2023年、最注目インディーズバンド&アーティスト発表! 音楽ライター本気推しの1組は?

ヂラフマガジン編集部

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「あたらしい音楽」を発掘・発信するヂラフマガジンが、2023年の活動に注目したい期待のインディーズアーティストを発表。音楽の趣味嗜好も年代も異なるライター8名が1組ずつ厳選し、それぞれの感性で魅力を綴った。

サブスクで好みの曲が自動レコメンドされる時代だけれど、音楽好きの友だちからグッときた曲をおすすめされて胸が高鳴る、あの瞬間も尊い。そんな感覚で「あたらしい音楽」との出会いを楽しんでいただけたら幸いだ。

各ライターが2022年のマイベスト曲をセレクトしたヂラフアワード2022もぜひチェックを。

※掲載順は、編集長による「あみだくじ」で公正に決定しました。


MILKDOTが魅せる憂鬱のむこう側

MILKDOT
『赫の心号』
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以前、ベッドルーム・ポップ特集でも紹介したMILKDOT(ミルクドット)。当記事では彼の歌声から放たれる憂鬱に着目したが、彼の魅力はそれだけに留まらない。2022年は『春色の幽霊』を皮切りに6曲の新曲と、2曲のリメイクを発表している。どれも彼の才能が遺憾なく発揮された中毒性の高い曲ばかりで甲乙つけ難いが、中でも注目したいのは『赫の心号』である。

2021年に『鬱曜日』で人気を博したこともあってか、どこかそういった要素に注目されがちなMILKDOT。しかし、2022年に発表された曲を順に見ていくと『赫の心号』から、何かが彼の中で大きく変わったように感じる。

曲調がこれまでとは違い少しテンション高めな側面ももちろんあるが、何より違うのはその「歌声」だ。MILKDOTの歌声といえば気怠げで、穏やかで、だけど感情をこそげとるようなざらついた感触の歌声だった。そんな彼の歌声が『赫の心号』では更に洗練されて、元々の良さは残しつつも、言葉遊びが散りばめられた歌詞に力を与えるような強さが加わっている。

実際には『赫の心号』でそれが大きく表現されただけで、それ以前の『春色の幽霊』やメランコリックな『偽心臓』を聴いてみても、「以前の歌声よりも洗練されている」と感じ取ることができるのだ。ぜひ『赫の心号』を聴いてそれを体感してもらいたい。

じわじわと知名度と人気を上げ、それに応じるかのように自らを成長させていくMILKDOT。2023年は更に躍進する年となることが予想される。

(文・宮本デン)

音楽の存在意義は、私達の心を豊かにし、夢と現実を見せてくれるところにある

Hue’s
『Youth』
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2023年に私が推薦したいバンドはHue’s(ヒューズ)だ。

Hue’sは2016年に結成された4ピースバンドで、2018年にSUMMER SONIC 2018に出演するなど、高い音楽性が注目されてきた。しかし、2019年にバンド活動が停滞し、メンバーチェンジも経験。そのような時期を乗り越え、2022年に初のフルアルバム『Hz-adopt』をリリースした。

軽快なギターサウンドから始まる彼らの名刺代わりの1曲が「Youth」だ。サビに向かうに連れて軽快なサウンドに徐々に熱や力が籠もっていく。サビに入るとこれまでの軽快さから轟音に変わる。何度聴いてもこのギャップに心を打たれてしまうのである。

また個人的には音源だけでなく、ライブにも足を運んでほしい。ライブで演奏される「Youth」は体の奥底からの叫びだと言ってもいいかもしれない。音源で聴く以上の力強さと儚さを味わうことができる。

人生は有限だから私達が音楽に費やせる時間は決まっている。それゆえ、どのような音楽に時間を割くのかという選択を私たちは常に迫られている。

音楽が無くても生きていくには困らない。それゆえ、必要ないと言う人を私は否定しない。しかし、せっかくなら私は、この長い人生、音楽を味わいながら生きていくことを選びたい。

無数にある曲やアーティストの中からあなたは2023年に何を聴きたいだろうか。

(文・竹内将真)

