【追悼 Tony Allen】トニー・アレンと石若駿 – アフロビートの創始者とKing Gnu前身バンドのドラマーが共演してたって知ってる?

五辺 宏明

五辺 宏明

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2020年4月30日、ナイジェリア出身のドラマー、トニー・アレン(Tony Allen)が息を引き取りました。享年79歳。フェラ・クティ(Fela Kuti)と共にアフロビートを創造した正真正銘のレジェンドです。

18歳でドラムを始めたトニー・アレンは、独学でドラムを習得。アート・ブレイキー(Art Blakey)やマックス・ローチ(Max Roach)といったアメリカのジャズドラマーに影響を受けながら、独自の奏法を編み出したと言われています。

朝霧JAMやMETAMORPHOSEに出演し、日本にもファンの多いトニー・アレン。2019年には、King Gnuの前身にあたるSrv.Vinciの元メンバー、石若駿(いしわかしゅん)とのツインドラムセッションが話題に。今回は「追悼 Tony Allen」と題し、トニー・アレンそして石若駿の演奏を堪能できる名盤をピックアップして紹介します。


トニー・アレン

FELA KUTI 『THE BEST OF THE BLACK PRESIDENT』

1964年にフェラ・クティと出会ったトニー・アレンは、FELA RANSOME-KUTI & HIS KOOLA LOBITOSに加入。後にバンド名をNIGERIA 70、AFRICA 70、AFRIKA 70と改め、数々の名曲を世に送り出しました。

代表作として挙げられる“Zombie”を筆頭に、ヒップホップのサンプリングソースとしても知られる“Water No Get Enemy”、世界中のDJがプレイする“Roforofo Fight”や“Shakara (Oloje)”、“Up Side Down”…。枚挙にいとまがありません。70年代に彼等が生み出したアフロビート・クラシックは、世代を超えたファンに長らく愛され、今なおダンスフロアを揺さぶり続けています。

TONY ALLEN 『BLACK VOICES』

AFRIKA 70在籍時から自身のリーダー作を発表していたトニー・アレンは、1979年にバンドを脱退した後も作品をリリース。

ターニングポイントになったのは『BLACK VOICES』(1999年)。トニー・アレン名義として初のワールドワイド・リリース作品となった『BLACK VOICES』は、幅広い層から支持を得ました。

ROCKET JUICE & THE MOON 『ROCKET JUICE & THE MOON』

『BLACK VOICES』のヒットでソロアーティストとしての地位を確立したトニー・アレンは「フェラ・クティのドラマー」としてではなく、「生ける伝説」としてコンスタントにアルバムを発表していきます。

ジミ・テナー(Jimi Tenor)、セオ・パリッシュ(Theo Parrish)、ジェフ・ミルズ(Jeff Mills)といった子や孫のような世代とのジャンルを超えたコラボレート作品や、ヒップホップやテクノアーティストによるリミックスも話題に。

BLURのデーモン・アルバーン(Damon Albarn)、RED HOT CHILI PEPPERSのフリー(Flea)と結成したROCKET JUICE & THE MOONが2012年に発表したフルアルバムは、エリカ・バドゥ(Erykah Badu)やサンダーキャット(Thundercat)、マリのシンガーソングライターで女優としても活躍するファトゥマタ・ジャワラ(Fatoumata Diawara)等の豪華ゲストが参加したことで、ロックやブラックミュージックのリスナーからも注目された1枚。

石若駿

2003年の初来日以降、朝霧JAMやMETAMORPHOSE等のフェスやイベントに出演し、日本にもファンの多いトニー・アレンが最後に来日したのは2019年1月。

ブルーノート東京で開催された2日間の単独公演に加え、新進気鋭の国内ミュージシャンが名門ジャズレーベルのBlue Note Recordsに吹き込まれた名曲群を演奏するBLUE NOTE plays BLUE NOTE」にもスペシャルゲストとして出演しました。

私は単独公演の初日を観に行きましたが、前日に同会場で開催された「BLUE NOTE plays BLUE NOTE」で繰り広げられた石若駿とのツインドラムセッションの評判を知り、そちらにも足を運ぶべきだったと後悔したものです。

SMTK 『SUPER MAGIC TOKYO KARMA』

10歳でハービー・ハンコック(Herbie Hancock)に見出され、15歳にして日野皓正のバンドに抜擢された石若駿は、現在最も注目されるジャズドラマーの一人。その活動はジャズの枠にとどまらず、くるり、小野リサ、沖野修也、Zeebra、ものんくる、WONK等、様々なジャンルのミュージシャン達と共演。

King Gnuの前身にあたるSrv.Vinciの元メンバーであることをご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。

数多くのプロジェクトに名を連ねる石若駿。推薦したい作品は多々ありますが、まずは5月20日にリリースされたSMTKの1st.アルバムを。

石若駿 『Songbook』

ゲストシンガーを迎えて自身はピアノ、キーボード、ドラムを演奏する『Songbook』シリーズ。昨年11月に第4作目がリリースされました。

記念すべき第1作目は5曲入りのEPながら好曲揃い。角銅真実が歌う“Asa”は多くの方に聴いていただきたい名曲です。

日野皓正 『Beyond The Mirage』

個人的に石若駿のドラムを生で聴く機会が最も多い日野皓正クインテットの作品からも。日本が誇るジャズトランぺッター、日野皓正が昨年リリースした『Beyond The Mirage』は、約8年ぶりのニューアルバム。難病を患ってバンドを去った石井彰(ピアノ)が在籍していた時期に録音された作品です。

元SLEEP WALKERの杉本智和(ベース)、渋さ知らズ等の活躍で知られる加藤一平(ギター)、そして石若駿によるクインテットの熱いジャズをご堪能あれ。


最後に。

南アフリカを代表する伝説のトランペット奏者、ヒュー・マセケラ(Hugh Masekela)とトニー・アレンとの共演作が今年の3月に発表されました。2018年にヒュー・マセケラが亡くなるまで、未完のままアーカイブに保存されていた2010年録音のセッション音源を基に、ゲストミュージシャンを迎えてアルバムとして完成させたものです。

早々に入手した本作のアナログレコードに何度も針を落とし、ヒュー・マセケラを偲びながら2人の共演に酔いしれていたのに、まさかトニー・アレンまで…。謹んで哀悼の意を表します。安らかに。

(文・五辺宏明)