【eijunプロジェクト楽曲レビューⅡ】縦横無尽に交錯するポップネスで魅せた、エイプロ・ファーストシーズン後半戦

潮見 そら

潮見 そら

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THE BACK HORNのギタリスト菅波栄純が2021年4月より開始したeijunプロジェクト、通称エイプロ。バンドの枠組みを超えて、eijun自らが「作詞・作曲・編曲家」として多彩な表現で作り出した楽曲を、「見せる収納」という形で提示していくソロワークだ。

eijunはプロジェクトを開始してから、昨年8月までにおよそ月1曲ペースで楽曲を公開。第1弾『あいしてぬ (feat. さかな)』から第5弾『ゆうても曖昧だ (feat. さかな)』まで、様々なアプローチ方法でバラエティ豊かな5曲を誕生させてきた。

今回は、昨年9月8日にリリースされた第6弾『きみがじごくにおちるなら (feat. POCHI)』からファーストシーズンのラストを飾る第13弾『Rondo (feat. さかな)』までの8曲について、独自の解釈を交えてレビューしていく。第1弾〜第5弾の楽曲に関しては前回の【eijunプロジェクト楽曲レビュー】にて解説されているので、ぜひそちらも合わせて読んでみて欲しい。

13個に及ぶ彩り豊かな作品を「見せる収納」に飾り付けたeijunは、次作よりセカンドシーズンを始動させる。予想の斜め上を行くであろうeijunプロジェクトの今後の動向には、期待が高まるばかりだ。


きみのためならえんま様だって怖くない! 毒毒しくもラブリーなブラスロック

『きみがじごくにおちるなら (feat. POCHI)』
2021.09.08 Release

第6弾は、昨年1月10日のラストライブを以て解散した5人組アイドルユニット・CY8ER(サイバー)の元メンバー“POCHI”をゲストヴォーカルに迎えたポップなナンバー。「ちょっぴり危うい!? 真っ直ぐな“きみ”への想いをキュートに歌うポップロック!」という楽曲テーマ通り、〈えんま様にサインもらうから〉〈どっか遠くぶっとんでしまおうよ〉など、危うさ満載のフレーズをそこかしこに散りばめている。危なっかしいこれらの表現は、“きみ”に対する一途な想いがある種の執着心に変わり、凶器のように尖っていくさまを表しているようにも思える。

再生コンマ0秒から小気味よく打ち鳴らされるハンドクラップや、サビで聴かせる陽なムードのブラスサウンドなど、全体を通して高揚感を掻き立てるアレンジが印象的。ブラスサウンドがもたらす効果は絶大で、ダークな地獄をフィーチャーした楽曲であることを忘れさせるほど。転調による相乗効果も引き金となり、サビの度に身体が勝手に小躍りしてしまいそうだ。

〈ラフレシアのように毒々しい君の歌〉と始まるフレーズが早々にフックとなる本楽曲。ここでのラフレシアとは、紛れもなくTHE BACK HORNが2010年にリリースした楽曲『ラフレシア』由来のものだ。THE BACK HORNの『ラフレシア』では、〈赤々と染まれラフレシア/地獄の底の極彩色〉という鬼気迫るフレーズがサビで投下される。ラフレシアの存在を、地獄の底に咲き乱れる紅蓮花、いわば灼熱地獄の象徴として捉えている。

またラフレシアは世界最大の花であり、寄生植物としての側面も併せ持つ。本楽曲『きみがじごくにおちるなら』において、この「寄生」というワードは重要なポイント。「たとえ地獄でも“きみ”についていく」といった一途な感情は、「“きみ”に寄生してしまいたい」という表現に変換し得るものだ。曲のアタマに〈ラフレシア〉を登場させたのは、THE BACK HORNの『ラフレシア』を彷彿とさせると同時に、寄生植物としてのラフレシアに対して特別な意味を持たせるためなのではないか。

