【ライブレポート】自動車教習所×寝屋川×ロックフェス=沢山の愛!「NEYAGAWA DRIVE ROCK FES」(ネヤドラフェス)

遊津場

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9月21日、大阪・寝屋川にある自動車教習所・ネヤガワドライビングスクールにて音楽フェス「NEYAGAWA DRIVE ROCK FES」が開催された。場所は間違っていない。自動車教習所を野外ロックフェス会場にしたのだ。

この教習所は2018年より、寝屋川のライブハウス・寝屋川VINTAGEにて「ネヤドラライブ」を主催しており、これまでも多くの学生バンドや寝屋川と近隣地域のバンドの活動に寄与してきた実績がある。そして今年ついに、「秋の全国交通安全運動」に合わせた交通安全啓発イベントとして、教習所のコース上にステージを設けて野外ロックフェスを開催したのだ。

ちなみに特設ステージとして利用されていたのは、なんと大型トラックの荷台。そこを寝屋川VINTAGEのスタッフ陣が音楽ステージへと変えていた。

今回の記事は出演バンドのライブレポートを中心とするため、イベント全体の様子には深く触れないが、教習車のトランクを使った特別シート席があったり、教習車のボンネットにバンドと来場者がメッセージを書き込めたり(しかも実際に実習で走るらしい)、教習所ならではの取り組みで参加者を楽しませた。

また、ライブ前には交通安全トークショーも。FM802のDJハタノユウスケ、そのハタノが担当する番組「RADIO∞INFINITY」の番組内コーナー「ネヤドラBLUEBERRY GUYS」のDJを務めるネヤドラ卒業生・the paddles 柄須賀皇司(Vo./Gt)、そしてネヤドラ職員の阪口氏が、“ヘルメット占い”なるユーモアも交えながら、自転車交通事故に関して来場者に重要なポイントを伝えていた。自転車の点検の際は「ブタはしゃべる※」と覚えておこう。


【ブ】…ブレーキ
【タ】…タイヤ
【は】…ハンドル
【しゃ】…しゃたい
【べる】…ベル


grating hunny

寝屋川の新星が初の野外フェスで交わした約束

「寝屋川らしい」という曇天の中でスタートした1組目は、寝屋川発2006’sパンクロックバンド・grating hunny(グレイチングハニー)。

SEが鳴ると、自動車教習所の空気が徐々によく知るライブハウスの緊張感に変わる。スズキタ(Vo./Gt.)の挨拶の後、1曲目『音楽準備室』がスタートした。静かな歌い出しから、容赦ない轟音を鳴り響かせる4人。てった(Dr./Cho.)は早くも立ち上がり、「寝屋川ー!」と叫んだスズキタの表情からは笑みが消えてどんどん鬼気迫っていく。

お客さんももちろんライブハウスと同じように拳を上げるが、ふと周りを見ると教習用の信号機があるし、野外のぬるい風が吹くし、静寂になるとカラスの鳴き声も聴こえるし…となんだか不思議な空間だ。その後、激しい演奏を受け止める大黒雅水(Ba./Cho.)の強固なベースラインと、があぁくせい(Gt./Cho.)の間奏のギターの哀愁が印象的だった『君が見てる』、“自転車の曲”という紹介で始まった『student』の2曲を披露した。

ここで、後半戦を前にバスドラムのヘッドが破れるハプニングもありつつ、MCタイムへ。今、寝屋川VINTAGEをホームとする彼らが初めて寝屋川VINTAGEのステージに立ったのは、このネヤドラのイベントだったという。現在の日々の心情を赤裸々に語ったスズキタは、「でもそんな僕でもギターを鳴らせば歓声が上がるし、僕が叫べばバンドが始まります。『高槻』ーーー!!!!!」と叫び、彼らの楽曲の中でも特にパンキッシュなナンバー『高槻』へと繋げた。

会場が熱気に包まれる中、終盤にはこんなMCも。「なんか日頃のイライラが多すぎて、今日はめっちゃ被害者ヅラしようと思ってたんですけど、皆が思ったより優しい顔で僕を見てくれるから、何にイライラしているのか分からなくなりました。ここにいる人に僕の敵はいないことが分かったから、僕があなたを守るから、あなたは僕を守ってください」。そして最後の咆哮を響かせたスズキタは、ハンドマイクに変えて「隣には僕がいます」と伝え、ラスト曲『Don’t forget grating hunny.』へ。最後まで死力を尽くし、ライブを締めた。

高校生活と並行しながら相当量のライブをこなしてきた彼らは、11月3日のライブで受験勉強のため一旦活動休止に入る。全国的にもインパクトを与えた寝屋川の新星である彼らが、運転免許を取得して全国を回る姿を楽しみにしたい。

【Setlist】
1. 音楽準備室
2. 君が見てる
3. student
4. 高槻
5. Don’t forget grating hunny.

