夏の終わりに聴きたい! 戻れない夏を歌ったインディーズバンドの楽曲5選

竹内 将真

竹内 将真

「夏の終わりに聴きたい! 戻れない夏を歌ったインディーズバンドの楽曲5選」のアイキャッチ画像

「今年も夏が終わる」

どうして人は夏にだけ「終わり」を実感するのだろうか。春の終わり、秋の終わり、冬の終わりとはあまり言わない。それなのにもかかわらずどうして夏だけ、「夏の終わり」や「夏が終わる」と言うのだろうか。

夏から秋へ向かうマジックアワーのような時期になると、私たちは夏の終わりを意識し、徐々に現実に戻されていく。その終わりゆく日々の中で、この夏の思い出を整理しながら、1つ1つに意味を見出していくのである。

今回は、そんな夏の終わりに聴きたいインディーズバンドを紹介したい。今年の夏はどのような夏だっただろうか。そんなことを思い出しながら聴いてほしいバンドばかりだ。


夏の刹那さを感じさせる切ない歌詞

憧憬と傘

憧憬と傘(しょうけいとかさ)は、あまのみずほ(Vo./Gt.)、温乃歌(Gt.)、ひろと(Ba.)、うえはら(Dr.)からなる4ピースバンド。2021年に結成。広島発。

2022年6月19日に1st Ep.『petal』をリリース。シンプルかつ豊かな感性を感じさせる歌詞で多くのリスナーを魅了し続けている。Eggsが選曲しているプレイリスト「J ROCK New Star」に選出されている。

『季夏』
憧憬と傘
youtube動画


季夏とは夏の最後の1ヶ月のことだ。夏から秋へ向かいつつあるマジックアワーのような期間だ。夏の終わりはどこか寂しさや虚しさを感じてしまう期間でもある。私たちはそのような中で、思い出を整理しながら、終わりの実感を手にしていくのである。

秋になって夏を思い出した時、あなたはどのような場面を思い浮かべるだろうか。誰と、どこで、何をしていただろうか。この楽曲を聴くとそんな消えかけている夏の思い出を想起させられる。

会いたくなって駆けつけた経験はないだろうか

Blue Mash

Blue Mash(ブルーマッシュ)は、優斗(Gt./Vo.)、西川源太(Gt.)、荒川ソラ(Ba.)、スギヤマリョーマ(Dr.)からなる4ピースバンド。

2017年に結成してから大阪寝屋川を中心にライブ活動を行っている。2019年に開催された、総合学園ヒューマンアカデミーが主催するBREAK OF LIMIT vol.70でグランプリ、十代白書2020で大阪キタエリア準グランプリに輝くものの、その後活動を休止。2021年1月から活動を再開し、2021年12月4日に会場限定Demo『青春のすべて e.p.』をリリースした。

『海岸線』
Blue Mash
youtube動画


誰もが1度は、無性に会いたくなって駆けつけた経験があるのではないだろうか。「ただ会いたかったから」、それだけの理由で会いに行った経験が。顔を見るまでの胸の高鳴りや、顔を見た時の幸福感はどれだけ歳を重ねても変わることはない。「会いたい」と思ったその瞬間が、会いに行くタイミングなのだと思う。駆けつけたことはいつか良い思い出になる。数年後酒を交わしながら、この時の思い出を語り合いたい。

不器用でも、生き急いでいてもいい。その時の感情に従って生きていきたいと思わせられる曲。

夏の苦い経験を綴った等身大の歌詞

MOCKEN

MOCKEN(モッケン)は、永野元大(Vo./Gt.)、リュウノスケ(Gt.)、杉山涼(Ba.)、宇佐美大二(Dr.)の4人からなるロックバンド。2019年10月より埼玉県越谷市を中心に活動を開始。

