2020年9月5日に開催されたオンラインサーキットイベント『GOOD PLACE』。先の見えないコロナ禍の中、それでも音楽を止めまいと全国5か所のライブハウスを同時中継して開催されたイベントだ。
昨年、本メディアでもその詳細を紹介したが、今回このライブの模様を描いたドキュメンタリー映画『DOCUMENTARY OF GOOD PLACE-Live Together,Rock Together-』が完成。
コロナ禍での音楽業界のリアルな現場や人々の様子を描いた非常に貴重な映像ともなっており、現在はイベントの舞台となった全国5か所のライブハウスで巡業上映会を行っている最中である。
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コロナ禍の今を映し出す、UGICHIN初監督長編ドキュメンタリー映画
映画『DOCUMENTARY OF GOOD PLACE-Live Together,Rock Together-』予告編
イベント主催兼本映画の総監督を務めたのは、映像作家のUGICHIN(ウギチン)。Hi-STANDARD「GROWING UP」やスピッツ「スターゲイザー」、東京スカパラダイスオーケストラ「DOWN BEAT STOMP」、HUSKING BEE「新利の風」など、これまでに様々なアーティストのMVを手掛けた音楽業界では知る人ぞ知るクリエイターだ。
「主役はライブハウスだ」というコンセプトを掲げた今作では、先述のオンラインイベント『GOOD PLACE』当日の各地のライブハウスの現場。そしてイベント関係者の日々の暮らしや、今まさに音楽業界の第一線で活躍し続けるアーティストたち。多くの音楽業界に携わる人々の、コロナ禍での今がリアリティを持って描かれている。
リアルライブの代替案として生まれた配信ライブ。それに対するアーティストの生身の声や、ライブハウス側の声も包み隠さず本作では映し出す。当然是もあれば非もあり、どれだけ過酷なコロナ禍の状況も、音楽業界にとっては今やそれが至って当たり前の日常だ。
ドキュメンタリー映画故に、派手な脚本や観客を魅せる物語は当然ない。だからこそ映画を見た人にはそれぞれ、十人十色の感想を抱えて欲しいとUGICHINは語る。
今回はそんな本作に関して、制作に際しての心情や秘話をインタビュー。音楽に携わる人々、音楽を愛する人々すべてが当事者の一人であるこの映画について、監督自ら存分に語ってもらった。
配信ライブのドキュメンタリーから、コロナ禍に生きる人々の記録映像へ
——先日の松山の上映会ではありがとうございました。企画の発端や映画製作の動機などはすでに他でお話頂いていると思うので、今回はもう少し深い所の話をできればと。まず映画は9月のイベント当日を撮影したあと、後日ご自身で各地方に足を運んで撮影に及んだと聞きました。
UGICHIN: そうですね、ライブ当日僕は東京にいたので。ただ、イベント当日の映像だけだと、「いろいろあったけど頑張って楽しくやりました」で終わっちゃうと思って。なのでやっぱり自分で行って、出演アーティストとかライブハウスに携わる人とか、その場所の人たちに自分が聞きたいことを聞きたいな、と思ったんですよね。
——映画では音楽業界の人だけでなく、ライブハウスにいる方と繋がっている飲食店の経営者や、出演アーティストでもあった学生の方とか、いわゆる「普通の方」にもたくさんご出演頂いてますよね。
UGICHIN: 撮った映像を見たり逐一変わるコロナ禍の状況を見てて、「これはライブハウスの配信ライブを題材にはしたけど、もうそれだけのことじゃないな」と思い始めて。いろんな地域の人がどう暮らしてるか、っていうのを皆で共有できたら面白いだろうな、という方向に思考がシフトしたんですよね。
——イベント当初は配信ライブの密着ドキュメンタリーになる予定だったものが、「思ったよりこれ状況悪いんじゃね?」って所から、音楽シーンに限らず広義でコロナ禍に生きるカルチャーシーンの人々を記録する方向になった、と。
UGICHIN: そう。もちろん全国5か所のライブハウスの様子だけでも十分面白いものではあったんだけど。映画で伝えるべきことは「こんなイベントやりました」だけではないなと思って、実は地方取材に行った時期も方向性に悩みつつ行った感じだったんですよね。結果行ってよかったですけど。
地方に行って初めて経験した「目の前で自分の存在を怖がられる」という体験
——そんな地方取材で、特に印象的だった出来事はありますか?
UGICHIN: 松山で取材した CD ショップ店長の石井さんとのインタビューかな。それまでも他県でいろんな人に会ったけど、なんだかんだわりと和気藹々とした雰囲気で。ただ石井さんに関しては、最初に会った瞬間から構えられている感じがあって。
——構えられている感じ?