アルコサイト

おもろいことの中心に、ロックバンドがいる

2組目はリハーサルから「交!通!安!全!」と叫びまくったアルコサイト。

SEが鳴り出すや否や会場からクラップが起こり、北林英雄(Vo./Gt.)の「ネーヤードーラー!やろうぜー!」という叫びと共に1曲目『髪を切って』がスタート。伸びやかなボーカルと激しくも洗練されたバンドサウンドは寝屋川の曇天を切り裂く。「一番ヤバいギター弾いてくれ!」と託された小西隆明(Gt.)もフルスロットル。続けて「思い切り遊ぼうぜー! よろしくー!」と『TEENAGE KICKS』を畳み掛ける。

「知らなくてもいいぞ! 俺らとめっちゃ面白いことしよう!」と誰よりも楽しくライブするその姿に、お客さんもドキドキワクワクしないわけがない。3曲目『愛してあげるよ』では会場全体がジャンプ! テンションが上がった小西はスピーカーが置いてある上のスペースまで登り、「どこで弾いとんねーん!」と北林にツッコまれていた。

「風涼し。音デカッ。めっちゃ楽しいー! こんな最高な遊び場、遊び尽くそうぜー!」という北林の雄叫びから、『好きじゃない』へ。北林と小西の軽快なステップ、そしてそれを優しく大きく受け止める濱口亮(Ba.)と森田一秀(Dr.)のリズム隊。ただテンションが高いだけでなく、キレのいいリズムとハッキリ届く歌詞で後方まで楽しませるのが彼らの持ち味だ。「車は安全運転で。ですが人生のスピードはフルマックス!」という言葉で始まった『火花』では、刹那を感じる歌詞と濱口のコーラスも相まって、心がエモーショナルに駆り立てられた。

最後のMCでは、「教習所の中でこんなおもろいことやってんの、世界的に見てもネヤドラだけなんちゃうかなと思うし、こんなおもろいことの中心に俺たちみたいなロックバンドがいれるのがすげー嬉しいし、中心にそんな音楽があるのがすげー嬉しいし、最高の褒め言葉としてマジでイカれてると思うし、イカしてるし、センスいいと思います。そんな音楽求めて集まったみんなもマジ最高だと思います!」とコメント。

そして、「音楽があれば何でもできると思ってて、音楽で世界平和いくと思ってんよな。音楽があるから強くなれるし、音楽があるから優しくなれるし、誰かのことを幸せにしたいって思えるし、できると思ってるから。俺たちがライブハウスで出会った人に書いた歌。後ろの人まで届きますように」と前置きして、『ロックが足りない』へ。「出会っちまったら最後だぜ」という言葉の通り、サビのフレーズは曲が進むたびに歌う人が増えていく。感動的な音楽の力に包まれたのも束の間、「ラスト1分ー! 馬鹿になろうぜー!」と叫びながら『馬鹿みたい』を投下。全てを幸せに変えて、アルコサイトのステージは終了した。

【Setlist】
1. 髪を切って
2. TEENAGE KICKS
3. 愛してあげるよ
4. 好きじゃない
5. 火花
6. ロックが足りない
7. 馬鹿みたい

猫背のネイビーセゾン

寝屋川を染めた全身全霊のおまじない

3組目は、「神戸、夜を彩るネオンロックバンド」をキャッチフレーズに掲げる、猫背のネイビーセゾン。

オシャレなSEの中、横山大成(Gt.)と石坂圭介(Dr.)が運転のマイムで登場すれば、おかともき(Ba.Cho)は「もっと高いところで手を叩ける?」とお客さんに促し「綺麗」と一言。その後、井上直也(Vo./Gt.)が登場し、会場全体を見渡しながら告げた。「(この後の)Blue Mashとthe paddlesに体力残してないよな? 全身全霊でいくぞ。音乗りにきたぞって人どんだけいるか見せてもらっていいですか? (じっと見渡して)皆様に我々とあなたの心が1つになるおまじないをおかけしました。しかしこのおまじない! 忠告しなければならないことがございます。我々の作り出す音は少々強い中毒性がございますのでご注意ください…! さぁそれではお待たせしました! 皆さんを虜にさせちゃう魔法です」

