SYNCHRONICITY ‘22 インタビュー&ライブレポート|出演オーディショングランプリに輝いたKinami / UCARY & THE VALENTINE

三橋 温子

三橋 温子

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コロナ禍を経て3年ぶりの有観客開催となった都市型ミュージック&カルチャーフェス『SYNCHRONICITY(シンクロニシティ)‘22』。エッジーな新世代アーティストを多数ラインナップする本フェスならではの企画として今回注目されていたのが、音楽配信サービスTuneCore Japanとのコラボによる出演オーディションである。

日本のインディペンデント音楽シーンをサポートする目的のもと開催されたこのオーディションの対象者は、法人レーベルやマネジメント事務所と契約していない個人のアーティスト。

「このコロナ禍でライブができずに解散していく新人バンドをよく見かける。日本の音楽シーンに空白の時間ができつつあることが悔しい。出演オーディションを通じて、いま必死に努力しているフレッシュで素晴らしいアーティストたちの音楽を届けたい」。SYNCHRONICITY主催者である麻生潤氏の想いは、2名のグランプリ受賞者によって受け継がれ、当日のステージで見事に体現された。

グランプリに輝いたのは、沖縄出身のバイリンガルシンガーソングライターKinami(キナミ)と、シンガーソングライター・トラックメーカー・モデルなどさまざまな顔をもつUCARY & THE VALENTINE(ユカリ・アンド・ザ・ヴァレンタイン)。ここでは彼女たちの音楽や素顔に迫るインタビューとともに、当日のライブレポートをお届けする。

cover photo by yuuki oishi, Momoko Maruyama


Kinami
「みんなの心がオープンになる、セラピーのような音楽を世界に届けたい」

4月2日(土) O-EAST SECOND STAGE

kinami

photo by yuuki oishi

インターナショナルな環境が育てた、存在感あるアーティスト

初日の午後、O-EAST上手のサブステージに現れたKinamiはすでに存在感を放っていた。ロングヘアに個性的なアイメイク、思わずドキッとさせられるタイトなミニスカート。リハの段階から全身をフルに使って音楽を表現する様は、2年ぶりのライブ出演とは到底思えないほどリラックスして見えた。

沖縄に生まれ、インターナショナルスクールで育ち、アメリカのバークリー音楽大学に通ったKinamiは、日本語より英語を流暢に話す。楽曲は全英語詞、MCも英語混じりだ。

リハからシームレスに始まった1曲目は、大切な人の傷ついた心をやさしく包むミドルナンバー『Blue Sapphire』。TikTokで話題沸騰、全国のファミリーマートでもパワープッシュ曲として放送されたデビューシングルをソウルフルに歌いあげ、ハンズアップで反応するオーディエンスを「Yes! Amazing! もっとみなさん!」と煽る。サポートのKey.壷阪健登とBa.齋藤大陽はバークリー時代からの音楽仲間。Dr.直井弦太を加えた4人で音を合わせたのは、この日の朝が初めてだったというが、そんな事実を微塵も感じさせないグルーヴで次曲『Sun Kissed Baby』へと突入していく。

堂々たるプロローグのあと、「How are you doing? お元気ですか!」「すみません、英語の訛りと沖縄の訛りがミックスして…チャンプルー」とチャーミングなMCで会場を笑わせたKinami。その天真爛漫なキャラクターは、大人びた歌唱で魅せる彼女がまだ20代前半であることを不意に思い出させるが、今年3月にリリースされた『Who』を歌い始めた瞬間に再び頭から消え去ってしまった。〈You’re in love with who〉と裏切られた恋を歌う彼女からは、悲しみとも怒りともつかない成熟した女性特有の諦念の色が見てとれた。

