【ライブレポート】荒川大輔 / ひとりハイエナカー / 稲見繭 / ながいひゆ|弾き語りライブイベント『ゴガツハズカム0331』

潮見 そら

潮見 そら

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新たな音楽との出会いに心が躍る、年度末の3月31日。新代田駅を最寄り駅とするアコースティックライブバー新代田crossingにて、弾き語りイベント『ゴガツハズカム0331』が開催された。

弾き語りに焦点を当てた本イベントには、ながいひゆ(Hammer Head Shark)、稲見繭(afloat strage)、ひとりハイエナカー、荒川大輔(SPRINGMAN)の豪華出演者4名が集結。新代田crossingでの『ゴガツハズカム』開催は2年ぶりであるという事実も相まって、祝祭ムード漂うメモリアルな一夜となった。


2年ぶりに新代田crossingで開催
『ゴガツハズカム0331』

新代田crossingでの『ゴガツハズカム』開催は、『ゴガツハズカム0326』(2020年3月26日開催)以来2年ぶりとなる。2年前の『ゴガツハズカム0326』には、堀胃あげは(黒子首)やニイマリコ(HOMMヨ)らが出演。堀胃あげはがボーカリストを務める黒子首は、今年の2月にTOY’S FACTORYからメジャーデビューを果たし新たなスタートを切っている。

新代田crossingは、京王井の頭線新代田駅から徒歩3分の距離に位置するアコースティックライブバー。新たな音楽の発信基地を目指して、2012年7月にオープン。今年7月に開業10周年を迎える。“キャンプ場に漂うのんびりした雰囲気”を内装テーマにしているだけあって、橙色を基調とした照明が織りなす、温かみのある空間作りにこだわりが感じられる。客席にはキャンプチェアがいくつか設置されるなど、キャンプの擬似体験ができてしまう風変わりなライブバーだ。

『ゴガツハズカム』では、主催者の吉田氏が「みんなに知ってほしい」と切に願うアーティストをその都度ピックアップしている。今回『ゴガツハズカム0331』に招き入れた4名について、吉田氏は「こういう人たちが世に広まれば、日本の音楽の未来が明るくなるのでは、と個人的に注目している4名」——。そう語っており、期待値の高さがうかがえる。

吉田氏は場内で流す客入れBGMにも強いこだわりを持っていて、各出演者の好みを把握した上で、各々が好きそうな楽曲や演奏前に似合いそうな楽曲をチョイスしているという。開演前の場内には、トッパーを務めるながいひゆが敬愛するきのこ帝国(活動休止中)の楽曲がいくつか流れていた。

真夜中の孤独感にそっと寄り添う歌声
ながいひゆ(Hammer Head Shark)

本公演のトッパーを務めたながいひゆは、2018年結成4人組バンドHammmer Head Sharkのボーカリスト。シンガーソングライターの音楽やフォークソングを好む彼女は、バンド形態のみならず弾き語りでのソロ活動も定期的に行っている。真っ白な衣装を身に纏い、ステージの床にあぐらをかいてアコギを構え、凛とした表情でチューニングを開始した。

1曲目に披露した「00」は、Hammer Head Shark名義で2020年にリリースしたEP『slow scape』収録の1曲。滑らかな指弾きで、アコギの潤沢な音色を奏でていく。続く「声」ではピックを指で挟み、幻想的なムードを纏った歌声で、時に優しく時に熱情を込めて英語詞混じりの歌詞を歌い上げた。そのまま情感たっぷりに「花瓶」を披露し、序盤の3曲を駆け抜けていく。

昨年11月リリースの「Dummy Flower」(Hammer Head Shark)演奏時、サビで《Dummy, Dummy》に付随させて《それは偽物だよ》や《ねえ、消えてよ》といった儚げな歌詞を抒情的に歌う姿からは、切なさに留まらないあらゆる感情が彼女の身体中に渦巻いているように感じた。「すごい久しぶりな曲やります」と披露した「ありきたりなラブソング」では《君の笑顔だけでこの世界は平和なんだよ》と、叫ぶように熱唱。誰もが心の何処かに持ち得る、愛と密接なエモーションを揺さぶっていた。

「キュッ、キュッ」と響くフィンガーノイズがアクセントとして効いていた「レクサイドグッドバイ」演奏後、「最後1曲だけやります」と宣言して投下したラストナンバーは「27℃」。柔らかな歌声で《焦らないでいいよ》と歌い、観客の心、あるいは自分自身と対話するかのようなパフォーマンスで魅せる。最後は「ありがとうございました」と一言。真夜中の孤独感にそっと寄り添うような歌声で、聴く者の心を終始優しく包み込んでいた。

