【ヂラフアワード2022】音楽ライターが選ぶ2022年マイベスト曲

ヂラフマガジン編集部

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2022年も数多くの音楽が生まれ、世に放たれた。「あたらしい音楽」に常にアンテナを張り発掘してきたヂラフライターの心には、いま、どんな楽曲が刻まれているだろうか。

音楽の趣味嗜好も年代も異なるライター8名が、この1年を振り返ってもっとも印象に残っている「マイベスト曲」を選曲。さまざまな視点でセレクトされた2022年の楽曲たちを、選曲理由とともにお届けする。

※掲載順は、編集長による「あみだくじ」で公正に決定しました。


満たされない空白と焦燥、鈍い痛みの先にあるもの

『Rebirth』
izolma
youtube動画


izolma(イゾルマ)は2019年にSoundCloudに突然現れた日本のラッパー。切実なリリックと感情の重さに潰されることのない歌声、独特のメロディーセンスで異彩を放ち、若い世代を中心に注目を集めている。

2020年6月に1stシングル『RUNNING TOKYO』、同年8月には1st EP『Neon Sprint』を発表。今回紹介する「Rebirth」は2ndシングルとして2022年10月にリリースされた楽曲となっている。

「Rebirth」という曲に漂うのは、身を切るような焦燥感と虚無感、それでも光のあるほうを見つめようとする強い眼差しだった。

生まれた瞬間「何でもできるよ」「何にでもなれるよ」と言って渡された真っ白な紙には、まだ何も描けていない。これから何かを描ける気もしない。全てを諦めたら楽になることは分かっているけれど、それでも捨てきれないことがあるし、どうしてもやめられないことがある。

この楽曲はタイトルも秀逸で、Reverse(リバース / 反転するの意)と同音でRe+birth(リ・バース)と表し、「再び生まれる」という意味を持たせているのだと推測する。

私たちは、生きている限り何度でも生まれることができる。空白と痛みを抱えながらも、いつか光の当たる場所へ行けることを信じてしまうような、そんな1曲として心の中で響き続けている。

(文・望月柚花)

元mouse on the keysの清田敦によるソロプロジェクト第一弾・A面

『Block House』
TONKOU

この時期になると、さまざまな媒体で発表される年間ベスト。定番企画だが、これがなかなか難しい。スパッと選べるはずもなく、なんとか完成させたランキングを見直して「やはり○○を入れておくべきだった……」と白紙に戻すことも多々ある。ましてや今回は1曲のみ。難航するに決まっている。

悩みぬいた末に選んだのは、TONKOUの「Block House」。

TONKOUは、2021年5月にmouse on the keysを脱退した清田敦(きよたあつし)のソロプロジェクトで、「Block House」は2022年1月に発売された『TONKOU EP』という7インチ・レコードのA面に収録されている(B面は「In the Desert」)。

実は『TONKOU EP』が配信でリリースされたのは、2021年12月。当初は7インチも同時発売される予定だったが、レコードプレスメーカーの都合により延期され、ひと月ほど遅れて店頭に並んだ。

厳密にいえば2021年発表作品ということになるが、私にとっては2022年最も多く針を落とした新譜のレコード。ということで、編集長に懇願してこの曲を選出させていただいた。個人的に音楽を楽しむ手段は、レコードとライブなので。

清田はすでにTONKOU名義で二度ライブを行っているが、両日とも足を運べなかった。デトロイトテクノを彷彿させる名曲「Block House」をいつか生で聴いてみたい。

(文・五辺宏明)

関西の期待の若手バンド4組によるコラボ曲!

『サカサマデイドリーム』
電波無限大

2022年って、コラボ曲がすごく多かった気がします。岡崎体育とヤバイTシャツ屋さん、FLOWとORANGE RANGE、WANIMAとMONGOL800……。

こういった豪華なメジャーアーティストのコラボだけでなく、インディーズアーティスト同士も結構あったような気がして、その中のベストワンとして挙げたいのが、この『サカサマデイドリーム』です。

電波無限大を形成しているのは、the paddles、CAT ATE HOTDOGS、Re:name、Bye-Bye-Handの方程式という、関西出身の若手バンド4組です。元々4組の対バンがあって、大阪のラジオ番組FM802『RADIO∞INFINITY』の企画として生まれました。

