ライブハウスに出演する際、必ずリハーサルがあります。リハーサルは、観客により良い音で楽曲を届けるための重要な時間です。しかし、多くのアーティストは、リハーサルを正しく活用できていません。
そこで今回は、リハーサルの正しい活用方法やコツを紹介します。初めてライブに出演するアーティストのために、流れや目的も合わせて解説します。
リハーサルの目的とは?
リハーサルの目的は、音量バランスの調整です。観客にとって聴きやすく、出演者にとって演奏しやすい音に調整するために行います。そのため、2つの音を調整しなければいけません。
- 中音……ステージ側のスピーカーから出る音
- 外音……観客席側のスピーカーから出る音
出演者の演奏しやすい音のバランスと、観客の聴きやすい音のバランスは別です。
たとえば、中音をリズムキープしやすいようにドラムの音を大きくしたとしましょう。ここで、外音を同じバランスにしてしまうと、観客にもドラムの音がメインで聴こえてしまい、ヴォーカルの歌が聴き取りにくい状態になってしまうのです。
このように、外音と中音では意識するポイントが異なります。出演者にとっても観客にとっても満足できる音量バランスを作るために、リハーサルを行うのです。
基本的なリハーサルの流れ
スムーズにリハーサルを行うために、基本的な流れを理解しておきましょう。適切な順序で進めていかなければ、PAとの連携がとれません。リハーサルの流れは、以下のとおりです。
- セットリストの提出……ライブでの曲順や曲調、MCのタイミングを記載してPAに提出
- セッティング……実際のライブと同じ機材でセッティング
- パートごとの音出し……PAの指示に従い、楽器ごとに音を出していきます
- 全体の音出し……ライブで実際に演奏する曲で音量調整
基本的には、PAの指示に従いながら進めていけば問題ありません。セットリストの提出忘れやダラダラしたセッティングは、リハーサルの時間が削られてしまう原因となるので、注意してください。
リハーサルを有効的に行うコツ4選
対バン形式のライブの場合、リハーサルは10~15分と、とても短いです。短い時間でより良い音量バランスにするためには、以下のコツがあります。
- 事前に中音・外音の希望を伝えておく
- リハーサルで演奏する曲は1部分と決める
- 違和感があれば演奏ストップ
- 対バンのリハーサルを見ておく
なぜそれぞれのポイントが重要なのかを解説するので、リハーサルを行う際の参考にしてください。
事前に中音・外音の希望を伝えておく
中音や外音は、演奏前に理想のバランスを伝えておきましょう。ライブハウスのPAは、多くのアーティストの音量を調節しているので、イメージだけ伝えれば、ある程度の理想に近いバランスで調整してくれます。
たとえば「歌を聴かせたいから外音はヴォーカルをメイン、中音はリズムキープのためにドラムをメインにしてください」といった形で伝えておきましょう。後は、演奏しながら微調整をしていけば良いので、結果的に音量調整がスムーズになります。
リハーサルで演奏する曲は1部分と決める
リハーサルで、丸々1曲演奏する必要はありません。リハ―サルは、あくまで音量バランスの調整が目的なので、気になる部分だけ調整できれば良いのです。
たとえば「Aという曲のサビまで」や「Bという曲の間奏からギターソロ部分」などと決めておきます。
また、1つの楽曲のなかで極端に静かになったり激しくなったりする場合は細かい音量調節が必要になるので、事前にPAに伝えて、丸々1曲演奏させてもらいましょう。
違和感があれば演奏ストップ
リハーサルで曲を演奏している最中、音量バランスの違和感があったら、すぐに演奏を止めて、PAに伝えましょう。
何度も言うように、リハーサルの目的は音量バランスの調整であり、楽曲を演奏することではありません。違和感があるまま1曲演奏しきってしまうアーティストもいますが、音量調整しないまま演奏を続けるのは、時間の無駄です。
ただ音を出すだけの時間にならないように、気を付けましょう。
対バンのリハーサルを見ておく
対バンのリハーサルを見ておくことは、自分達の音量バランスを作る参考になります。とくに、初めて出演するライブハウスの場合は、必ず対バンのリハーサルを見ておきましょう。
ライブハウスは、広さや形によって音の聴こえ方が異なるので「このライブハウスは低音が目立ちやすい」「ここまで音量を上げるとハウリングしてしまう」などがわかります。事前に気を付けるポイントがわかるので、自分達のリハーサルをスムーズに行えるでしょう。
リハーサルでやってはいけない3つの注意点
リハーサルで徹底すべきは「無駄なことをしない」です。限られた短い時間で音量バランスを調整するには、効率的に進めていく必要があります。
しかし、以下のようなリハーサルを行ってしまうと、時間が無駄になる上に、理想的な音量バランスになりません。自分達のため、観客のため、PAのためにも、以下のようなリハーサルは行わないようにしましょう。
余計な音を出さない
リハーサル中は、余計な音を出さないようにしましょう。PA側の音量調整が行いにくくなります。
とくに多いのは、パートごとの音出し時の、余計な音です。PAが「ギターの音ください」と言っているなかドラムの音を叩いたり、「ドラムの音ください」と言っているなかギターを弾いたりするのは、絶対にやめてください。
楽器一つひとつの音量を確認するための作業なので、他の音は邪魔にしかなりません。
本番と異なる音量で演奏
リハーサルは、必ず本番と同様の音量で演奏しましょう。本番のためのリハーサルなので、本番と異なる音量では意味がありません。たとえば、以下のような例があります。
- リハーサルで思いっきり歌わず、本番でいきなりシャウトするヴォーカル
- ドラムのみの音出しで軽く叩き、全体の演奏が始まった瞬間に思いっきり叩くドラム
リハーサルで手を抜いてしまうと、本番にも影響するので、半分本番だと考えて臨んでください。
リハーサルで練習
リハーサルで一番やってはいけないのが、楽曲の練習です。当たり前ですが、リハーサルは練習ではありません。しかし、実際に新曲をリハーサルで練習するようなアーティストを、多く見かけます。
そもそも、当日に練習が必要な楽曲を、ライブで演奏するべきではありません。練習は、リハーサルではなくスタジオで行いましょう。
リハーサルを制する者がライブを制す
ライブは出演者だけで作り上げるものではありません。ライブハウス、ライブハウスのスタッフ、観客がいてライブが成り立ちます。
そのために必要なのが、リハーサルです。リハーサルをしっかり考えて行えば、関わるすべての人が満足できるライブになるでしょう。「ただの音出し」と考えず、ぜひリハーサルに力を入れてみてください。
(文・名城政也)