近のお気に入りアーティストはいますか?

SUKISHAというアーティストが好きです。昨年、友達がオーガナイズする『SAMMA DISCO』というディスコイベントではじめて観て好きになったんですが、そのあと友達が紹介してくれて知り合いました。

SUKISHAさんの音楽はものすごく複雑で多重的で、わたしみたいな素人が一発聴いただけじゃ、なにをどうしているのかさっぱりわからない。耳を澄まさないとわからないこの「ピン!」という音はなんで入れたんだろう…とか(笑)。でもそれがめちゃくちゃ気持ちいいし、カッコいいんです。『4分半のマジック』という曲がいちばん好き。

あとはスカートやin the blue shirt、キリンジなども大好きです。

——デリコもThe KnifeもSUKISHAもそうですが、「不思議」「よくわからない」みたいな部分に魅力を感じるんですね。

確かに、音楽に不思議さを求めているのかもしれないですね。曲調もそうだし、歌詞も一見しただけじゃわからないような詩的なものが好き。「なんだこれ!」「全然わからん!」と脳内をめちゃくちゃに混乱させて、考えさせてくれる音楽に惹かれるんだと思います。

「無音」が苦手
——音楽を聴くのはどんなときですか?

わたし、無音が苦手で、家にいるときも音楽やテレビやラジオをなにかしら流しています。常に考えごとをしてしまうタイプなので、無音だと自分の頭の中がうるさくて逆に気が散るんですよ。外部の音が耳に入ってきたほうが目の前のことに集中できるんです。事務作業中も、モニョモニョしゃべる系の曲とか、リスニングが難しい英語の曲とか、聴きとりにくい曲を薄〜くかけながら仕事しています。

——考えごとというのは、たとえば?

くだらないことも含めて、世の中のあらゆることについて常に考えてしまいます。さっき明治通りを歩いていたら「枝落ちに注意」という注意書きがあって、葉っぱの場合は「落ち葉」なのになんで「落ち枝」じゃないんだろうとか(笑)。「あのときこう言えばよかった」とか、自分自身について考え込むこともあります。

——音楽はなにで聴くことが多いですか?

流し聴きはSpotify、課金しているのはAmazon Music。好きなアーティストはCDも買います。

——推しにお金をかけたいタイプ。

はい。その人の活躍に少しでも貢献したい。本の場合もそうなんですが、「わたしがこの1冊を買えば増刷がかかるかもしれない」と思っていつも買っています。

——本といえば、音楽からは話がそれますが、好きな作家さんもお聞きしたいです。

現代短歌の歌人、穂村弘さんが大好きです。おすすめは『世界音痴』。森見登美彦さんのエッセイ集『太陽と乙女』も好き。フェスに持っていってテントで読んだりします。

小説だと、ちょっとほの暗い陰気な雰囲気が好み。小川洋子さんの『ホテル・アイリス』や『薬指の標本』、『密やかな結晶』などなど。独特の世界観や巧みな描写に惹かれます。

——小川洋子、わたしも大好きです。社会的弱者に優しいところとか。

そう、マイノリティにどこまでも優しいですよね。メインストリームを走っていない弱者やはみ出し者にフォーカスして、でも決して手を差し伸べたり救ったりするわけではない。彼らだからといって奇跡を起こせるわけでも、すごくいい人なわけでもなく、同じようにずるくて卑怯なこともして、でもたくましく生きて恋もして…。穂村弘さんの短歌にも似たようなものを感じるんですが、そういうリアルな人間の姿を描いているところが好きです。

——映画は観ますか? フランス映画とかお好きそう。

よく言われます。でもそんなに観ない(笑)。最近は邦画・洋画問わずホラー映画ばっかり観ていますね。小野不由美原作の『残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』とか、昨日観た『クライモリ』とか、「なんなんだ、この作中に漂う嫌な雰囲気は…!」という感じのホラーが好きです。平凡な人生なので、ホラー映画で自分に刺激を与えているのかも。

——(笑)。ひとりで観ても平気なタイプですか?