今作でeijunプロジェクト初参加となる“木目りん”が手掛けたジャケットには、チャイナドレスを身に纏い、ツインのお団子ヘアが可愛らしい女の子が描かれている。ここで注目すべきは、ジャケット背景に複数点在する看板のイラストだ。英語、中国語、日本語それぞれで店名が描かれた看板が配置されている。これらは、曲の終盤で登場する〈らびゅーとかウォーアイニーとか好きだよとか言ってみて〉と3ヶ国語を連ねた歌詞と紐付けられており、ジャケットデザインの細部へのこだわりを感じる。

最後にフォーカスするのは、大サビの歌詞。〈えんま様にサインもらうから〉と歌った直後に〈たいしてファンでもないのにさ サインねだるのは/うちのママみたいで うんざりしたりしてね〉と歌う一節がある。あれほど皆に恐れられる「地獄の門番」ことえんま様に対して「たいしてファンではない」と容赦なくディスを入れるカウンター、秀逸すぎないか。

『きみがじごくにおちるなら (feat. POCHI)』
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共感必至!? 高速デジタルポップスに託す止まらない「てえてえ」な想い

『てえてえてえ (feat. さかな)』
2021.10.06 Release

第5弾『ゆうても曖昧だ』以来2作ぶりに、最強かわいい天性の歌声を持つ“さかな”をゲストヴォーカルに迎え入れた第7弾のタイトルは『てえてえてえ』。「推しがいる幸せな女子の日常を切り取ったハッピー系デジタルポップス」が本楽曲のテーマで、バンドサウンドを削ぎ落とし、デジタルなポップサウンドに一点集中させている。時折ゲーム・ミュージック的なサウンドも散りばめられるなどeijunの探究心に満ちており、明らかに新機軸だ。

まず大半のリスナーが疑問符を浮かべるのは、この謎めいた曲名だと思う。調べてみると、「てえてえ(てぇてぇ)」はネットスラング用語として使われる「尊い」を、ドラゴンボールの主人公・孫悟空の訛りに寄せて行きついた造語であることがわかった。ネット界における「尊い」とは主に2次元のキャラクターに対して用いる言葉で、信仰心に近しい感情を表す比喩表現。好きなキャラクター、いわゆる「推し」の放つ魅力に圧倒されて語彙力を失い、「尊い」を正しく発音できなくなった ——。「てえてえ」の成り立ちはそういったニュアンスなのである。こうしたネットカルチャーに対しても感度高くアンテナを張り巡らせるeijunの対応力はさすが。

本来の用語「てえてえ」よりも「てえ」が1つ多い『てえてえてえ』が曲名となっているのは、本楽曲の主人公が「てえてえ」をさらに超越した想いを推しに寄せているからではないか。“あにゃぱんぱか”が手掛けたジャケットから推測するに、主人公のイメージ像は中学生くらいの女子。四六時中どこに居てもあふれ続けてしまう「てえてえ」な想いを、高速なポップサウンドの上をごろごろ転がるように無邪気に歌っている。高速4つ打ちビートと2拍、4拍目に鳴るパーカッションの織りなすグルーヴは、「てえてえ」の引き立て役として一役買っている。これらリズムセクションの土台が盤石だからこそ、「てえてえ」は最大限の輝きを放てるのだと思う。

本楽曲で最も注目すべきは、「てえてえ」の持つ語感を生かしたトラックメイク。第5弾『ゆうても曖昧だ』では、「ほにゃらら」という曖昧な言語を擬人化するなど思いもよらないアプローチが見られたが、今回の『てえてえてえ』においてもハイセンスなアプローチで「てえてえ」を遊び倒している。

まずはイントロ。後半部で〈てえてえてえ てえてえてえ〉を2度繰り返しているが、〈てえてえ〉が一音ずつ分解され、それらが滑らかな曲線を描くように連なり、美しく舞い踊っている。〈てえてえ〉を単なる言葉として捉えるのではなく、まるでメロディーを形成する要素の一部として飾り付けているかのように感じられる。