ステージ上で自分にどれだけ正直になれるか

「2年ぶり、しかも初めて全曲オリジナルのライブだったので少し緊張したけど、ステージに出てみたらアットホームで心地よくて。サポート3人とのケミストリーがとてもいい感じで、アレンジメントの不安がなかったおかげもあるかも。自分が目指すアーティスト像にはまだまだたどり着けていないけど、SYNCHRONICITYに出演できて、アーティストとしてのアイデンティティが前よりクリアになりました」

ライブ後のインタビューで、Kinamiは英語を交えながらそう語ってくれた。ライブでとくに印象に残っているナンバーを聞くと、挙げたのは4曲目の『Free』。いじめ、セクシズム、レイシズム、あらゆる抑圧から人びとを解き放つように両手を広げて〈I am free〉と歌いあげる姿に、たしかに会場の空気が一変した。隣のメインステージで出演準備をしていたTENDREまでもが彼女を見つめ、のちの彼自身のステージで「Kinamiさん、よかったですね」と賛辞を送ったほどである。

「小さいころ、お母さんがドライブ中によく音楽をかけていて、そのなかでいちばん“感じた”ジャンルがR&Bやソウル。人に感じさせる音楽を届けるには、アーティスト自身が感じることが大事だと思っているので、ライブではそこを意識しています。ステージ上で自分にどれだけ正直になれるか。友だちに本音で悩みを相談したら相手も打ち明けてくれるみたいに、自分がいちばん正直に感じてパフォーマンスすれば、みんなも心を開いてくれる。ライブはコミュニケーションだから」

そんな彼女が最近注目しているアーティストは、ブルックリンのシンセポップユニットChairliftで活躍したCaroline Polachekと、ジャマイカ人の父と中国人の母をもつイギリスのシンガーソングライターGriff。いずれもセルフプロデュース力に優れた存在感あるアーティストだ。

「Caroline Polachekはビジュアルや音の遊びがユニークで、自分も自由にやっていいんだと思えるアーティスト。今年サマソニにも出るGriffは、聴きやすくてメッセージ性のある作詞作曲に注目しています」

photo by yuuki oishi

留学やコロナ禍で自分と向き合い、見えてきたビジョン

5月にリリースされた5曲入りEP『ご自愛』収録の『i was ur girl』、そして最後は“嫉妬”をテーマにしたセカンドシングル『Jealous』で30分間のステージを締めくくったKinami。オーディエンスのフィンガースナップにのせて、歌詞一言ひとことを大切に表現しながら、湿度高めのアダルトなナンバーを歌いきった。

「アメリカに留学して学んだのは、自分にもっと自信をもつこと。自分の意見をもっとシェアしてもいいんだと思えたし、自分らしくいればそれだけでユニークだから、無理にがんばらなくてもいいとも思えたんです。大学ではみんなクールでトレンディな音楽を探していて、それも自分のレパートリーやボキャブラリーを増やすためには大切なんだけど、自分が本当にやりたいことを見失っている場合もあって。わたしも『この人に評価されたい』という気持ちを優先してしまっていた。帰国後、コロナ禍で考える時間ができたので、自分ときちんと向き合うことで、アーティストとして大切にしたいバリューをクリアにしていきました」

アーティストとしてのバリュー。自分と向き合い導き出したそのビジョンを、彼女は“セラピー”という言葉を用いて表現した。

「日本では浸透していないけど、アメリカではみんなふつうに受けている。わたしもセラピーを受け始めて、自分の音楽がセラピーのような存在になったらいいなと思ったんです。みんないろいろな気持ちを抱えて生きているけど、もっとオープンにしていいし、もっとヘルプを求めていい。わたしの曲を聴いて泣いたり、愛する人のことを考えたり、みんなが心を開いて自由に表現できる環境を世界中につくっていきたいです」

Kinamiの歌には意志がある。SYNCHRONICITYのステージを観てなぜそう感じたのか、合点がいった。歌唱力、表現力、音楽的センス、それらの土台を超越したところにこそ彼女の真の魅力がある。音源ももちろん聴いてほしいが、願わくはライブで、生身の彼女との感情のキャッチボールを体感してみてほしいと強く思う。


