【NUNNU 独占ロングインタビュー】 普遍的なのに言葉にできない感情をすくい上げて歌う、NUNNUの音楽について

望月 柚花

望月 柚花

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NUNNU(ぬんぬ)という、バンドでもなくクルーでもないこのアーティストチームは、2015年に発足し、ボーカル・トラックメイカーのはるひk(はるひけ)を主軸に、アートディレクターのYuya Ishii、ディレクターのすけちゃんの3人で活動している。

NUNNUとの最初の出会いは、2016年リリースのファーストアルバム『all right』に収録されている『不思議なフィーリング』という楽曲だった。

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ポップなトラックにやわらかく優しいのに少しだけ切ない歌詞。誰にも理解してもらえないと自分が感じていたことが音楽になっていたのでとても驚いた。仕事も生活もなにもかもがうまくいかなかった時期に、お守りのようにずっと聴いていた。

NUNNUは2016年のファーストアルバム『all right』のリリース後、間を開けずにシングルを毎月発表し、2017年にはセカンドアルバム『uca』を、翌年2018年にアルバム『mirai』をリリースした。

2019年はEP『vs.virus』をリリースし、同年には他のアーティストの既存の楽曲をリミックス・カバーする「NUNNUcover」シリーズをYouTubeの公式チャンネルで公開している。

現在はYouTubeのNUNNU公式チャンネルにて、まだ配信されていない楽曲のリリックビデオを発表している。

NUNNUのボーカル・トラックメイカーであるはるひk氏に取材の依頼をしたところ、快く承諾していただけた。今回はNUNNUの音楽が生まれる場所である「NUNNUスタジオ」にお邪魔して話を伺った。


「死ぬまでにどのくらい音楽を理解できるか」ということがアーティストとしての課題です。

――今回は取材をお受けいただきありがとうございます。では早速、自己紹介からお願いします!

はるひk: NUNNUのはるひkです。出身は福島県で、今は東京で音楽を作ったり洗濯をしたりして暮らしています。

――音楽を始めたきっかけはどういったものだったのでしょうか?

はるひk: もともとは父がベースを弾いていて、その影響でベースが格好いいと思うようになりました。ずっと弾いてみたかったけれど、年頃だったので中々正直に言い出すことができなくて、実際に手に取るまでは少し時間がかかりました。

音楽に興味を持ったのも、音楽を始めるきっかけになったのもベースでした。

――「ベースを弾きたい」と言えたのはいつ頃ですか?

はるひk: 中学3年生、15歳の時です。将来の目標もなくネトゲにはまってしまっていたおれを見かねてかわからないんですが、酔っぱらった父が「そろそろ真面目にベースでも弾いたらどうだ」と言ってくれてからです。

最初に運指練習を教えてもらったんですけど、それが嬉しくて楽しくて、ひたすら何時間も運指練習ばかりしていました。かなりのめり込んでいたのをおぼえています。

――そこから今まで、どのように音楽を続けてきたのかが気になっています。10代後半から現在に至るまでの活動歴を教えてください。

はるひk: 高校のころはバンドをやっていました。でも当時は自分とメンバーのモチベーションの差があったのを感じていました。

東京でバンドを組み本格的に活動するようになってからは、高校のころ感じていたメンバーとのモチベーションの差はなくなったのですが、全員のモチベーションが高いからこそ感じる不自由さというか、自分の意見が通らないことがストレスになってきて。なんというか、おれは音楽に関してはすごくわがままになってしまうんです。全部自分でやるか、全部他人に任せるかのどちらかしかできない。

中田ヤスタカさんの作品やsasakure.UKさんなど、電子音楽に傾倒していたこともあって、バンドに持っていくデモがどんどんそういったものになっていったんです。そしてそれをバンドサウンドでやることが嫌になってきてしまった。全てを注いできたバンドだったけれど、ある時「あ、これ辞めたらおれめちゃくちゃ幸せだな」と気づいてしまったんです。

そういった経緯でバンドを活動休止してから、NUNNUとしての活動を始めました。

NUNNUのルーツを辿る
「無意識のうちにAqua Timezに寄ってしまう」
――NUNNUの音楽は多方面から影響を受けていると感じているのですが、影響を受けたアーティストや音楽、音楽以外の作品がありましたら、それについてお聞きしたいです。

