【ヂラフアワード2023】音楽ライターが選ぶ2023年マイベスト曲

ヂラフマガジン編集部

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パンデミックが落ち着き、ライブシーンにも以前の活気が戻ってきた2023年。インディーズを中心に「あたらしい音楽」を発掘し続けているヂラフライターは、どんな楽曲に心を動かされてきたのか。

この1年を振り返ってもっとも印象に残っている「マイベスト曲」を1曲だけ選ぶという、音楽好きにとっては難題すぎるこの年末恒例企画。

音楽の趣味嗜好も年代も異なるライター7名が、さまざまな視点でセレクトした2023年の楽曲たちを選曲理由とともにお届けする。


やがて失うすべてのものを大切に抱えて生きること

『すべてわすれたら』
抄語
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『すべてわすれたら』は、2017年の「Grand Boost Championship」で日本チャンピオンに輝くなど、華やかな経歴と確かな技術を持つ日本のヒューマンビートボクサー・SHOW-GO(しょうご)が、別名義・抄語(しょうご)として2023年5月にリリースした楽曲。

この曲には劇的な展開はなく、ひたすら淡々としているのに、足りないものがない。足し算でも掛け算でもなく、考え抜いた引き算でつくられた、洗練された美しさのある1曲になっているのだ。この引き算の美しさは、抄語の個人的な美意識や死生観からきているのではないかと思う。

YouTubeなどで本人を見ていると、和装を取り入れたスタイリッシュな私服が印象的で、彼の日本文化への深い興味関心がうかがえる。(なお抄語は大の京都好きとしても知られ、2021年に生まれ育った北海道から京都へと移住している)

「無常」「儚さ」に美しさを見出した『すべてわすれたら』は非常に日本的で、それなのに古臭くなく、懐古的でもなく、現代を生きる私たちにそっと寄り添ってくれるのだ。

いつか目覚めない朝が来て、この世から存在が消え、すべてが無くなり、すべてを失ったとしても、そこにはきっと何かが残る。それは目に見えるものかもしれないし、見えないものかもしれない。

誰にでも平等に訪れる「いつか」と、その先に伸びていくものをじっと見つめる、不思議なしなやかさのある楽曲として、ずっと心に残っている。

(文・望月柚花)

唯一無二のサウンドを生み出し続けるWRENCHの最新シングル

『MOONSHOT』
WRENCH
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2023年に発表された音楽作品の中で、ターンテーブルに乗せた回数が一番多いレコードは、WRENCHの両A面シングル『Breaking Man / MOONSHOT』。2020年よりツインドラムの5人編成で活動するようになった彼らが、現メンバーで初めて制作した音源となる。

「Breaking Man」が6分21秒で「MOONSHOT」が7分18秒。短い曲がもてはやされる昨今の流行りなんて眼中なし。彼らには既存の曲と似かよったものを作るという発想がない。正真正銘、唯一無二のサウンドを生み出している。

今年はWRENCHのライブを6回観たが「Breaking Man」と「MOONSHOT」は毎回演奏された。ちなみに、私が今年最もライブを観に行ったバンドはWRENCH。つまり「Breaking Man」と「MOONSHOT」は、2023年に生で聴いた回数が最も多い曲でもある。

いずれも甲乙つけがたいが、MVが秀逸な「MOONSHOT」を今年のマイベスト曲に選出したい。AIを使用せず、素材を集めて切り貼りする手法によって制作されたコラージュアートは、ベーシストの松田知大によるもの(監督は三ツ井春伸)。日本におけるVJの先駆者である宇川直宏も絶賛したMVをご覧いただきたい。

変拍子でありながらキャッチーで、現時点での最新アルバム『weak』の音楽性をさらに深化させた「MOONSHOT」。日々、新しい音楽を求めているリスナーはお試しあれ。

願わくは、ぜひライブに足を運んでほしい。結成30年を超えた今なお、WRENCHはとどまることなく進化を続けている。

(文・五辺宏明)

これが本当の「エモい」ハードコアだ!

『わたしは拒絶する / I Refuse』
春ねむり
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春ねむりは、横浜出身のシンガー・ソングライター/ポエトリーラッパーでありながら、プロデューサーとしても活動している。

全楽曲の作詞・作曲・編曲まで担当し、2018年4月には1stフルアルバム『春と修羅』をリリース。現在では日本だけではなくアメリカでも評価されており、アメリカ最大の音楽評価サイト「RATE YOUR MUSIC」による2018年のランキングでは27位にランクイン。

そんな春ねむりが2023年9月29日にリリースした『わたしは拒絶する / I Refuse』が最高にエモくカッコイイ曲になっている。歌詞や曲調からは、ポスト・ハードコアバンドのenvyのような雰囲気を感じた。

Aメロは、語りかけるように、ささやくように歌いあげ、背筋がゾクっとするような不気味ささえ感じさせる。そして、サビの前〈わたしは拒絶する〉の一言で一気にハードコア色に。曲の後半では、か細い声で囁いていた本人だとは思えないほどのシャウトで、春ねむりらしいポスト・ハードコアな世界を作り上げる。

意味の深い歌詞・静かな曲調からハードコア色まで持っていくストーリーなど、何度聴いても癖になる楽曲だ。この世界観は、一度ハマったら抜け出せない。

(文・名城政也)

「オシャレなロック」は次のステージへ

『drive』
G over
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2021年に突如現れた、正体不明のロックバンドG over。姿を見せないスタイルで、積極的なリリースやMVを中心にリスナーを拡大しました。

その楽曲はどれもクールで色気もあり、時折見せる狂気や純真さがそれを引き立てます。クオリティの高い表現力も話題でした。

でもまぁ2021年ってまだまだコロナ禍と呼ばれる状態だったし、こういったネット中心に活動するアーティストは多く、どこで差を付けるねんといった状況だったんですよね。

その群雄割拠から抜け出したのがこの曲。

しっかり付けた地力があるからこそできる脱力的な歌い方と、小気味よくも地を這う「すっきりディープ」なサウンドに、G overの強い個性を感じました。

加えて初の本人出演MVでの引き込むようなダンス、あとメンバー4人の仲の良さも感じて、そこも追い風になったと思います。

個人的にこの曲のヒットは、コロナ禍で生まれた音楽シーンが次に行くきっかけになった曲な気もするんですよね。

そして11月には初のリアルライブも開催。来年はさらに多くの地での活躍を夢見ていいのかな!?

