【フェスレポート】withコロナ時代の野外LIVEプロジェクト、ソラリズム OPEN AIR キックオフ[日比谷 2DAYS]

五辺 宏明

五辺 宏明

「【フェスレポート】withコロナ時代の野外LIVEプロジェクト、ソラリズム OPEN AIR キックオフ[日比谷 2DAYS]」のアイキャッチ画像

2022年3月12日(土)・13日(日)、日比谷公園で『ソラリズム OPEN AIR キックオフ【日比谷 2DAYS】』が開催された。

シアターブルックの佐藤タイジが提唱した『ソラリズム』は、全国各地の公園などにある活用されていないステージを利用して、世代を超えた人々が音楽を楽しめる場を作っていこうという注目のプロジェクトである。今回は、東日本大震災の翌年となる2012年から続いている『Peace On Earth 311未来へのつどい』(2022年3月11~13日)との同時開催。

取材させていただいたのは、THE FOURCE(ATSUSHI、KOHKI、佐藤タイジ、坂本雅幸)が出演した初日。『ソラリズム』発起人の佐藤タイジがメンバーの一員として名を連ねるTHE FOURCEの独創的なステージに魅了され、結成直後から追いかけている。

今回はイベント会場の様子とともに、東田トモヒロ、S.T.K.(SUGIZO+TETRA)、THE FOURCE、LA SEÑAS、MONO NO AWARE、Polaris、GAKU-MCのステージをレポートする。


コロナ禍にスタートした『ソラリズム』と、311の翌年から続く『Peace On Earth』

photo by 須古恵

正午前に日比谷公園に到着。

「ここに来たのはいつ以来だろう? OAUやリクル・マイが出ていた数年前の『Peace On Earth』だったような…」と考えながら、検温と手指の消毒を済ませ、入場無料のイベントスペースへ。東日本大震災以前は、野音でライブを観るために訪れていた日比谷公園が、震災以降は『Peace On Earth』に参加する場所になっていることに気づく。

今回の『ソラリズム』は2ステージ制。小音楽堂を使ったソラリズムステージは有料チケットエリア、噴水広場に設営されたPeace On Earthステージはオープンな無料エリアだ。

ソラリズムステージで使用される電気は100%ソーラー発電によるもので、噴水広場の傍には大量の太陽光パネルが設置されていた。佐藤タイジとともに『ソラリズム』プロジェクトを進めるアースガーデンは、311以降、農業と発電を両立させるソーラーシェアリングを実践してきた。佐藤もまた、100%ソーラーエネルギーを活用したロックフェス『THE SOLAR BUDOKAN』を主宰している。両者の経験が活かされたサスティナブルなイベントであることも、今回の『ソラリズム』の特色のひとつ。

photo by 須古恵

噴水広場を囲むように並んだブース付近を散策。東北の食材を使用した「東北旨いもん鍋」をはじめ、食欲をそそるフードブースも数多く出店されていたが、新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置が適用されていたため、アルコールの販売はなし。晴天の野外フェスでビールを口にできないのは、残念としか言いようがない。東京はこの日、今年初の最高気温20度以上を記録したというのに。

千駄ヶ谷で人気のテイクアウト専門店「rico curry」の前で「どのカレーを注文しよう…」と悩んでいると、Peace On Earthステージの方向から拍手が鳴り響く音が聞こえてきた。

東田トモヒロ

photo by 須古恵

真夏のような昼下がりのPeace On Earthステージに現れたのは、シンガーソングライターの東田トモヒロ。

生まれ育った熊本をベースに活動を続ける東田は、福島原発事故以降から食料とエネルギーの自給自足をスタート。自宅スタジオでの音楽制作もソーラー電力を使用しているという。まさに「311震災復興へ、エネルギーの将来へ。社会とアーティストの場づくり」を謳う『Peace On Earth』に相応しいアーティストである。

