【映画『BLUE GIANT』からジャズの世界へ】劇場をライブ会場に変貌させる上原ひろみ、石若駿、馬場智章の名盤を紹介!

五辺 宏明

五辺 宏明

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現在、大ヒットを記録中の映画『BLUE GIANT(ブルージャイアント)』(原作・石塚真一、監督・立川譲)。

シリーズ累計1000万部を越える人気漫画をアニメ化した本作の題材はジャズ。主人公の宮本大(ミヤモトダイ)が、沢辺雪祈(サワベユキノリ)、玉田俊二(タマダシュンジ)と結成した「JASS」のライブシーンが称賛されている。

それもそのはず。登場人物の声は俳優(山田裕貴、間宮祥太朗、岡山天音)が演じているが、演奏パートは一流ジャズミュージシャンが担当しているのだから。

当記事では、ジャズになじみの薄い映画ファンをも虜にする『BLUE GIANT』サウンドを熱演した3人の凄腕ミュージシャン、上原ひろみ、石若駿、馬場智章の作品や関連盤を紹介する。


『BLUE GIANT』オリジナル・サウンドトラック

映画『BLUE GIANT』の音楽を担当したのは、ジャズピアニストの上原ひろみ。

彼女が書き下ろしたJASSの楽曲やエンドロール曲、劇伴を収録したサウンドトラック・アルバムも好評で、2023年4月19日には2枚組のアナログレコードも発売される。

注目はやはり、上原(ピアノ)、石若駿(ドラム)、馬場智章(テナーサックス)が演奏したJASSのオリジナル楽曲「N.E.W.」「WE WILL」「FIRST NOTE」。10代のミュージシャンを演じているので、当然ながら彼ら本来のプレイスタイルとは異なり、事実、監督からの「もっと下手に演奏してくれ」という指示に石若が苦戦したという。それでもなお、多くの映画ファンや音楽ファンが、熱量の高いJASSのサウンドに魅了されるはずだ。

『BLUE GIANT』オリジナル・サウンドトラック
上原ひろみ

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JASSのサウンドを演じた凄腕ジャズミュージシャン

“音が聞こえてくる漫画”と評される『BLUE GIANT』。読者の脳内で鳴り響くサウンドを再現するために、3人の凄腕ミュージシャンが集結した。

Piano : HIROMI UEHARA
– 上原ひろみ –

劇中音楽を手がけた上原ひろみは、沢辺雪祈のピアノ演奏も担当。

1999年にボストンの名門バークリー音楽大学に留学した上原は、在学中に発表した1stアルバム『Another Mind』(2003年)で世界デビューを果たす。

スーパーベーシストのスタンリー・クラークが2010年に発表した『THE STANLEY CLARKE BAND』に4曲(+日本盤ボーナストラック1曲)参加。同作は第53回グラミー賞においてベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバムを受賞している。

2016年にリリースした『SPARK』で全米ビルボード・ジャズ総合チャート1位を獲得した世界的ピアニスト。

推薦盤①
THE STANLEY CLARKE TRIO WITH HIROMI & LENNY WHITE
『JAZZ IN THE GARDEN』 (2009)

リターン・トゥ・フォーエヴァーなどの活躍で知られるスタンリー・クラーク(ベース)、レニー・ホワイト(ドラム)とのトリオ編成で録音された『JAZZ IN THE GARDEN』。

デビュー以来、ジャズの枠を超えた作品を制作してきた上原が、初めて発表したストレートなアコースティックジャズ・アルバムということで、大きな話題を呼んだ。

翌年リリースされたグラミー受賞作『THE STANLEY CLARKE BAND』がエレクトリックな作品(上原はアコースティックピアノでの参加)だったこともあり、ジャズファンから人気の高いアルバムで、限定発売されたアナログレコードは高値で取引されている。

「さくらさくら」やレッド・ホット・チリ・ペッパーズ「Under the Bridge」のカバーも本作の聴きどころ。

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推薦盤②
HIROMI THE TRIO PROJECT FEAT. ANTHONY JACKSON & SIMON PHILLIPS
『ALIVE』 (2014)

アンソニー・ジャクソン(ベース)、サイモン・フィリップス(ドラム)と結成したザ・トリオ・プロジェクトが、2014年に発表した3枚目のスタジオアルバム『ALIVE』。

ソウルやフュージョンの名盤に数多く参加するベーシストと、ロック界の重鎮ドラマーとのトリオであるが、テクニカルなジャズピアニストとしての魅力がつまった快作としてこのアルバムを推薦したい。

唯一収録されたピアノソロ曲「Firefly」も秀逸。

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Drums : SHUN ISHIWAKA
– 石若駿 –

玉田俊二のドラムを担当したのは、石若駿。

日野皓正や大西順子といった大物ミュージシャンと共演を重ね、ジャズファンから絶大な人気を誇る石若は、King Gnuの前身にあたるSrv.Vinciの元メンバーであり、millennium paradeのドラマーとしても知られている。