ゆらゆら現れた、芯のある八王子産バンド

ちゃくら
『海月』
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この1ヶ月くらいで急上昇してるバンドを選んでみました。東京・八王子のちゃくらというバンドです。

初MVの『海月』、既に高評価が1万を超えています。タイトル通りのゆらゆら感が儚げ。でも〈あ、いや溺れてた〉〈夢を見ていた〉と歌う部分や、バッとぶつ切りに終わるところで、リスナーにハッとさせる感じが病みつき。そして他の曲を聴いてみたいなと思わせます。

正直まだライブも少ないし、ここからいろんな目線を向けられる時期かなぁと思います。ただ本人達も関東外でのライブに意欲的みたいだし、個人的には、追い付けないほどのライブをして雑音はかき消してほしいです。

そして来年の夏にはサバシスターや、同じ八王子のゴリゴリのライブバンドAdlerとかと、バチバチなライブを見たい。もちろん無理だけはせず、今の音楽を「楽しい」という気持ちで頑張ってほしいです!

(文・遊津場)

さまざまなあそびが楽しめるアーティスト

asobi
『Hearts Collide』
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asobiは早稲田大学のサークルで出会い、のちに結成された6人組のバンド。このバンド、実はボーカルが3人なのだ。あまり聞いたことがないのではないだろうか。3人それぞれが異なるテイストで歌うメロディーは、聴いていて飽きない工夫がなされている。

生楽器はもちろんデジタルサウンドを織り交ぜたミクスチャースタイルは、聴いていると気づけば身体が揺れ出しそうになるのが魅力。HIPHOPやR&Bの世界観を見せつつも、枠にとらわれない自由な発想でわたしたちを楽しませてくれるのである。

そんなasobiの楽曲からおすすめしたい1曲は『Hearts Collide』だ。MVではメンバーがおうちキャンプをしながら1人ずつカメラ前に出てきてパフォーマンスをしている姿が特徴的。後ろでは他のメンバーが楽しそうに踊ったり楽器を鳴らしたり……まるで一緒に遊びの世界に入り込んだよう。軽快なリズムで明るい雰囲気なので、天気の良い日にフェスで聴きながらゆらゆら揺れたい気持ちになるだろう。

バンド名が「asobi」というだけあり、遊び心がたっぷり詰まっている彼らの曲を聴いて、新しい1年をスタートさせてみよう!

(文・あらたいと)

いつもよりちょっとだけいいことがあった日に

こ.Oyama
『怪電波』
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こ.Oyamaは日本のシンガーソングライター・トラックメーカー。2021年に1stシングル『大団円』をリリースして活動を開始、同年1st EP『目下』、2022年2月に2ndシングル『怪電波』、7月に2nd EP『折り合い』を発表するなど、安定したペースで楽曲を作り続けている。

独特の心地よさがあるポップな音楽は日常によく馴染み、なにかいいことがあった日の足取りの軽さにぴったりとはまる。繰り返す単調な毎日がそっと彩られるような、ささやかでさりげなく、それでいてちゃんとあたたかい存在。

例えば、仕事終わりにコンビニでビールを買って帰る時くらいの小さなご機嫌。見上げた空に飛行機雲が伸びていくのを見たくらいの小さないいこと。誰とも共有しない、自分の中だけで完結する小さな幸せ。大きな幸福など与えられなくとも、そういうことの積み重ねで生きていける気がする。なんだか大丈夫な気がしてくる。

誰かといても、ひとりでも、どこにいても何をしていても、そういうことに気づくことができる。こ.Oyamaの作る音楽は、そういう音楽だと感じている。

(文・望月柚花)

自由過ぎる歌詞が刺さる!

