【ライブレポート】新人ライブイベント『BIRTH vol.11』 年齢バンド / 曖昧私米 / リュベンス / THETEMPeSTARS

遊津場

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6月26日、下北沢近道にて、NEXTアーティストLIVEプロジェクト『BIRTH vol.11』が開催された。

『BIRTH』は2021年11月から定期開催されている、「新しい才能の誕生」の場所作りをコンセプトとした新人アーティストライブイベントシリーズ。過去にはyutoriやConton Candyも出演している。

11回目となる今回は、年齢バンド、曖昧私米、リュベンス、THETEMPeSTARSの4バンドが出演。関東の若い個性がぶつかり合ったそのライブの模様をレポートする。


THETEMPeSTARS

幅広い楽曲群で魅せるその姿はロックスター

1組目は横浜の3ピースバンド・THETEMPeSTARS(テンペスターズ)。

板付から、よしの(Ba.)とあおき(Dr.)が演奏し始める。「初めまして、THETEMPeSTARSです。よろしくお願いしまーす。Yeah,Yeah,Yeah! 盛り上がっていきましょー!」と、あずま(Vo./Gt.)が挨拶するまではのんびりと自然体だったが、「1曲目、ロックチューンの『赤面』という曲やります。聴いてください」という言葉をきっかけに徐々に演奏のボルテージが上がっていく。

間もなくして、堰を切ったようにギターの強い音が流れ込む。Aメロでは突如音数が減り、赤い照明がミステリアスな雰囲気を醸し出したと思った次の瞬間、サビではシャウトにも似た歌声がフロアの空気を一変させた。サビを終えたあずまの笑顔は演奏前とは明らかに違い、今、目の前にいるのは精強なロックバンドであることを認識させられる。

曲が終わるとすぐに2曲目『幸せソング』のイントロを響かせた。1曲目よりも明快なビートであるが、3人の姿は明らかにどんどんロックに取り憑かれていき、あずまが〈アイラブユー〉と歌うその姿は往年のロックスターにも似ていた。

「改めましてTHETEMPeSTARSです! よろしくお願いします!」と、冒頭より温度の上がったあずまの挨拶に、フロアからは拍手。「いろんなジャンルの曲をやってるバンドです。最近サブスク出した曲をやります」と話してスタートした3曲目は、『儚い夢』だった。彼の言葉通り、先ほどとは一変してリズミカルな楽曲となっていて、恐らくTHETEMPeSTARS目当てではなかったであろうお客さんも、自然と手拍子→頭揺らし→全身揺らしへと変わっていく。あおきのドラムコーラスもその流れに一役買っていると感じた。

続けて始まったのは『今夜もバイバイ』。ゆったりと鳴るこの楽曲は、ギターはノイジーながらも、煌びやかでピュアな愛がしっかり耳に流れ込んでくるのが印象的。特に2番のBメロは解放的だった。

「ちょっと甘めの曲ばかりやってしまったので、ここらで1曲ブチブチに上がる曲をやりたいと思います」とあずまが言い、始まったのは『ラッキーボーイ』。一層タイトになったバンドサウンドと、あずまが早口で叫びまくし立てるボーカルは10辛。幅広い味わいの楽曲の投下に胃腸がバグりそうだ。このゴリゴリで衝動的なサウンドを支える、よしののベースも光る。

そして、フロアに感謝の意を表して最後に披露したのは『世界』。ここまでには見せなかった、地球の空気をしっかり含んだような雄大さを感じる楽曲だ。どこまでも響く大きな音に〈ラララ〉という歌が乗るこの楽曲はクライマックスにぴったりで、より大きなステージで鳴る光景も想像させるようなアンセムだった。

25分でも十分に味わうことのできた幅広い楽曲群からは、3人にしかないテンポと呼吸感みたいなものがあって、他にはないオリジナリティに溢れていたように思う。8月以降は基本的に曲作りに入るそうなので、今後どのような楽曲が生まれるのか期待したい。

【Setlist】
1. 赤面
2. 幸せソング
3. 儚い夢
4. 今夜もバイバイ
5. ラッキーボーイ
6. 世界

曖昧私米

積み上げた実力でフロアとしっかり結ばれる

2組目は曖昧私米(あいまいみーまい)。プロフィールでよく謳っているように、本来は「朝は米派の4人組」だが、にしのれい(Vo./Gt.)が体調不良のため、やまだ(Gt.)をボーカルに据えた3ピース編成で出演。それでも気合十分で、当日すみれ(Dr.)は髪を切り、あみち(Ba.)は金髪ボブにしてきていた。

深い海から明るい海上へ徐々にのぼっていくようなSEで登場した3人が、力強く楽器を鳴らして始めた1曲目はアップテンポなナンバー『気づかない』。そのリズムと明るいサビ前の「1、2!」の掛け声で、自然と笑顔を誘う楽曲だ。早速グッズのタオルを購入していたお客さんもノリノリだった。