くるり、Zeebra、米津玄師、テイラー・マクファーリン、ジョン・スコフィールド、トニー・アレンといったジャンルを超えた国内外アーティストと共演し、Answer to Remember、CLNUP4、SMTK、Songbook Trioなどのリーダープロジェクトでも活躍する石若を「国内最高峰のドラマー」と呼ぶことに異論はないだろう。

推薦盤①
石若駿
『CLEANUP』 (2015)

10代のころからプロミュージシャンとして活動していた石若が、東京藝大の打楽器専攻を首席で卒業した2015年に発表した初のフル・リーダー作。「石若駿のジャズ作品を聴きたい!」と思ったら、まずはこのアルバムから。

全13曲中12曲を自身で作曲。石若が優れた作曲家であることを知らしめた本作は、数々の新人賞を獲得している。

『CLEANUP』発売記念ライブの集大成として“ジャズギターの皇帝”カート・ローゼンウィンケルとの共演が実現。多くのジャズファンから注目を集めたこのスペシャルセッションは、JASSが出演したSo Blueのモデルになったブルーノート東京で行われた。

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推薦盤②
Answer to Remember
『Answer to Remember』 (2019)

2019年にスタートした石若のエクスペリメンタル・ミュージック・プロジェクト、Answer to Rememberの1stアルバム。

打ち込みを取り入れ、シンガーやラッパーを迎えて制作された『Answer to Remember』は、ジャズの範疇に収まらないクロスオーバーな作品であるが、石若の超絶ドラムを存分に堪能できる傑作なので、多くの音楽ファンに聴いていただきたい。

インスト曲「Still So What」や、日本語ラップとジャズが見事に融合した「RUN feat. KID FRESINO」と「410 feat. Jua & ATRBand」をぜひ。

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Tenor Saxophone : TOMOAKI BABA
– 馬場智章 –

宮本大のサックスを演奏するのは、国内外のミュージシャンを対象としたオーディションによって選ばれた馬場智章。彼も上原ひろみと同様にバークリー音楽大学出身で、在学中に三度にわたって優秀賞を受賞している。

そして、石若駿とは札幌ジュニアジャズスクールからの付き合い。小学5年までアルトサックスを吹いていた馬場が、テナーに転向するきっかけとなったマイケル・ブレッカーの存在を教えてくれたのは、石若だったという。

推薦盤①
J-Squad
『J-Squad』 (2016)

バークリー音大を卒業後、ボストンからニューヨークに移った馬場が、黒田卓也(トランペット)、大林武司(ピアノ)、中村恭士(ベース)、小川慶太(ドラム)とともに結成したJ-Squadの1stアルバム。

J-Squadは、テレビ朝日系『報道ステーション』のテーマ曲「Starting Five」を制作するために発足したプロジェクトだが、ニューヨークの最前線で活躍する精鋭たちによって生み出された本作は、ありがちな企画モノの域を超えている。

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推薦盤②
馬場智章
『GATHERING』 (2022)

2022年に発表された2枚目のリーダー作で、参加メンバーは、馬場(テナーサックス)、西口明宏(テナー&ソプラノサックス)、伊藤勇司(ベース)、小田桐和寛(ドラム)。

ピアノやギターのような和音楽器奏者がいない、いわゆるコードレスカルテットで録音された本作は、9つのパートで構成された組曲「Gathering」とボーナストラックの「Improvisation」が収録されている。

絡み合う2本のテナーが素晴らしく、宮本大ファンはもちろん、ジャズ歴の長いマニアにも聴いていただきたい力作。

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ジョン・コルトレーンの名曲「Impressions」

映画『BLUE GIANT』の冒頭で、仙台から東京行きのバスに乗り込む宮本大のイヤホンから流れてくるのは「Impressions」。サウンドトラック・アルバムのトップに収録されたモードジャズの名曲である。

上原ひろみ(ピアノ)、本間将人(テナーサックス)、田中晋吾(ベース)、柴田亮(ドラム)によってカバーされた「Impressions」は、ジャズ史上最高のカリスマと称されるサックス奏者、ジョン・コルトレーンの代表曲のひとつ。さまざまなミュージシャンにカバーされ、コルトレーン自身が再演したテイクも数多く存在する。

宮本大のサックスに魅了された方に推薦したいのは、コルトレーンが1963年に発表した同名アルバムに収録された「Impressions」。1961年にニューヨークの名門ヴィレッジ・ヴァンガードでライブ録音された約15分にわたる白熱のプレイは『BLUE GIANT』ファン必聴。

可能であれば、ヘッドフォンではなくスピーカーで。激しく吹きまくるコルトレーンのサックスと、強烈なリズムを叩き出すエルヴィン・ジョーンズのドラムを爆音で体感してほしい。

JOHN COLTRANE 
『IMPRESSIONS』

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なお、2020年5月に公開されたこちらの記事では、ジョン・コルトレーンやファラオ・サンダース、アーチー・シェップ、峰厚介、SLEEP WALKERの推薦盤を紹介しているので、ぜひご覧いただきたい。どの作品も、JASSに負けない熱いジャズを聴くことができる名盤ばかりだ。

(文・五辺宏明)

映画『BLUE GIANT』公式サイト
映画『BLUE GIANT』│「N.E.W.」ライブシーン特別映像

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漫画『BLUE GIANT』シリーズ