誰がなんと言おうと! マイ名盤10選 − 編集長・三橋温子の場合

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音楽好きなら誰しも、世間的な名盤とは別にきわめて個人的な「マイ名盤」を心に秘めているものだ。音楽の趣味も世代も異なるヂラフライターたちのマイ名盤とは? 気になる感性の持ち主を見つけたら、そのライターのほかの記事もぜひチェックしてみてほしい。新しい音楽との出会いが待っているかも。


『心臓オーケストラ』(2002年)
THE BACK HORN

人間は汚く弱いけれど、それ以上に美しい

夜の静寂に、ひとひらの雪が舞い降りる。そんな光景を描いたようなギターから始まる1曲目「ワタボウシ」を聴き、当時札幌の高校生だったわたしはすでに「名盤」と確信した。降り積もる雪が実はあたたかく世界を照らすこと、そのなかにいると雪の声が心の空白を満たしてくれることを、どうしてこの人たちはこんなにもよく知っているのだろう。このアルバムを聴きながら歩いた故郷の雪道は、いつもよりずっと心強く感じられた。

「サニー」で荒々しいメジャーデビューを果たしたTHE BACK HORNが、魂を振り絞るようなミディアムバラード「空、星、海の夜」を2ndシングルとしてリリースしたときは驚いた。が、このメジャー2ndアルバムの衝撃はそれ以上だったかもしれない。人間の闇をマイナー旋律で攻めたてる1stアルバム『人間プログラム』にはなかった、他者を思いやるような切なく美しい心情が垣間見える「夏草の揺れる丘」「夕暮れ」「ぬくもり歌」などの曲がラインナップ。一方で「ゲーム」「ディナー」といったバクホン節全開の曲もあり、バンドの感受性の豊かさに畏れすら感じた。

翌年に参戦したアルバムツアーの感想が当時の日記に残っている。「(岡峰)光舟さん(Ba.)が加わって新生バックホーンはさらに突っ走っていくことでしょう」「『夏草の揺れる丘』は山田(将司)くん(Vo.)の熱唱が感動もの」「『夕暮れ』は本当にいい曲。菅波(栄純/Gt.)さんも大熱唱でカッコよかった」などと綴られていたなかで、「松田(晋二/Dr.)さんは噛むし」と書いてあったのには笑った。マツの噛み噛みMCは20年近く経ったいまも健在だ。

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『超克』(2013年)
BRAHMAN

3.11、絶望から希望へ

『A FORLORN HOPE』(2001年)とかなり迷ったが、3.11を経て大きく変化したBRAHMANの強い意志が感じられる名盤として『超克』(ちょうこく)を選んだ。Judee Sill「Jesus Was a Cross Maker」のカバー以外、バンドでは初めての全曲日本語タイトル・日本語詞。TOSHI-LOWが極限まで自分を追い込み、自らに本当に響く言葉を探してつくりあげたというアルバムで、一言ひとことが胸をえぐる。

「初期衝動」「賽の河原」「警醒」などのライブ定番曲も多く、なかでも故事成語の「鼎の軽重を問う」を思わせる「鼎の問」(かなえのとい)は来世まで語り継ぎたい名曲。絶望〈街中の灯が落ちて〉〈参道に影はなく〉から希望〈街中の灯が灯り〉〈参道に人溢れ〉へと力強く変わっていく描写が、福島第一原発作業員の方々のインタビューで構成されたMVと重なり、ライブではいつも涙をこらえることができない。アルバムツアー以来ライブで聴けていないが「俤」(おもかげ)も好きだ。

2011年のROCK IN JAPANでBRAHMANが大トリを飾った際、MCをするTOSHI-LOWに驚き、3.11がバンドに与えた傷や覚悟の大きさを知った。「東北の人として死んでいくから、俺でよかったら一生支援する」というTOSHI-LOWの言葉と、そのあとに披露された厳粛でやさしい「霹靂」は生涯忘れないだろう。

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『face the music』(2002年)
sleepy.ab

迫りくる叙情、札幌が誇るバンドの1stアルバム

ライブで出会い、その音に一瞬で心を奪われるという幸福な体験を、人生ではじめてわたしに与えてくれたのはsleepy.ab(スリーピー)だった。UKロックという言葉もよく知らなかった高校生のわたしは、「あんなにしっとりなのに不思議とロック」とその日の感動を日記に綴っている。出会いはSLEEPER HOLD目当てで行った札幌BESSIE HALLでのライブイベント。現サカナクションの山口一郎と岩寺基晴らが組んでいたダッチマンなどが出演バンドに並ぶなか、最初に登場したのがsleepy.ab(当時はSleepy Head)だった。