3曲目に披露された「War is not the answer」は、ロシア軍によるウクライナ侵攻に胸を痛める人々の心に響いたことだろう。

ラストの「Indigo Blues」で客席から自然発生した手拍子は、声を上げることができない聴衆から東田に送られた最大級のエールだったに違いない。

S.T.K.(SUGIZO+TETRA)

photo by KOTARO MANABE

Peace On Earthステージから、S.T.K.を観るためにソラリズムステージに移動。

S.T.K.は、SUGIZO(LUNA SEA / X JAPAN)と、構成作家でトラックメイカーの谷崎テトラによる電子音響ユニットで、SUGIZOはエレクトリック・バイオリンを使用。

谷崎の放つアブストラクトなビートに、SUGIZOが奏でるバイオリンが静かに漂う。「LUNA SEA、X JAPANで活躍するギタリストのSUGIZO」を期待していたファンがいたとすれば、肩透かしを食らっていたのかもしれない。だが、客席にいたオーディエンスの多くは、彼が多岐にわたるジャンルの音楽に精通していることを知っていただろう。

気温が20℃を超えていることを忘れてしまうような涼しげなサウンドが鳴り響く。しかし、終盤に向かうにつれて徐々に熱を帯び、クライマックスを迎えていった。

THE FOURCE

photo by 須古恵

14時半を少し回ったくらいに、THE FOURCEがソラリズムステージに登場。メンバーは舞踊家のATSUSHI、BRAHMAN & OAUのKOHKI(g,b)、佐藤タイジ(vo,g,b)、元・鼓童の坂本雅幸(電子和太鼓Taiko-1)。

2020年11月に初ライブを行った代官山「晴れたら空に豆まいて」に3度、そして昨年12月に京都「南座」のイベントに出演したTHE FOURCE。今回の『ソラリズム』は、初の野外ライブとなる。

この日のハイライトは、 “奄美の歌姫”里アンナをゲストに迎えたOAUの「夢の跡」。祈りのような里の歌に耳を奪われながら、10年前も同じ場所でこの曲を聴いていたことを思い出した。

震災からちょうど1年後の2012年3月11日。『Peace On Earth』の2日目にOVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND(現・OAU)のギタリストとして出演したKOHKIが奏でた「夢の跡」のイントロを聴いて、涙腺が緩んだことを今でも覚えている。

ATSUSHIの舞をフィーチャーし、視覚的な要素も強い彼等が野外映えすることを、多くの音楽ファンや関係者が認識したことだろう。全国各地のフェスで、彼等のパフォーマンスが披露されることを熱望する。

バンドでもなくユニットでもなく「集合体」として行動を共にする異能の4人組、THE FOURCEの動向に注目! 過去に掲載されたライブレポートやインタビューもあわせてご覧いただきたい。

LA SEÑAS

photo by 須古恵

芝生広場に立てられた311本の旗。クラウドファンディングで実現した未来のシンボルに囲まれパフォーマンスを披露したのは、LA SEÑAS(ラセーニャス)。

若き即興打楽器集団のLA SEÑAS は、アルゼンチン発祥の演奏法「ボンバスタイル」を現地で学んだ佐藤“仙人”文弘よって2016年に結成された。サンディエゴ・バスケス氏が考案した「ボンバスタイル」は、指揮者が150種類以上のハンドサインを駆使して、その場でリズムを構築するという。

この日は20人の大編成。音の厚みが尋常ではなく、特大の三尺桶胴太鼓が打ち鳴らされた際には、空気が震えているように感じられたほど。

重なり合うビートと、心から楽しそうに演奏する若者達の笑顔に吸い寄せられた人々が、身体を揺らし、両腕を突き上げながら、満面の笑みを浮かべていた。

MONO NO AWARE

photo by 須古恵

MONO NO AWAREを観るために、再びソラリズムステージへ。

『世界の闇図鑑』や『沈没家族 劇場版』『海辺のエトランゼ』といった映画やアニメに楽曲を提供する人気バンドであるが、個人的には一度も曲を聴いたことがなかったので、取材前に過去作品を聴き「予習」してライブに臨んだ。

現時点での最新作となる4thアルバム『行列のできる方舟』に収録された「孤独になってみたい」や「そこにあったから」「幽霊船」といった曲を実際に生で聴き、音源よりもロック色の強いサウンドを鳴らしていることを知る。

