読書の秋に。同じ景色が見えてくる、おすすめの音楽と小説5選

望月 柚花

望月 柚花

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音楽と小説はどこかで繋がっている気がする。そう思ってこの記事を書いた。なんとなく似ている、この音楽からあの本を連想する、同じテーマを扱っている、といった作品を5つほど集めた。

掲載している歌詞の一部は、かなり個人的解釈ではあるが特に近しい世界観を表現していると思ったものだ。


1000年経っても変わらないもの
きのこ帝国『東京』×川上弘美『おめでとう』

・きのこ帝国(きのこていこく)
2007年に結成された邦ロックバンド。2015年メジャーデビュー。インディーズ時代から独自の世界観の楽曲を発表し、多くのリスナーから支持を受けている。2019年現在は活動休止中。

・川上弘美(かわかみひろみ)
1958年東京都生まれの小説家。1994年に「神様」で作家デビュー。1996年に『蛇を踏む』で芥川賞受賞。『センセイの鞄』『神様2011』『猫を拾いに』『ニシノユキヒコの恋と冒険』『古道具 中野商店』など現在に至るまで多くの小説を発表。

窓から光が差し込む
あなたに出逢えた
この街の名は、東京

きのこ帝国『東京』 歌:きのこ帝国 作詞作曲:佐藤

そう歌い終わるきのこ帝国の『東京』は、2014年リリースのアルバム『フェイクワールドワンダーランド』に収録されている楽曲だ。現代の東京での、少しだけさみしい愛の歌。

川上弘美の短編集『おめでとう』(新潮文庫)の表題作は、西暦3000年の1月1日の東京が舞台になっている。日常の中の愛が5ページ程度のとても短い文章で巧みに表現されているこの作品は、明確な描写を避けてはいるが、おそらく何かしらがあり人間がほとんどいなくなってしまっている世界だ。ぼろぼろの「トウキョウタワー」が出てきて、そこに現在の東京の面影はない。

双方とも全く違うストーリーなのに、そこには自分の大切な人が間接的に描かれている。1000年経とうが、東京が無くなろうが、そこに「誰かを愛すること」は残るのかもしれない。そう思った。

必要な居場所、あるいは待避所
uyuni『Blueberry Gum』×華恵『小学生日記』

・uyuni(うゆに)
SNSをベースに活動しているピンクのロングヘアーが印象的な女性ラッパー。トラック制作を自分で行い、別名義でトラックメイカーとしても活動している。

・華惠(はなえ)
1991年アメリカ生まれのエッセイスト・モデル。2014年、東京藝術大学音楽学部音理科卒。繊細な文章で書かれたエッセイ『小学生日記』を、小学6年生の時に出版。

ランドセルを背負ったあの玄関前
写真だけが残って
ガードレールの白さはもう
手には残っていない…

uyuni『Blueberry Gum』 歌:uyuni    作詞作曲:uyuni

華恵のエッセイ「小学生日記」は、学校での出来事や、友人や兄との関係、母親と行くフリマのこと、そして受験勉強といった、日々の生活が瑞々しい感性で綴られている。

10代という多感な時期には、家と学校以外の居場所が必要だと思う。楽器でも歌でも、音楽を聴くことでも、読書でもいいし、絵でも写真でもいい。好きなアーティストを追いかけたっていいし、好きなこと・没頭できることならなんだっていい。人は成長するにつれて様々な面で傷つくし、それは避けては通れないから、逃げ場が必要なのだ。

親にも先生にも友達にも誰にも言えない、苛立ちや孤独感、焦燥感、悲しさ、寂しさ…そういったものを、そこでなら発散できたり表現できたりもする。それはその後の人生に大きな影響を与える、というか、大人になった時にそれ自体が待避所になることがある。

uyuniの楽曲『Blueberry Gum』を聴くと、自分が10代だったころを思い出してしまうし、華恵のエッセイを読んでも自分の10代思い出してしまう。両作ともあの時期特有の不安定さを見事に表現している秀逸な作品であると言える。