こうしてスタートした1曲目は『愛想のまちがい』。独特な音色と空間を歪ませる横山のギターソロが会場を猫セゾの世界へと引き込んでいく。野外だとより際限なく空間に“色”が伝わるのが非常に魅力的。2曲目、夏の曲『バトルサマーⅢ』では、会場の「オイ! オイ!」という掛け声もさらに大きくなる。井上、おか、横山のフロント3人の息の合ったステップからも目が離せない。この暑さは夏の暑さではなく、彼らの熱狂が巻き起こしたものだ。

MC中もリズムの揃ったクラップは鳴り止まない。「本日は車ではなく、我々の音に乗って素敵なドライブを最後までお楽しみください」の言葉に続いて始まったのは『偽り切ないな』。印象的なサウンドで来場者を3次元から新次元に連れていきながらも、肉体性を加える石坂のドラムがいい味を出している。「まだまだスピード上げてくぞー」という煽りからの4曲目は『kimiOS』。クラップの鳴り響く空間が何よりのエンジンとなって会場の熱量を上げ、井上からは「おいおいネヤドラ最高やんけー!」という叫びが思わず漏れた。

ラストは10月リリースの新曲『DANDANDANCE』で最高潮に。おかも一部ボーカルを務め、ジャンプあり、手の横振りありと、シートベルトしながらではちょっと聴けないかもしれないレベルで体が動く、自由なダンスチューンを繰り出す。全編終了し「改めて我々が『神戸、夜を彩るネオンロックバンド』猫背のネイビーセゾンでした! ありがとうございました!」と告げて帰った4人の姿は、陽の落ちてきたステージの上で輝いていた。

映画のようなコンセプトでのライブも行うバンドだが、もうハコモノの中には収まり切れないと思わせるほど、野外での強さを見せた25分だった。

【Setlist】
1. 愛想のまちがい
2. バトルサマーⅢ
3. 偽り切ないな
4. kimiOS
5. DANDANDANCE

Blue Mash

寝屋川を胸に、Blue Mashは輝き続ける

4組目は地元寝屋川出身ロックバンド・Blue Mash(ブルーマッシュ)。

初ライブはネヤドラのイベントというBlue Mash。優斗(Vo./Gt.)は「そのライブから6年間、俺が目指していたステージは武道館よりも東京ドームよりも、ここの場所だったんじゃないかと思います!」と話す。そして「俺らがBlue Mashです。俺らが寝屋川VINTAGEのロックスターです! 『2002』!」という言葉から『2002』がスタート。「俺の街やぞ、拳!」と言うとフロアはもみくちゃに。げんげん(Gt.)もスピーカーがあるところまで登り、高所から爆発的なギターソロを見せる。

「今日このステージを任せられたことは何よりも一番大きいことだと思ってます。地元バンドはあとでパドルスってバンドが出てくるんですけど、俺がこの4年、5年で死ぬほど努力したとこ、(柄須賀)皇司君見てて!」。後輩からのそんなメッセージを受け取り、the paddlesの柄須賀がステージ脇へ移動するシーンもあった。

「ロックバンドっていうのはいつだって危なっかしくて、嘘つきで、最低で、一番カッコいいんだよ」の言葉に続いて始まったのは『このまま僕らが大人になっても』。荒川ソラ(Ba.)の攻撃的なベースラインが鳴り響き、熱量の右肩上がりは止まらない。終わる頃には優斗のギターの弦が切れていた。続く3曲目は、「ご近所の皆さん、ロックバンドです!」という近隣へも届きそうな挨拶から『春のまま』を演奏した。

MCでは、優斗がイベントへの感謝と曲変更を伝えた。「ここがなかったら今の自分はいない」。そんな一言を携えて始まったのは、今日の機材の貸出しやステージ制作を行った寝屋川VINTAGEの歌、『愛すべき日々』。「今日のことを目に焼き付けて帰ろう!」という言葉と共に鳴らされた少しもの寂しげなギターは、寝屋川の夜風に合う。曲中、ステージ横の柄須賀に「意味のない飲み会繰り返してよかったっすね! 安い酒でしょうもない夢ばっか語り合って! …俺、今日いいライブします!」と伝える場面も。「寝屋川、力貸してくれ!」と叫んでラスサビに突入し、「ライブハウスには夢があるんだよ!」と思いの丈を詰め込んだ。