はるひk: 影響を受けているアーティストはTHE NOVEMBERS、Syrup16g、andymori、クリープハイプ、amazarashi、MEG、YUKI、ふくろうず…挙げればきりがないです。

女性ボーカルがすごく好きで、女の子の歌う女の子の曲ってすごくいいなと思っているのですが、自分だとそれができないというジレンマは常に抱えています。そういった点で、クリープハイプは男性なのに女の子目線で女の子の曲を歌えるからすごいなと感じていますし影響も受けています。

――また、NUNNUの楽曲はラップを用いたセクションが印象的ですが、そのルーツを教えてください。

はるひk: HIP HOPを積極的に聴いている訳ではないですが、強いて挙げるならAqua Timezから影響を受けていると思います。あと、ライミングの理論など、技術的なことはKREVAさんの韻講座から学びました。

Aqua Timezのデビューミニアルバム『空いっぱいに奏でる祈り』に収録されている『希望の咲く丘から』という曲がすごく好きで、自分のフロウとかが無意識のうちにAqua Timezに寄ってしまうことがあるくらい影響を受けています。

――なるほど。ラップの要素が組み込まれているけれど、ポップスであることから外れていない。そこがNUNNUの曲の特徴であるとも思っていたので、ルーツを知って納得しました!

はるひk: そう、あくまでもポップスなんですよ! もちろん言葉も大切にしていますが、リズムを活かすために韻を踏んでいて、ラップ的なパートが組み込まれることによって曲にメリハリをつけたいという意図があります。

――韻を踏むことと言葉を大切にすることの両方を意識してリリックを書くことは難しい作業に思えるのですが、歌詞はどのように書かれていますか?

はるひk: 作詞はだいたい1日1時間、それを2日くらいで書きます。その間に1日とか2日とか歌詞を寝かせてから書き直して整えて、ということもしているので実際はもうちょっとかかっているかな。

時々なんですけど、歌詞を書いている時にトリップ状態みたいになることがあって。最初は頑張って言葉を探していたのに途中から溢れるように出てくることがあります。

ラップのセクションは韻に呼ばれて言葉が出てきたりもします。あと、韻を踏むことを意識しないで歌詞を書いていたけど、見返した時に「踏んでた!」と気づいたりもします。

――音楽以外に影響を受けた作品はありますか?

はるひk: 基本的にフィクションの中でも誰かが傷つくのを見たくないから、映画とか小説とかにあまり触れてこなかったんですが、小説では村上春樹さんの『1973年のピンボール』、舞城王太郎さんの『好き好き大好き超愛してる。』が好きです。

『1973年のピンボール』はストーリ云々よりも「この本を読んでいる状態になれることが心地いい」という気持ちになれるのでずっと持っています。小説を読んでいるというより「小説を読んでいるという時間」を味わいたいというか。

『好き好き大好き超愛してる。』は愛についての小説です。作品の冒頭文がそのままあらすじとして引用されているんですが、それがめちゃくちゃ良くて。これはNUNNUの音楽の根本にあるテーマと同じだと思っています。

あとはアニメ映画の『時をかける少女』。10代のころ仲の良かった友達二人とこの作品を宗教のように崇めていました。好きすぎて観るのがつらいくらい好きで、どのシーンがいいとかも語ることができないくらい好きです。

DVDを持っていて観ようと思えばいつでも観られるんですが、大人になった今、『時をかける少女を』観て当時みたいにときめかなかったらどうしようと思うと、怖くて観ることができないです。

新曲『ongaku』ができるまで
「切実ななにかがあって、その人にしか歌えない曲を作ること」
――YouTubeにアップされている最新曲『ongaku』についてのお話を伺いたいです。

はるひk: この曲ができたきっかけとなる出来事があって。『ongaku』を作る前、全く音楽に向かえなくなってしまった時期があったんです。

曲を作ろうとしてもボツが増えていくだけで、だんだんパソコンに向かうことすらできなくなってしまいました。16歳の頃から続けていた楽曲制作ができなくなってしまったのは、本当に今までの人生が揺らぐくらいの大きな出来事でした。

基本的に「音楽を作っていないと自分の存在価値がない」ということをいつも感じているのですが、曲ができないことによってその感じがリアルに迫ってきて、でも焦っても曲はできない。毎日少しずつしんどさが増していきました。

――その状況からどのようにして抜け出したんでしょうか?