MCでは多くを語らず、曲間の繋ぎは観客の拍手と簡単な曲紹介といったシンプルな構成で彼女のライブは進行していたが、そうした構成であるがゆえに、彼女の凛とした歌声やドリーミーなフィーリングに心置きなく身を委ねられていたのかもしれない。アコギの指弾きとピック弾きの双方を、曲に合わせて臨機応変に操るプレイングに目を奪われる30分弱であった。

【Setlist】
1. 00
2. 声
3. 花瓶
4. Dummy Flower
5. (仮題)名前を呼んで
6. ありきたりなラブソング
7. レイクサイドグッドバイ
8. 27℃

信念を貫く孤高のひとりロックンローラー
ひとりハイエナカー

元ヘンリーヘンリーズ(2017年3月解散)のボーカリスト村瀬みなとが2017年4月に開始したソロプロジェクト、ハイエナカー。弾き語りで演奏するひとりハイエナカーに加え、ギタリストの白井岬とふたり構成で、ふたりハイエナカー名義の活動も行っている。本公演『ゴガツハズカム0331』は弾き語りイベントであるため、村瀬はひとりハイエナカーとしてステージに姿を現し、熱量あるライブを繰り広げた。

椅子に腰掛け、濃い青色ボディのアコギを構えて1曲目に披露した「Mirror」は、昨年12月リリースの1stフルアルバム『まだ僕じゃないぼくの為の青』のリード曲。彼最大の持ち味であるハスキーでソウルフルな歌声を、開始早々場内に轟かせていく。曲が終わると「よろしくお願いします、最近作った曲を」と口にし、新曲「Devils Summer Song」をドロップ。擬音語を散りばめた楽天的な歌詞、軽快なカッティングに自ずと心が弾む。

「4月3日に28歳になるんですけど、今日は27歳最後のライブになります」とMC。その後、友人の結婚をSNSで知ったという趣旨のエピソードトークを語り、場内を観客の笑い声で満たした彼は、先ほどまでの熱量そのままに「ブルーベリーアイスクリーム」と「ゼロ」を披露。曲間には毎回「サンキュー」と一言挟みつつ、《毎日毎晩ソファーに寝転がってさ》という歌詞が耳に残る「ソファー」、軽やかなピッキングから始まる「夏になる」とノンストップで駆け抜けた。彼の全ての曲から感じることではあるが、特に「夏になる」で放った《どう考えても今を生きている》という歌詞からは、彼の決して揺らぐことのない、“幾つ歳を重ねても、孤高のひとりロックンローラーとして俺だけの世界を生き抜いていく”といった強い覚悟を感じた。

「まだ時間があるんで」とラストナンバーに「日曜日」を披露し終えた彼は、ギターを縦方向に持ち替えてボディをこちら側に見せつける形で、弦をジャカジャカとかき鳴らす。ロックンローラーと呼称するに相応しい佇まいを示し、ステージを後にした。曲が終わるごとに「サンキュー」と発する決まり文句が彼の特徴で、情熱的なハスキーボイス、力強いアコギのストロークなど各要素が束となり、ロックンロール魂が終始炸裂していた。

【Setlist】
1. Mirorr
2. Devils Summer Song
3. ブルーベリーアイスクリーム
4. ゼロ
5. ソファー
6. 夏になる
7. 日曜日

祈りにも似たやわらかな歌声で心象風景を描く
稲見繭(afloat strage)

今年1月に“長いねむり”から目を覚ました4人組バンドafloat strageのボーカリストである稲見繭(いなみまゆ)が、全身黒の衣装を身に纏い、ステージに登場。甘くやわらかく、幼い少女のようで、神秘的な雰囲気すらも感じ取れる彼女の歌声は、どこか祈りにも似ている。暗転前の客入れBGMには、リーガルリリーの「リッケンバッカー」、Charaの「やさしい気持ち」などが流れていた。

椅子に腰掛けた彼女は、「稲見繭です、よろしくお願いします」と一言。1曲目には新曲を引っ提げ、耳の隅々まで浸透していくかのようなマイルドな歌声を響かせた。昨年の11月ぶりに行う弾き語りのステージに「めちゃめちゃ緊張する」と不安を感じながらも、久しぶりに歌う曲だという「赤も青」では落ち着いたプレイングを見せる彼女。ピックを巧みに操り、甘く芳醇な歌声とともに、アコギの繊細な音色を場内に行き渡らせていく。