不安や切なさやノスタルジーを掻きたてる曲調に、繊細でときに激しいギター、浮遊するような歌声。「Anomarokaris」や「Hush」の迫りくる叙情には鳥肌が立った。それから何度もライブに足を運ぶようになり、その後1stアルバムの『face the music』がリリースされる(現在廃盤)。ジャケットのイラストはわたしの親友が描いた。

2009年にメジャーデビューし、ジャンルの枠を超えた多彩な楽曲を世に送り出しているsleepy.ab。近年のRISING SUNで久々にVo./Gt.成山剛のソロステージを観て感慨深かった。高校時代、自分で書いた詩や物語を成山さんによく送って読んでもらっていたが(迷惑も顧みず笑)、そのお礼にと送ってくれた「PAIN」や「Scene」の歌詞の原形はいまでもわたしの宝ものだ。

『LUVIN’ SIDE NEW STOMPER』(2002年)
Oi-SKALL MATES

ハッピーなだけじゃない、“聴かせる”スカを堪能あれ

1曲目のインパクトは、そのアルバムが自分にとって特別な存在になるか否かを確実に左右する。「Bring on Nutty Stomper fun」のホーン隊のイントロが流れた瞬間、わたしの心はライブハウスにテレポートし、“Bring on Nutty!” “Stomper fun!”と叫び出してしまう。プロ野球・西岡剛選手や高校野球の応援歌として使われていただけあって、人の底力を瞬時に引き出す素質を備えた曲だ。

高速裏打ちの「Frustration」でリスナーを爆上げしたかと思えば、Ben E. King and The Drifters「I Count the Tears」を原曲よりメロウなアレンジでカバーするなど、ベテランスカパンクバンドならではの引き出しの多さが存分に発揮されている。なかでも好きなのは、憂いを帯びたメロディとリリックの「I can’t Stay with You」。日比谷野音のスカフェス、SKAViLLE JAPANでめずらしく演奏されたときは感動した。聴かせるスカでオイスカの右に出るバンドはいないのではないか。

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『GARDEN』(2010年)
LILY HEADS REUNION

ノイジーなボイス×エモ、最強のミスマッチ

チバユウスケの声がたまらなく好きだ。中高時代からずっと崇めてきた彼の声の片鱗を、LILY HEADS REUNIONのVo.LUCYに見出したときの興奮は忘れない。新宿MARSで友人のバンドと対バンしていた彼らを観て、すぐに手売りのCD『GARDEN』を買った(現在廃盤)。当時はインディーズライブイベントORGASM発のレーベル、ORGA/Entertainmentに所属していた。

チバより濁声が強く、それでいて曲はマイナーコード主体のエモロック。声と曲調がミスマッチと評された記事をどこかで見たが、そのギャップこそがわたしの耳には新鮮に響いた。終始疾走する「残響」や、メロディラインに歌謡曲テイストが漂う「蛍」、濁りを抑えたやさしい声から始まる「アカシア」など全曲いい。カナダのEnvol et Macadam Festivalに出演するなど今後が期待されたが、2014年に解散してしまった。翌年YouTubeにTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT「世界の終わり」のカバーが公開され、LILYらしいアレンジに胸が詰まった。

『variandante』(2004年)
HUSKING BEE

日本語パワーポップの新境地、ここにあり

邪道と思われるかもしれない。メロコア時代からのファンは戸惑いをおぼえた作品だったかもしれない。それでも、全曲日本語詞という新たなアプローチに挑んだこの5thアルバムは、わたしがハスキンのなかでもっとも聴き込んだ思い入れある作品だ。「摩訶不思議テーゼ」と、稀に「Just a beginning」以外、ライブでほとんど聴けないのが寂しすぎる。

全体的にポップなサウンドと、日本語パワーポップのポテンシャルを引き出したVo./Gt.磯部正文の遊び心ある詞が印象的。そのなかに不意にアンニュイな「掌に花片」や、いっそんの高音が切なく響き渡る「カナリア」が配置されており、一層惹き込まれる。Gt.平林一哉が作詞とボーカルを担当する「Just a beginning」は、1日の始まりを爽やかに彩ってくれる名曲。

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『MADE IN JAPAN』(1999年)
SEX MACHINEGUNS

ちゃらけた奴の真面目な顔にグッとくる、これって恋?

