【eijunインタビュー】THE BACK HORN菅波栄純のソロプロジェクト第2弾、究極のラブポップスに挑んだ『らぶこめみ (feat. さかな)』

三橋 温子

三橋 温子

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最初の数小節を聴くだけでティーン時代にトリップしてしまう、まぶしさ全開の学園ラブポップス『らぶこめみ (feat. さかな)』が6月2日にリリースされた。作者を知らずに楽曲と出会った人は、まさかこの曲が裸足で激しいギターを奏でるロックミュージシャンから生まれたものとはつゆほども思わないだろう。

THE BACK HORNギタリストの菅波栄純が4月にスタートしたeijunプロジェクトは、「作詞・作曲・編曲家」として多彩な楽曲を発表していくソロワークス。これまでも自身のバンドや楽曲提供でその引き出しの多さを知らしめてきた彼は、プロジェクトを通じてどんな進化を遂げるのか。eijunとしての「いま」と「これから」をインタビューした。


10割妄想でここまで書けたのは自信になった
『らぶこめみ (feat. さかな)』
eijun
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——新曲『らぶこめみ』を聴かせていただいて、キュンを通り越して鳥肌が立ちました(笑)。中学生のころをありありと思い出して。

eijun: この曲はまさに中学生をイメージしてたので伝わってよかったです。eijunプロジェクトは、楽曲提供させてもらう機会を増やすという目的のために、作れる楽曲の幅を「見せる収納」として提示していくプロジェクト。前作『あいしてぬ』は女性ボーカルとJ-POPというテーマで書いたんですが、『らぶこめみ』はラブコメのアニソンのオープニングというテーマで書きました。

——この曲はどのように生まれたのですか? 実体験のアレンジなのか、架空の主人公を仕立てて膨らませていった感じなのか…。

eijun: THE BACK HORNの曲を書くときもそうなんですけど、実体験は何割かで、あとは妄想で膨らますことが多いんです。で、『らぶこめみ』は10割妄想(笑)。それでここまで書けたのは自信になりましたね。

——教科書を見せてもらうために机をくっつけてドキドキ、という経験自体は?

eijun: たぶんないですね(笑)。消しゴムを落として拾ってもらうくらいはあったかも。今回は、曲を聴いてくれるリスナーの設定を小中学生にして、その年代に共感してもらえるシチュエーションで歌詞を書きたいと思ったので、まずは自分が女子になって(笑)、教室内で起きるラブコメっぽいシチュエーションがないか記憶を掘り起こしてみたんです。そしたら「教科書を忘れて机をくっつける」というのを思い出して、これで書けるかもしれない!と。

eijunプロジェクトが始まる前にも、女性ボーカルのかたに女性目線の楽曲を何回か提供させてもらっていて、女性目線で書くという素振りはできていました。ただ、中学生視点というのは初挑戦だったので苦戦するかと思ったんですけど、むしろ大人のドロドロした感情を書くほうが苦手だってことに気づいて、意外と書きやすかったですね。

恋愛に発展する前のドキドキ感ってたぶん男女でそんなに違いはなくて、俺がイメージする中学生のドキドキに、女性のほうがちょっと大人というギャップだけ要素として足した感じ。あとは、「男子は“にきび”なんて気にしないのに、自分だけ意識しちゃってバカみたい」という男女の違いを書けたことで、リアルな対比になったと思います。

——タイトルの『らぶこめみ』はどんな意図でつけたのでしょうか。

eijun: 「わかりみが深い」とか言うじゃないですか。そういう感じで「らぶこめみが深い」みたいな。実は最初は『Stand by me』みたいなタイトルでやってて、でもこれだとガチ感が出る。もちろん曲はガチで作ってるんですけど、タイトルに「これラブコメです」と入れておくことで、たとえば俺みたいに「こんなキラキラした曲を自分が聴いて大丈夫かな?」と思う層にも、とっかかりやすくしたかったんです。「み」をつけたことでもっと曖昧になって、間口が広がったかなと。

『あいしてぬ』がひらがな5文字だったので、連続させたいという気持ちもありました。3曲目でさっそく変わるんですけど(笑)。

——ずっと5文字シリーズで行くのかと思っていました(笑)。曲のキラキラ度は前作からさらに高まっていると感じましたが、トラックメイクでこだわった部分はありますか?

eijun: アニソンのオープニングによく出てくる音を研究して、ベルのキラキラ音とかシンセの音を意識的に入れました。あとアニソンのドラムってけっこう忙しく叩いているので、そのあたりも大事にしましたね。メロディは、この曲のテーマを思いついたときに「さわやかな感じがいいかな」程度にちょっと探って、あとは歌詞が完成してから。だからほぼ歌詞が先にできた感じです。

