「米津玄師を超えてゆけ」新生代のアーティストたち

望月 柚花

望月 柚花

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米津玄師の楽曲、才能、存在がすごいのは理解できるが、米津玄師「後」のアーティストは「米津玄師っぽい」という言葉をどれだけ浴びせられるのだろうか。

今、そしてこれから出てくる楽曲制作・歌唱・演奏を主に一人で行う男性の若いアーティストは、「米津玄師っぽい」を避けて通ることは難しい、というか不可能だと感じる。

それでも、そこから自分の個としての音楽を徐々にかたちにしているアーティストはすでに何人かいて、ゼロではない。今回はそんなアーティストを5名紹介する。


秋山黄色(あきやまきいろ)

1996年生まれ。長い金髪で顔を隠し、ギターを弾き歌う。専門学校中退のフリーターであり、作詞作曲・編曲・歌唱・アートワークなど自身の活動に関わることをほぼ全て手がける。

出身は栃木県宇都宮市で、中学生の時にアニメ『けいおん!』に影響されベースを始める。その後、高校一年生の時に初めてオリジナル曲を制作した。

2018年、コンテスト「出れんの!?サマソニ!?2018」の最終選考まで勝ち残り、同年開催のSUMMER SONIC 2018に出演。フェスへの出演を皮切りに、ラジオパーソナリティー、ワンマンライブなど、活動の幅を広げている。

2018年にシングル『やさぐれカイドー』を発表。YouTubeの広告動画で流れる『やさぐれカイドー』を思わず聴いてしまうリスナーが続出した。

明らかに米津玄師が巣立っていった後の土壌で育ってきているのに、最初から秋山黄色「らしさ」のある楽曲を制作していたのがとても印象に残った記憶がある。

キタニタツヤ(きたにたつや)

1996年生まれ。ボカロP時代の名義は「こんにちは谷田さん」。個人の活動のほか、バンド・sajou no hanaのベーシストとしても活動し、他のバンドのサポートや楽曲提供など、多岐にわたり才能を発揮している。

ややダウナーな雰囲気の漂う楽曲を制作し、直接的な表現を避けているのに心に刺さる歌詞が魅力。

個人的な感想として、2018年にリリースされたアルバム『I DO(NOT) LOVE YOU.』では真新しさや強烈な個性というものはあまり感じなかったが、2019年にリリースされたシングル『Sad Girl』でその個性が花開いたように感じた。

そして同年リリースのシングル『クラブ・アンリアリティ』は『Sad Girl』からの流れを汲み、よりポップな要素を取り入れている。ポップさが足され、聴きやすくなっているのに、聴いたら一発でキタニタツヤの曲だとわかる。次にどんな曲ができるのかが予想できずわくわくする、これからも追いかけたいアーティストだ。

神山羊(かみやまよう)

2014年、初音ミクを使用した楽曲『退紅トレイン』を投稿し、「有機酸」名義でボカロPとしてデビュー。2018年にシンガーソングライター・神山羊としての活動を始めること、そして新曲『YELLOW』を同時に発表した。

ずっと真夜中でいいのに。の楽曲『君がいて水になる』ではアレンジャーとして参加し、DAOKOの『涙は雨粒』では作編曲、そして『24h feat.神山羊』では楽曲提供と歌唱で参加している。また、2019年にはレコメンド新人アーティストとして「SPACE SHOWER RETSUDEN NEW FORCE ARTIST」に選出され、リスナーの期待値が高まっている。

シングル『CUT』を聴くまでは前述のキタニタツヤ同様、すごく印象に残る!という感じではなかったが、『CUT』を初めて聴いた時は曲の構成や音づかい、曲の音にはまるカット割りのMVに思わずひきこまれてしまった。

神山羊をあまり知らない・有機酸しか知らない、という人にはぜひ神山羊自身が出演する『CUT』のMVから見てほしい。

須田景凪(すだけいな)

ドラマーとしての道を志して音大に進学するが、プレイヤーとしての活動に限界を感じ、ドラムの機材を全て売り払いパソコンとギターを買う。そこから作詞作曲を始め、ボカロP「バルーン」として2013年から活動を開始している。

2017年から須田景凪名義でシンガーソングライターとして活動することを発表し、翌年2018年にはファーストアルバム『Quote』をリリースした。2019年には映画やアニメの主題歌を手がけるなど、精力的に活動している。

そんな須田景凪の楽曲『パレイドリア』のMVは、ダンサー・水村里奈による曲のテンポ感に合ったコンテンポラリーダンスとカメラワークが見ていて気持ちが良い映像だ。

Eve(いぶ)

明らかに他のアーティストには表現できない世界観を持ち、ざっくりと米津玄師「後」としてくくるのは不適切であるような気がしてしまうのがEveだ。

2009年に歌い手として活動を開始し、バンド活動、ボカロPなどを経て2017年にアルバム『文化』をリリースする。アルバム『文化』の収録曲『ドラマツルギー』は瞬く間にヒットし、YouTubeでの再生回数は動画のアップロードから約2年ほど経つ2019年9月現在で4000万回再生を突破している。

2019年にアルバム『おとぎ』をリリースした際には、「発売記念イベント」と称して日本各地でのサイン会が行われた。なお、出身地・生年などは公開しておらず、Eve自身の顔もライブやイベント以外では見ることがない。

Eve本人が歌う楽曲ではボーカロイド全盛期の世界観を綺麗に残しつつ、その上でそれをうまく昇華している。MVなども凝っており、ひとつの作品として単純に完成度が高い。特に『トーキョーゲットー』のMVは様々な考察ができる映像作品となっていて、何度見ても飽きることがないのでおすすめだ。


以上紹介した5名のアーティストは、それぞれ「米津玄師っぽい」という言葉を浴びせられても諦めたりそれに甘んじたりせず、迷って苦戦して試して失敗して、自分らしい音楽を確立してきている人たちだと思う。

そして、それぞれの楽曲を聴くと、その「自分らしい音楽」を心から楽しんでいるように聴こえる。これからどんな音楽を作ってくれるのか、まだまだ注目していたい。

(文・望月柚花)