いなくなってもここで鳴り続ける、ヒトリエ・wowakaの遺したもの

望月 柚花

望月 柚花

「いなくなってもここで鳴り続ける、ヒトリエ・wowakaの遺したもの」のアイキャッチ画像

wowaka(をわか)は、同名の人気ボカロPとして活動したのち、4人組バンド・ヒトリエのギターボーカルとして音楽を作り続けてきたアーティストである。

ボカロPとしてのwowakaは、当時「ハチ」の名前でボカロ界隈を席巻していた米津玄師と同時期に楽曲を投稿し続け、彼らはほぼ互角の人気と再生回数をほこるライバル同士だった。

ボカロ全盛期、私が最初に聴いた初音ミクの曲がwowakaの『ローリンガール』で、ありきたりで使われすぎたつまらない表現だが、それはそれは衝撃的だったのをよく憶えている。

この曲を聴いて理由もわからずパソコンの前でぼろぼろ泣いた。

その時は号泣した理由がなぜだかわからなかったけれど、今振り返ると当時の自分の孤独とかさみしさとか、誰にもわかってもらえない、そんな「ティーンエイジャーあるある」な心の空洞に触れられた気がしたからだろうと思う。

それからは『ずれていく』『裏表ラバーズ』『ワールズエンド・ダンスホール』など、のちに語られるボカロPとしてのwowakaの代表作を繰り返し聴いていた。

テンポが速く、歌の言葉数も多く、耳馴染みのない音楽かもしれない。だが、あのときそれぞれの孤独やさみしさを抱えていたリスナーにとって、wowakaの作る音楽というものは限りなく心に近い場所で鳴っているお守りのようなものだった。

救われた人がたくさんいると思う。そして私自身も、それに救われたひとりだった。

ヒトリエとの出会い / wowakaの音楽との再会

『ローリンガール』の衝撃から数年。

音楽に詳しい友人から突然「いいバンドがいる。とりあえず聴いてほしい」と言って手渡されたCDがヒトリエ『イマジナリー・モノフィクション』だった。ドラムが刻む疾走感、印象的なギターのリフ、歌詞の切実さに聴きおぼえがある気がした。

少し後になって、ヒトリエのwowakaがあの『ローリンガール』を作ったwowakaだということを知る。wowakaの音楽との再会だった。

ヒトリエは、2014年『イマジナリー・モノフィクション』をリリースし、同年に初のフルアルバム『WONDER and WONDER』を発表、メジャーデビューを果たす。2016年にアルバム『DEEPER』と『IKI』を順にリリースし、2017年『ai/SOlate (Special Edition)』、2019年『HOWLS』を発表。

走り抜けるようにとてつもないスピードで楽曲がリリースされていく。それと同時に全国ツアーを行うなど、かなりタイトなスケジュールでヒトリエは活動していた。

2019年、『HOWLS』に収録されている楽曲『ポラリス』がテレビアニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』のエンディングテーマ曲になる。

ヒトリエというバンドが少しずつ知名度を上げていき、ボーカロイドを知らない人たちにもヒトリエが浸透し始めた時期で、好きなバンドが知名度を上げていく嬉しさと、これからどんな曲が生まれるのだろうというワクワクした気持ちでいっぱいだった。

そんな中、ある日突然こんなニュースが飛び込んできた。

2019年4月5日「ヒトリエ・wowaka、急性心不全。享年31歳。」

スマホに表示された文字の羅列を見ても全く意味がわからなかった。こんなのはたちの悪い冗談だと思った。それでも、公式からのお知らせ、メンバーのコメント、テレビのニュースが否応無く現実を押し付けてくる。

その日を境に、wowakaという存在はこの世から消えてしまった。

本人のツイッターには、「発表されたばかりの新元号が綺麗だ」という内容の短いつぶやきが最後に残っていた。

後日、wowakaのお別れ会・追悼ライブが東京で行われ、そのライブは動画でも配信された。このライブでのボーカルはギターのシノダが務め、ベースのイガラシとドラムのゆーまお、メンバーの全員がwowakaのことを想い、wowakaに向けて音を鳴らしていた。

ステージの真ん中の、誰もいない場所にあたるスポットライト。その光のあたる場所には、生前wowakaが使用していたギターが置かれていた。

wowakaが作り、鳴らし続けた音

wowakaの作る音楽は、ボカロP時代から無闇矢鱈に「元気」を押し付けるものではなかった。

「あなたたちのその痛みを、その孤独を、その悲しみや寂しさを、自分も知っている。」

そういってそれぞれの「一人へ」向けて寄り添い続ける音楽だった。wowakaの音楽はいつだってそばで鳴っていたし、それはこの先も続くものだと思っていた。きっとまだみんな彼の不在には慣れていない。

最後に、アルバム『HOWLS』に収録されている『ポラリス』を紹介して終わる。

wowakaの遺した音楽は、いつまでも北極星のように輝いている。

(文・望月柚花)