以前の「フェス」といえば、コアな音楽ファンが集まる場所というイメージが強かった。だが各地のキャンプフェスが注目され始め、コロナ禍のキャンプブームも相まって、ライブ+αの楽しみ方を求めてフェスに参加する人が増えている。
静岡県富士市の富士山こどもの国で2019年にスタートしたFUJI & SUN(フジアンドサン)は、フェス初心者やファミリーにもおすすめしたいキャンプフェス。主催者にWOWOWが名を連ねるだけあり、音楽特化というよりエンタメ色強めの、参加者を楽しませるさまざまなコンテンツが用意されたフェスだ。
2022年5月14日(土)・15日(日)、3回目の開催となったFUJI & SUN ‘22。本マガジンでは2回目、個人的には初年度から3回目の取材だったので、今回はライブ以外の楽しみ方にもフィーチャーしてお届けしたいと思う。来年以降の参加を検討される方には、ガイドとしてお役立ていただけたら嬉しい。
ライブの模様は、ROTH BART BARON、踊ってばかりの国、Salyu、どんぐりずをピックアップ。すぐに読みたい方はこちらから。
cover photo by ©FUJI&SUN ’22
今年も迫力ある富士山がお目見え!
入場者数は昨年に引き続き会場キャパ50%以下に制限され、2日間で約4,500人が来場。初日は会場直前まで悪天候に見舞われたものの、午後には晴れ間が見え、富士山もくっきりと顔を出した。思えばこれまでの3回、いずれの年も富士山が見えなかったことはない。
2日目は曇りで過ごしやすい気候が続いたが、大トリの奥田民生のステージ間際から激しい雨が。突然の荒天にあわててポンチョやレインコートを着込む参加者たち。これぞ野外フェス。
FUJI & SUN ‘22の会場マップはこんな感じ。毎年概ねこの形だが、ステージの位置やキャンプサイトの範囲が少しずつアップデートされている。
雰囲気がガラッと変わる個性派3ステージ
今年はSUN STAGE、MOON STAGE、STONE STAGE の3ステージ制。それぞれ雰囲気が異なるので、ぜひ全部まわってお気に入りを見つけてほしい。
メインステージのSUN STAGEからMOON STAGE・STONE STAGEまでは歩いて10〜15分ほどの体感。広すぎず各所をまわりやすい点も、フェスビギナーにおすすめしたい魅力のひとつ。
富士山が見守るメインステージ、SUN STAGE
開放感あふれる、THE 野外フェスなステージ。前方で観てもいいし(昨年・今年は感染対策のためスーシャルディスタンス用の目印が設置された)、後方のチェア専用エリアや、もっと後ろのグリーンヒルキャンプサイトの丘でのんびり耳を傾けてもいい。
富士山は、オーディエンスの左手側、アーティストからは右手前方の位置に鎮座している。晴れていれば、またライブを観る場所によっては、ステージと富士山がいっぺんに視界に入るという贅沢なロケーションだ。
※7月17日(日)21:00からWOWOWでSUN STAGEのライブの模様が放送決定! 詳細はこちらから。
Pick up! ROTH BART BARON
初日の午後にSUN STAGEに登場したROTH BART BARON(ロットバルトバロン)は、シンガーソングライター三船雅也のバンド。BiSHのアイナ・ジ・エンドとのプロジェクトであるA_o(エーオー)や、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとのコラボレーションなど、他アーティストと起こす化学反応も近年話題となっている。