続いてサビに注目。サビでは〈とにかく絶対最強 My ダーリン〉〈もふもふMy ダーリン〉という歌詞に対して、合いの手〈てえあげろお〉が毎回入る。この合いの手は本来であれば「手挙げろ」と発音すべきところなのだが、「手」をあえて「てえ」と発音することで言葉の切れ目を無くし、ごく自然な譜割りを生み出している。こうした緻密な工夫が、結果的に〈てえてえ〉をフィーチャーする形となっているのだ。

また本楽曲では、主人公のイメージ設定はある程度用意されているものの、歌詞として一人称「私」が登場することはない。「私」を使用していないのは、2次元の推しがいる聴き手への配慮だと推測した。eijunは、聴き手一人一人の視点から、ダイレクトに「てえてえ」な気持ちに共感してもらうことを狙いにしたのではないだろうか。2次元の推しを溺愛する人々の気持ちに徹底的に寄り添ったからこそ誕生した、究極の「てえてえ曲」なのだと思う。

『てえてえてえ (feat. さかな)』
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ポップとメタルの融合で艶美に描く、シリアスな恋の行く末

『愛の蹂躙 (feat. アンジェリーナ1/3) 』
2021.11.05 Release

6人組全力エンターテイメントガールズバンドを謳うGacharic Spin(ガチャリックスピン)より、“アンジー”こと“アンジェリーナ1/3”をゲストヴォーカルとして迎えた第8弾。蹂躙(じゅうりん)とは、踏み躙(にじ)ること、強い者が弱い者の権利を侵害することなどを表す言葉。すなわち『愛の蹂躙』という曲名が示唆するのは、育んできた愛を唐突に切り離すように踏み躙る、残酷な恋愛ストーリーの結末である。

「これまでのエイプロとは一転してシリアスなロックサウンド」とeijun自らが評している通り、スリリングなギターサウンドと重厚なリズムで織りなす、壮大なサウンドスケープに魅了される。eijunプロジェクトの新機軸として異彩を放つ本楽曲は、プロジェクトが「見せる収納」として果たす役割を格段に広げるような、重大な役割を担っていく気がする。

ディレイがかったピアノの音が不穏なムードを引き連れたイントロは、愛が崩壊する救いようのない結末を早々に予感させている。“アンジー”の声帯が解き放つ透明感のある美しいファルセットと、緊迫感に満ちたヘヴィなバンドサウンド。まるで対極に位置する双方の対比が、バッドエンドをより一層匂わせている気がしてならない。「突き放す側」と「突き放される側」に置き換えるならば、“アンジー”の美しいファルセットが表すのは「突き放される側」の心情。一方で「突き放す側」の冷酷さを表しているのは、その強靭なバンドサウンドだと読み取れる。

〈殺戮ショー〉〈荒れ狂う狂気〉〈絶望の従順〉など切れ味鋭く磨がれた歌詞や、サビの直前に投下されるフィルも非常に荒々しく、本楽曲の持つダークなテーマ性を多方面から余す所なく表現している。そこかしこでピアノ音を聴かせるアレンジにより、ポップスとしての権威性を絶妙なバランスで醸し出しているのも巧妙だ。

最後に、Cメロ前の間奏に耳を傾けてみてほしい。シンコペーションを多用し細かく変化するリズムアプローチ、闇の世界を奔走するかのように自由にうねるベースライン。ギタリストとしての血が騒いだのかTHE BACK HORN・菅波栄純が突如登壇し、鋭利に掻き鳴らすギターソロ。1作前でエレポップに乗せて「てえてえ」を連呼させていた人物が考えたフレーズだとは到底思えないほどに、破壊的なサウンドが一斉に雪崩れ込んでくる。

「胸キュン」や「淡い恋」とはイメージのかけ離れた骨太なポップメタルでeijunが提示したのは、THE BACK HORNのギタリストとして、「闇」を切り取るディープなオルタナロックを研ぎ澄ませてきた圧倒的な経験値。超攻撃的ガールズバンド・Gacharic Spinのメンバーとコラボし、ヘヴィなサウンドを全面に押し出したトラックを生み出すことで、第7弾までとは全く違うベクトルで「見せる収納」の振り幅を拡大してみせた。