(文・遊津場)

「非行」とは「やりたくないことをやらない決意をすること」

『非行少女』
UNFAIR RULE
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ありのままの想いを歌詞に乗せ、情熱的な歌声と安定感のあるサウンドでリスナーの心を掴み続ける岡山発3ピースロックバンドUNFAIR RULE。今年4月に初の全国流通盤アルバム『いつものこと』を、そして7月にはデジタルシングル『if』をリリース。今日も全国のライブハウスで最高を更新し続けている。

2023年のマイベスト曲は、そんなUNFAIR RULEの初の全国流通盤『いつものこと』から「非行少女」をセレクトする。

「非行少女」は過去にUNFAIR RULEの特集記事にまとめさせていただいたとても思い入れのある曲で、Vo. 山本珠羽が幼い頃から抱いていた夢を諦めて、音楽という道へ進もうとする想いがありありと描き出されている楽曲だ。

この楽曲の良さはなんといっても歌詞。山本が描き出す歌詞は、自分の想いをそのまま外に出しているような、真っ直ぐでとても人間らしい感情が込められているからだ。全楽曲でそのような感情を歌っているが、特に「非行少女」はそれが顕著だと感じている。

今後、人生で決断の機会が多くあるだろう。そのような時は「その時やりたいことを、必死こいてやり抜いていこうと思っています」という山本の言葉を思い出して、必死で生きられる選択を、やりたくないことを辞める決意をしてほしい。

そして、その選択をした後に「非行少女」を聞くと、また違った印象を受けるのではないだろうか。

(文・竹内将真)

余白のあるレトロな音楽にストレートな歌詞を載せて、キュッと心を掴む1曲

『貴方の恋人になりたい』
チョーキューメイ
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動画を中心としたSNSでも大きく話題となり、その透明感のある歌声と音楽性で確実にファンを増やしたチョーキューメイ。

『貴方の恋人になりたい』というタイトル同様、ストレートに気持ちを歌いあげたその歌詞と、歌詞の直球さとは対照的に“間”や“余白”を活かしたレトロポップな曲調が組み合わさり、聴いた人に「恋」や「憧れ」といった脆く激しい感情を思い起こさせるような曲となっている。

〈貴方のせいです 素敵な横顔のせいで 話しかけることができない でも〉

前半の少し息切れをしたような歌い方が高鳴る鼓動や緊張感を醸し出し、〈でも〉の部分でスンとした落ち着きを取り戻す。この不安定さと、相反するような意志の強さのグラグラした感じがまさに「恋に落ちている」ことを表現しているかのようである。

キャッチーなメロディとストレートな歌詞、昨今のレトロ音楽ブームもあいまって、バズるべくしてバズった1曲であると言える。

チョーキューメイは他にもアニメの主題歌やドラマの主題歌を担当しており、その度に作品への解像度が高い曲をリリースし続けている。気になる人はぜひチェックしてみてほしい。

(文・宮本デン)

UKインディー界の新星が解き放つカオス

『King of the Slugs』
Fat Dog
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ロンドンの有名インディーズレーベル「ドミノ・レコーズ」から2023年にデビューしたバンドの、ぶっ飛んだデビュー曲に脳が侵され続けている。

尺は、近年のトレンドをガン無視した7分。アラビックスケールっぽいリフのダンスビートが2分以上続き、まずここで中毒になる。そのあと、いくどもの激しいテンポチェンジを経て、最終的にはゴシックメタル風の壮大なサウンドへ。さながら4部構成の大作ミュージカルを観た気分だ。

歌詞もMVも凡人のわたしには理解できない。slugは「ナメクジ」とスラングの「のろま」のダブルミーニングなんだろうか。ネイティブのかた、どうか教えてください。

これまでずっと音楽には情緒を求めて生きてきたが、最近は年齢を重ねたせいか、ちょっとやそっとでは心が揺さぶられない。理解も共感もできないけれど血が騒いでしかたない、そんな音楽がいまの自分にはフィットするのかもしれない。

なお、ライブフリークのわたしとしては、Fat DogのOfficial Instagramにアップされるライブ動画もぜひ観てほしい。フロントマンのジョー・ラブ(Vo./Gt.)をはじめメンバーの爆発力、モッシュもステダイもやまないオーディエンスの熱狂。曲にあわせて大合唱するシーンなんか、もはや宗教的ともいえる。

2023年10〜11月には、キャパ800人のライブハウス・SCALA(いつか行ってみたい!)での公演を皮切りにUKツアーも完遂。2024年は世界各地のイベントに出演する模様。リリース音源はいまだ1曲のままだが、今後のリリース、そして来日ライブを心から待ちわびたい。

ジョーの”WOOF WOOF WOOF!”を生で聴ける日は、果たして来るのだろうか。

(文・三橋温子)

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