koshi(Vocal)、eba(Music Producer)、谷原亮(General Manager)の3人からなる音楽ユニット・cadode(かどで)。2022年には初となる東阪ワンマンツアー『虫の知らせ』を心斎橋Pangea(2022年11月23日)と渋谷WWW(12月10日)で開催した。
そんなcadodeの1stフルアルバムとなる『浮遊バグ』が2023年1月25日(水)にリリース。TVアニメ『サマータイムレンダ』の1stEDテーマ曲『回夏』や、映画『味噌カレー牛乳ラーメンってめぇ〜の?』の主題歌『かたばみ』、ゲーム『サマータイムレンダ Another Horizon』EDテーマ曲『さかいめだらけ』など、10曲が収録された贅沢なアルバムとなっている。
cadodeという名は、新しい音楽の門出や、誰かの新しい発見・体験の門出になって欲しいという彼らの想いから名付けられている。今回は1stフルアルバム『浮遊バグ』の全曲レビューを通して、初期から一貫するcadodeの想いと進化し続ける音楽性について触れていきたい。
REVIEW
M1『さかいめだらけ』
境目(さかいめ)の境(きょう)という漢字は、仏教用語で視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、知覚といった、人が認識する対象を指している。見える、聴ける、触れるものたち。
なんでもないような顔をして日々をこなしていくうちに、どうしても沢山の人が認識できるものだけが世界であるような気がしてしまう。
認識できるものとできないものの間にあるもの、境目を見つめていること、そこに美しさや寂しさ、誰かの気配があるのを感じとること。存在しているはずの不確かなものを受け入れて光を見出すような、cadodeらしさがあふれる楽曲となっている。
M2『浮いちまった!』
人生に劇的なことなど起こらない。「これまで」と「今」と「これから」があって、いつか消え去る日まで嬉しいことも悲しいことも淡々と続いていく。
『浮いちまった!』は思わず踊りたくなるような華やかで明るい曲だ。しかしその中には、不甲斐なさを感じながら生きていること、世界と自分の不確かさ、誰かへの羨望、表現者として今この場所に立っていることへの想いが描かれている。
どこか不思議で懐かしいMVも必見。
M3『寺にでも行こうぜ』
『寺にでも行こうぜ』は、キレのある歌詞とコントロールされた歌声、楽曲の世界観をぐっと押し広げる立体的なサウンドが印象に残る。
聴いていると、子供のころに寺の敷地内で遊んだことを思い出すようだった。冷たくていつも少し暗く、しんとしているのに耳を傾けたら誰かの囁く声が聞こえそうな場所。あちらとこちらが繋がる曖昧な場所。
少しだけ不穏な「あちら」の気配を感じながら言葉と音で遊ぶような、ひそやかな愉しみが見え隠れする曲である。
M4『回夏』
これまで何を得てきて、これから何を失っていくのだろう。そもそも何かを持っていると思っていただけで、最初から何も持っていなかったのかもしれない。「失ってしまった」と思うことすら錯覚かもしれないのだ。諦念を抱えながら生きていくしかなくて、耐えきれずに止まれと念じても鼓動は止まらない。
『回夏』は、過ぎ去った夏を想いながらも決して振り向くことなく、今という道を歩いていくような楽曲だ。振り返ったところで何もできないことを知っている。誰かがいてもいなくても世界が続いていくことを知っている。
二度と戻ることのない夏の気配がするような、時間の感覚がぼやけて混ざり合うような、不思議な懐かしさを感じる曲として、どこかで鳴り続けている。
M5『逆風』
やりたいこと、やりたくないこと、やりたくないがやらざるを得ないこと。肌を刺すこの逆風が、いつか何かに変わることがあるのだろうか。
破綻しているようで完璧に調和がとれている。そんなトラックの上で淡々と言葉が紡がれていく。3分に満たない曲なのに、曲の短さを感じさせないほどに質量が大きい。作曲者であるeba(Music Producer)の研ぎ澄まされた感性と高度な技術を感じる一曲となっている。
M6『シュウ末紀行』
波打ち際で水平線を眺めながら、海の中で生まれ育ったことを思い出そうとしてみる。
『シュウ末紀行』には、儚さと美しさ、人の手が届かない場所への憧憬を感じる。「週末」と「終末」の掛詞(ダブルミーニング)として「シュウ末」と表現するワードセンスにもグッとくる。ミニマルで洗練された歌のメロディーと、鼓動のように流れるビートが印象的だ。
M7『hunch』
「hunch」とは、予感がすること、あるいは「虫の知らせ」を指す。
ばら撒かれた白いジグソーパズル、去っていく自転車の音、糸電話から聴こえる微かな声。呼んでいるような、呼ばれているような、何かが始まる予感がする。世界の美しさや儚さ、懐かしさと少しの寂しさを拾って歩いていくような曲だと感じた。
M8『かたばみ』
与えて奪って、何かを失って生きていく。人は誰も彼もがそんな調子だ。
『かたばみ』リリース時のインタビューで、koshiは楽曲で描かれている「生きること」についてこのように語っている。
「生きる」とは「明日を迎えること」だと感じました。明日を迎えることを諦めない、その恐れを乗り越えること。生きることのハードルは上げたり下げたりできるけれど、基本的な目標というものは、呼吸をして明日を迎えることだなと思うんです。それにどう価値があるかというのを、曲全体として描けた気がしています。(koshi)