まず、いち関西のライブハウスリスナーとしてこの同世代4組のコラボを知った時、「超嬉しい!」という気持ちと、「え、バンド4組でコラボってどうするの?」という気持ちでした。

ただ、出来上がった曲は想像を遥かに超える完成度。強固かつ軽快なサウンドの上に、各々のボーカルが歌うたびにそのバンドの空気が重なっていくのだけど、重なれば重なるほど強く美しく、そして何より楽しく! なっていきます。そして私のような関西のライブシーンが好きな人なら思わず「!!」となる歌詞があり、さらに楽しさが増えます。

この電波無限大で、大阪の巨大年末フェス『RADIO CRAZY』にも出演! どんなライブになるのか……。

もし、まず1組1曲ずつやるなら、その時はバチバチに。そして最後にこの曲を披露した時、どのステージにも負けない最高の多幸感に包まれるでしょう。関西若手の底力を是非。

(文・遊津場)

幅広い世代に聴いてほしい、明るくてテクニカルな飽きの来ない楽曲

『Punch!』
World Maps
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World Mapsは、ジブリやディズニー、JazzにポップスにFunkにR&Bなど、幅広い音楽が好きなメンバーが集まったインストゥルメンタルバンドです。2019年から無期限活動休止としていましたが、休止中にも音源をリリースしており、2022年12月には復活ライブを開催!

そんなWorld Mapsのなかから、2022年のおすすめ楽曲を挙げるなら『Punch!』。曲の全体構成◎、頭への残りやすさ◎、MVの面白さ◎、テクニック◎の100点満点な楽曲です。ポップな楽曲と可愛らしいMVで、曲も映像も頭から離れません。

曲構成自体はリフの繰り返しの多い単調な作りではあるものの、「こんなにも飽きさせてくれないか!」と思うほど、一つひとつの楽器レベルが高いです!

とくにおすすめしたいポイントは、イントロ。ピアノ単体で始まるイントロは、とても明るくポップ。「子ども向けの楽曲かな?」と思ってしまうほどポップです。しかし、後から入ってくるドラムの技術が高く「ここからどんな楽曲になっていくの?」と引きつけられます。

その後の展開も、イントロの期待を裏切らず、各楽器の技術のオンパレード。彼らの技術レベルの高さに感心します。ライブでは必ず盛り上がる1曲になるでしょう!

(文・名城政也)

レトロでポップな彼女はスクリーンの“こちら側”にいる

『Movies』
乃紫
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レトロでポップなキラーチューンを感性の赴くままに紡ぎ続ける乃紫(Noa)。彼女の曲はどれも独特なリズム感を持ち、サラリと聴けるのに耳に残りやすい特徴を持っている。どの曲も一度聴けば「彼女をついに見つけてしまった」という運命的な感覚を持つだろう。

この曲にはいくつもの仕掛けがある。歌詞は往年の名作映画を彷彿とさせるものとなっており、MVは映画のようにレターボックスが表示されている。そのため、字幕をオンにすればまるで洋画を見ているような映像になるのだ。このように曲全体を通して「映画」を意識した作りとなっているが、彼女が描くのはスクリーンのむこう側”だけの話ではない。この曲には、もう一つの楽しみ方がある。

YouTubeの概要欄でWe are all in the movies.”と彼女が綴っているように、彼女はスクリーンのこちら側”を意識し、この世界、ひいては人生そのものが映画であるとも言っているのだ。その認識を持って歌詞を噛み締めると、また違った印象を受けるのではないだろうか。

次に来るアーティストとして注目されている彼女。2023年にはどのように躍進していくのだろうか。そんな彼女のお気に入りの1曲を、2022年のマイベスト曲として紹介させていただきたい。

(文・宮本デン)

2022年、新たな音楽の扉を開いてくれた1曲

『Taxi Driver』
LUCY IN THE ROOM

自分好みの音楽を新たに探していたときに出会ったのがLUCY IN THE ROOM。元々、ジャズやソウルなどのメロディーが流れると身体が無意識に反応してしまうのだが、『Taxi Driver』はそんなわたしのなかに当たり前のようにグググっと入ってきたのである。

