ひとりの夜に効く音楽の処方箋

望月 柚花

望月 柚花

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どれだけ明るい性格の人にだって、孤独が沁み入る夜はある。

疲れた、さみしい、嫌なことがあった、いらいらする、傷ついた…。そんな気持ちは大抵の場合ひとりではどうすることもできないし、かといって誰かに話したところで解決するものでもない。でも、そんな気分のまま一日を終えてしまうのはなんとなくもったいない気がする。

たった一曲の音楽に救われた夜が数え切れないほどある。毎日を頑張るあなたにも、そんな一曲があればいいと思ってこの記事を書いた。


理由もなくさみしい夜に
Mom 『タクシードライバー』

昨年Apple Musicの「今週のNEWARTIST」に選出されたMom(マム)は、iPhoneやMacのフリー楽曲制作アプリ『GarageBand』を使い、トラック制作や音源のミックスをしている。

『タクシードライバー』はアルバム『PLAYGROUND』に収録されている。音数が少ないのに叙情的なトラックとやわらかな歌声、少しだけさみしい歌詞は、タクシーの車窓から見る都会の夜を連想させる。

同じ気持ちになったことがある、同じ思いをしたことがある、同じ悲しみやせつなさを知っている。普遍的な感情をいい意味でうまく楽曲に落とし込んでいる美しい一曲だ。

人と関わることに疲れた夜に
パソコン音楽クラブ 『reiji no machi(vo.イノウエワラビ)』

パソコン音楽クラブのセカンドアルバム『Night Flow』に収録されているこの曲も、どうしたって都会の夜を連想する。満員電車、人ごみ、誰かのいる場所。そういったものに揉まれ心身ともに疲れた時に、この曲をイヤホンで聴くと不思議と心が研ぎ澄まされていく感覚になる。

自販機、公衆電話、標識、改札、信号機、券売機、バスに乗る、歩く、タクシーに乗る。夜の無機質な発光するものたち。夜の街の見えなかった(見ていなかった)ものたちが突然見えるようになる。様々なモチーフがテンポよくスタイリッシュに映るMVは楽曲とぴったりで、独創的なカメラワークにもじっと見入ってしまう。

映像があって曲の世界観がわかりやすくなり、曲の世界観があることで映像の意味が深まるようだ。互いが引き立てあってより純度の高い作品になっている。

明日は笑顔でいたい夜に
赤い公園 『Highway Cabriolet』

ボーカルとして新たに石野理子が加わった新生・赤い公園の楽曲。新体制になって最初の曲である『消えない』からすでに新しい赤い公園「らしさ」が軸としてそこにある印象を受けたが、今作『Highway Cabriolet』ではその軸がよりどっしりと、かつ柔軟に広がっていくのを感じた。

MVでは、赤いオープンカーやネオン、メンバーの衣装や小道具が80年代を彷彿とさせるものになっている。様々な解釈ができる映像のようだが、ただ観ているだけでもレトロで可愛らしく、そんな雰囲気に癒される。

サビで思わず踊りだしたくなるような、ポップでキュートなキラーチューン。

傷ついてぼろぼろな夜に
ASIAN KUNG-FU GENERATION 『ボーイズ&ガールズ』

2018年にリリースされたASIAN KUNG-FU GENERATIONのシングル『ボーイズ&ガールズ』は、「みんなとは違うこと」を「それでいい」と歌う。全てを肯定してくれるような、明るく力強い愛と希望に満ちた曲だ。

夜の渋谷と、渋谷にいる若者、同性カップル、スケーター、ダンサー。

「みんなとは違うことを理解しよう」ということに注目が集まる時代だが、それでも「違う」ことを否定される、もっと酷い場合は揶揄の対象になる、そんなことはまだまだあると思う。

でも、そこで「それでも」と歌うのがこの曲だ。メンバーも出演しているMVには、楽曲と同じ優しい空気が当然のようにずっと流れている。

未来を信じたい夜に
Lucky Kilimanjaro 『ひとりの夜を抜け』

夜の街を軽やかに歌い歩くMVが印象的な、Lucky Kilimanjaroの『ひとりの夜を抜け』。

社会で生きていくには傷ついてしまうことが必ずある。嫌われたくないし嫌いたくないのに、誰かと関わっていく上ではそういったことは避けられない。ストレスがじわじわとダメージになる。

そんなふうに自分を責めて落ち込む夜には、この曲がぴったりだと思う。

踊りたくなるような軽やかなトラック、押し付けがましくない前向きさを感じる歌詞は、それまでのささくれた気持ちを落ち着けてくれる。そして、少しだけ自分や自分の未来を信じたい気持ちになる。


(文・望月柚花)