光など見えない今日から明日に希望を託すように、受け取ったものを紡いで繋げていくように、世界の無常を知りながら祈り続けるように歌う。この曲を聴いていると、人として生きていることの苦しさや虚しさを感じながら、それでも生きていていいのだと思える。
M9『光』
正解などない世界で正解を求め続けてしまう。画面に表示されているのは、素敵な人や素敵な生活、素敵な人生。だんだん苦しくなる。自分が薄まる。遠ざかる。足元の濃い影に飲み込まれそうになる。
『光』は、熱くも冷たくもない。そこにいる誰かの平熱に似ている曲だ。闇の中で遠くの窓が光っている、星が光っている、街頭が光っている。そんなささやかな光に救われる夜があるように、この曲に救われる時がある。
沢山の人ではなく、どこかで蹲っている誰かの光になる。そんな覚悟を決めて歌う、cadodeのしなやかな強さが全体に溢れている。
M10『近道』
人生はよく道にたとえられる。アルバム2曲目の『浮いちまった!』には〈遠回りを選んだだけ そう言ったが道はあるのか?〉という歌詞があるが、この曲では〈目に見えない方が近道〉と歌っている。
それは問いに対する答えではないのかもしれない。でも、どんな道を行ってもその先にあるのが答えで、その道を行くのが他の誰でもないあなただと、そう教えてくれているように感じた。
花と土と涙の香りがする。何かが終わり、新しく始まる。やわらかなあたたかさを湛えて巡る春の風のように、『近道』はこのアルバムの最後を飾るのに相応しい楽曲となっている。
どこかにいる誰かへ
アルバム『浮遊バグ』全体で描かれているのは、世界の無常、失うこと、生きていくことだ。これはcadodeのこれまでの作品から続くテーマとして存在している。
だが、今作にはこれまでの作品と異なる要素もあると感じた。「あなた」「君」「僕ら」がより近く、よりリアリティを持って描かれているのだ。
今ここで、同じあたたかさを持ち、同じ空気を吸い、同じ時間の中で生きているということ。光る画面の向こうに、イヤホンから流れる音が鳴っているところに、打たれた文字の先に、誰かがいるということ。本質的に孤独だとしても、ひとりではないということ。
吹いた風のあたたかさを、咲いて枯れる花の美しさを、戻らない夏があることを、共有できる誰かがどこかにいる。そんな希望をこの世界から見出してしまうような、美しいアルバムであると感じている。
(文・望月柚花)
INFORMATION
RELEASE
2023.01.25 Release
1st Album『浮遊バグ』
cadode
[CD+DVD]<限定盤>
品番:USSW-0400
価格:5,280円(税込)
発売元 / 販売元:MAGES.
☞ TOWER RECORDS ONLINEで購入する
[CD]<通常盤>
品番:USSW-0401
価格:3,630円(税込)
発売元 / 販売元:MAGES.
☞ TOWER RECORDS ONLINEで購入する
《CD収録内容》
01. さかいめだらけ(ゲーム『サマータイムレンダ Another Horizon』EDテーマ)
02. 浮いちまった!
03. 寺にでも行こうぜ
04. 回夏(TVアニメ『サマータイムレンダ』1stEDテーマ)
05. 逆風
06. シュウ末紀行
07. hunch
08. かたばみ(映画『味噌カレー牛乳ラーメンってめぇ〜の?』主題歌)
09. 光
10. 近道
《DVD収録内容》※限定盤のみ
・1st Oneman『独演 回夏迄』Live Movie
・『浮いちまった!』Making Movie
EVENT
3か月連続マンスリー企画
『残機3』
3月9日(木)より渋谷StarLoungeにて3か月連続、マンスリー企画『残機3』開催! 毎月異なるゲストを招いて行われる今回のライブでは、企画ライブならではのライブや物販&サイン会を行う予定となっていますので、詳細はcadode Official Wecsiteをチェック!
2023年3月9日(木)
アコースティックライブ
ゲスト:高尾奏之介(Piano)
時間:開場18:00 / 開演18:30
会場:渋谷StarLounge
チケット代:3,900円 ※ドリンク代別途必要 ※特典付
2023年4月5日(水)
2マンライブ
ゲスト:西野恵未
時間:開場18:00 / 開演18:30
会場:渋谷StarLounge
チケット代:3,900円 ※ドリンク代別途必要 ※特典付
2023年5月12日(金)
2マンライブ
ゲスト:fusee
時間:開場18:00 / 開演18:30
会場:渋谷StarLounge
チケット代:3,900円 ※ドリンク代別途必要 ※特典付
ワンマンライブ at 東京キネマ倶楽部
1月25日(水)に発売された1st Full Album『浮遊バグ』の集大成として、6月17日(土)東京キネマ倶楽部でのワンマンライブの開催が決定! チケットは3月9日(水)に渋谷StarLoungeで行われるライブにて最速先行手売り販売を実施いたします。
※チケットは3月9日(水)のライブにご来場の方のみご購入いただけます。
日程:2023年6月17日(土)
時間:開場17:15 / 開演18:00
会場:東京キネマ倶楽部
チケット代:5,900円 ※ドリンク代別途必要
詳細:こちらから
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