はるひk: ある時、iPhoneの容量がいっぱいだったので入っている曲の整理をしてたんです。それで久しぶりにふくろうずの『サンライズ・サンセット』という曲を聴いたらすごく感動してしまって。ちょうど出先から自宅へ帰る時に聴いていたんですが、あまりにもよすぎて家についても椅子に座ったまま1時間くらいループ再生して聴いてしまったことがありました。

その時、心を震わせてくる音楽ってこういうものだとハッとしました。

特別なことを歌っている訳ではないのにすごくいい。音楽というものはラブソングだし、ラブソングっていいなと思った自分に気づいたんです。おれが作りたいのはその「特別なことを歌っている訳ではないのにすごくいい」と思える音楽なんだと。

想いがこもっていても具体的すぎず、切実ななにかがあって、その人にしか歌えない曲を作ること。その時期を経てようやくできた曲が『ongaku』でした。

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楽曲の制作過程と、大切にしていること
「使われすぎてありふれた表現でも」
――楽曲はどのようにしてできあがっていくのか教えてください。

はるひk: 明確に「こういう曲を作ろう」というのはないです。最初から頭に浮かんでいるものを再現していくのは飽きてしまうし、新鮮さとか驚きとかがないから。

何も考えずに機材を触ったりギターを弾いたりしているうちにフレーズやリフができてきて、だんだんどんな曲にするかがなんとなく定まってきます。でもそれも完全にイメージはしていなくて、なんとなく。今自分が作っている曲が最終的にどんな感じになるのかは見えていません。

見えていないからこそ完成するのが楽しみで、わくわくしながら作っています。そういった気持ちがないと作ることはできないです。

――歌詞を書く上で大切にしていることは何ですか?

はるひk: たとえば「君」とか「僕」って歌詞のどこにでも当てはめやすい言葉なんです。あと「愛してる」っていうのも使われすぎたありきたりな表現ですよね。

一時期は言葉を磨きたかったし、オリジナリティーを強く意識していたのでそういう簡単に当てはまる言葉を使わないようにしていたこともありましたが、今はしないです。「なんだって言えばいいじゃん!」と考えるようになりました。

使われすぎてありふれた表現でも、特定の誰かに対してという意味ではなく「愛してる」って言葉が好きだし、愛してるって気持ちが素敵だと感じていて。おれはそういった気持ちで歌われている音楽が好きなんです。だから、愛してるって歌いたかったら愛してるって歌おうと思っています。

――曲を作ることに向かえなかった時期を経て、より自然体になられたと感じますが、ご自分で意識していることはありますか?

はるひk: 以前までは作曲が終わったら「頑張ったからビールがうまいな~」と思っていたのですが、曲ができなかった期間を抜けたら、それが「今日は曲作って楽しかったからビールがうまいな~」に変わりました。これはとてもいい感情だし、大事なことだと思うので続けていきたいと思っています。

あとは他人の意見を気にして過敏になるのをやめました。「この歌詞めっちゃいいな~。でもみんなはいいって言わないだろうな~。まあ別にいいけど。わかってくれる人は友達になろう」って、今はそう思ってます。

音楽と生きていくということ
「この曲が存在していて、この曲に出会えてよかったと自分が思える曲を作りたい」
――これからの目標や課題がありましたら教えてください。

はるひk: 「死ぬまでにどのくらい音楽を理解できるか」ということがアーティストとしての課題です。音楽は複雑で、理解するには一生では足りないとは思います。でも、おれがおれである人生は一回しかない。その中で何ができるかと言われたら、本当にただ、いい曲を作りたい。これに尽きます。

この曲が存在していて、この曲に出会えてよかったと自分が思える曲を作りたいです。そして「作り手である自分がいいと思える曲」という大前提がある上で、おれの作る曲を誰かが気に入ってくれたら、それはとても嬉しいです。

――ありがとうございます。それでは最後に、リスナーに向けてメッセージをお願いします。

はるひk: 今、新しくアルバムを作ることを考えていて、それは「愛してる」っていうことがテーマになると思っています。先程も話しましたが、おれは愛してるって言葉もそうだし、その気持ち自体も、そういった気持ちで歌われる歌も大好きなんです。

現在制作中ですが、NUNNUの最高傑作になる手応えを感じています。楽しみにしていてください。

(取材/文・望月柚花)
(撮影・Yuya Ishii)


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NUNNU(ぬんぬ)

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