知らない道を選んで歩いていると、目の前の景色がいきなり鮮やかなものに変わりそれまでとは違う世界が見える。新しい音楽と出会う瞬間はいつだってそんなふうに心が震える。
テレビCMで偶然流れている曲、YouTubeの関連に出てくる曲、誰かの作ったプレイリストに入っている曲、友達からのおすすめ、好きな人の好きな音楽、新着ミュージックリスト……出会いはそこらじゅうにころがっている。
どうか心と耳を研ぎ澄ませて、あなたと共鳴する音を見逃さないでほしい。新しい音楽は私たちが気付くのをいつでも待っている。
今回は2020年秋時点の最新リリース楽曲の中で心揺さぶられた音楽を3曲紹介する。新しい音楽とあなたの素敵な出会いのきっかけになれば幸いだ。
「Playlist」
kanna
水の中で響いているような、やわらかく鼓膜を振動させる音が心地いい。「Playlist」はモデルとしても活躍するkanna(kanna oyama)による楽曲だ。トラックメイカーはmiffrino。
夕方の美しい風景にはいつも寂しさがつきまとう。丘の上の学校に通っていた時は、だからいつも寂しい気持ちで坂道を下って帰っていた。今住んでいる場所も坂道を下った場所にあるので、大人の私も子供の私も同じような寂しい気持ちで坂道を下っている。
生きていける場所が欲しいと切実に思っていたし、この場所じゃないどこかに帰りたい場所がある気がしていた。この曲を聴くと、そう思っていたころを思い出してとても懐かしくなる。
「Wonder Wall feat. 5lack」
PUNPEE
ラッパーだけではなくトラックメイカー、DJなど、マルチな才能を発揮しているPUNPEE(パンピー)が、同じくラッパー・トラックメイカーとして活躍する実弟・5lack(スラック)を迎えた楽曲。
5lackはPUNPEEが音楽制作を始めたのを追って自身も音楽を始めており、PUNPEEは5lackがライブをする時にはバックDJを務めている。並行する線上にいて様々なものを共有してきたであろう兄弟だが、そのスタイルはまるで正反対だ。
映画やアメリカンコミックなどにも造詣が深く文化人的な側面も兼ね備え、知性と剽軽さが共存する兄・PUNPEEと、肩の力が抜けているのに自分の芯は絶対にゆるがない孤高の才人である弟・5lack。兄弟として、アーティストとして、そして人間として互いにリスペクトがあり、それでいて密接ではなく適度な距離を感じる。
この楽曲のMVで、私は二人が同じ位置に並んで立っているのをはじめて見た。異なる色で強く輝く星が少し離れて並んでいるのを遠くから見ているような、そんな気持ちになった。
「ライムライト」
cadode
ラムネの瓶に入っているガラス玉を集めていた、いつかの遠い夏と記憶の歌。
いつのまにかあの人のことを過去形で喋っている自分を最低だと感じた。「ああすればよかった」も「こうすればよかった」も尽きることはなく、とても愛していたから都合よく後悔するのかもしれない。
疾走感のあるcadodeらしい音のつまったトラックが、過ぎ去ってしまった夏の輝きを思い起こさせる。この楽曲のMVはピクセルアートアニメーターのmaeが手がけ、曲とアニメーションが合わさることでよりエモーショナルな風を生んでいる。
愛して憎んで矛盾しながら、それでも生き続けなければいけない私たちの心に刺さる楽曲だ。
(文・望月柚花)
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