【Setlist】
1. Blue Sapphire
2. Sun Kissed Baby
3. Who
4. Free
5. i was ur girl
6. Jealous

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☞ Kinamiのプロフィールを見る

UCARY & THE VALENTINE
「一緒に音楽をする人が輝いてくれてこそ、わたし自身も輝ける」

4月3日(日) O-EAST SECOND STAGE

photo by Momoko Maruyama

初めて立ったフェスのステージ

「いままででいちばん気持ちよく歌えました」。SYNCHRONICITYでのライブの感想を尋ねると、晴れやかな顔でそう即答した。浮遊感のあるやわらかな声色と、やや関西訛りの不思議なイントネーション。おとぎ話から出てきた主人公のような佇まいがUCARY & THE VALENTINEにはある。

「ほどよい照明加減でお客さんの顔がしっかり見えて、やさしいエネルギーがいっぱい飛んできて。『わたしの歌で人と人をつないでいきたい』という想いがかたちになったような雰囲気を感じて、最後うるっときてしまいました。最近ライブがあまりできていないうえに、フェス出演は今回が初めて。このステージをくださったTuneCore Japan さんとSYNCHRONICITYさんには感謝しています」

短いリハ後、Key.中村圭作のミニマルなピアノにのせて囁くように『If』を歌い始めたUCARY。オーバーサイズのシックなセットアップを着こなす黒髪の彼女は、金髪やピンク髪のパンキッシュなイメージとはまた別の魅力を放ちながら、暗い海底を遊泳するように歌を紡いでいく。

「ありがとうございます。『If』という曲でした」と短く挟み、シェイカーを手にして『To You』、そして日本語詞の新曲『Biomas』へ。徐々に声量が上がり、鍵盤も次第に熱を帯びていくなか、UCARYは歌いながら不意にジャケットの肩を落として華奢な腕をのぞかせる。強い感情に突き動かされたかのようなその仕草に、オーディエンスが息を飲むのを肌で感じた。

ユニークな音づくりから生まれる、Key.中村圭作との化学反応

「フェスの雰囲気やほかの出演者をふまえて、ちょっとぶっ飛んでいる変わった曲も受け入れてくれそうだと思ったので、そういう新曲たちを混ぜたセットリストにしました。前半はみんなの反応を見てみたいゆったりとした曲や、YouTubeにMVがアップされている曲。後半は声をどんどん張っていけるような曲。今回のオーディションでエントリーした『aiaiaiai』という曲も、音源より3つくらいキーを上げてアレンジし直して。暗いところから温かい多幸感のあるところへ導いていくような、抑揚をつけたステージにしたかったんです」

ノースリーブ姿になり、鳥肌が立つほどの声量で叙情的に歌いあげた『SHADOW』。「ちょっと不思議な曲をやります」と前置きし、独特のメロディと歌詞とブレスの入れかたで会場を惹きつけた『Garden State』。UCARYのステージは静から動、動から静へと自在にうねる。そしてクライマックスを迎え披露されたのは、愛をこのうえなくやさしく歌う新曲『aiaiaiai』。

「最初は、好きな人に向けて書いた手紙のような曲でした。まず(中村)圭作さんに歌とBPMを送ってピアノを自由に入れてもらったんですけど、ギターを入れたくなったので山本幹宗さんに好きに入れてもらって、ベースの村田シゲさん、ドラムのRyo Takahashiさんにも同じようにお願いして。そんな流れでレコーディングしたので、わたしがひとりの人に歌った曲から、みんなの愛が集まった曲になりました。悲しいことが多いこの世界だけど、聴いてくれたみなさん一人ひとりが、それぞれにとっての愛を感じられる曲になっていると嬉しい」