UGICHIN: 話を聞くと「本当は東京から来た人と会うことが少し怖かった、でも今日はお約束したし、日々自分の気持ちも変わるから」と。でもそれを聞いた時にああそっか、ってすごく思って。
——そうですね。地方に住んでいると、東京の方に警戒心がある方にはものすごくあるのを感じます。
UGICHIN: もちろん噂や話は聞いてたけど、ほんと話に聞いてるだけで。自分のことをそう思う人に直接会ったこととか、初めて目の前の人に怖がられたという経験が、自分の中ではものすごく大きかったですね。噂に聞くのと当事者になるのはやっぱり全然違って、当たり前のことが抜けてたな、と。
だから、それ以降の地方取材は地方の方にすごく気を遣うようになったし。取材も今回の全国の上映会も、ちゃんとPCR検査受けてから行こう、とか考え方が変わったから。そういうことに気付けたのは石井さんや地方の人たちと直接会ったおかげで、本当に感謝してます。もちろん今は石井さんも心を開いてくださってますけどね。
——東京と地方の意識の違いって、こうして直接お話しないと実際の所がわからなかったりしますもんね。
UGICHIN: 当然だけど、皆それぞれ環境や考え方は違うから。だからこそ今こうするべき、ああするべきって強い主張をしている人を見ると、俺はそれは違うなって思っちゃう。結局どうするかは自分で決めるしかないな、って。
それでもやっぱり、一歩外に出て人と直接会ったからこその気付きもたくさんあって。外に出なければそれが一番安全だし、正しいとは思うんだけど。しっかり感染対策もした上で人に会いに行くと…元気になるよね、やっぱり(笑)。会って大丈夫かなってちょっと悩んだり、呼ばれたけどどうしよっかなって迷うこともあるけどさ。
——ドキュメンタリー映画の性質上、それを見て皆さんが感じることって多種多様でいいと思うんですけど、その中でも強いて映画を通して伝えたいことと言うならば、そういった部分になるんでしょうか。
UGICHIN: 映画を作る中で見えてきたのはそこだったかな、っていう。音楽とか配信に限らず、このコロナ禍でやりたいことがあったらちょっとでも進んでもらえたらいいなって。
まだまだ続くコロナ禍、それでも「やりたいこと」という希望を携えて
——ライブハウスの方を始め、今まさに大変な飲食店の方々も、このコロナ禍でそれでも「やりたいこと」をお話されているのは確かに非常に印象的でした。
UGICHIN: まあ俺自身も、いい年してこうやって映画を自主制作してるので(笑)。やりたいことではあるけど本当に孤独な作業だし…もちろん大勢の人に支えてもらってもいるんですが。
今回の作品も、配給会社もなにもなく全ての総監督が俺1人なんですけど、映画って何なのって考えた時に、大きな配給があるとか予算があることが全てじゃなくて。これだって立派な映画だし、いろんなやり方があるし。バンドもそうだよね。今はいろんな発信の仕方や活動の方法があるし。
——表現の幅や活動の幅はものすごく広がりましたよね。
UGICHIN: その中で自分なりのやり方で、作って広めていければいいなと思ったから。こうやって目の前で興味を持ってくれる人がいることが真実だからさ。
もー散々いろんな所に無視されてるからね(笑)! あれだけMVで頑張ってきてキャリアも積んでいろんな人も協力してくれたのに、映画作るっつっても反応なくて。逆に火が付いちゃうね(笑)。
——反骨心がむき出しになりますね(笑)。ちなみに今後の全国の上映会は、6/16の大阪Pangea、6/25の苫小牧ELLCUBE、7/3の桜坂セントラルが残っているかと思うんですけど。その後の上映の予定はいかがでしょう?
UGICHIN: これも結局自分で売り込んでいくしかないし、あるいは自分でやるしかないので。上映してくださる映画館は常に募集していますし、単発での上映会開催なんかも連絡頂ければぜひ協力させて頂きますね。
——それこそライブハウスでの上映や、飲食店のプロジェクターで上映しながらご飯を楽しむ、なんてことが今後できるようになるといいですよね。
UGICHIN: あとは一応自分たちで動いて、今現在7月に渋谷のミニシアターで数日間上映予定があります。そういうのを今後も自分たちでやりながら、地道に少しずつ上映回数を重ねられたら、という感じですね。
(取材/文・曽我美なつめ)
PROFILE
UGICHIN(ウギチン)
1971年東京都出身、1995年にHi-STANDARD「Growing Up」のミュージックビデオで監督デビュー。日本の90年代パンクシーンの映像を中心にスピッツ、Cocco、安室奈美恵など現在まで数多くの作品を監督している。音楽シーンで活動してきたキャリアを武器に今回、初の長編ドキュメンタリー映画を完全自主制作で作り上げた。
INFORMATION
『DOCUMENTARY OF GOOD PLACE-Live Together,Rock Together-』
「主役はライブハウス!」
ミュージックビデオ・ディレクターUGICHIN初監督長編ドキュメンタリー映画。全国5都市のライブハウスを舞台に日本の現在地を探るミクスチャームービー。
コロナ禍で行われたオンラインサーキットイベントに日本全国から5つのライブハウスが集結。イベント当日の模様や、その街で暮らす人々の生き方や考え方を通して日本の現在地を探る物語。監督UGICHINの声がけによる、バンドマンや音楽プロデューサーのインタビューも収録。現在進行形であり全世界が直面している問題を題材にした、音楽ファン必見の今しか映し出せないドキュメンタリーである。
参加ライブハウス
桜坂セントラル(沖縄)、松山サロンキティ(愛媛)、心斎橋Pangea(大阪)、新宿LOFT(東京)、苫小牧ELLCUBE(北海道)
インタビュー出演
HATANO(HAWAIIAN6)、磯部正文(HUSKING BEE)、猪狩秀平(HEY-SMITH)、渡辺淳之介(株式会社WACK代表)、TAKUMA(FOR A REASON)
作品情報
監督・撮影・編集:UGICHIN
制作:FOOLISH GLORY STUDIO
128min / 16:9 / カラー / 日本語
お問い合わせ
info@foolishglorystudio.com