2021年のアルバム『無限のHAKU』から「EDEN」「みず / うみ」を続けて演奏し、浮遊するファルセットでオーディエンスを幻想世界へ誘った三船。ホーンや鍵盤を含むサポート6人とともに、アップテンポの「春の嵐」、ポカリスエットのCM曲として話題を呼んだA_oの「BLUE SOULS」、『関ジャム完全燃SHOW』で蔦谷好位置が2020年の年間1位に選出した「極彩|IGL(S)」などを披露した。〈僕らはまだ何にも 成し遂げてない〉のあとに三船が放った「成し遂げてないよな!?」の一言は、混沌の時代に未来を力強く指し示す道標のようだった。
「ちゃんとしたバンドでミュージックフェスティバルとか、3年ぶりくらいなんだよ。みなさんと会えて本当によかった。生きのびてよかった」「またいつかお会いしましょう。みなさん死なないで」——。そう語った三船の、穏やかな声色の裏に潜む切実さに、いま自分が生かされていることの意味を思わずにいられなかったのはわたしだけではないだろう。
Pick up! 踊ってばかりの国
「グッモーニン!」というVo./Gt.下津光史の高らかな声とともに、「evergreen」で幕を開けた彼らのステージ。〈天国は地下 真冬の夜の底〉を〈天国はそう いつも僕の横〉と歌い替えた伸びやかな歌声は、2日目午前中の薄曇りの空を不思議な光で照らす。
3曲目に演奏された「Notorious」は、今年3月5日に新宿駅南口でおこなわれた反戦街宣『No War 0305』で1曲目に披露された曲でもある。下津の吐息から始まり、Gt.丸山康太と大久保仁がそれぞれに奏でるアルペジオの調べ、そして〈憎しみ合う魂へ〉という強いフレーズが心に深く刻まれた。
「ここで下ちゃんのモーニングルーティンをひとつだけ紹介します。朝起きたら、歯を磨くよりも前に…」とおどけた調子で下津が言い、楽曲「Right now」の歌詞にもある〈Everything is gonna be alright.〉のフレーズを、コロナ禍に突入してすぐにレコーディングされたシングル曲「orion」にのせて優しく歌う。「ghost」「ニーチェ」、そしてラストは代表曲「Boy」で濃密な50分間を駆け抜けた。
森のなかで穏やかに過ごせるMOON STAGE
昨年はフォレストキャンプサイトBだったエリアに、MOON STAGEが初年度ぶりに復活。森のなかの開けた場所で、後方には小さな丘もある。自然を感じながらのんびり音楽に身を委ねたくなるステージ。
Pick up! Salyu
雲の切れ目から見事な富士山がのぞいた、初日夕方のSalyuのステージ。コーラスに加藤哉子とヤマグチヒロコ、ギターに市川和則(羊毛とおはな)を迎え、櫻井和寿・小林武史率いるBank BandがSalyuとコラボした名曲「to U」を1曲目に披露した。美しいハーモニーとそこに寄り添うギターの音色が大自然に溶け込んでいく。
ハンドクラップを交えた「ただのともだち」は、2011年に始動したソロプロジェクト、salyu × salyu(サリュ・バイ・サリュ)の楽曲。言葉を音のひとつとして捉えた坂本慎太郎(ex.ゆらゆら帝国)のユニークな歌詞が小気味いいリズムにのる。中盤では、ミニマル・ミュージックを代表する作曲家Steve Reich(スティーヴ・ライヒ)による手拍子だけの楽曲「Clapping Music」のカバーも。Salyu・加藤・ヤマグチのリズミカルなハンドクラップが、子どもの笑い声や鳥のさえずりと調和しながら鳴り響いた。
salyu × salyu「Hostile To Me」、そしてArvo Pärt(アルヴォ・ペルト)作曲の「鏡の中の鏡」でライブを締めくくったSalyu。シンプルなピアノの反復とヴァイオリン(ヴィオラ版・チェロ版もある)の音色を歌声で表現するというパフォーマンスに聴き入る大人たちと、真似をして歌う子どもたち。音がもつ本来の楽しさや自由さに改めて気づかされたステージだった。
岩場に現れる天然のクラブ、STONE STAGE