順調にスタートできているのは、いい出会いがあったからこそ
——ボーカリストは前作に続き、さかなさんをフィーチャーされていますね。

eijun: この曲にはさかなさんの声がめちゃくちゃ合いそうだなと思って。『あいしてぬ』はキラキラしていてサビも派手だけど、全部が全部さわやかなだけじゃない曲なので、ポップなのにしっとりした部分もある、さかなさんの声にばっちりハマっていました。だから逆に『らぶこめみ』くらい振りきった曲で、さかなさんのかわいい要素を前面に出したらどうなるのか興味があったんです。そしたらめちゃくちゃかわいくて(笑)。

最近の音楽の聴かれかたも、SNSに音源をあげたときに「これは!」と直感して聴いてもらえるかどうかが重要になっている。一聴して「好き」と思う声なのか、じわじわ好きになっていく声なのかはボーカリストによって違くて、それは楽曲との組み合わせで演出していくんですけど、『あいしてぬ』や『らぶこめみ』は一聴して「好き」と思ってもらうことが重要な曲。その点、さかなさんは聴いた瞬間に食い気味で「あっかわいい」と感じるくらいスピード感のある声だと思います。

——〈まかせとけ 僕だけ見てろよ〉の部分の声色の変化にもグッときました。

eijun: 俺もあのフレーズを聴いたときは嬉しかった。俺がディレクションしたわけじゃなくて、自主的にそう歌ってくれたんですけど、あそこだけ男子目線の歌詞なんですよね。女性がやるイケボって、男性には出せない感じがすごくいいじゃないですか。さかなさんのあの声は聴いたことがなかったのですごく刺さりました。

レコーディング作業でトラックを調整するときって、その時点ではリズムもピッチもヨレているのがふつうなんですけど、さかなさんから送られてくるトラックはすでに完成形かと思うほどクオリティが高い。それくらい歌がうまいです。

——eijunプロジェクトはソロワークでありながら、チームで作りあげている感じが非常におもしろいです。

eijun: みなさん紹介いただいて知り合ったかたなんですけど、プロジェクトがわりと順調にスタートできている感じがするのは、いい出会いがあったからこそ。俺の年齢が上でほかのメンバーが若手という座組みになっているのもすごく助かってます。

ベースの浩太郎くん(ペンギンラッシュ)には前作に引き続き弾いてもらったんですが、めちゃくちゃうまくて。俺のギター以外は打ち込みがメインなので、浩太郎くんがグルーヴィーに弾いてくれることで生の迫力が出て、楽曲の伝わりやすさにつながっていると思います。

MVを作ってくれているINPINE(インパイン)くんとは、ラブコメ好き同士いつも打ち合わせで盛り上がってます(笑)。今回は思いきり振りきろうという話になって、キラキラしたかわいいイラストを描くa37(アミナ)さんに依頼してくれたり、最初に出てくる『らぶこめみ』のロゴを考えてくれたり。『あいしてぬ』でイラストを描いてくれた柳すえさんもINPINEくんの仲介なんですけど、ちょっと影のある色合いが曲の世界観にぴったりで。自分では出会えなかったタイプの絵師さんと出会わせてくれてありがたいですね。

アウトプットが増えて、自分と世の中の循環がスムーズになった
『あいしてぬ (feat. さかな)』
eijun
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——eijunプロジェクトがスタートして約1か月。前作『あいしてぬ』の反響はいかがですか?

eijun: THE BACK HORNを知ってくれている人の反応が温かくてホッとしました。曲調の違いがけっこうあるので不安だったんですけど、みんな「広めます!」って応援してくれてとても嬉しかったですね。

TikTokの反応もすごくよくて。俺が重視しているのは再生数に対する“いいね”の数なんですけど。再生数は1秒でも再生すれば上がるけど、“いいね”を押すかどうかは人間の気持ちの部分が大きいので。で、その割合が大きいから「ありがとう」という思いでできる限り“いいね”返しをしに行ったら、小中学生のかたもとても多くて、広めたかった人たちにちゃんと届いている感じがしました。一発目を幅広い人に聴いてもらえたので、ポップスのプロジェクトとして方向性を変えずにこのまま行けそうな感覚があります。

——THE BACK HORNのメンバーからはなにか反応がありましたか?