はい。ちゃんと戸締りさえすれば。人間がいちばん怖いので(笑)

絶対に理解はできない、でもついていきたいと思える存在
——大人になるにつれて、音楽の趣味に変化はありましたか?

聴く音楽の幅はめちゃくちゃ広がりましたね。10代のころからずっと好きな音楽もある一方で、年を重ねるごとに「なりたい自分像」みたいなものも変わっていくから、それにともなって選ぶ音楽も自然に変わるというか。ヘアスタイルやメイクと同じかなと思っています。

いろんなジャンルの友達が増えて、世の中にいろんな仕事があることを知ってからは、音楽でもなんでも、ひとつのプロダクトをより多面的に見られるようになった気がします。

——自分で音楽をやったりとかは?

以前、自分でもやってみようとベースを買って、真面目に練習もしたんですが、もともと目立つのが好きじゃない性格で。人前に立ってみんなを沸かせたり楽しませたりするのは向いていないので、リスナーに徹することにしました(笑)

——未知の音楽に出会いたいときはどうしていますか?

「こういう音楽が好き」と言っていると、友達が「これも好きなんじゃない?」と教えてくれるので、そこから出会うことが多いですね。あとは好きなアーティストのプレイリストをあさったり。

——好きな人が好きなものって、グッとくる出会いの宝庫ですよね。では最後に、森さんにとって音楽とはどんな存在か、あらためて教えていただけますか。

生活の一部ですね。宗教に近いかもしれない。宗教って、生活の一部であり崇拝の対象であり、その宗教を信仰しているからといって自分も同じような宗教を作れるわけではないじゃないですか。絶対に理解はできない、でもとにかくカッコいい、ついていきたいと思える存在が、わたしにとっての音楽だと思います。

(取材/文/撮影・三橋温子)


5 PRECIOUS SONGS
Marble House(2006年)
The Knife

19〜20歳のころにカナダへ留学していて、現地のクラブで聴いて「なんだこの曲!!??」と衝撃を受けたスウェーデンのエレクトロのデュオです。来日公演を待ち望んでいましたが叶うことなく解散……いまでも変わらず大好きです。特にこの曲の入っているアルバム『SILENT SHOUT』が良いです。

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Free World(2001年)
LOVE PSYCHEDELICO

小学生のころ、はじめて自分のCDとして所持したのが『LOVE PSYCHEDELIC ORCHESTRA』でした。女性ボーカルの曲はそんなに聴かないんですが、デリコは別! ファン歴は長いですが昨年はじめてライブに行き、何年経っても変わらないパワフルなkumiさんの声に感激しました。

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BOHEMIAN RHAPSODY(1975年)
QUEEN

説明不要の名曲ですが……QUEENは周りの大人の影響で10代のころからずっと聴いています。ボラプは1曲の中にバラードのところ、オペラっぽいところ、ロックなところがあってお得!(?) MVもカッコいい!

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Only A Lad(1981年)
Oingo Boingo

現在、映画音楽の世界で活躍しているダニー・エルフマンがボーカルを務めていたバンドです。不気味でキュート、奇妙にキャッチー、わたしのツボをすべて押さえている。もしもバンドをやるなら絶対に彼らみたいなバンドをやりたいです。

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ワルツがきこえる(2016年)
スカート

澤部渉さんのソロプロジェクトのスカートは、歌詞がとても好きでここ2〜3年でいちばんよく聴くアーティストのひとりです。単語のセレクションから閉じ開きまで、彼の綴るすべてがわたしのブローカ野(言語を司る脳の部分)に心地よく染み渡ります。

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PROFILE

森 真梨乃(Marino Mori)

株式会社KVP 広報。近頃はマリノスと呼ばれます。「あのひと、いいひとだよね」と言われるのが目標。Twitter @marinoKVP

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