30℃を超える晴天のなかで開催された北海道の野外フェス、RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO。8月11日(金)・12(土)の2日間で、出演アーティストは76組、総入場者数は64,000人。アフター・コロナのフェーズに入ったことを改めて実感させられた、熱気にあふれる2日間だった。
RSRでは2006年から、ネクストブレイクが期待される若手アーティストを対象にしたオーディション『RISING★STAR』が開催されている。最終審査を勝ち抜くとRSRのステージに出演でき、過去にはサカナクションやtricotも出演した。
今年は応募総数336組のなかから、First Love is Never Returned(from 北海道)とThe Muddies(from 東京)の2バンドが出演権を獲得。各日のdef garageのトップバッターを務め、大勢のオーディエンスの前で熱量の高いステージを披露した。
cover photo
©︎RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:n-foto RSR team
First Love is Never Returned
5人のグルーヴと“恋する歌声”に酔いしれる
8月11日(金) 13:00〜
def garage
「北海道札幌市から、First Love is Never Returnedです」。Keita Kotakemori(Key./Gt.)の第一声に続いて、ニューヨークにヴォーカル留学した経験をもつKazuki Ishida(Vo.)のハイトーンのアドリブが青空に響き渡る。そのあまりの美しさに、近くのグッズ売り場に並んでいた人たちまでもがステージ上の5人を見つめる。
「あなたの大切なものを捨てないでほしい」というIshidaのメッセージとともに始まった『シューズは脱がないで』は、コロナ禍での活動休止を経て新体制となり、最初にリリースされた楽曲。未来を明るく照らすようなシティポップサウンドに、オーディエンスの軽快なクラップが重なる。この曲のキーとなる歌詞〈Spot light 浴びるまで/シューズは脱がないで〉を、〈“それぞれの”シューズは脱がないで〉とアレンジしたIshidaの歌声は、パンデミックで苦い思いをしたすべての人たちへの力強いエールに聴こえた。
Mizuki Tsunemoto(Dr.)のドラムと打ち込みのビートから始まった2曲目は、『Baby, Don’t Stop』。2018年に発生した北海道胆振東部地震による大停電と、そのなかでも止まらなかったラジオ。そんな状況にインスパイアされて作った楽曲だという。サビでは多くの人がハンズアップし、終盤にはArata Yamamoto(Gt.)とKotakemoriのギタリスト2人がフロントに出てきてオーディエンスをさらに沸かせた。
「月曜日から木曜日まで頑張ったあなた、金曜日はどうか盛り上がりましょう! 一緒にお酒飲んで!」とIshidaが叫び、3曲目に投下されたのは最新曲『OKACHIMACHI FRIDAY NIGHT』。踊らずにいられないダンサブルなビートに、Yuji Sato(Ba.)が五弦ベースで刻むセクシーなベースラインが絡み、昼間のdef garageはたちまち都会の“friday night”へ。その熱が冷めないままIshidaがギターをもち、『Mama’s Pie』『プラチナ』が続けて披露された。
「僕らはメンバーもスタッフもみんな社会人。(仕事での)悶々とした気持ちをここに晴らしに来ています。もしかしたらみなさんと同じかもしれません。今日だけは邪念は一切ゼロにして楽しんでいければと思いますので、どうぞよろしく!」。MCのあとに最後に披露されたのは、今年5月リリースの『Twenty-Twenty』。コロナ禍でのさまざまな思いを、ブラックミュージックの影響を感じさせる楽曲に乗せて伸びやかに届けた。
ライブ後のInstagramで「def garageのステージ上からの光景は、これまでの人生で自分が選択してきた道、バンドとしての歩み、そしてこの #flinr チームであること、それら全てが間違っていなかった、そう思わせてくれるものでした」と綴っていたKotakemori。この記念すべきステージを経てFLiNRは、スポットライトを浴びるまで、いや、浴びてもなお、美しくも芯の強い音楽を奏で続けるだろう。
Ishidaの“恋する歌声”、そして5人のグルーヴに魅了された方は、彼らの活動拠点である札幌市内のライブハウス、VyPass.(バイパス)にぜひ足を運んでみては。
【Setlist】
1. シューズは脱がないで
2. Baby, Don’t Stop
3. OKACHIMACHI FRIDAY NIGHT
4. Mama’s Pie
5. プラチナ
6. Twenty-Twenty