彼らはふざけてなどいない。いや、ふざけた曲もあることは認めるが、この2ndアルバムを聴けばわかっていただけると思う。HR/HMを日本のお茶の間に広め、メジャーデビューからわずか1年半で日本武道館までのぼりつめた功績が、決して運や偶然の産物ではないことを。

わたしはマシンガンズの真面目な曲が好きだ。『シティ・ハンター』スペシャルの主題歌に起用された「illusion city」のメロディアスで緊迫感ある展開、「MAGNUM fire」の切ないリリックやVo./Gt.ANCHANGの突き抜けるハイトーンボイス、「Iron Cross」のスラッシュメタルらしい高速ギターソロ。もちろん、〈ネコネコパン〜チ♡〉がセクシーな「TEKKEN II」や、嫌いな給食を泣きながら食べる「ONIGUNSOW」などTHEマシンガンズな曲たちも並び、その二面性にまんまと翻弄される。

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『「    」』(2019年)
Mellow Youth

まだ何者でもない彼らが放つ、若々しくも成熟した音楽

この感覚、いつぶりだろう。大人になるにつれ、青少年の頃のような感動体験にめぐり会う機会は減ってしまいがちだが、THE BACK HORNの「サニー」に、ACIDMANの「赤橙」に、Hi-STANDARDの「Stay Gold」に出会ったときと同じピュアさで「いい!」と目を輝かせてしまったのが、2017年に結成したMellow Youthの「FUSE」を聴いたときだった。この成熟した音を20代前半の若者たちが奏でていると知ったときは、さらに度肝を抜かれた。

呼び方に戸惑うこの1stEPのタイトルに込められているのは、「まだ何者でもなく何者にもなれる」というフレッシュな思い。ライブハウスで踊りたくなるAORナンバー「APEX」や、ジャジーなバンド処女作「Lonely night」など、確かな軸はありつつもバラエティに富んだ楽曲が揃う。このEPはツアー会場限定発売ですでにソールドアウトしているが、今後リリースされるであろう1stアルバムへの期待も込めて選出。

『Americana』(1998年)
The Offspring

青春がよみがえる、90’sアメリカン・パンクの傑作

わたしなどが語るまでもなく、世界で1000万枚を売り上げた20世紀の名盤。人生でほぼはじめて触れた海外のパンクがこのアルバムだった。社会風刺をユーモアたっぷりに歌い、キャッチーなサウンドは急に転調したりスローダウンしたりと自由奔放。「これが自由の国、アメリカのパンクか」と少女のわたしは感心したものである。

シリアスなギターリフで始まる「The Kids Aren’t Alright」は、若者の悲劇的な未来に胸が締めつけられる。憎しみをストレートに歌う「Feelings」は王道パンクがカッコいい。一方で「Pretty Fly (For A White Guy)」は、ミーハーな男性をコミカルに皮肉るバンドの代表曲。大人になってからPUNKSPRINGではじめてThe Offspringを観たときは、一瞬で青春時代にタイムスリップした。

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『EDEN』(1993年)
LUNA SEA

バンドのイメージを自ら壊し、たどり着いた楽園

〈Jesus, don’t you love me?〉というVo.RYUICHIの囁きからDr.真矢の8ビート、そしてGt.SUGIZOの鋭いギターリフ。「JESUS」ほど完璧なアルバムの幕開けをほかに知らない。iTunesもサブスクもなかった90年代後半、中学の同級生からこのメジャー2ndアルバムを借りたわたしは、カセットテープ(時代!)に録音して文字どおり擦り切れるまで聴いた。レコーディングエンジニアの杉山勇司氏が参加する、高音質に定評のある作品とはつゆ知らず。

一方で、リリース時の毀誉褒貶の激しさでも知られるこのアルバム。シャウトあり、ゴシック・ロックテイストありの退廃的な従来作品とくらべ、全体的にエフェクトがかかった幻想的でポップな世界観だからだ。浮遊感のあるミドルバラード「RECALL」、Ba.Jの印象的なフレーズとGt.INORANのアルペジオ(通称INOペジオ)とSUGIZOのギターソロが絶妙に絡み合う名曲「LASTLY」、「STEAL」から「LAMENTABLE」へと続くベースライン、SUGIZOのヴァイオリンがただただ美しいワルツ「Providence」…と、秀逸さは挙げればきりがないのだが。

「初期のアルバムは怖くて聴き返せない」とSUGIZOに言わしめ、定番曲以外はライブでも長らく演奏されなかった『EDEN』だが、2018年の『SEARCH FOR MY EDEN』と題されたライブで11曲中9曲が息を吹き返した。25年ぶりにアップデートされた『EDEN』はこの日、自他ともに認める名盤と化した。

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(文・三橋温子)
(カバー撮影・髙田みづほ)