【渡辺雅弘(Girasoul)】がんと闘うシンガーソングライター

五辺 宏明

五辺 宏明

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2023年の注目アーティストを選ぶヂラフマガジンの企画記事で私が選んだのは、シンガーソングライターの渡辺雅弘(わたなべまさひろ)。

2022年1月、渡辺は「肺がん(肺腺癌)ALK陽性型ステージⅣb、余命5年」と診断されたことを公表(当時37歳)。しかし、発症後も音楽活動を続けている。

今回は、Girasoul(ジラソウル)のギタリストでもある渡辺の音楽活動を紹介するとともに、2023年2月4日に下北沢BAR? CCOで行われたライブの模様をお届けする。


渡辺雅弘とMamiのデュオ、Girasoul

Girasoulの存在を知ったのは、2012年の下北沢一番街阿波踊り。

南口の改札を抜け、レコード屋に向かって歩いていると、強烈な歌とキレのあるギターのカッティングが耳に飛び込んできた。音が聞こえてくる方向に目を向けると、踏切の向こう側に簡易的なステージが設営されていた。しかし、演奏者の姿はこちら側から見えない。

途切れることなく行き交う列車にさえぎられながら踏切越しに2曲聴き、遮断機が上がると同時にダッシュ。最後の1曲とアンコールのセッションを観ることができた。

「開かずの踏切」がいくつも存在していた時代のシモキタで観たあの日から、可能な限りライブに足を運んでいる。

『ruin’s bar』
Girasoul
youtube動画


前身となるSUNGから行動を共にする渡辺雅弘とヴォーカリストのMamiが、Girasoulを名乗るようになったのは2007年。

パーカッショニストのMacoを迎え、トリオ編成でスタートしたGirasoulは、2009年にセルフタイトルを冠したミニアルバムをリリース。2010年にはNPO法人HANDSとのコラボCD『Hands to Hands』を制作する。

その後、デュオとして再スタートしたGirasoulは、2013年に待望のフルアルバム『arco iris』を発表。同年、群馬県の水上高原リゾート200で開催される人気フェス『New Acoustic Camp』への出演を果たした。

上昇気流に乗って2度のJZ Bratワンマンライブを成功させた2014年、Girasoulは無期限活動休止を宣言。渡辺はソロアーティストとしてのライブ活動をスタートし、同年、宅録で作り上げた4曲入りのCD-R『童話』をライブ会場限定でリリース。

Girasoulは2015年に解散。のちに再結成するが、活動ペースは緩やかなものとなっていた。

『童話』
渡辺雅弘
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病と闘いながら続ける音楽活動

家庭を持ち、仕事が生活の中心となっていた渡辺が、がん宣告を受けたのは2021年12月。渡辺は翌月(2022年1月)から音楽活動を再開する。

入院直前の2022年1月3日に「平凡」のミュージックビデオを撮影。2月5日に退院すると、約1週間後に近しい友人を集めて、MamiやOAUのKOHKI(ギター)、KAKUEI(パチカ)とセッションを行った。

5月18日にソロとGirasoulの2ステージライブを敢行し、8月にはソロ作品のレコーディングを実施。その後も入退院をくり返しながらライブ活動を続けている。

『平凡』
渡辺雅弘
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『Estrella』
Girasoul feat. KOHKI & KAKUEI (OAU)
youtube動画
2023年の初ライブとなったイベント
『新しい酒は新しい革袋に盛れ』

渡辺雅弘の2023年初ライブは、2月4日に下北沢BAR? CCOで開催された『新しい酒は新しい革袋に盛れ』。もともとはシンガーソングライターの高哲典(たかあきのり)の企画イベントで、現在は高と渡辺が交互に主催している。

当初は1月18日にもライブを行う予定だったが、年始から入院することになって出演を断念。今回は約2ヶ月ぶりのライブとなる。

リハーサルが行われる前に、渡辺から話を聞いた。

「『身体の調子が良くなくても、来てくれるお客さんに恥じない演奏をする』というのが最低限のライン。そこだけはクリアしたい。
病気にかかってから作った曲については、それ以前よりも発信するメッセージに責任感を持つべきと思っていて。伝えたいことを届けられるような演奏をめざします

体調が思わしくなく、予定よりも遅れて到着した渡辺はそう語った。

相棒のMamiや家族、友人たちが見守る中、トップに登場した渡辺が1曲目に選んだのは、まだタイトルのない新曲。

続いて披露されたのは「パーティは終わらない」「いびつ」「太陽」の3曲。いずれも病におかされてから書かれた曲なので、ライブで演奏された回数はまだそれほど多くないが、渡辺が送ってくれたデモ音源を聴きこんでいたので楽しみにしていた。

父親の歌とギターに合わせて、楽しそうに声を上げる幼い息子を、観客たちが優しく見つめている。客席にいた人々は、渡辺が闘病中であることを知っていたはずだ。それでも場内が終始笑顔であふれていたのは、渡辺が生まれ持った明るさによるものだろう。

最後に披露された「イロウタ」も、サビ以外はすべて作り直したという。そして、故郷の青森で音楽フェスを企画していることを発表した。がんが発症してからも、渡辺の音楽に対する情熱は尽きない。

【Setlist】
1. 新曲(タイトル未定)
2. パーティは終わらない
3. いびつ
4. 太陽
5. イロウタ

ライブの翌日、渡辺からメールが届いた。

「入院が多すぎて練習時間が少ないのが厳しいですね…。もっともっと、観にきてくれた人が一生忘れられないようなステージをやりたいです。次回、また頑張ります

納得のいく演奏ができず、歯がゆい思いをしているのだろう。それでも、渡辺が歌とギターに込めた思いは、会場につめかけた人々の心に響いたに違いない。

間もなくリリースされるという渡辺雅弘の新作が手元に届く日を、今から楽しみにしている。

(取材/文・五辺宏明)
(ライブ撮影・YUYA AKIIKE)


EVENT
『ゆらぎ 〜House multidirection〜』

【DATE】
2023年3月26日(日)
open 18:00 / close 23:00

【LOCATION】
渋谷The Room

【CHARGE】
1,000円(+1ドリンクオーダー)

【ACT】
Live : Girasoul
DJ : gara / Kiichiro / Manami T.B / nori / なちゅ / shusaku

HP / SNS

Twitter @gira_masahiro
Instagram @girasoul_m
Facebook
YouTube 渡辺雅弘の ▶︎がんを越えて

GirasoulをApple Musicで聴く

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