2021年5月に1st Ep.となる『Goodnight’s Sleep』をリリースし、6月にはレコ発企画を渋谷と地元である越谷で開催している。

『まほろば』
MOCKEN

春だけでなく夏もまた、出会いと別れの季節である。新しく出会う人もいれば、寄り添った人と別れる人もいる。一瞬で過ぎ去っていく夏の間に多くの喜びと悲しみが混在しているのだ。しかし、両極端なそれらの感情は、私たちを一回り大きく成長させてくれるものなのである。あの出会いが、あの別れがあったから人として成長できた、そんな経験はあなたにもないだろうか。

楽曲全体を通して、別離の悔しさを受け入れたくともできないもどかしさ、前進したくてもできない葛藤を感じさせてくれる。

何かに打ち込んだ夏がいつかあなたの糧になる

Roomania

Roomania(ルーマニア)はhiro(Vo.)、ryosuke(Gt.)、fuya(Ba.)、andy(Dr.)の4人からなるギターポップバンドで、「ちょっと渋くて爽やかなギターポップ」をテーマに楽曲を作成している。

2018年12月に結成し、山陰地方を拠点に活動をしている。2021年に発表した配信限定シングル「夏空」がテレビ神奈川の「高校野球ニュース」のテーマソングに抜擢。2022年3月には1stアルバム『irodori』をリリースした。

『夏空』
Roomania
youtube動画


将来の夢や目標を追いかけて、がむしゃらに打ち込んだ期間はあなたにもあるのではないだろうか。特に夏はまとまった時間が取れる期間だ。そのため勉強や趣味など様々なことに時間を注ぎ込める。結果はどうであれ、努力したという経験がいつか自分の糧になるはずだ。

努力している人の背中をそっと押す歌詞と、泡沫のような淡いサウンドが多くの人の心に響く楽曲だと感じる。

戻りたくても、今年の夏にはもう戻れない

soyouth

soyouth(ソユース)はふなしゅー(Gt./Vo.)、伊藤丈一郎(Ba.)、チャン・シンゴ(Dr.)からなるオルタナティブポップバンド。

ハヌマーンやナンバーガール、チョモランマトマトをルーツにしたポップなサウンドがリスナーを魅了する。2022年5月に1st Ep.『生活圏より』をリリース。

『夏がすみ、』
soyouth
youtube動画


学生を見ると、眩しさを感じると同時にもうあの頃には戻れないことを実感する。勇気を出して誘った夏祭りも、部活に打ち込んだ日々も、もう全てが過去で戻れない時間なのだ。あの頃の日々と同じように、今年の夏にも戻ることはできない。そのような実感を私たちは「夏が過ぎていく」と言うのだろうか。

この楽曲を聴くと、戻れない日々への恋しさと、現実の日々の刹那さを感じさせられる。



今年の夏は戻ってこない。しかし、戻りたいと思ってしまうのはなぜだろうか。たった数ヶ月の短い期間に、なぜ私たちは惹きつけられるのだろうか。

その理由は、濃密な時間は一瞬で終わってしまうためではないだろうか。夏は短い期間にもかかわらず、濃密な時間でもある。会いたくなって駆けつけた時間や出会いや別れを経験した時間、ひとつのことに打ち込んだ時間、それぞれの時間が非常に濃密な時間なのだ。今回紹介したアーティストが歌っているのはそのような時間である。

しかし、濃密な時間は一瞬で終わってしまうのである。時間が過ぎる速度はいつもと同じにもかかわらず、濃密さゆえに一瞬に感じてしまうのである。そのため私たちは、一瞬で終わってしまった夏へ戻りたいと思い、思いを馳せるのであろう。

今回は「夏の終わりに聴きたい」というテーマで、5組のアーティストと彼らの楽曲を紹介した。もう二度と戻ってこない夏は、あなたの心の中で生き続けている。この記事で紹介した楽曲が、今年の夏を思い出すきっかけになってほしい。

来年の夏はどのような夏になるだろう。どのような夏にしたいだろうか。

(文・竹内将真)