eijun: 基本的に温かく見守ってくれる人たちなので、とくになにも言ってこないです(笑)。逆に気が楽ですけどね、あまり注目されていても気をつかっちゃうから。

——nanaやInstagramでの「歌ってみた」投稿も増えてきていますね。

eijun: Pocochaでよくカラオケ配信をやっているんですけど、そこで知り合った歌い手さんがnanaで歌ってくれたり、いろんなSNSで活動しているからこその広がりもありますね。

eijunプロジェクトはあくまでも「見せる収納」なので、積極的に宣伝を打ち込むようなことは考えていなくて。SNSごとにアナログというか人間的な方法でコミュニティ化していって、そこで作家として認知してもらうことのほうが、長い目で見ると大事な気がしているんです。だから“いいね”返しもしているし、フォロワーがまだ少ない時期に一人ひとりとコミュニケーションをとってコミュニティを熟成させていきたい。

——配信でもコメント一つひとつに反応するなど、細やかに対応していらっしゃいます。ファンとしては嬉しいですが、SNSが精神的な負担になってしまうことはありませんか?

eijun: SNSでの活動もまったく苦じゃないです。いま、TikTokにミニソングをよく投稿していて、それも「見せる収納」のブランディングの一環なんですけど、eijunプロジェクトでアウトプットが増えたことで自分と世の中の循環がスムーズになって、その曲たちを通じてコミュニケーションをとることはむしろ喜びしかないんですよね。

——作家としていちばんモチベーションを感じるのは、曲を世に出すときということでしょうか。

eijun: うーん。作品のなかで性別や年齢を超えて「自由になんでも表現できた」「自分の殻を破れた」と感じるのはだいたい歌詞を書き終えたとき。だからグラフを作ったときにいちばん高くなるのはその瞬間で、それがあるから「また新しい曲を書こう」と思えるんですけど、アウトプットを通じてコミュニケーションをとる楽しさは、いま芽生え始めている感じですね。

あと、それとはちょっと別の話ですが、雑談やカラオケのライブ配信が思いのほか性に合っていることにも気づきました。いろいろ準備してコンテンツとして出すという楽しみは、俺は音楽だけでお腹いっぱい。とくに準備せずバーンと出てしゃべったり歌ったりする時間があることで、メリハリをつけて楽しめているんだと思います。

いまは、弱い自分、暗い自分がこなれないようにむしろ保護している
——eijunさんはnoteなどでセルフマネジメントについても発信されています。いつごろから実践されているのでしょう。

eijun: 28歳くらいからなので10年以上ですね。タスク管理の真似ごとから脱却して自分専用の仕組みができてきたのはここ4年くらい。eijunプロジェクトのTwitterで作業過程をツイートすると、みんな「どれだけ並行してるんですか」「ちゃんと寝てますか」と心配してくれるんですが、仕組みのなかでちゃんと休息をとりながら進めているので大丈夫です(笑)。

試してみてダメだったら捨てる、という作業がすごく好きで。好奇心が強いから、試さないで切り捨てることはできないんですけど、まずはやってみて、費やした時間やかかったストレスを測定して、ダメならスパッとやめる。一時期、モーションラプスっていうめちゃくちゃ作り込んだ動画を作りたくて機材もたくさん買ったんですが、性に合わなすぎて即くじけました(笑)。だから、いま稼働しているアカウントやコンテンツは、いっぱいあるように見えるけど実は絞られたものなんです。

——2012年のインタビューで、〈心の調子が悪いのは自分のせいだと思う必要はない。「たまたま今日は絶望してんのかもな」と思うようにしたら、絶望の持続性がなくなった〉というお話をされていてすごく救われました。当時と比べて心との向き合いかたは変わりましたか?

eijun: それはよかった。去年からセルフマネジメントの定期購読マガジンを書き始めて余計わかってきたんですけど、ネガティブな感情が自分から発生したり身に降り注いだりするのは、もうしょうがないんですよね。絶望を感じるとか、自分のことを恥ずかしく思う・嫌に思うという感情を発生させる弱い自分がいるとしたら、そんな俺だからこそ書けている歌詞や曲があるので、その自分を否定したらおしまい。繊細な感受性と意思疎通できなければ、自分の理想とするミュージシャンとしてはもはや廃業に近いんです。

だからいまは、弱い自分、暗い自分がこなれないようにむしろ保護している(笑)。ただし、自分のいまの状態を説明できて、文章とかを通じてだれかの気持ちを軽くすることに役立てるくらいの客観性はついていると思います。

若いころは、ネガティブな自分からくる感情をきれいなものと思っていたかった節もあって。理由があってほしかったし、仮想敵がいてほしかった。でも意外とそうでもないことが大人になるとわかってきて、「天気のせい」とか「さっき食ったもんのせい」とか、こじつけでも受け流せるようになった気がしますね。