ハラサンゼン
『ANOKO』
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ハラサンゼンは、青森で活動する謎多きラッパー。

SNSはTwitterをメインにしていますが、音楽的な活動についてはライブ情報程度しかなく、いわゆる「アーティストのSNSっぽさ」はありません。2022年12月時点でTwitterフォロワーは686人と、注目度はまだまだこれからのアーティストですが、「好きな人は好き」になること間違いなしのアーティストです。

そんなハラサンゼンの書く歌詞は、とにかく自由度が高い! 2021年にリリースされた『nude.』収録楽曲は、「星野源になりたい」「目玉焼き」「なんにもできないよ」など、ハラサンゼンの素直な気持ちがリリックになっていたり、タイトルから気になってしまったりするものばかりです。

このような、若干おふざけに見えるような楽曲があるのもハラサンゼンの特徴ですが、YouTubeにアップされている「ANOKO」では、好きな人へのストレートな気持ちを綴っています。綺麗な言葉で愛を伝えるようなラブソングではなく「ただただあの子が気になって仕方ない」というような歌詞は、多くの男性が共感できるのではないでしょうか。

現在ライブ活動は青森を中心としていますが、今後の全国的なライブ展開も期待したいです!

(文・名城政也)

がんと闘うシンガーソングライター

渡辺雅弘
『平凡』
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私が応援したいアーティストは、シンガーソングライターの渡辺雅弘(わたなべまさひろ)。

渡辺というミュージシャンの存在を知ったのは、Girasoul(ジラソウル)のギタリストとして。

ヴォーカリストのMamiと渡辺のデュオ、Girasoulはこれまでに(パーカッショニストを加えたトリオ時代の作品を含む)3枚のCDをリリース。1stフルアルバム『arco iris』を発表した2013年には、人気フェス『New Acoustic Camp』にも出演している。

2021年12月、渡辺(当時37歳)は自身のブログで、がん宣告を受けたことを発表。翌月に開設されたYouTubeチャンネルで「肺がん(肺腺癌)ALK陽性型ステージⅣb、余命5年」と診断されたことも公表している。

しかし、渡辺は生きることを諦めていない。5月18日にソロとGirasoulの2ステージ・ライブを敢行。再入院後、8月にソロ作品をレコーディング。9月7日には池袋手刀(チョップ)で自主企画イベントを開催。以前よりも強度を増した渡辺の歌に心打たれ、涙腺が緩んだ。

渡辺は病と闘いながら、その後もライブ活動を続けている。

レコーディングの前日、渡辺は「生涯最初で最後のソロレコーディング」とSNSに投稿していた。しかし、私は信じている。5年後、10年後も渡辺雅弘の作品が世に送り出されることを。

(文・五辺宏明)

淀み歪んだノイズの海に溺れる

yodomi
『USUNORO DRAMATIC』

「ランドセルを背負ったあの日から私の憂鬱は始まった」

下北沢ERAのステージで彼は言った。3人がライブハウスに突き立てるとんでもない轟音は、彼の心に巣食うものをぶちまける、いや、かき消すための術なのだろうか。

yodomi(よどみ)というバンドを知ったのは2020年末、改名後のことだ。確か、Twitterに「USUNORO DRAMATIC」のライブ動画が流れてきて、切迫感をともなう爆発力と歪みきったグランジ系サウンドに耳を奪われた。

Vo./Gt.よしはらこーが、Ba.遥大、Dr.中村達也(ドラマーとして生きる運命を背負った名前!)。当時まだ高校生の彼らが放つには、あまりにも切実すぎる音に聴こえた。

その後、Tokyo Music Rise 2021 spring 宮地楽器大会 U18でオーディエンス賞を獲得した際、準決勝ライブを観に行こうとしたが、コロナでやむなく中止に。2022年にようやく浴びた彼らの生の音は、期待を優に超えた。鋭いビートと、皮膚を擘くフィードバックの快感。そしてそれらの音は意外にも、エゴではなく「目の前の人たちに必ず届ける」という強い意志を携えていた。

「音楽であなたを救うことはできないかもしれないけれど」

Vo./Gt.よしはらはステージ上でこうも言ったが、それはたぶん違う。音楽の無力さを知る者は、誰かを救う音楽を生み出す宿命にあるのだ。彼らの轟音をそのままパッケージングしたようなミックスでリリースされた1st EP『Loopy』と2nd EP『Messy』を聴きながら、そんなことを考える。

(文・三橋温子)