ネット上に星の数ほどある様々なジャンルの動画の中から自分の好きな動画を発掘して見るのは、とても楽しくて時間を忘れてしまうことの一つだ。なんの予定もない休日の朝にだらだらと布団の中でYouTubeで動画を見ることの幸福感は筆舌に尽くしがたい。
「音楽に関する動画」と一口に言ってもその形式は様々だと思うが、だからこそ楽しみ甲斐があるというもの。YouTubeで観覧できる多様な音楽動画を集めてみたので、ぜひ共に休日をだらだら溶かしていただけたらと思っている。
THE FIRST TAKE(☞YouTubeを視聴する)
「招かれたアーティストが白いスタジオの一本のマイクの前で、一発撮りのパフォーマンスをする」というシンプルなテーマを掲げ、2019年11月から始動したソニー・ミュージックエンタテインメント運営のYouTubeチャンネル。
これまでにはLiSA、崎山蒼志、Cö shu Nie、加藤ミリヤ、Little Glee Monster、女王蜂、ゴスペラーズなど様々な音楽ジャンルのアーティストが登場している。
女王蜂のボーカル・アヴちゃんが歌う『火炎』のアコースティックバージョン。高音から低音までを滑らかに操る圧倒的な歌唱力。パフォーマンスとしての凄まじさに鳥肌が立つほどの衝撃を受けた。
凄まじいギターテクニックと高校生とは思えないほどの文学的な歌詞で聴く者を圧倒する新鋭シンガーソングライター・崎山蒼志の若さほとばしる切迫したパフォーマンス。アーティストとしての確かな技術と才能、人を惹きつける不思議な魅力が伝わる動画。
『inertia』は美しくて儚くてしなやかで、やわらかくて冷たくて悲しい曲だ。Cö shu Nieの中村未来の人間離れした幻想的な佇まいと歌声が楽曲とマッチしている。
ニートtokyo(☞YouTubeを視聴する)
ニートtokyoはラッパー(及びヒップホップに関わる人)へのショートインタビュー動画を毎日更新するチャンネルだ。
主催のSEEDAは1980年生まれのバイリンガルラッパー。日本のヒップホップ界を語る上で重要な人物である。代表作として語られる2006年リリースのアルバム『花と雨』は2020年に同タイトルで映画化された。
このチャンネルでは、楽曲や肩書きではない「その人自身」にフォーカスし、極めてパーソナルなことをうまく聞き出す質問をしている。
印象的だった動画は「未来を決めた出来事は何か?」という質問に対してラッパー・SALUが語る、うまくいっているのに周囲や自分に対する苛立ちがやまなかった時期に友人から言われた言葉についての話をしていた回。
Black File オタクIN THE HOOD(☞YouTubeを視聴する)
Black FileはSPACE SHOWER TVで放送されているヒップホップ番組で、その中のコーナー・オタクIN THE HOODはラッパー達の楽曲の制作現場を覗ける貴重な動画となっており、Black File公式YouTubeチャンネルでチェックできる。
ラッパー・jinmenusagiがナビゲートするのはビートメーカーでプロデューサーのSweet Williamのお宅。気に入っている漫画や機材、そして楽曲制作の話を惜しみなく語るSweet William。お洒落であたたかみのある居心地の良さそうな部屋は、彼の作る音楽に似ていると感じた。この回はSweet Williamと共にラッパーの唾奇も出演している。
ラッパーでありビートメーカーでありプロデューサーでもあるKOJOEは「日本語ラップの最高峰」と評される人物。そんなKOJOEのスタジオ「Jスタジオ」に、ラッパー・ISSUGIが訪問し話を聞く。スタジオに置かれている機材やインテリアのひとつひとつにKOJOEの美意識や愛情があらわれているし、ヒップホップやそこから繋がる様々な文化と歴史へ敬意をはらっていることが会話から感じ取れる。「完璧じゃねえのがいいだろ?」という言葉がさらりと出てくるのもしびれた。
たとえ動画を見ていただけで休日が終わったとしても、せっかくの休日を棒にふってしまった!と考えるのはナンセンスだ。
そこに罪悪感は必要ない。明日からまた頑張ればよろしい。何故なら人生に無駄なことなどひとつもないのだから。(と思いたい)
(文・望月柚花)