「暗いのが苦手。電気を消す代わりに、テレビを付けてないと寝られない」と少女のように可愛らしい一面を示した「テレビ」演奏後、ピックを客席サイドに落として最前列の観客に拾ってもらう場面も。すかさず稲見は「こうやって人は人に支えられて生きている」と、コロナ禍で誰もが感じる機会があったであろう一言を零す。安らぎのある温かなライブ空間が生むリラクゼーションとの相乗効果で刹那、和やかなムードに包まれた。続いて披露したのは「オレンジ」。「(中々上手くいかない)バンドを、片想いしている人に見立てて、書いた曲」という曲紹介通りに、今年1月に“長いねむり”から目を覚ましたばかりのafloat strageに対する祈りに似た想いを、擬人化というフィルターを通して綴っていた。

主催の吉田氏リクエストの「なにもうまくいかない夜」、《Uh Uh Uh〜》で曲が終わる「知らないしね」、相対して今度は《Uh Uh Uh〜》で始まる新曲(タイトル未定)を連ね、「あと2曲で終わります」とMC。「雨の日に眠れない、という曲」と曲紹介の後「8」の演奏を終えると、前後の出演者に敬意を表した上でラストナンバー「おどる」を披露。優しさに満ちた歌声で、丁寧に、想いを紡ぐように歌い上げた。最後は観客の温かな拍手に包まれ、昨年11月ぶりの弾き語りステージを後にした。

【Setlist】
1. (新曲 / タイトル未定)
2. 赤も青
3. テレビ
4. オレンジ
5. なにもうまくいかない夜
6. 知らないらしいね
7. (新曲 / タイトル未定)
8. 8
9. おどる

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リアリティのある日常を勇ましく歌うソングライター
荒川大輔(SPRINGMAN)

荒川大輔は、ひとりバンドSPRINGMANのフロントマンとしての顔と、弾き語りシンガーとしての一面を併せ持つアーティストだ。暗転前の客入れBGMには、奥田民生や斉藤和義の楽曲が流れていた。

これまでの3組と対比した際の決定的な違いは、アコギではなくエレキギターを構えて弾き語りを行っていた点である。憧れの対象である音楽家のひとりとして彼が名を挙げた斉藤和義は、エレキギターを用いた弾き語りパフォーマンスを自身のライブで行うことがある。荒川が今回、エレキギターを携えて登場したのは、そんな斉藤和義に対するリスペクトによるものであろうか。

そんな彼が1曲目に選んだのは、昨年2月にリリースしたSingle『勤労』収録の「貰いタバコ」。タフネスに満ちた歌声で、《自分らしさを見つけたいな》と迷いながらも必死にもがく主人公の心情を吐き出す。エレキギターの弦を弾いて軽快な8ビートを刻んだ「右にならえ」では《夢はきっとそこで待っているよ》と歌い、等身大で自己表現を貫く彼のミュージシャン像が浮き彫りとなっていた。ほとばしる想いを真っ直ぐ前だけを見つめて轟かせるものだから、《僕らの自由を 僕らの青春を》と自由を歌うビッグネーム、奥田民生の姿とつい重ねたくなってしまった。

「雨降り休日」で見せた雨天を嫌う素直さも、「さよなら北千住」で《これからは後悔したくないよ》と力強く歌った姿も、それら全てが彼のオーセンティックな魅力だ。最後に《出来ないままでまた疲れた》とスタートさせた「勤労」では、代わり映えのしない日々を繰り返す会社員の心情をリアルに描き、伸びやかな歌声で、素直な感情へと舵を切るよう促してくれる。30分弱の短い演目ではあったが、その短時間の内に荒川大輔というミュージシャンのポテンシャルの高さを感じ取ることができた。

【Setlist】
1. 貰いタバコ
2. 右にならえ
3. 雨降り休日
4. さよなら北千住
5. 勤労


次回は『ゴガツハズカム0427』という題目で、今月27日に新代田crossingで開催される予定となっている。はしもとりお(夜に駆ける)など『ゴガツハズカム』の歴史に新たに名を連ねる3組に加え、吉田氏が「こんな良いアーティストを今まで知らなかったことが恥ずかしい」と絶賛した荒川大輔(SPRINGMAN)が再び登場。

5月19日に下北沢THREEで開催される『ゴガツハズカム0519 東京は地上に星がある。』では、バンドセットのSPRINGMANやハイエナカーが出演。新たなスターとの出会いを目的に、足を運んでみてはいかがだろうか。

(取材/文・潮見そら)


『ゴガツハズカム0128 東京は地上に星がある。』
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