日本一「牛歩」のスカバンド、SCAFULL KING 〜2019.11.1 新代田FEVERライブレポート〜

三橋 温子

三橋 温子

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日本のスカが好きだ。KEMURIやOi-SKALLMATES、POTSHOT、HEY-SMITHといったスカパンク・スカコアと呼ばれるバンドも好きだし、オーセンティックなThe Ska Flamesも、スカを日本に浸透させたといって差し支えないであろう東京スカパラダイスオーケストラも好きだ。

スカの発祥はジャマイカ、起源はジャズ。ジャマイカ独立の喜びが伝わってくるような軽快な裏打ちリズムとブラスの音色には、基本マイナー調の暗めなロックを好むわたしでさえ虜になってしまう、絶対的な幸福感がある。

その中でも、もっともライブを観ている(と思う)スカバンドが、1990年結成のSCAFULL KING(スキャフルキング)である。AIR JAM世代のかたならご存じだろうが、若い世代やスカを聴いてこなかったかたにもぜひ彼らの魅力を知ってもらうべく、先日2019年11月1日に行なわれた新代田FEVERでのライブレポートを交えながら紹介する。


活動休止を経て「牛歩」のベテランスカバンド

現在のSCAFULL KINGは、

  • ボーカル/トランペット SYUTA-LOW “TGMX” TAGAMI
  • トロンボーン/コーラス AKIRATT KURIMOTO
  • サックス/コーラス NARI
  • ギター/コーラス KENZI MASUBUCHI
  • ドラム/パーカッション TADAAKI “TDC” FUKUDA

の5人。今年、ベースの4106が脱退し、現在は7弦ベーシストのIKKEがサポートとして入っている。

結成から約30年の間に、バンドの歩みは二度ほど止まった。1995年のバンド一時解体、そして2001年の活動休止だ。その後、2003年のSKAViLLE JAPANにシークレット出演し、2007年にはFUJI ROCK FESTIVALに出演して事実上の活動再開を果たす。出演ステージが入り口からかなり遠く、確かトップバッターだったため、やや遅れて会場に到着した我々はあの険しい山道を全力疾走、なんとかラスト3曲に間に合ったという思い出がある。

復活後のバンド活動は、本人たちも言っているとおり牛歩だ。ワンマンライブのなかった年も数多くあるし、シングルは2011年以来出ていない。だが今年は、SATANIC CARNIVAL出演、2daysの自主企画ライブイベント、新代田FEVERでのワンマン、そして11月30日のLOW IQ 01ライブイベント出演と、精力的に活動している。(疲れるから今日が今世紀最後でいい、と、TGMXはFEVERで漏らしていたが。笑)

新代田FEVERでのワンマンライブ『SINGLE TUCK OUT』

この日行なわれたのは、東京・新代田にあるLIVE HOUSE FEVERの10周年を記念したワンマンライブ『SINGLE TUCK OUT』。キャパ300人の会場は、THE世代のファンで埋め尽くされているかと思いきや、意外と幅広い年齢の人たちがいて思わず嬉しくなる。

福岡のDJ KAZUOによる熱いプレイのあと、1曲目に披露されたのは『SAVE YOU LOVE』。ゆったりとしたイントロから突如急き立てるようなアップテンポに変わるこの曲で、会場内は即ダイブの嵐。


TGMXのトランペットが響きわたる『THE SOUND WAVE』、若い人にこそ聴いてほしいスキャフルらしい応援歌『BRIGHTEN UP』、休符が独特のリズムを刻む人気アイリッシュ風ナンバー『WHISTLE』を終え、TGMXのMCタイム。「(この規模の)ライブハウスでやるのはDOPING PANDAと対バンした2001年の下北沢シェルター以来」と明かし、西村仁志オーナーと福岡から来てくれたDJ KAZUOに感謝の言葉を述べた。


トロンボーンAKIRATTが歌う『COSTELLO』、キーボーディストの堀江博久をフィーチャーした『YOU WANNA DO』『SOUL TO SOUL』、その後『GIVIN’ UP』『6 cycles』と続き、TGMXはオーディエンス上にダイブ。直立で仰向けに寝たまま後方へ運ばれていく、スキャフルのライブでは「棺桶」と呼ばれるパフォーマンス(?)を見せる。

盟友、LOW IQ 01がゲスト出演

『Greatest Sounds』ではLOW IQ 01(ロウアイキューイチ/いっちゃん)が登場し、オーディエンスはさらにヒートアップする。ベースIKKEは、スキャフル用に製造したというIbanezの5弦ベースで巧みなベースソロを披露。また、ドラムTDCがパワフルなドラムソロを、LOW IQ 01がベースを借りてスラップを披露し、会場を湧かせた。


ちなみに、LOW IQ 01が以前ベースボーカルとして活動していたSUPER STUPIDは、Hi-STANDARDとともにAIR JAM世代を熱狂させた伝説のスリーピースバンド。1999年に惜しまれながらも活動休止したが、2015年のBRAHMAN 20周年イベント『尽未来際』で1日限りの復活ライブを行ない、2016年のLOW IQ 01イベント『MASTER OF MUSIC』では、諸問題を起こしていたギターボーカルの大高ジャッキーとステージ上で和解するシーンが我々の胸を熱くさせた。