木村カエラやtoeもサポートする中村とは、ここ1年ふたりで曲づくりやライブをおこなってきた。当初、UCARYがデモや既存曲を中村に送って「好きにアレンジしてほしい」「ソリッドにしたいけどジャズセッションみたいな雰囲気にもしたい」と依頼すると、「じゃあ歌とBPMをください」と言われたという。以来、UCARYが送る歌とBPMに中村が自由にピアノを入れるというスタイルが、ふたりの定番になった。「化学反応がすごいんです」とUCARYは言う。

「最後に『Time Loop』という曲を熱唱します!」と茶目っ気を見せつつ披露したラストナンバーは、2018年の初フルアルバム収録曲。切なくも伸びやかな歌声をピアノが繊細に締めくくり、全7曲のステージは終了した。

UCARY & THE VALENTINE

photo by Momoko Maruyama

ミュージシャンというよりアーティストになりたい

音楽を始めたのは15歳。高校時代に組んでいたバンド・THE DIMの解散後、兵庫から上京し、メジャーレーベルに所属してソロ活動をスタート。ほかのアーティストのコーラスやゲストボーカル、ファッションアイコンとしての仕事も増えるなか、2016年に自主レーベルを立ち上げてフリーに。自身の楽曲をつくりながらも、くるり、銀杏BOYZ、the HIATUS、木村カエラなど多くのアーティストとコラボするUCARYは、人生の半分を音楽活動に捧げている。

HOLEやMarilyn Manson、CSSやYeah Yeah Yeahsなど多様な音楽を聴いて育ち、耳に入る音楽すべてからインスピレーションを受けているという彼女だが、もっとも影響を受けたのはPsychic TVのボーカリストのGenesis P-Orridgeだという。

「バンドを軸にファッションやアートなどいろんなカルチャーをつくった人。パフォーマンス、アートワーク、マーチャンダイズ含めてすごく影響を受けました。わたしは音楽が大好きで音楽活動をやっているけど、いちばん得意なアウトプットが音楽だったというだけ。それ以外にも大好きなことがいっぱいあって、それに影響を受けて曲をつくることもある。最近は物販にハマっていて、小さいころから集めていたヴィンテージのビーズで一点もののアクセサリーをつくっています」

自身の音楽性の変化について聞くと、「やりたいことや好きな音は基本的にずっと変わらない」と答えたUCARY。その時々で一緒に音楽をやりたいと思うミュージシャンをサポートとして迎え、その人をいかに輝かせるかを最重視していると教えてくれた。

「自分が一緒にやりたいと思う人にサポートをお願いしているから、その人がいちばんカッコよく見えるかたちに曲を編集して、自分らしく弾いてもらうようにしています。その人が輝いてくれてこそ、わたし自身も輝けるから」

固定メンバーでのバンド形式をとらず、さまざまなミュージシャンとの化学反応を楽しむ流動的なスタイルは、これから彼女をどう進化させるのか。最後に今後のビジョンを聞いてみた。

「圭作さんとのライブ、弾き語りソロ、バンドセットなど意欲的にライブ活動をしていきたい。コロナでヨーロッパツアーが中止になってしまったのでそれも実現させたいです。台湾で初めてライブをしたとき、音漏れを聴いた人が会場に殺到して入場規制がかかったことがあって、歌と気持ちは言葉を超えて伝わるんだと実感しました。夢はオーチャードホールなどでホールツアーをすること。オーケストラも好きなので、ゆくゆくは素晴らしいチームをつくってそのなかで歌いたい。Björkみたいに音楽性もアート性も突出したアーティスト、…そう、わたしはミュージシャンというよりアーティストになりたいです」


【Setlist】
1. If
2. To You
3. Biomas
4. SHADOW
5. Garden State
6. aiaiaiai
7. Time Loop

☞ UCARY & THE VALENTINEをTuneCoreで聴く
☞ UCARY & THE VALENTINEのプロフィールを見る

(取材/文・三橋温子)


SYNCHRONICITY ‘22 Playlist

SYNCHRONICITY Official Website
SYNCHRONICITY ’23
2023年4月1日(土)・2日(日)に開催決定!
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