『愛の蹂躙 (feat. アンジェリーナ1/3) 』
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集合は自販機前で。「くたくた」なあなたの心を温める脱力系フォーク

『くたくた (feat. さかな)』
2021.11.26 Release

eijunプロジェクト5度目の参加となる、“さかな”をゲストヴォーカルに迎えた第9弾のテーマは、「秋の夜長に優しく包み込むヒーリング・フォークソング」。腐れ縁の「君」と過ごす時間にただならぬ居心地の良さを感じ、くたくたになるまで一緒にいたいと願う「私」の素直な胸中を、雑味のない繊細なエモーショナルフォークで描いている。曲尺は2分20秒と非常に短く、2分台の楽曲が誕生したのはeijunプロジェクト史上初。

「くたくた」の意味を辞書で引くと、「非常に疲れた状態」と出てくる。ただそれは一時的なもので、少し休憩すればまた動くことはできる程度の疲労感だ。オノマトペを用いた曲名やフォーキーなサウンドが醸し出す脱力感は、窮屈な現代を生きる全ての人々が今まさに欲しているものではないだろうか。

これまでのエイプロ楽曲から“さかな”の歌声に一貫して抱いていたイメージは「キラキラ」や「瑞々しさ」だが、今回は一変して「愛おしさ」が際立っているように感じる。キラキラでラブリーな世界観とのマッチングが実証されてきた“さかな”の歌声を、エモなフォークソングへと実験的に搭載したeijunの采配は実に見事。それに加えて、いとも容易くエモーショナルフォークを乗りこなし、自身の歌声に新たな価値を持たせてしまう“さかな”の歌い手としての資質にも、驚かされるばかりだ。

1サビ前に歌われる一節〈腐れ縁のわたしだけが/知ってる君の直し方〉で目を引くのは、「腐れ縁」という言葉。eijunは本楽曲に「くたくたな友達を励ます歌」といったテーマ性を持たせているのだけれど、楽曲内でフィーチャーされている二人の間柄は「元恋人」であるという印象を筆者は受けた。これに関しては聴き手によって意見が分かれるところかもしれないが、そう解釈させたのは〈どうせ優しくするんでしょ?/睡眠とれとか言うんでしょ?〉〈めちゃくちゃな悪口言い合おうよ 最後は熱い話〉という歌詞、また曲名にあるオノマトペ「くた」によるものだ。

〈どうせ優しくするんでしょ?〉から推測できるのは、「私」が「君」から恋人として大切に扱われ、優しくされていた過去。また〈睡眠とれ〉では命令口調となっており、こうした勝ち気な口語表現は、恋人同士の間柄であるからこそ違和感なく聞こえるものではないだろうか。〈めちゃくちゃな悪口〉を言い合えるのは、付き合っていた当時の不満が少なからずお互いに残っているためで、今こうして〈熱い話〉を語り合えるのは、将来について真剣に話し合った過去があるからであろう。

また、「くた」というオノマトペが本来持つのは、「元々張りがあったものが崩れる」という意味。ここでいう「張りがあったもの」は「恋人関係」に置き換えられ、すなわち「元々張りがあったものが崩れる」というのは「恋人関係が崩れた状態」を表す言葉だと解釈できる。『くたくた』に登場する二人は過去に別れてしまった元恋人同士ではあるけれど、くたくたになるまで遊べて、くだらないことも真面目なことも本音で語り合える関係。幼なじみでも親友でもない、何とも不思議な関係性が成熟している。これが筆者の独自の解釈だ。

仕事やプライベートで疲れを感じた際は、一度肩の力を抜いて本楽曲を再生してみてはいかがだろうか。eijun本人が手掛けたジャケットを眺めながら、クスッと笑ってほしい。肩を組んだ二人に、自販機で買ったと思われるホット缶の「しるこ」と「コンポタ」を手に持たせるチョイスは何とも絶妙で、どこか懐かしい。学生時代、冬の夕暮れ時。部活終わりの帰路に立ち並んでいた自販機の存在を思い出す。