DJを中心にラインナップされるSTONE STAGEは、名前のとおり岩場に設えられたステージ。ほかの2ステージにはないちょっとしたクローズド感が秘密基地のようでワクワクする。夜はライトアップされ幻想的に。
Pick up! どんぐりず
2日目の午後、STONE STAGEを入場制限がかかるまで満員にしたどんぐりず。群馬出身の幼なじみ、ラッパーの森と、トラックメイカー兼プロデューサーのチョモからなるユニットだ。中毒性抜群の音楽はアーティストや業界関係者にもファンが多く、その話題性はTikTokや音楽ストリーミングサービスを通じてワールドワイドに広がっている。
今年5月リリースの新EP『4EP3』から「I’m Fine」、気怠さが心地いい「ワナワナワナ」とじわじわとボルテージを上げていき、代表曲「NO WAY」ではテックハウスの軽快なビートにオーディエンスが沸く。岩に腰かけた子どもが音に合わせて踊るなど微笑ましい光景も。
『関ジャム完全燃SHOW』で川谷絵音が2020年のベスト10曲に選んだ、〈ゆうとりますけど〉がひたすら繰り返される「マインド魂」、髪と髭をぼうぼうに伸ばした森が大自然を歩くMVも話題になった「Woo」など人気曲を惜しみなく投下し、ラストは「Just do like that」。「テキトー踊ろうぜFUJI & SUN! あざした!」と森がアドリブで締め、オーディエンスからは腕がいくつも突き上がった。
FUJI & SUNを楽しむ第一歩は、キャンプサイト選びから
ここからは会場全体をレポート&ガイド。
会場には複数のキャンプサイトが用意されており、空いている場所に自由にテントを張れる「フリーキャンプサイト」、家族連れにおすすめの区画サイト「ファミリー区画キャンプサイト」、遊牧民の円形住居に宿泊できる「パオ」、車を横づけできる「オートキャンプサイト」がある。利便性、ロケーション、好みの過ごし方にあわせてチョイスが可能。
グリーンヒルキャンプサイト(フリーキャンプサイト)
SUN STAGE近くの丘エリアに位置するサイト。遮蔽物がないため風が強く、タープの使用ができないが、そのぶん開放感のあるキャンプを楽しめる。天気がよければ富士山も望めるエリアで、今年の晴れ間にはこんな光景が!
このサイトを利用する場合は北駐車場が便利。サイトまで近く、ほぼ下り道で行ける。数量限定で毎年早々にソールドアウトしているので、気になる方はお早めのチェックを。
フォレストキャンプサイトA / B(フリーキャンプサイト)
南駐車場・南エントランスから会場に入り、西側がフォレストキャンプサイトA、東側がフォレストキャンプサイトB。どちらもトレイルランニングコースを利用しており、木々に囲まれたエリアや少し開けたエリアなど、好みの場所にテント・タープを張れる。
我々取材班のテントは、昨年はB、今年はA。トイレや水道の近くを選び、不自由なくキャンプができた。MOON STAGE・STONE STAGEが比較的近く、ライブ音をBGMにキャンプ飯をつくるなんていう贅沢も。
タウンキャンプサイト(フリーキャンプサイト)
今年新設された、南エントランスを入ってすぐの場所にある数量限定サイト。南駐車場からフォレストキャンプサイトまではやや距離があるため、キャンプギアが多い場合はカートがないと大変だが、タウンキャンプサイトであれば手持ちや駐車場との往復も苦にならない。
平地で、授乳・おむつ交換ができる場所もあるので、家族連れが多かった印象。ステージからは遠くなるが、火器も使えてキャンプをしっかり楽しめる。
そのほかのキャンプサイト
場所探しに手間取られたくない、あるいはSUN STAGEへのアクセスを重視するなら「ファミリー区画キャンプサイト」、車の近くで安心してキャンプをしたいなら「オートキャンプサイト」がおすすめ。FUJI & SUNならではのキャンプ体験を楽しむなら、会場常設の「パオ」を。通常のパオと、グループで利用できるビッグパオがある。