始まりは少し疾走感のあるサウンドだが、ピアノが入ることでゆったりとした雰囲気を醸し出している。徐々にテンポアップしていき、サビ前でKoheiの声がひときわ目立つ演出も最高。ピアノがKoheiの声をうまく引き立ててくれていると感じる。特にサビでは、夜の街中を走るタクシーの中にいるような気持ちになれること間違いなし。

ジャンルとしてはシティロックバンドとして活動する彼ら。ただ、枠にとらわれずにジャズやソウル 、ポップな楽曲まで幅広く展開しているので、曲を聴くたびに違う顔を見せてくれるのも魅力のひとつ。

『Taxi Driver』を知ってからはいつも聴くお気に入りリストのなかに入れて、外出時にはイヤホンから流れる心地良いサウンドにうっとり。「あれ、何かわたしおしゃれなんじゃない?」と錯覚し、聴いていないときでも気づけば脳内で流れているほど。すっかりトリコだ。

1人のファンとして多くの人に聴いてほしいと純粋に思える楽曲『Taxi Driver』。たった1曲でここまでの気持ちにさせてくれるLUCY IN THE ROOMの今後に期待!

(文・あらたいと)

今年の夏を思い出し、来年の夏へ思いを馳せた1曲

『夏がすみ、』
soyouth
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私にとってこの1年は「自分とは何か」という普遍的な問いに対して向き合い続けていた1年だったと思う。

自分はどうありたいのか。どのような人間なのか。苦しみながらもそのような問いから目を逸らさずに答えを探し求めてきた。その中でも、歌詞からは多くの断片を受け取った。何度も何度も聴き返して歌詞を解釈し、自分を相対的に見られたからとても救われた。

音楽は苦しみの中に差す一筋の光なのだろうなと再認識をした1年でもあった。

さて、私の個人的な2022年のベストソングはsoyouthの『夏がすみ、』である。以前の記事で少し触れた楽曲でもあるので、そちらにも目を通していただきたい。

この曲を一言で表すのなら「残夏」だろう。疾走感のある夏らしい軽やかなサウンド、その上に甘酸っぱい歌詞が乗ったこの楽曲は、どこか終わりゆく夏の寂しさを感じさせるからだ。歌詞の中にも、〈このままずっと夏でいい〉のように、夏が終わって欲しくないという思いが散りばめられている。

私も同じような思いを抱きながら、夏が終わっていく頃に何度も聴いており、とても思い入れがある楽曲であったため選ばせていただいた。

来年はどんな夏になるだろうか。誰とどのような時間を過ごしているのだろうか。そんなことを考えることが今は楽しい。

(文・竹内将真)

すべてを忘れてhypeな夜へ

『ASIBINA』
Mellow Youth

湿度の高いアルペジオの調べが耳を撫でる。速くなる鼓動にドラムとベースが呼応する。わずか数小節で、目の前は夜の街だ。これから始まるであろう華やかで刺激的な夜に、胸の高鳴りを抑えられない。

2022年4月にリリースされた待望の1stフルアルバム『Flash Night』。その幕開けを飾る「ASIBINA」は、シティ・ポップテイストが前面に押し出されたアッパーなナンバー。3月に渋谷で開催されたSYNCHRONICITY ’22のステージで初めて披露され、オーディエンスの熱を急上昇させることに成功していた。

2019年ごろからMellow Youthに注目しているが、この楽曲の成熟度には驚いた。

BPMでいえばライブチューンの「Muzzle」や「APEX」よりやや遅いのだが、終始軽快に踊るベースや流れるギター、サビのバックで刻まれるラテン調のリズム、計算された言葉選びなどがそうは感じさせない。彼ららしいメロウなムードを残しながらも、夜の街の疾走感を巧みに演出している。

個人的には、重低音に強いオーディオで、Ba.肥田野の遊ぶような小気味いいベースラインを際立たせて聴くのが好み。

タイトルの「ASIBINA」は、Gt./Vo.伊佐の地元である沖縄の言葉「あしびなー(遊び庭・遊び場)」に由来しているのだろうか。未だ新型ウイルスの混乱が残る2022年、彼らが魅せた終わらぬ夜はわたしの心をヴィヴィッドに染めあげてくれた。

(文・三橋温子)