『くたくた (feat. さかな)』
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1本の恋愛映画を見終えた後のような感動を呼ぶ、愛にあふれた涙活バラード

『きっと約束を破るだろう (feat. yucco)』
2021.12.22 Release

eijunプロジェクト、2021年の締め括りとなった第10弾は、胸が締め付けられるほどに儚くドラマチックなバラード。ゲストヴォーカルには、元々eijunの知り合いだったという“yucco”。彼女の憂いを帯びた歌声と本楽曲の持つあまりに切ないテーマ性は、この上なくマッチしている。

本楽曲の主軸となるのは、グルーヴィーなシンセベースと打ち込みドラム。そこにエモーショナルなギターサウンドや美しいハモリなどのウワモノがアクセントとして重なり、「私」の胸中でゆらゆらと揺れ動く繊細なセンチメントを表現している。「この冬もっとも愛しくて、切ない涙活ソング」と評した楽曲テーマは、まさに言い得て妙ではないだろうか。

「最愛の人を失う」といったバッドエンドで幕を閉じる恋愛映画は、日本映画史において数多くのヒットを記録してきた。近年の話題作でいえば、THE BACK HORNとコラボレーションもしている小説家・住野よるの代表作が原作となった『君の膵臓をたベたい』などが挙がるのではないだろうか。『キミスイ』は過去と現在の描写を行き来しながら物語が進んでいく風変わりな構成ではあるが、終盤で「大切な人を失う」シーンが訪れることには変わりない。本楽曲で描かれたシナリオにも、こうした恋愛映画と近しい匂いを感じるのだ。『きっと約束を破るだろう』は曲名ではなく、恋愛映画のタイトル。そう言い換えてしまっても何ら違和感のないほどに、「私」と病気の「君」を取り巻く壮大な純愛ストーリーが描かれている。

『きっと約束を破るだろう』の物語において最も注目すべきは、起承転結の「転」にあたる部分だ。ある日、主人公の「私」が好意を寄せていた「君」の病状が悪化し、長い入院生活を送ることになる。死期が近いことを悟った「君」が病室内で弱々しく発したのは、〈「僕のこと忘れて幸せになれ」〉という言葉。そんな「君」の心に寄り添うようにコードが急下降し、物憂げなサウンドスケープを描いていく。

「君」の願いを受けるのは、手を強く握りながら〈いい人見つけるから大丈夫 だからもう心配しないでね〉と、「君」を安心させるために見せた「私」の強がりだ。強がりの裏では、〈きっと約束を破るだろう 忘れない ずっと君を忘れない〉という本心が止めどなくあふれている。曲名が物語っているのは、「私」から「君」に向けた、残酷なほどに一途な想いの強さなのではないだろうか。

〈この世界の片隅で揺れている花は 君の歌だ〉〈もしも生きてくことに疲れた時は 君のあの歌 思い出すよ〉と曲中で何度も歌う「私」。あの日、あの場所で「君」が弾き語っていた歌は、「私」にとって、人生観を変えてしまうほどに魅力的なものだったのだろう。

本楽曲で注目すべきポイントは、楽曲以外にもある。“INPINE”(インパイン)がディレクションを務めたMVにみられる、緻密なこだわりだ。これまでにリリースされたeijun楽曲のMVでは、具体的な描写を描く作業はしてこなかったのだが、本楽曲では初めて「病室のシーン」という具体的な描写をMVで描くなど、新たな試みが実施されている。エイプロチームの団結力や細部へのこだわりが顕在化したMVも合わせて、本楽曲で描かれた切ない恋愛ストーリーをぜひ味わってみてほしい。

『きっと約束を破るだろう (feat. yucco)』
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新たに一歩踏み出すあなたを鼓舞する、超爽快系ロックサウンド