冒険への情熱に触れる、人力チャレンジ応援部AREA
「人力チャレンジ応援部」とは、冒険という夢を追いかけるチャレンジャーたちの冒険や広報活動をバックアップする団体。彼らによるトークショーやワークショップは、FUJI & SUN初年度から続いているおなじみのコンテンツだ。
人類未踏の南極冒険トーク
今年のコンテンツでとくに印象的だったのは、プロ冒険家の阿部雅龍さんをゲストに迎え、人力チャレンジ応援部代表理事の中村真さんがファシリテーターを務めた南極冒険トーク。
阿部さんは2019年に日本人初のルートで南極点に到達、2021年11月〜2022年1月までは人類未踏の「しらせルート」での南極点単独徒歩到達にチャレンジし、悪天候により一時中断を余儀なくされた。「しらせルート」とは、明治の探検家・白瀬矗(のぶ)が目指して未達成に終わったルート。阿部さんが10歳のとき、母親が買ってくれた冒険家の本で同じ秋田出身の白瀬を知り、いつしか「白瀬さんの遺志を受け継ぎたい」と思うようになったという。
2か月分の食料を積んだ130kgのソリを引き、たったひとりで山脈を越える。阿部さんいわく「微生物レベルで孤独」だという南極冒険の過酷さと、それでも志さずにはいられない冒険家としての情熱に、終始ワクワクしながら聴き入ってしまった。
キャンプに役立つロープワーク講習
モーニング筋トレ 正拳突き
フェスに動物!? ライブの合間に楽しめる癒し空間
今年初めて立ち寄って思いのほか楽しんでしまったのが、富士山こどもの国常設の動物エリア。アルパカ、ヤギ、ヒツジ、ウマを間近に眺めたり、えさをあげたりできる。フェス中は中止しているが、普段はヤギのお散歩や乗馬体験もできるそうだ。
モフモフのアルパカは、パイプからえさ台にえさを転がす仕組み。のっそり近づいてきて一心不乱に食べる姿が愛らしい。
ヤギ、ヒツジ、ウマには、手やトングで直接えさをあげられる。ライブに飽きてしまったお子さんから、ライブの合間に息抜きしたい大人まで、ゆる〜く楽しめるエリア。
フェス気分を盛り上げてくれるショップ&フード
ショップはSUN AREAとMOON AREAを中心に展開。アウトドアグッズからアパレル、アート、ハンドメイド商品まで、フェスをより楽しめるアイテムが多数ラインナップ。
CAMP HACK × UZD
アウトドアウェブマガジン『CAMP HACK』と、リユースアウトドアギアショップ『UZD』のコラボブース。お得なアウトドアグッズがたくさん。万一忘れものをしてもここで調達!
舎鳥木 -yadorigi-
木のお皿、燭台、花器など、木の温もりが感じられるインテリアのお店。キャンプサイトがグッとお洒落になるうえ、家でも愛用できる。
halo commodity
アウトドアでもデイリーでも使える帽子やヘッドウェアのブランド。アウトドアサンダルに合わせたくなるカラフルなソックスも。
フードブースもSUN AREAとMOON AREAを中心に展開。静岡県の食材を使った地元の名店、静岡県の農家やコーヒーショップなど、FUJI & SUNならではの「ローカルフェス飯」を味わえる。
Pizzeria L’alba di napoli
静岡県沼津市のナポリピッツァ専門店。写真は釜揚げしらすたっぷりの「チチニエッリ」。フェスで食べる焼きたてピッツァの味をぜひ。
音楽はもちろん、キャンプ、アクティビティ、お買いもの、ローカルフェス飯、動物まで楽しめてしまうFUJI & SUN。芝生の上でのんびりしたり、子どもと会場内を探検したり、それだけでも満足度は十分高い。あとは富士山が顔を出してくれたらなお最高。
フェスデビューやキャンプデビューをしたい方、ファミリーでフェスを満喫したい方、2023年のFUJI & SUNを楽しみに待ちましょう!
(取材/文・三橋温子)