【全曲レビュー:THE YELLOW MONKEY『9999』】 シングル『天道虫』『砂の塔』を含む、イエモン19年ぶりのオリジナルアルバムに迫る

倉田 航仁郎

倉田 航仁郎

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活動休止前にリリースした前アルバム『8』から約19年ぶりの、イエモン9thアルバム『9999』(2019年4月リリース)。話題となった『砂の城』『天道虫』『I don’t know』を含む全13曲が収録された、色あせることなく輝き続けるイエモンの魅力が詰まった1枚となっている。今回はそんな、アルバム『9999』の全曲をレビューしていく。


THE YELLOW MONKEY 『9999』について

リリースに連動して公開された、全曲ダイジェスト映像を観てもお分りいただけるとおり、バラエティーに富んだ曲たちが並ぶ、まさに名盤と呼ぶにふさわしいアルバムに仕上がっている。それぞれの楽曲について、レビューしていこう。

01.この恋のかけら

当初、YouTubeで公開された時『Matryoshka』というタイトルになっていたこの曲。リリース時に『この恋のかけら』に改められている。

曲調的にアルバムのオープニングを飾る感じよりは、むしろ終盤にかけて入ってきそうな曲なのだが、あえて1曲目に据えられているところが実にイエモンらしい。

冬の情景の中で春に思いを寄せるこの曲は、長い休眠状態から目覚めたイエモンそのものであり、そのスタート地点を意味しているのだろう。そう思って聴くと、1曲目にふさわしいといえる。

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02.天道虫

再結成後の2018年にリリースされた配信シングル『天道虫』。個人的に「アルバムの一曲目はコレだろう」と思っていたほど、前傾姿勢の雰囲気を持つ曲である。

1曲目の『この恋のかけら』からの流れは完璧で、溜め込んだ勢いを一気に花開かせたイメージだろう。ここから始まるイエモンワールドの扉を開け放ってくれる曲だ。

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03.Love Homme

『天道虫』の雰囲気を継承して、さらにエモーショナルでエロティックな雰囲気を加速させる、実にイエモンらしい1曲。アッパーチューンで攻め立てるわけではなく、あえて一旦引いてミディアムテンポを絡ませてくれる。

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04.Stars(9999 Version)

『Love Homme』のエロティックさを汲む、見事な流れをここで実感できる。公言通り、デヴィット・ボウイをリスペクトしているところも疑う余地もなく、絡みつくギターがグラムロックの王道を示してくれる。

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05.Breaking The Hide

イエモンが得意とする、歌謡曲にロックをミックスしたテイストの楽曲。

マイナーコードが心地よく響き、セクシーなボーカルが聴くものを虜にしていく。歌詞の攻め立てかたも非常にカッコよく、洋楽テイストの『Breaking The Hide』からジャパンロックへと自然にうつり変わる流れがとても美しい。

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06.ロザーナ

再結成後リリースされた初のアルバムの早期購入特典CDに収録された楽曲。

歌詞のそこかしこに活動休止や解散についての苦悩や、再結成の喜びが散りばめられた、おそらくこのアルバムで最も伝えたいメッセージが詰まっている1曲ではないだろうか。ファンに対して、というよりも、メンバーに対しての思いを吐露して紡いでいるようだ。

しかし、そういった内向きでストレートなメッセージも吉井和哉らしく、ファンとしても喜びを持って迎えることができる。長年にわたり、築き上げた信頼関係を再確認できる名曲である。

07.Changes Far Away

アコースティック編成で聴いてもしっくりくるほど、優しさに満ちた1曲。『ロザーナ』でメンバーへの思いを吐露し、その流れからさらに思いを紡ぎ出している歌詞になっている。真っ直ぐな想いがスッと胸に届く。

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08.砂の塔

再結成後の第1作目として2016年にリリースされたイエモン25thシングルがこの曲である。

長いブランクを経てもなお色褪せない唯一無二のセンスを、改めて見せつけてくれた1曲。“上に行くほど傾いた”という表現からも、これまでの思いが存分に詰め込まれていることが伝わってくる。

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09.Balloon Balloon

オールディーズの雰囲気を全面に出しつつも新しさを感じる、イエモンの真骨頂ともいえる曲。

1曲を通してコーラスのかかったボーカルもまた味がある。聴いていれば自然と身体が動いてしまうなんとも不思議な楽曲で、彼らだからこそここまでの完成度に昇華できるのだろう。

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10.Horizon

配信限定で2017年にリリースされたシングル。吉井和哉の、どこか気怠く、それでいて優しい歌声が涙を誘う1曲だ。

歌詞の世界観も絆を歌ったもので、これまで待っていてくれたファンや、メンバーを想って歌われているのだということがヒシヒシと伝わってくる。過去を否定せず、その上に立って進んでいく姿勢が感じられる内容であり、今後の彼らを象徴しているように思う。

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11.Titta Titta

『Horizon』から一転、ポップナンバーで雰囲気がガラッと変わる。復帰してからどこか影を感じる歌詞の世界が満ちていたところに、一点の光が差し込むようなポジティブな1曲。

肩肘張らず、自分らしく生きよう。普段何かに一生懸命頑張っている人ほど、そう感じるのではないだろうか。そっと寄り添ってくれる応援歌のような楽曲だ。

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12.ALRIGHT

再結成して最初に発表したシングル『砂の塔』のカップリングに収録されたこの曲は、サナギを経て成虫になる蝶の姿を、バンドに重ねたものだ。

休止から解散を経て再結成という、流れをなぞらえており、過去のイエモンを幼虫だと捉えるならこれからさらに高みを目指して羽ばたいていくことを感じさせてくれる。

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13.I don’t know

単純に感動で締めくくらないのがイエモンらしいと思わせてくれる1曲。様々な期待を背負って再始動した彼らが自分自身の今後について「I don’t know」と言っている、とてもストレートな楽曲である。

「これから何が起こるか、どのようになるか、そんなことは知らない。でも、それでも俺たちは歩みを止めない。」

そういうメッセージをまとったこの曲を最後に持ってくることで、1枚のアルバムとしてクローズさせず、バンドの未来を感じさせてくれている。ファンにとって、何よりも嬉しいプレゼントになったのではないだろうか。

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個々の楽曲の素晴らしさだけでなく、曲の並びも秀逸な名アルバム

それぞれは個別にリリースされた楽曲にもかかわらず、アルバムとして結集した時にそれらがひとつの作品として成立している、まるで壮大なパズルのような作品である。

再結成してからずっと、このアルバムを作るために小さなピースを紡いでいたのだということがここに来て初めてわかるというのは、やはり秀逸と言わざるを得ない。

楽曲をランダムで聴くのも良いが、このアルバムは是非ともこの曲順で聴いて欲しいと思う。楽曲に込められた想いやメッセージが、ラストに向かって収束して行く様はまさに芸術。何度も繰り返し聴き、MVも合わせて観ることでその素晴らしさを五感で体感できることだろう。

永き眠りから覚めたTHE YELLOW MONKEYという存在が、これから我々に観せてくれる新しい世界を期待してやまない。

(文・倉田航仁郎)


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