『スタートライン (feat. アンジェリーナ1/3)』
2022.01.05 Release

第10弾のリリースから約2週間後、年を跨いだ2022年1月5日にリリースされた第11弾。3作ぶりに、超攻撃的なガールズバンド・Gacharic Spinより“アンジェリーナ1/3”をゲストヴォーカルに迎えている。「出発/再出発を迎えるあなたにエールを」がテーマの本楽曲は、eijunプロジェクト新年1発目を飾るにふさわしいド直球のロックナンバーだ。

リズムセクションを担うのは骨太なベースとドラムで、そこにeijunのシャープなギターが絡む形で演奏されており、編成は至ってシンプルだ。サウンドをソリッドに尖らせることで、飾らない応援歌としての普遍的なメッセージ性をより強めている。ドラムと共鳴するハンドクラップも地響きのような力強さがあり、一つ一つの要素が束となり気迫に満ちたロックサウンドを生み出している。

本楽曲を一聴して感じたのは、どんな困難や理不尽な時代にも立ち向かっていく強い覚悟だ。Aメロで〈乗り越えるべき壁は結局/それぞれが越えるしかないんだ〉とあるがまさにその通りであり、「最終的にどう転ぶかは自分次第」という真理を、真っ直ぐな言葉で伝えている。“アンジー”の訴求力あふれるハイトーンボイスに乗ることで、言葉の説得力が格段と増しているのも気持ちが良い。

また本楽曲は、現代を生きる全ての人々へ届ける広義な応援ソングとしての側面と、“アンジー”の在籍するGacharic Spinを讃える応援歌としての側面という二面性を備えているように思える。コロナ禍で様々なアーティストがライブ活動の自粛を余儀なくされる中、それはGacharic Spinも同様のことだっただろう。リスナーのみならず、楽曲を歌い奏でる側にとっても、何らかの大切な意味を持つ楽曲として成熟していく。そうした過程も感じさせる楽曲だ。

『スタートライン (feat. アンジェリーナ1/3)』
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恋する奥手女子に勇気を! 甘くてドラマチックな「予告告白」ソング

『卒業式の日、告ります。(feat. みゆはん)』
2022.02.09 Release

最後に紹介するeijunプロジェクト第12弾、略して『そつこく』では、デザイナーやイラストレーター、声優などマルチに活躍するシンガーソングライター“みゆはん”をゲストヴォーカルに迎えている。eijunが菅波栄純(THE BACK HORN)名義で“みゆはん”に楽曲提供を重ねる中で、彼女の持つ音楽センスに惚れ込んだことをきっかけに、こうしたオファーが実現した。

『そつこく』はその名の通り、卒業式という特別な日に好きな人へ告白する、これぞまさにといった青春ど真ん中のラブソング。「卒業式の日、告ります!」と好きな人に宣戦布告した上で、卒業式当日にありったけの想いをぶつける——。 いわば「予告告白」が重要なテーマとなっている。定番卒業ソング『仰げば尊し』『蛍の光』の一節を男女混声で紡ぐ合唱風のコーラス、さらには大サビ前の間奏で合唱風コーラスをバックに炸裂する、らぶこめみ溢れる“みゆはん”の口上が印象的だ。これまでのeijun楽曲の中でも、より鮮明なハイライトがみられる1曲といえるのではないだろうか。

世代がバレるかもしれないが、『卒業式の日、告ります。』の意味するところが「予告告白」だと初めて理解したとき、クリエイターユニット・Honey Works(通称:ハニワ)が2013年に生み出した代表曲『告白予行練習』が頭をよぎった。これは、曲名通りに「告白の予行練習」をテーマにした楽曲だ。

