優れた歌唱力と抜群の存在感を放つボーカル・アヴちゃんを中心に、ベース・やしちゃん、ドラム・ルリちゃん、ギター・ひばりくんの4人で活動している女王蜂。活動休止やメンバーの脱退・新メンバーの加入などの紆余曲折を経て、今なおより魅力的になっていくバンドだ。
女王蜂はメンバーの性別・年齢・国籍・本名などの基本的なプロフィールをすべて伏せているが、そんなことはどうでもいいと思わせてしまうくらい楽曲やライブパフォーマンスが圧倒的で、永遠にぶれない独自の世界観は多くのファンの心を鷲掴みにしている。
恥ずかしながら個人的に知っていたのは初期の楽曲『デスコ』だけで、しかも初めて聴いた時はその強烈なインパクトをうまく受け入れることができず「苦手な音楽」とカテゴライズしてしまっていた。
しかしその意識は後にひっくり返ることになる。そのきっかけが、女王蜂が2017年にリリースした『DANCE DANCE DANCE』のMVだった。
2017年、『DANCE DANCE DANCE』
耳に残るキャッチーさ、歌の聴きやすさ、80年代を彷彿とさせる衣装、そしてフロントマンであるアヴちゃんの動作や目線の使い方、MVの世界観、カメラワークや光の使い方の妙。
それは、女王蜂を勝手に「苦手な音楽」と思い込んでいた自分に平手打ちをかましたいほど格好良く本当に衝撃的だった。
それからは『デスコ』後の空白を埋めるように今までのMVを観て、楽曲をさかのぼり、アヴちゃんのInstagramをフォローし、インタビューを読み、女王蜂の魅力にすっかりハマっていくのだった。
完全復活から現在まで
ここからは少しだけ女王蜂の歴史をさかのぼっていく。2015年リリースの『ヴィーナス』は活動を再開させてから発表された最初の楽曲だ。
- 【MV】 女王蜂 『ヴィーナス』
復活後の第一弾にこんなにパワフルな楽曲をリリースするのは流石としか言いようがない。印象的なギターフレーズはこの楽曲から正式にメンバー加入したギター・ひばりくんが自分で考えてきたと、後にインタビューでアヴちゃんが語っている。歌詞もメロディーも転調の仕方も「ザ・女王蜂」な楽曲で、この「女王蜂らしさ」はここから更に磨かれ純度を高めていく。
次にリリースされたのは思わず踊りたくなる『スリラ』。
- 【MV】 女王蜂 『スリラ』
高音と低音を自在に操るこの曲での歌は、アヴちゃんにしか歌えなく、女王蜂でしか成り立たない、とリスナーに思わせるほど唯一無二な楽曲であると言える。
そして2017年にフルアルバム『Q』を発表。MVで打ちのめされた前述の『DANCE DANCE DANCE』、2015年の『スリラ』を更にブラッシュアップした『超・スリラ』、2016年の『金星』に新たに女性アーティストのDAOKOを迎えた『金星 feat.DAOKO』など、聴きごたえのあるアルバムになっている。
2018年にはEP『HALF』をリリースし、表題曲は同年放送のテレビアニメ『東京喰種トーキョーグール:re』のエンディングテーマとして多くのリスナーの耳に届いた。
- 【MV】 女王蜂 『HALF』
2019年に『火炎』がテレビアニメ『どろろ』のオープニングテーマになり、そして同年リリースのフルアルバム『十』に収録されている楽曲『聖戦』は映画『貞子』の主題歌として、『Introduction』は映画『東京喰種【S】』の主題歌としてそれぞれ起用された。
- 【MV】 女王蜂 『火炎(FIRE)』
- 【MV】 女王蜂 『聖戦(Holy War)』
- 【MV】 女王蜂 『Introduction』
女王蜂の「芯」
以前、ボーカル・アヴちゃんが「情熱を持ち、何事にも全力で取り組む」という内容のことを言っていたのをネットで見てハッとした。この人は「自分を追い詰める系の」頑張りではなく、自ら進んで頑張ることを選んでいる。そういった気持ちで物事に向かう人を知ったのは初めてだったので驚いた。
10代でデビューした女王蜂は様々なことを乗り越えてここまで走ってきた。
楽曲に関する評価は勿論、バンドとしての動向やその在り方に対する批判は、恐らく我々普通の人間には想像もできないものだったと思う。だがそういった砂嵐のような評価や批判、活動休止やメンバーの脱退など多くの困難や苦悩があっても、女王蜂は折れなかった。
後にアヴちゃんはインタビューで「歌うことを諦めきれなかった」と語っており、絶対に折れないしなやかで強靭な「芯」が女王蜂には存在していることがその一言で充分に伝わってきた。
そして、『アウトロダクション』
『アウトロダクション』は伸びやかな歌声と心に刺さる歌詞の印象的な、どこまでも広がっていく光のような力強く美しい楽曲だ。
- 【MV】 女王蜂 『アウトロダクション』
生きていくことは簡単ではなくて、自分らしく生きていくことはもっと難しい。
全ての人間はそれぞれしんどさや孤独感を抱えていて、それは絶対に他の人間に理解されることはない。何故ならみんな、誰もが自分とは「違う人間」だからだ。
それでも女王蜂は音を鳴らし歌う。
「あなたのしんどさはわたしたちには理解できない。でも、わたしたちはあなたをそのまま受け入れる。だから生きていこう。わたしのままで。あなたのままで。」
女王蜂が多くのファンに支持される理由はアイコン的な存在感や歌唱力、楽曲やライブパフォーマンスの素晴らしさだけではなく、そういったメッセージを真っ直ぐに表現しているからであると感じている。
女王蜂は、次はどんな世界を見せてくれるのだろう。ひとりのファンとして、今を生きる同じ人間として、新しく目の前に現れるであろう優しい光を、とても待ち遠しく思っている。
(文・望月柚花)
『BL』
女王蜂
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