——方向性の異なるeijunプロジェクトとTHE BACK HORNの活動を両立するうえで、スイッチの切り替えかたみたいなものはあるのでしょうか。

eijun: SNSのアカウントが分かれていることがすごく役立っているんですよ。たとえばTwitterのeijunアカウントに入って「いまこの作業をしてます」とツイートすると、そっちの頭に自然と切り替わる。菅波栄純アカウントではやらない、途中経過の発信とか“いいね”返しをすることで、「いまはこのコミュニティにいる」という実感がしやすいんです。

——SNSを味方につけている感じがしますね。発信だけでなくセルフマネジメントにも役立てているというか。

eijun: 確かに役立っているかもしれないですね。人間って、親としゃべっているときの自分と職場の人としゃべっているときの自分は違うじゃないですか。それって、相手が自分のペルソナを切り替えてくれているともいえる。俺にとってSNSは自分のペルソナを切り替えてくれるものなんだと思います。

あとは、THE BACK HORNとしての稼働時間にeijunプロジェクトの作業を限りなく入れないようにはしています。うまく時間管理をして意図的に振り分けているので、バンドのライブのときは忘れていますね。ステージの外でもメンバーと雑談ばっかしてるから、「あいつ暇なのかな」とか思われてるかも(笑)。

外でいろんな経験を積むことはバンドにとってプラスでしかない
——今後のeijunプロジェクトの活動についてお聞かせください。

eijun: 夏にリリース予定の3〜4曲目はボーカル録りが終わっているんですけど、めちゃくちゃいい歌を録らせてもらえました。曲調的にはしっとりで、とくに3曲目は急激にエモい曲。夏に出すのに思いきりしっとり仕上がっちゃったという、自分の天邪鬼なところが出てるんですけど(笑)。

あと10曲は女性ボーカルの曲が続く予定ですが、先々には人間じゃない主人公も出てきたりして(笑)、毎回新鮮な気持ちで楽しんでもらえるんじゃないかと思っています。

——6月9日には『あいしてぬ』のREMIX作品もリリースされますね。

eijun: REMIXはこの先、全曲リリースしていく予定です。実は『あいしてぬ』も『らぶこめみ』も曲を作ったのは何年も前で、当時のアレンジをけっこう尊重しているので、いまの自分のセンスでアレンジし直したいという欲求をREMIXにぶつけています(笑)。オリジナルは歌をメインに聴いてほしいから、全部そこに向かったアレンジになっていますが、『あいしてぬ』のREMIXはひたすら踊れる感じ。

——リスナーも二度楽しめていいですね。eijunプロジェクトで得たものは、今後THE BACK HORNの活動にも活かされそうですか?

eijun: この先いろんなボーカリストさんと組んでやっていくんですけど、そこで得られる情報量ってものすごくて。「この人はこのメロディが歌いやすい」とか「こういうオーダーを出すとこの人はこう捉える」とかは人によって全然違うし、レコーディング中のボーカリストのメンタルやフィジカルや思考のうねりに寄り添ってプロデュースする経験はすごく勉強になっています。

ブランドが確立されていてメンバーも固定されているTHE BACK HORNで曲を作ることは、eijunプロジェクトよりも難易度が高い。自分の実力を常に磨いていないとどこかで行き詰まってしまうんですよ。だからこそ、外でいろんな経験を積むことはバンドにとってプラスでしかないです。eijunプロジェクトを続けることで、THE BACK HORNでももっといい曲が書けるようになる。その自信はありますね。

(取材/文・三橋温子)


PROFILE

eijun

THE BACK HORNのギタリスト・菅波栄純が作詞・作曲・編曲家として、 ソロワークをeijun名義で開始。バンドでの活動の枠に囚われずに、菅波がこれまでのキャリアで得た様々な音楽体験を自由に表現する作品を発表していくプロジェクト。

Twitter : https://twitter.com/eijun2021
YouTube : https://www.youtube.com/channel/UCx9xkrWwyjpcN2dHK1wqs0A
niconico: https://www.nicovideo.jp/user/42441839
Instgram : https://www.instagram.com/eijun_21
TikTok : http://www.tiktok.com/@eijun21

RELEASE
Digital Single
『らぶこめみ (feat. さかな)』

2021.06.02 Release

Digital Single
『あいしてぬ (feat. さかな)』

2021.04.21 Release


iTunes Store ほか主要配信サイト、音楽ストリーミングサービスにて配信
※音楽ストリーミングサービス:Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Music Unlimited、AWA、KKBOX、Rakuten Music、RecMusic、Spotify、YouTube Music