告白当日のシチュエーションや二人の関係性、予告をする対象には明確な違いはあるものの、「予告した上で告白をする」といった点はどちらの曲にも共通している。『そつこく』の歌詞はeijunの実体験に基づいて書かれたもの。当時好きだった女の子との通話でeijunが「明日、告白しようと思ってる」とテンパって言ってしまった経験があり、そうした甘酸っぱい経験が『そつこく』に「予告告白」といったテーマを持たせるトリガーとなっている。卒業式の日に告白することを成り行きで予告してしまい、迎えた当日に〈出会った頃からこの瞬間も/心の中が君でいっぱいです〉と告白するまでのストーリーが、この楽曲では描かれている。

『そつこく』を聴くたびに感じるドラマチックな音の手触りの正体は何なのか。その答えは明確で、「卒業式」と「予告告白」の相性だ。「卒業式」という特別な学校行事が持つ唯一性と、軽やかなストリングスや美しいコーラス、ラブコメチックな口上などが演出する「華やかさ」あるいは「門出の祝祭感」の掛け合わせによる相乗効果。そこにさらに「予告告白」といった重要なテーマが重なることで、音の手触りがよりドラマチックに洗練されている。

曲の最後に〈告白成功したかどうか/それはここでは言えないけど/一つ言うなら物語は/卒業してもきっと続くのです〉とある。恋の行く末を聴き手の想像に委ねているのは、eijunの脳内で渦巻くラブコメへの探究心によるものではないだろうか。

『卒業式の日、告ります。(feat. みゆはん)』
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儚くも美しい愛を歌う、ファーストシーズンラストソング

『Rondo  (feat. さかな)』
2022.07.13 Release

ついに放たれた待望のファーストシーズンラストソングは、“さかな”を迎えた『Rondo』。これまで幾度となく“さかな”の変幻自在なヴォーカルに魅了されてきたが、本作ではこれまで以上に彼女のエモーショナルな歌声が存在感を表している。MVでは、花咲く広大な野原の中で両手を広げて満面の笑みを浮かべる女の子の、どこか儚さのある姿が印象的に映る。

曲名の「ロンド(輪舞曲)」が持つ意味の1つは、「多くの人が手を繋ぎ、輪になって踊る舞曲」。ヨーロッパをはじめとする海外諸国では、結婚式や祝祭で輪舞を踊る文化があった。『Rondo』の歌詞では〈大切にされるべきだ ありのままで〉〈ひとを愛する強い力が あなたの中にあるから〉など、愛し愛されることについて歌われており、曲名と相まってウェディングソングのような印象も受ける。

一方、本楽曲が持つ儚さや切なさには「別れ」の影も見え隠れする。「ロンド」は舞曲のことであると同時に、音楽形式の1つでもある。ロンド形式という音楽形式は、異なる旋律を挟みながら同じ旋律を繰り返す形式のこと。本楽曲を一度通しで聴けば、そうした構成になっていることがうかがえる。

同じ旋律を繰り返すロンド形式。そこから筆者が想起したのは、人が何度も新たな生命として生まれ変わる「輪廻転生」という概念。〈あなたのそばで生きていたかった〉という歌詞があるが、何らかの理由で「あなた」のそばでは生きられないことを表している。また〈いつの日かきっと 遠いどこかで/出会えるよ もう一度〉という歌詞では、「遠いどこか」、すなわち新たな人生を仄めかしている。輪廻転生して違う生命となっても再びあなたに会いたい——。そんな儚く切ないメッセージが込められているのではないか。

リスナーそれぞれが辿ってきた境遇によって楽曲テーマの捉え方が変わってくるのも、eijun楽曲の魅力。それが最大限に発揮されたファーストシーズンラストソングであると感じた。

『Rondo  (feat. さかな)』
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(文・潮見そら)


PROFILE
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THE BACK HORNのギタリスト・菅波栄純が作詞・作曲・編曲家として、 ソロワークをeijun名義で開始。バンドでの活動の枠に囚われずに、菅波がこれまでのキャリアで得た様々な音楽体験を自由に表現する作品を発表していくプロジェクト。

Twitter : https://twitter.com/eijun2021
YouTube : https://www.youtube.com/channel/UCx9xkrWwyjpcN2dHK1wqs0A
niconico: https://www.nicovideo.jp/user/42441839
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