『OKACHIMACHI FRIDAY NIGHT』
First Love is Never Returned
First Love is Never Returned
(ファーストラブイズネバーリターンド)
『この声に恋をする』。First Love is Never Returned(#FLiNR)、2023年本格始動。NYにヴォーカル留学経験を持つKazuki Ishidaを中心に結成された北海道出身5人組バンド。 他の追随を許さぬ「恋する歌声」を武器に、全方位型ポップミュージックを届ける。
Official Website
The Muddies
全世代の音楽ファンを虜にしたネオ・オールドロック
8月12日(土) 12:00〜
def garage
前日に負けず劣らずの炎天下にもかかわらず、トレードマークのスーツに身を包んだ4人がステージに登場する。束の間の静寂のあと、炎暑をも吹き飛ばすくらいのどデカい音と「今日は楽しんでいきましょう! どうぞよろしく!」というシャウト混じりの声で、The Muddiesのステージは幕を開けた。
The Muddiesは、盛岡出身のメンバーを中心に結成され、現在は東京で活動する4ピースバンド。60’sロックンロールやブラックミュージックをルーツにもち、シカゴ・ブルースの父と称されるMuddy Watersがバンド名の由来というだけあって骨太で情熱的なロックを得意とする。結成間もない高校生のころからCOMING KOBEやSUMMER SONICに出演してきた実力派が、RSRのステージに立つ日を待ちわびていたファンも多かったことだろう。
1曲目は、2020年リリースの1st EP収録曲『We are the Mockers (I am me)』。URARA(Dr.)がアグレッシブに刻む原曲よりやや速いビートと、それをさらに急かすようなオーディエンスのクラップ、そしてイントロから最前に躍り出たISSEI(Gt.)のクールなギターに、その場のボルテージは一気に爆上がり。間奏ではKOMEI(Ba.)がリーゼントの髪を櫛でとかすパフォーマンスも飛び出した。
2曲目『Youthquake』では、ISSEIの弟のFUTA(Vo./Gt.)が「一緒に歌えますか!」と叫び、コールアンドレスポンスでdef garageをひとつにする。彼のガレージ感あふれるしゃがれ声は渋みも色気も含んでおり、続く『Louie Louie』では超高音ロングトーンも披露するなどリスナーを一切飽きさせない。彼らのエネルギッシュなステージに呼応するようにオーディエンスから野太い叫び声が上がり、笑いに包まれるシーンも。
「今年は巡り合わせみたいなものがあるなと思っていて、コロナで(活動が)できなくなったりいろいろあったんですけど、やっていて本当によかったと思っています。ありがとうございます」と、MCで心境を語ったISSEI。彼らの活動拠点である下北沢近松のウメザワ氏が今日ここに駆けつけていることも明かした。
初聴でもノレるキャッチーな最新曲『Satisfied?』、サビでKOMEIとURARAのコーラスが心地よく響く『Parallel World』とキラーチューンが続き、ラストは「俺たちの革命の曲を」と前置きして『Revolution』。すべての力を出し尽くすように激しく音を出す4人に、幅広い世代の人たちが熱狂し、ありったけの歓声と拍手を送っていた。
『Revolution』の演奏中、def garageに気持ちのいい風が吹いた瞬間があった。まだ20代前半の彼らは、往年の音楽へのリスペクトとフレッシュな感性を巧みに融合させながら、令和の音楽シーンに新しい風を吹かせる存在になる——そんなことを予感させる、爽快な風だった。
【Setlist】
1. We are the Mockers (I am me)
2. Youthquake
3. Louie Louie
4. Satisfied?
5. Parallel World
6. Revolution
『Satisfied?』
The Muddies
The Muddies
(ザ マディーズ)
幼馴染であるFUTA(Vocal)とKOMEI(Bass)を中心に結成。 FUTAの実の兄であるISSEI(Guitar)とURARA(Drum)から成る4ピースバンド。
バンド名は「マディ・ウォーターズ」に由来し、平均年齢21歳ながら50s〜60sのR&B、ソウルをはじめとしたブラックミュージックやGarage Punk、British Beatをルーツに持つ。
結成間もなくして「COMING KOBE」「SUMMER SONIC」に高校生ながら出演し、話題を集める。下北沢を中心にライブバンドとして精力的に活動し、枠に囚われない独自のロックンロールで更に進化を続けている。早耳リスナーの注目を集めコアファンを拡大中。
Official Website
(取材/文・三橋温子)