人間の脳に最も届く音はベース!? バンドを始めるならベーシストを勧めるいくつかの理由

ワタナベ アキノリ

ワタナベ アキノリ

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もしあなたがこれからバンドを組もうと考えていて、楽器の選択はメンバーとかち合うこともなく、自由にできるものとする。用意された選択肢はギター、ドラム、そしてベースの3つだ。どの楽器も初習だとする。あなたが一番やってみたい楽器はどれだろうか。

おそらくだが、即答でベース!と答える人の割合はかなり少ないと思われる。

たとえばギターであれば、それを選択する動機はベースに比べて分かりやすい。あなたが好きなあの曲のイントロは、ギターで演奏されたものが非常に多いだろうし、TVや街角で耳にする有名なフレーズも、ギターで弾かれたものを挙げればいくらでも例がある。

また、ドラムだって曲中のドカドカという音は「これがドラムの音だ」と簡単に判別できるし、両手足を使って軽快にリズムを刻む様は、素人目に見ても理解しやすい格好良さがある。華麗なドラミングに魅せられてドラムを始める人も多いだろう。

しかし、こと「ベース」においては、その魅力の分かりやすさという点で他の2つには若干見劣りしてしまう。たとえばある楽曲を流した時、楽器経験者や、楽器ごとの音色を聴き分けようと心がけて楽曲を聴く人間でないと、「ベースってどの音?」というベーシストにとっては寂しい意見が出てくる場合が多い。また、必死でコピーした難易度の高い楽曲のフレーズを1人で弾いてみても、周囲からの反応はおそらく「それ、なんの曲?」というものだし、更には「ギターの大きいやつ」「パート決めで余る楽器」という認識の人も少なからずいる。

要するに、世間の大方の人にとって、ベースは「なんかよく知らんし分からん」程度の認識しかされていないのだ。

しかし、それでもベースという楽器には抗いがたい魅力がいくつもあることを、元ベーシストとして微力ながらここで少し伝えたい。


「バンドで最重要なパート」をアメリカの科学誌が発表

先ほど「ベースってどの音?」という意見も多くあると書いたが、ここで述べたいのは「どの音か分からないその音こそが非常に重要なものだ」という事実だ。

イギリスの音楽総合サイト『NME.com』は、アメリカの科学誌『PNAS(米国科学アカデミー紀要)』が「バンドで最重要なパートはベースである」という研究報告を発表したと伝えている。


こちらの記事によれば、人間の脳は低音域の音に対する時間認識に優れており、低音域の楽器が奏でる音の方がリズムを理解しやすいという。ライブハウスで観客が頭を振るのも、手を叩くのも、踊るのも、実はベースの音が起こさせる行動である可能性が高いというのだ。

最も存在感が薄いと思われがちなベースの音は、バンドサウンドを構成する上で何より重要であったという事実が科学的に説明されている。

実際にバンドでベースを演奏すると、時たま「自分と音楽が溶け合うような感覚」を味わえることがある。音の波と観客の反応と自分とが渾然一体となり、説明が難しいが体の芯から音楽の心地よさ、素晴らしさを感じることの出来る、甘美で幸福な瞬間だ。

もちろん他の楽器の演奏者も、その楽器ごとに魅了される何かを感じるからそれを弾くことを辞めないのだろうけれど、ベースの、あの体の中心に響くような低音を友にして音楽に混じり合うあの感覚は、他のものに比べようもない快感をもたらしてくれることを、体感として述べておきたい。

ベースから見えてくる「自分」という人間性

また、ベースは生涯をかけて取り組むことの出来る楽器だ。ピッキング1つとっても、その爪弾き方次第でベースの鳴り方は大きく変わるし、ことバンド内で弾くベースについては、心地よい音を目指すためのアプローチは本当に無限だ。

個体によって大きく変わるベースの個性を把握し、その上でどの1本を選択するのか。他パートとの音量の兼ね合い、前に出る音作りなのかボトムを支える音作りを目指すのか、シンプルにルート弾きに徹するのか、流麗なフレーズで色を添えるのか、など。書き尽くせない程多くの取り組み方と選択肢がある。

ハロルド作石の有名なバンド漫画『BECK』の登場人物エディ・リーは、ギターの音作り・弾き方に関してこう語っている。

ギターってのは、たった6本の弦を伝わって出てくる人間性なんだ。

ハロルド作石 『BECK』

これは同じくベースにも言えることだ。楽器の選択、奏法、フレーズの作り方、そんなものから自分という人間が見えてくることがある。

ベースの魅力を実感できる楽曲3選

ここまで ベースという楽器のその魅力を述べてきたが、もしこれを読んでベースを始めるきっかけにしてくれたあなたも、いずれ弾き続けることに迷う時が来るかもしれない。何事も続けることが一番難しいというのは多くの人が同意する意見だと思うが、「一生懸命練習しているのに上達を感じられず行き詰まり感がある」というのはこれからベースを始める人は必ず通る鬼門だと思う。

それに対する唯一の解決策は「憧れを持ち続けること」ではないかと感じる。

その憧れの対象はベースを弾く特定の誰かでもいいし、耳に残って消えない数秒間のベースラインでもいい。また、一度味わえたいつかのライブの気持ちの良さでもいい。「あんな風に弾きたい」「こんな曲が作れたら」「またあの瞬間を味わいたい」などの憧れはきっと、ベースを弾き続けることの原動力に変わる。

最後に、ベースの魅力が存分に出ていると私が感じる楽曲を3曲紹介したい。

D’Angelo 『Chicken Grease』

傑作『Voodoo』の一曲。ベースはピノ・パラディーノ。うねるようなリズムが心地よい。自然と体が揺れる。

The Band 『The Weight』

ロック史に残る完成された名曲。リック・ダンコの歌うように跳ねるベースプレイは必聴。

Red Hot Chili Peppers 『Around The World』

ベーシストなら一度は弾いてみたことがあるであろうイントロ。フリーはベースヒーロー。曲全体を通してドラムとのリズムセクションが素晴らしい。


何かへの憧れを持ち続けることで、きっとベースはあなたの人生に素敵な瞬間をもたらしてくれる。あるいは、ベースそのものが人生の友になってくれるかもしれない。

これからバンドを始める人へ。ベース、弾いてみませんか?

(文・ワタナベアキノリ)