ロシアによるウクライナ侵攻から丸1年となる2023年2月24日(金)に、下北沢Flowers Loftで開催された『PLAY FOR PEACE』Vol.2。
夜の部(18:50開演)と深夜の部(24:15開演)の二部制で行われた同イベントは、ウクライナ人道支援を目的としたチャリティーライブで、最低限の必要経費を除くすべての収益が寄付される。
侵攻開始のひと月後(2022年3月23日)に配信ライブとして行われたVol.1は、投げ銭と専用口座への振込を呼びかけるかたちで寄付を集めていたが、今回は会場観覧とオンライン視聴チケットも販売された。
当記事では、佐藤タイジ、いとうせいこう、清春、片平里菜、LOW IQ 01、ermhoi、HIROSHI(FIVE NEW OLD)が出演した夜の部の模様を中心にお届けする。
cover photo by Maki Ishii
Flowers Loftで開催された『PLAY FOR PEACE』Vol.2
下北沢駅の東口改札を抜け、小走りでSHIMOKITA FRONTへ。小雨がパラついていたが、傘をさす必要もなかった。ロフトプロジェクトが運営するFlowers Loftは、再開発が進む下北沢の駅前にできたこの商業テナントビルの地下にある。
受付を済ませてから入場して、フロアに移動。開場直後にもかかわらず、すでに多く観客がステージ前に集まっていた。
Flowers Loftを訪れるのは3度目。過去2回は同店がオープンした2020年2月とその翌月で、新型コロナウイルスの感染者が国内で急増した時期と重なる。3年ぶりに目にする無人のステージを眺めているうちに、猛威をふるい始めたコロナに怯えていた当時の感覚がよみがえってきた。
前回の『PLAY FOR PEACE』は無観客配信ライブとして開催されたが、今回は有観客+配信。ライブハウスに活気が戻りつつあることは非常に喜ばしいことであると思いながらも、イベントの趣旨が頭から離れず、複雑な気持ちになる。
夜の部
【TALK】ジョー横溝、佐藤タイジ、木村ゆかり
夜の部は、ジョー横溝、佐藤タイジ、木村ゆかりによるトークからスタート。
『PLAY FOR PEACE』を主催するジョー横溝は、ラジオやロックフェスのMCとしても活躍するウェブメディア『君ニ問フ』の編集長。
シアターブルックの佐藤タイジは、100%ソーラーエネルギーを活用して実施されるロックフェス『THE SOLAR BUDOKAN』を主宰するなど、さまざまな社会課題に正面から向き合うアーティスト。
そして木村ゆかりは、一市民としてウクライナに足を運び、爆撃で破壊された住宅の復興に取り組んでいる。「自分の目で見ないと気が済まない」と開戦後のウクライナに二度赴いた木村の口から、現地で見た光景が語られた。
当イベントの収益や募金は、家屋を修復するために必要となる資材費として、木村が現地で知り合った大工チームに寄付される。
【LIVE】HIROSHI (FIVE NEW OLD)
ライブのトップバッターは、FIVE NEW OLDのHIROSHI。
ジョー横溝に呼びこまれて登場したHIROSHIは、ユーモアを交えたMCで場内の雰囲気を和らげ、CMソングに起用されたシングル「Rhythm of Your Heart」を奏でる。
1曲歌い終えたHIROSHIは「普段はなにげない日常のことを歌っている」とやわらかい口調で語りながらも、「このイベントが続かないことが一番良い」「どんな諍いでも解決手段として暴力を用いるのは間違っている」と言い切った。
戦地で凍える人々に思いをはせながら歌い上げた「You」は、この日のハイライトのひとつ。
【LIVE】いとうせいこう with 佐藤タイジ
続いて、いとうせいこうと佐藤タイジによるセッションが実現。
「打ち合わせは一切行っていない」という完全即興にもかかわらず、これまでに何度も演奏された楽曲のように、いとうのポエトリーリーディングと佐藤のギターが重なり合う。曲が終わるたびに「知ってるの? この詩」(いとう)、「いや、知らないです」(佐藤)というやり取りが行なわれていた。
エモーショナルなギターに乗って放たれた力強い言葉の数々は、会場のみならず、スマホやパソコンの画面越しに視聴していた人々の心にも響いたはずだ。
【LIVE】ermhoi
Black Boboiやmillennium paradeのメンバーとしても活動するermhoi(エルムホイ)のソロパフォーマンスは、ハープの弾き語り。
セットリストに組み込まれた「House」「Softly Sinking」「Kani」「Mountain Song」は、2ndアルバム『DREAM LAND』の収録曲。エレクトロ、アンビエント、オルタナティブなどと形容された『DREAM LAND』の楽曲が、ハープの音色によって美しさを増し、浮遊感のある歌声と共に鳴り響く。
ラストはジョニ・ミッチェル「A Case of You」のカバー。ジョニの名盤『BLUE』の収録曲を歌うermhoiを、青いライトが照らしていた。