最後のMCで、ネヤドラでの初ライブの思い出や聴いてくれている人への感謝を伝えた優斗。ステージ上から寝屋川VINTAGE店長に「心斎橋のど真ん中のBIGCATで、寝屋川VINTAGEのバンドだけでライブがやりたい」とも伝えた。そして、いつか実現するかもしれないそのライブと寝屋川VINTAGEで再び会うことを会場に約束し、「俺の守りたいものが寝屋川です!」と叫んでラストの『海岸線』を演奏した。

近年では大型フェスの出演も重ねるBlue Mash。だが、寝屋川の人達が1から作り上げたステージの照明と寝屋川の街灯に照らされた今日は、彼らが最も輝いた1日だったに違いない。

【Setlist】
1. 2002
2. このまま僕らが大人になっても
3. 春のまま
4. 愛すべき日々
5. 海岸線

the paddles

「アホみたいにバンドやってきてよかった!」

「この街で10年バンドやってきて、1番のライブやりに来ました! 大阪寝屋川、the paddlesです」。柄須賀皇司(Vo./Gt.)のその言葉で、トリのthe paddles(ザ パドルス)が始まる。「皆を笑顔にしに来ました」と告げ、1曲目は『プロポーズ』。ここまでのステージと同じように手も挙がるが、今日一番優しく柔らかい雰囲気を感じた。「寝屋川VINTAGEで育って、一番優しい歌を歌うバンド!」の言葉に偽りない、全てを抱きしめるような歌だ。

2曲目『ブルーベリーデイズ』でも柔らかい雰囲気は継続。柄須賀、松嶋航大(Ba.)、田中智裕(Support Dr.)の丁寧なスリーピースの演奏と、〈ラララ〉の歌声の合体がシンプルに心地良い。最後には柄須賀からネヤドラフェス運営リーダーに向けて、「阪口さん、今日は飲みましょうよ」という一言も飛び出した。

3曲目は雰囲気が一転し、濃い赤の照明と強いビートに。柄須賀が「ネヤドラー! もっと声聞かせてくれ!」と煽り、「この街で育って25年、バンド始めて10年、この街でこんな景色が見れるとは思っていませんでした! ありがとう! 今までやってきたこと、全部吐き出して帰ります」と告げて『WARNING!』へ。さながら深夜高速を疾走するようなナンバーに会場のテンションも上がる。

MCではネヤドラでの免許取得エピソードも交えながら、ネヤドラとFM802に感謝した柄須賀。「愛しかないライブをやって帰ります!」と宣言し、新曲『愛の塊』を披露。〈ベイビー!〉というフレーズが印象的で、1人1人に目を合わせて寄り添ってくれるような優しい歌だ。かと思えば、次の曲へ繋ぐ音量が徐々に上がり、明快なリズムが鬱憤を吹き飛ばす『ステレオタイプ』が投下された。

「寝屋川愛してまーす!」という叫びに続き、本編ラストは『カーネーション』。今日は寝屋川の森が、風が、アスファルトが、この曲の持つ優しさを後押しするかのように増大させていた。本当はここで終了のはずだったが、寝屋川の何かが3人に乗り移ったような勢いで急遽『Alright』が追加された。音止め覚悟でまさに全部をぶつけたthe paddlesのライブは、「辞めずにここまで走り続けてよかった! 大阪寝屋川、the paddlesでした!」という言葉と共に終了した。

それでも起こったアンコール。再登場した田中は「事故のないように安全に帰って、防御力高めでお願いします」と最後に念押しし、柄須賀は自慢の後輩となったBlue Mashとgrating hunnyに感謝した。そして「これがゴールだと思ってません! もっともっとでかいステージで会いましょう! 本当にありがとうございました! この時間が『永遠になればいいのに!』」と告げ、最後はネヤドラブランドムービーとなっている『永遠になればいいのに!』を演奏。絶対に忘れることのできない風景を来場者全員に刻み付け、愛に溢れた教習所フェスは終了した。

【Setlist】
1. プロポーズ
2. ブルーベリーデイズ
3. WARNING!
4. 愛の塊
5. ステレオタイプ
6. カーネーション
7. Alright
En. 永遠になればいいのに!



他に類を見ない取り組みとなった教習所での野外ロックフェス。地元の人も含め、多くの若い人が集まった。

交通安全啓発イベントとして開催された本フェスだが、結果として「生きていればこんな素晴らしい景色に出会えるんだ」と来場者に体感させたことが、これからの生活を安全に過ごすための一番の啓発となったのではないだろうか。そこにロックバンドの音楽が関わったことが、ライブハウス好きとして何より嬉しいと感じた夜だった。

(取材/文・遊津場)
(撮影・オガワタクヤ