加藤成順のミニマルなギターフレーズが耳に残ったので調べてみたところ、マニュエル・ゲッチングが好きとのこと。

印象に残ったのは、3rdアルバム『かけがえのないもの』収録曲の「言葉がなかったら」と、ラストに披露された2ndアルバム『AHA』収録の「東京」。改めて音源を聴き直してみたい。

Polaris

photo by KOTARO MANABE

ソラリズムステージのトリを務めたのは、Polarisのオオヤユウスケと柏原譲(フィッシュマンズ / So many tears)、そして2017年発表のミニアルバム『走る』から行動を共にするサポートドラマーの川上優(Nabowa)。

オオヤがMCで「今日は皆さんの前に戻ってきたなって感じです」と野外で有観客ライブを行える喜びを伝える。オオヤも出演した昨年の『Peace On Earth』は、新型コロナウイルス感染拡大の影響によりオンラインのみで開催された。

フルアルバムとしては現時点での最新作となる6thアルバム『天体』に収録された「グラデーション」のサンバのリズムと、〈夕暮れ時〉という歌詞から始まるフィッシュマンズ「Season」のカバーが、黄昏どきの野外フェスに心地よく響く。

ラストの「光と影」が終わり、ふと頭上を見上げると、まだ明るさを残した空に月が光り輝いていた。

GAKU-MC

photo by 須古恵

陽が沈み、先ほどまでの暑さが嘘のように冷え込みはじめたころ、Peace On EarthステージにGAKU-MCが登場。

ドラマーと鍵盤奏者と共に現れたGAKU-MCは、アコギを携えていた。EAST ENDのメンバーとして知られるGAKU-MCは、1999年からギターを弾きながらラップするスタイルでソロ活動を行っている。

このステージは『Peace On Earth』と、GAKU-MCが東日本大震災後から続けている『アカリトライブ』とのコラボライブとして行われた。

『アカリトライブ』は、キャンドルに灯したアカリを使ってライブを行い、被災地へ心をつなぐプロジェクト。キャンドルホルダーに書かれたメッセージは、GAKU-MC自らが日本全国及び20ヶ国以上の国や地域から集めたものである。この日もキャンドルに囲まれた3人に惜しみない拍手が送られていた。

コロナ以降の野外ライブ文化をめざす『ソラリズム』

抜けるような青空のもと、ジャンルを超えて集結したミュージシャン達が鳴り響かせたサウンドを、全身で浴びる心地よさ。コロナ禍の生活に疲弊し、忘れそうになるこの感覚を取り戻すことができたのは、出演者やスタッフ、関係者、そして日比谷公園に来場した人々のおかげである。

次回の『ソラリズム』は、4月9日(土)・10日(日)。会場となる「多摩あきがわLive Forest」は、東京都あきる野市の深沢渓 自然人村(ふかさわけい・しぜんじんむら)というキャンプ場の中にある。都心にある日比谷公園と比べてしまうと、アクセス面においてハードルが高くなるが、コロナ禍に行う野外フェスであることを考えれば、最も適した会場といってよいだろう。

また、今後の開催予定地として、福島、山梨、静岡、山口の野外会場が発表されている。全国各地の音楽ファンが心待ちにするイベントとして『ソラリズム』が定着することを願う。

(取材/文・五辺宏明)
(撮影・須古恵、KOTARO MANABE)


ソラリズム OPEN AIR キックオフ【日比谷 2DAYS】
3月12日(土)出演

THE FOURCE ~ATSUSHI、KOHKI、佐藤タイジ、坂本雅幸~ / Polaris / MONO NO AWARE / S.T.K.(SUGIZO+TETRA) / GAKU-MC / 東田トモヒロ / LA SEÑAS / 青柳拓次 / スクナシ(衣美 & 茜) / Auto&mst / 蔡忠浩

3月13日(日)出演

jizue / 日食なつこ / 佐藤千亜妃 / ComplianS(佐藤タイジ & KenKen) / いとうせいこう is the poet / 勝井祐二 & 岡部洋一 with Yae / PAHUMA / 庸蔵 × 木村イオリ from tsukuyomi / 辻コースケ / TEX & SUN FLOWER SEED

ソラリズム 公式サイト

https://solarism.info