そのSUPER STUPIDの代表曲である『SUPER STUPID II』を、今宵はなんと2回も披露してくれた。スキャフルのメンバーがMCで「ペプシコーラ」と口にするのが合図だったらしく、1回目は「ペプシが飲みたい」という不自然なMCの直後に突如スタート。特徴的なイントロと同時にダイバーが続出、FEVERの低い天井が破壊されるのではと思うほどの盛り上がりに。

続いて演奏されたスキャフルの『MIDNIGHT SWING』では、メンバーとDJ KAZUOが次々と「棺桶」で運ばれ、『DO WEE』ではサックスNARIがフルートを吹きながら「棺桶」状態に。最新シングル(といっても8年前)から『searching for』、畳みかけるように『CLASSROOM』、友情を皮肉たっぷりにユニークに歌い上げる『YOU AND I,WALK AND SMILE』で会場がひとつになり、本編は幕を閉じた。

ライブハウスならではのハッピーでカオスなステージ

アンコール1曲目はオーディエンスからのリクエストにより決められた。

NARIがサポートで参加しているMONGOL800の『小さな恋のうた』、KEMURIの『PMA』など他バンドの曲をリクエストする野次が飛ぶなか、採用されたのは『FAR PLACE』。切なげなミドルテンポのメロディに、遠く離れた大切な場所とそこにいる人々を想う歌詞がのせられた名曲だ。ライブでは定番曲だが、今日に関しては「やると思わなかった」とTGMX。わたしは個人的にもっとも好きな曲なので、リクエストしてくれたファンに心の中で感謝。


FAR PLACE(遠い場所)、そしてNARIがMONGOL800のサポートをしていることから、先日起きてしまった首里城の火災について触れたTGMX。台風19号災害への復興支援チャリティーステッカーを販売するなど、チャリティーに積極的なスキャフルらしく、「楽しいことをして楽しくなかった人の力に少しでもなれたら」と、首里城の復興支援に対する意欲を見せた。

その後、LOW IQ 01が再び登場し、スキャフルのトリビュートアルバムで自身が参加した『NOTHING』、The SpecialsがカバーしたToots and The Maytalsの『Monkey Man』をともに披露。スキャフルの代表曲のひとつ『IRISH FARM』では、曲中に2回目の『SUPER STUPID II』をはさむというスペシャルなアレンジも飛び出した。


ラストを飾ったのは、80年代のイギリスのスカバンドMadnessの『One Step Beyond』のカバー。ファンが次々とステージに上がり、もみくちゃになりながらスカダンスをする光景は、この規模のライブハウスならではのハッピーなムードに満ちていた。


18年ぶりというライブハウスでのライブで、ダブルアンコールが起こらないわけがない。鳴り止まない手拍子にメンバーが再登場するも、すでに酒の缶を手にしたTGMXはひとりだけ渋い顔。やたらと腕を指さし、どうやら「時間がないから無理」と言っているようである。

しかし、これがフリであろうことはファンならだいたい予想がつく。案の定、散々渋った挙句に「しょうがないなぁ」といった様子で始まったのは、人気ナンバー『NO TIME』のイントロ。「Go!!!」のシャウトと同時に会場のボルテージは最高潮に達し、今日いちばんのダイブの嵐と歓声が湧き起こった。


11月30日には、LOW IQ 01のソロ活動20周年記念イベント『LOW IQ 01 20th Anniversary The Extravaganza』にゲスト出演するSCAFULL KING。

スキャフルのメンバーらが参加する『LOW IQ 01 & MASTER LOW』、ASPARAGUSの渡邉忍/ストレイテナーの日向秀和/SCAFULL KINGのTDCが参加する『LOW IQ 01 & MIGHTY BEAT MAKERS』に加え、BRAHMANとMONOEYESもゲストアクトとして出演する豪華イベントだ。

「BRAHMANとMONOEYESだよ。俺らどうするよ」と、自虐コメントで会場の笑いを誘ったTGMXだが、カラーのまったく異なるゲストバンドの中でSCAFULL KINGがどんなステージを見せてくれるのか、非常に楽しみである。

今回ご紹介したうちの1曲でも予習していけば、いや、予習などせずとも自然と体が動き出してしまうのがSCAFULL KINGのライブ。曲ごとに個性の光るメロディアスなスカサウンドが体に染みついて離れなくなるだろう。今後新たなライブスケジュールが発表された際には(いつになるかはわからないが)、ぜひチェックしてみてほしい。

(文・三橋温子)


ベストアルバム
『SCAFULL KING』

2007.5.5 DIWPHALANX RECORDS

トリビュートアルバム
『GIFT (TRIBUTE TO SCAFULL KING)

2008.12.8 DIWPHALANX RECORDS

1. DOO WEE(BACK DROP BOMB)
2. Brighten Up(BRAHMAN)
3. WE ARE THE WORLD(CUBISMO GRAFICO Orchestra)
4. Irish Farm(COMEBACK MY DAUGHTERS)
5. SOUL TO SOUL(DOPING PANDA)
6. FAR PLACE(Brown&THE FOUR BACKS)
7. SAVE YOU LOVE(LEADERS OF THE PACK)
8. NOTHING(LOW IQ 01)
9. WHISTLE(Oi SKALL MATES)
10. NO TIME(riddim saunter)
11. YOU WANNA DO(RUDE BONES)
12. NO TIME(SPECIAL OTHERS)
13. COSTELLO(TROPICAL GORILLA)
14. LUNCH IN THE JAIL(YOUR SONG IS GOOD)