【LIVE】LOW IQ 01
数日前に出演オファーを受けたというLOW IQ 01は、登場するやいなや「笑いが世界平和につながる」とジョークを連発。
会場を爆笑の渦に巻きこんだあと、今なおコロナが終息していないことに言及して「戦うのではなく、みんなで一緒にスタートしようよ」と、コロナ以降に制作された最新アルバム『Adjusted』のメイン曲「Starting Over」をプレイ。MCと曲のギャップで観客たちをLOW IQ 01ワールドにいざなう。
しゃべりが長すぎて演奏されたのは3曲のみ。それでも人気曲の「So Easy」と「Snowman」が聴けたので、彼を目当てに来場したファンも楽しめたに違いない。
【TALK】ジョー横溝、木村ゆかり、インナさん
LOW IQ 01がステージを去ったあと、再びトークタイム。
ジョー横溝、木村ゆかりと共に、15年前から日本に在住しているウクライナ出身のインナさんが、自国に残る人々の状況や、日本に避難してきたウクライナ人の生活などを語ってくれた。
「みんなが願っているのはひとつ。早く平和な国に住みたいこと」と語ったあと、声をつまらせた彼女の表情が忘れられない。
【LIVE】片平里菜
昨年のVol.1に続く2回目の出演となった片平里菜。
1曲目の「最高の仕打ち」を生歌で熱唱したあと「怒りや苦しみ、憎しみといった、ひとりの人間が抱えるには大きすぎるエネルギーを、武器を持つのではなくて、捨てるほうに使えたら、どれだけ平和になれるか」と発言。
続いた「愛のせい」や「予兆」、THE BLUE HEARTS「青空」のカバーも素晴らしく、力強くメッセージを届ける彼女の歌に心打たれる。
【LIVE】清春
転換中、ステージ上にパーカッショニストの辻コースケとサックス奏者の栗原健(くりはらたけし)が現れ、会場がどよめく。当初、2人が清春のサポートを務める予定はなかった。
黒夢、SADSのヴォーカリストと、SOIL&”PIMP”SESSIONSやKYOTO JAZZ SEXTETなどの活動で知られる栗原という組み合わせは意外だったが、音楽的な相性は良好。互いの持ち味が存分に発揮されていた。
清春、栗原、辻、yotsu(ギター)の4人編成で「下劣」や「洗礼」など近作を中心に6曲プレイ。彼らに送られる声援を聞きながら、新型コロナ「5類」移行決定による声出し解禁の動きが進んでいることを実感する。
観客を楽しませつつ(普段のMCでは言わないという)世界平和を願う清春のことばが胸に響いた。
【LIVE】セッション
夜の部のラストは、佐藤タイジ、LOW IQ 01、片平里菜、ermhoi、HIROSHI、辻コースケ、栗原健、そして深夜の部に出演するTHE GROOVERSの藤井一彦によるセッション。楽屋で練習したというシアターブルックの「もう一度世界を変えるのさ」を披露してくれた。
イベントで販売されたウクライナ料理を作ってくれた避難民の女性2名を交えた記念撮影を行ったあと、ステージからアーティストたちが去って夜の部が終了。
ロビーでロフトプロジェクトの加藤梅造代表と短い会話を交わしてから、早足で駅まで。新宿方面のホームで時間を確認すると、終電のひとつ前だった。
深夜の部
藤井一彦、佐藤タイジ、真城めぐみ(ヒックスヴィル)、辻コースケ、栗原健が出演した深夜の部は、YouTubeで視聴。
圧巻だったのは、佐藤&真城の「Calling You」。真城が歌う映画『バグダッド・カフェ』のテーマ曲を聴き逃したのは、悔やんでも悔やみきれない。
藤井&佐藤による「What’s Going On」(マーヴィン・ゲイ)の日本語カバーや、佐藤、真城、辻のトリオに栗原が飛び入りした「ドレッドライダー」と「ありったけの愛」(いずれもシアターブルック)も生で観たかった。
なお、深夜の部は無料配信されている。ウクライナに赴いた木村ゆかりや鈴木庸介衆議院議員の貴重な話も聴けるので、ぜひご覧いただきたい。
一日も早くウクライナに平和な日々が訪れることを、心から祈る。
(取材/文・五辺宏明)
(ライブ撮影・石井麻木、TAWARA)
ウクライナ人道支援ライブ『PLAY FOR PEACE Vol.2』
2023年2月24日 @下北沢Flowers Loft
【夜の部】
Live:清春、片平里菜、LOW IQ 01、ermhoi、いとうせいこう、佐藤タイジ、HIROSHI(FIVE NEW OLD)
Talk:木村ゆかり、ジョー横溝、インナさん
【深夜の部】
Live:藤井一彦、佐藤タイジ、真城めぐみ、辻コースケ、栗原健
Talk:木村ゆかり、鈴木庸介、ジョー横溝
主催:ジョー横溝
グラフィックデザイン:古平正義
協力:ロフトプロジェクト
寄付先
三菱UFJ銀行
六本木支店(店番045)
普通口座 0148335
ツナゲル ツタエルプロジェクト
キムラ ユカリ
HP / SNS
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