ライブで体感してほしい、圧倒的歌唱力の新世代女性シンガー

三橋 温子

三橋 温子

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最近のシンガーはみんな歌がうまい。そのぶん、うまいだけでは耳の肥えたリスナーの心は掴めない。個性なりセンスなりをいかに発揮するかに苦心しているアーティストも多いことだろう。

ただ、そんな時代にも存在するのだ。誰がどう聴いても圧倒的に歌のうまいシンガーが。もちろん個性もセンスも抜群なのだけれど、根底の歌唱力が傑出しているからこそのアドバンテージが彼女たちにはある。

実際にライブを観て気圧された、新世代の女性シンガーを紹介する。心臓にズドンときて鳥肌がやまないタイプから、心地よく酔わされるタイプまで、声質はさまざま。好みのシンガーを見つけて、願わくはライブで生歌を全身に浴びていただきたい。


歌に意志を宿すバイリンガルシンガー

Kinami
『i was ur girl』
Kinami
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意志のある歌声。ライブで瞬時にそう感じさせてくれたのは、沖縄出身、バークリー音楽大学卒業のシンガーソングライターKinami(キナミ)。

ムーディなR&Bナンバーから声量を魅せつけるソウル調のナンバーまで自在に歌いこなす様は、まだ20代前半とは到底思えない。流暢な英語詞のため楽曲に溶け込んで聴こえてもおかしくないが、一言ひとことを確実に届けようとする強い意志が、まるで彼女とふたりきりで会話しているような感覚にさせる。

「ステージ上で自分にどれだけ正直になれるか、どれだけ心を開けるかを大切にしている」。以前のインタビューで語ってくれたポリシーがまさにKinamiの歌に磨きをかけているのだろう。

ちなみに人柄は、とっても素直で礼儀正しくチャーミング。大人びた歌唱とのギャップも応援したくなる一因だ。

Kinami インタビュー&ライブレポート

ライブ叩き上げで磨かれた熱量あふれる歌声

おーたけ@じぇーむず
(一寸先闇バンド)
『ルーズ』
一寸先闇バンド
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楽器が奏でるサウンドの一部のようにポップに歌ったかと思えば、突如こぶしをきかせたブルース色の強い歌いまわしでオーディエンスをドキッとさせる。

シンガーソングライターで一寸先闇バンドVo.のおーたけ@じぇーむずの歌は、ライブ叩き上げならではの声量と表現力、そして壮大な芝居を観ているようなストーリー性に富んでいる。

人の心の闇やすきまを描いた楽曲が多いのに、決して暗い気持ちにならないのは、スタイリッシュなアレンジもさることながら彼女の歌声がずば抜けた熱量をもつからだろう。

いま、もっとも注目している新世代バンドのひとつである。

ヂラフのFIND OUT! 一寸先闇バンド
一寸先闇バンド ライブレポート

力強さと透明感をあわせもつ天性の美声

黒川沙良
『ブリコー』
黒川沙良
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中学時代からライブハウスのステージに立ち、10代で複数オーディションの受賞歴ももつ黒川沙良(くろかわさら)。本来、新世代のくくりで紹介するべきではないが、圧倒的歌唱力という点で外すわけにはいかないシンガーである。

ジャズやソウルをルーツにもつ黒川の歌声は、力強く伸びやかで、透明感もある。ブラックミュージックもポップスも歌いこなす幅の広さは、その絶妙なバランスを擁する天性の声質によって成立している。

シンガーソングライター・ピアニストと称されるとおり、幼少期から親しんできたピアノの音色も彼女の声の一部だ。

モデルと見紛うルックスでステージに立つ姿には思わず惹きつけられるが、彼女の歌声とピアノはその視覚情報に負けることなく強い輝きを放ち、オーディエンスをたちまち虜にしてしまう。

黒川沙良 ライブレポート

ブラックミュージックをフレッシュに歌いあげる

ARIWA
(ASOUND)
『Feel it』
ASOUND
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2020年の結成からFUJI ROCK FESTIVAL ’22へのスピード出演を果たし、話題を呼んだASOUND(アサウンド)。

そのVo./Tb.を務めるARIWAは、シンガーの母をもち、レゲエやR&Bをルーツとする、1999年生まれの若きアーティストである。

彼女の音楽ルーツやルックスから勝手に想像していたのは、ハスキー寄りのグラマラスな歌声。でも、実際はちょっと違った。甘さとあどけなさが漂うフレッシュな声色、ハリのあるファルセット。音源とも少し印象の異なるその生の声には、いつまでも聴いていられるような不思議な魅力を感じた。(ちなみに演奏陣もめちゃくちゃうまい)

歌詞が等身大なのもまたいい。生きることに一生懸命な、凛とした人物像は、ステージ上のARIWAのイメージとそのまま重なる。

「かわいい」を超越した底抜けの表現力

さかな
『恋愛くたばれ同好会(仮) (feat. さかな)』
eijun
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生の歌声を聴いたことはないので番外編になるが、だからこそ「こんなに歌のうまい人が本当に実在するんだろうか」と疑ってしまうほどの歌唱力をもつさかな。

THE BACK HORN Gt.菅波栄純のソロプロジェクト、eijunプロジェクト(エイプロ)で何度もゲストボーカリストを務めており、以前のインタビューではeijunも彼女の歌唱力を絶賛していた。

とびきり甘く、ときにはとびきり切なく。彼女の歌は楽曲によってさまざまな感情を見せる。ともすれば表現の幅を狭めてしまいそうな「天性のかわいい声」なのに、絶望も後悔も歌えるってすごくないか。

トラックメイクやサウンドエンジニアリングも手がけ、自身で詩集を制作するなどマルチクリエイターの顔ももつ。彼女の感性が詰まった生のステージを一度は観てみたい。エイプロライブも熱望!

eijun インタビュー

(文・三橋温子)