「音フェチシリーズ」第2回目は、「ギターリフ」へのフェティシズム(※グッとくる感じ)をテーマに曲を選ばせてもらった。
透き通るような美しさ、思わず口ずさんでしまうキャッチーさ、ハッとするようなかっこよさ…その印象は様々だけれど、ここで挙げたものはそれぞれ生命力のある鮮やかなリフであることを第一前提として選んで紹介している。
紹介した曲の中で、あなたの「グッとくる」リフが見つかればとても嬉しい。
オシャレで個性的なリフの曲
『Touch me』 the engy
金曜日の夜は仕事が終わったらすぐにイヤホンを耳に押し込む。何度聴いてもこの洒落たギターリフが流れてくると踊ってみたい気持ちになる。でも、夜の街でいきなり踊りだすのは怪しいし恥ずかしいし、だいいち私は踊りを知らない。仕方なく曲と同じテンポで街を歩く。ギターの音がくぐもって聴こえる。夜の街の空気は少しだけ湿度が高い。
『ジャンキー』 赤い公園
すれ違いざまにぶつかってきた人が謝らなかったこと、電車で足を踏まれたこと、悪意のなさそうな言葉にみせかけた悪意のある言葉。なにもかもにむしゃくしゃする時はこれを聴いて走る。国道沿いを今だせる限りの全力で走る。息があがって足がもつれて限界まで苦しくなるまで走ると、それまでの苛立ちやもやもやがスッキリしている。個人的にデトックス効果のあるリフ、ナンバーワン。
美しい風景が見える
『楽園の君』 österreich
ゆりかごから墓場までのあいだに、なにか美しいものを見たい。たとえば失ってしまった大切な人の笑顔とか、忘れてしまった帰り道とか、物語の最後のページになにが書いてあったか、とか。わたしたちそれぞれの人生は小説のようで、ということはこの世界には2020年現在、70億を超える物語が存在することになる。この曲のイントロが聴こえるとそんなことを考えてしまう。ざらりと乾いたギターの音が、そういうありふれた妄想に拍車をかける。
『構いやしないけど』 NUNNU
雨の日はなんとなく身体が重い。水の中みたいだ。そういう時はずっとベッドの中にいて、できるだけ綺麗な夢を見たいから思いつく限りの綺麗なものを想像する。きらめく青がまぶしい水の中、そこに差し込む光、こもったようなピアノの音、夕方の海。泣いてないのに涙がとめどなくあふれてくるような気持ちになる。やわらかくてやさしい空虚だ。
いつのまにか覚えてしまうキャッチーさ
『Caffeine』 秋山黄色
真夜中のキッチンに立って、ひとりで泣いてしまわないように一定のリズムで一定の量の息を吸って吐く。大人になったのにこんなふうになるとは思わなかった。ベッドで天井を睨むだけの時間が耐えられないから家の鍵だけ持ってふらふらと外に出る。真っ直ぐに続く歩道の途中で立ち止まって呼吸を整えて、自販機で買ったエナジードリンクを飲んだ。
『トーキョーゲットー』 Eve
「変わってるね」と言い放つのは一種のdisだ。「変わってる」はつまりスタンダードではないということなのだろうけれど、お前のスタンダードが世界基準だと思うなよ。あと自分の物差しで測ることのできない人間の前にそうやって一言で線を引くなよ。でも、引かれた線よりも遥か向こうにある「立ち入り禁止」の看板の先は静かでいい場所であることを私は知っている。知っているけれど、線を飛び越える勇気も有刺鉄線を乗り越える勇気もない。だから曖昧に笑うだけだ。
『クロノスタシス』 きのこ帝国
夕方の散歩や駅からの帰り道、近所のコンビニにまで歩いていく時、気づいたらこのリフを鼻歌でなぞってしまう。どこかの家の晩ご飯のにおいをかぎながら、家の鍵をちゃらちゃらいわせながら、アイスを食べながら。音量をおさえた鼻歌は頼りなくて、なぜか子供のころのことを思い出す。
かっこよさを重視するならこちら
『TREE CLIMBERS』 木村カエラ
急き立てるような、挑発するような、いい意味で優しくないリフ。10年くらい前、ティーンエイジャーだったころに死ぬほど聴いていた。あと70年くらい生きる(予定)として、365日×70年=残された日々は25,550日。運がよかったら25,550日生きることはできる。その残り時間の少なさにマジ?と思った。人生は有限だということを突きつけられた最初の時期だった。このリフを聴くとその時期を思い出す。
『90’S TOKYO BOYS』 OKAMOTO’S
朝が嫌いだ。どれだけ楽しくて永遠に踊り続けたくても朝はくる。その虚しさを知ってしまうから夜遊びはするもんじゃない。アルコールもだいたい同じだと思う。飲んで酔ってる時は楽しいし美味しいけれど、それが過ぎ去れば残るのは虚さか吐き気か頭痛だ。それでも夜明けまでふらふらして、昨日と今日と明日の境界線が曖昧になっていく。
(文・望月柚花)
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