日常を慈しむこと
ZORN『My life』×森友治『ダカフェ日記』

・ZORN(ぞーん)
東京都葛飾区出身のヒップホップMC。

・森友治(もりゆうじ)
1973年生まれ。福岡生まれ・育ちのカメラマン。写真とグラフィックデザインを生業としている。

お前らの為と思わねぇ
そうじゃなくて お前らのおかげ
なんつーか 生きる意味を痛感
心が揺さぶられる瞬間

ZORN『My life』 歌:ZORN   作詞:ZORN   作曲:DJ OKAWARI

森友治の写真集『ダカフェ日記』は、家族との写真に短い言葉が添えてあるあたたかな写真集だ。ジャンル的には小説には入らないが、ZORNの楽曲『My life』とリンクする部分があると思い紹介させてもらう。

両作に通じるのは、自分の生きかたや家族との日々を大切にしているということ。「当たり前の幸せは、決して当たり前ではない」と知っている人にしか撮ることのできない写真と、書くことのできない歌詞。ZORNの楽曲と森友治の写真からは、明るい光とやわらかさ、そして生活に伴う少しの疲労と、それを大きく上回る幸せを感じる。

自分とは一体誰なのか
女王蜂『FLAT』×川上未映子『乳と卵』

・女王蜂(じょおうばち)
2009年結成、2011年メジャーデビューの4人組バンド。全てのメンバーの本名、性別、年齢が一切公開されていない。ボーカルのアヴちゃんの音域の広さ、力強く安定した歌唱力、ライブなどでの圧倒的なパフォーマンス、それを支えるメンバーの演奏は、現在も多くのファンを魅了している。

・川上未映子(かわかみみえこ)
1976年大阪生まれの小説家。2007年『わたくし率イン歯ー、または世界』でデビュー。2008年に『乳と卵』で芥川賞受賞。

この膨らみがなければ
Tシャツ一枚で着れば
第二次成長 大惨事
ご静聴ありがとう
笑えないジョーク

女王蜂『FLAT』 歌:女王蜂 作詞作曲:薔薇園アヴ

川上未映子『乳と卵』は、豊胸手術を受けることしか気持ちが向いていない母親と、子供から女性へと変わっていく自分を不安に思う思春期の娘との、すれ違い、反抗、衝突、そしてそこから始まっていくものの物語である。

女王蜂の『FLAT』も川上未映子の『乳と卵』も、第二次性徴期を迎え、女の子から女性へと変化していくことに対する不安や、その変化に対する気持ち悪さを表現している。

女の子から女性になることで、自分というアイデンティティーが壊れてしまうかもしれない、というような、そんな恐さ。そして性への強い興味と嫌悪感。そういったある時期特有の心情を、手法は違えど、どちらも非常に高いレベルで表現している。

恋はいつだってうまくいかない
泉まくら『balloon』×角田光代『愛がなんだ』

・泉まくら(いずみまくら)
福岡県在住の女性ヒップホップMC。2012年『卒業と、それまでのうとうと』を術ノ穴よりリリースしデビュー。若い女性の視点を瑞々しく表現したせつない歌詞が多い。

・角田光代(かくたみつよ)
1967年神奈川県横浜市生まれの小説家。1990年に『幸福な遊戯』で海燕新人文学賞を受賞しデビュー。2005年『対岸の彼女』で直木賞受賞。代表作は『キッドナップ・ツアー』『愛がなんだ』『空中庭園』『八日目の蝉』『紙の月』など。

向こうから聞こえるブランコの軋む音と
ひっかかった風船の行方と
なに線で帰るかも知らない君のことと

泉まくら『balloon』 歌:泉まくら 作詞作曲:泉まくら

恋をすると、理論というものは通じない。

角田光代『愛がなんだ』は、自分のことを好きではない男「マモちゃん」を好きになってしまい、何もかもを犠牲にしてしまうOLテルコの話だ。

正直に述べると、泉まくらの『balloon』と角田光代の『愛がなんだ』は、歌詞やストーリーから同じ景色が見えているわけではない。だがそれでもこの二つの作品を「似ている」と感じてしまったのは、多分どちらもうまくいっていない恋、そしてそれに付随する寂しさや不安や憤りや恐怖心が描かれているからだと思う。好きなのにうまくいかない、という苦しさと絶望感も、両作に共通するテーマだ。


音楽と小説というくくりで選ぶと、普段とはまた違った聴きかたや読みかたができるし、様々な視点から作品を聴く・読むことができ、興味深かった。今回は邦楽のみだが、洋楽と合う日本の小説を探してみても面白いかもしれない。

読書の秋であることだし、これを読んだあなたもぜひ、好きなアーティストや好きな曲に合う小説を探してみてほしい。新たな発見があることだろう。

(文・望月柚花)