2曲目はMVも好評な『おもかげ』。ある愛しい日の日常の空気感を閉じ込めたようなこの曲は、1音1音がより丁寧に鳴らされるため、まだ慣れない3ピースでの演奏の中には緊張感も見えた。ただ、それよりも「楽しく演奏していこう!」という気持ちを感じて、心がとても温かくなる。

MCで物販や今後の予定を話した後、「こういう曖昧私米も悪くないなと思われるように、今日は新曲作ってきたんで聴いてください」と言って始めたのはタイトル未定の新曲。途中で歌詞を飛ばしてしまい、演奏後にやまだが「リベンジしたい!」と悔しがる出来にはなったが、ギターの音もリズム隊の音の弾み方も強くなっていて、最近大型サーキットイベントに呼ばれるだけの実力が十分にあることを見せつけた。

続いて、ドラムの軽快なリズムの繋ぎと「ライブハウスでバカになって踊るのが一番楽しいんだよ」という言葉とともに始まったのは『ベイビーハニー』。POPさがグンと上がったこの楽曲。チャーミングな歌詞、Bメロの「パン、パパン」のリズム、極め付けは〈ベイビーハニー 君の隣〉というサビの歌詞の忘れられないリズムの良さ。大きな会場でもコールアンドレスポンスがドカンと起こりそうである。

そしてラストはバラード『固結び』。失恋ソングを思わせるこの楽曲に、ステージ上の3人も曲の世界観にしっかり入り込む。〈強く抱きしめて離さないよって言いたいんだ〉という歌詞をライブで聴くと、今、目の前にいるフロアの1人1人にも向けて鳴らされているように感じた。3人のバンドに対する真摯さによって、今日もフロアとの強い繋がりが生まれただろう。

POPさ、真摯さ、そしてギターロックへのこだわりも垣間見えた彼らは、まだ何色にもなれる存在。ただ、同世代の若手バンドに易々と主食のポジションを明け渡しはしないということだけは、自信を持って書いておく。

【Setlist】
1. 気づかない
2. おもかげ
3. 新曲
4. ベイビーハニー
5. 固結び

リュベンス

あなたはリュベンスを攻略できるか

3組目はリュベンス。この1年で、発表しているMVの再生回数が右肩上がりで伸びており、大型サーキットライブにも名を連ね始めている注目の4ピースバンドだ。

MVでもミステリアスさを醸し出している彼らは、ホラー映画で流れていそうなダークなサウンドのSEで登場。静かにギターを鳴らし、まつまる(Dr.)のスティックの合図で1曲目『浮沈の朝』がスタートした。サウンドのテンションは上がったが、その分、より深い場所へ引き摺り込まれるような歪んだイントロが鳴り始める。

ただ、透明感が際立つセレナ(Vo./Gt.)の歌声が始まり、曲が進んでいくと、地下に引き摺り込まれていたはずの体が徐々に浮遊感を感じるような不思議な世界観に。悦(Gt.)やMary(Ba.)の触感がどんどん変わるサウンドも加わり、確実にリュベンス色に染まっていくフロアが見えた。

2曲目は新曲の『天使さん』を披露。照明は明るくなったが、重さと浮遊感が共存するサウンドは健在。タイプのまた違う、多彩な触感の演奏で魅せていく4人だが、その1音1音にもしっかりストーリーが乗っていることを感じさせられた。

続くMCでセレナが「今日は未発表曲も含めてお届けできると思います。いろんな表情を見せられるライブにできたらと思います」と話すと、Maryの地面を突き上げてくるようなベースが鳴って『チャコール』がスタート。ここまでの2曲以上に、各楽器が正気を失ったように唸りを上げていた。それをコントロールするメンバーも、負けじと全身で表現をする。

歪んだ音の余韻そのままに、次曲『ビーム』を発射。力強くもサイケさを感じるこの楽曲。『チャコール』で体力を奪われたところにこんなん発射されたら壊滅してしまう。さらにそのままセッションのような繋ぎから『魔的』がスタート。小気味良さもありながら、やっぱりどこか不気味で、それでいて爆発力を感じるシーンもあった。

「今、新曲も制作中なので、良いものを届けられるように頑張るので楽しみに待っていてください。今日は本当に来てくれてありがとうございました」という結びに拍手が湧いた後、ラスト曲『風を止めないで』がスタート。今までいた深い地下のダンジョンから抜け出して、最初に浴びた地上の風のように爽やかな楽曲によって、全てが浄化されていった。

リュベンスは、私もその存在を気にする新世代バンドの1組だったが、彼らのライブは曲によってどんどん新しい怪物が出てくるようなサスペンスフルな魅力に満ちていた。物語を進めても進めても、新たな魔力とパワーに自軍のパーティがやられていってしまう。ただ同時に、MVから感じられるような品も潜んでおり、そこがまた他のバンドにはない個性なのではないだろうか。まぁ何ともウチのパーティに欲しくなるバンドである。

【Setlist】
1. 浮沈の朝
2. 天使さん
3. チャコール
4. ビーム
5. 魔的
6. 風を止めないで

年齢バンド

これが本物の轟音バンド

本日のトリは年齢バンド。よねくぼ(Vo./Gt.)、なるしま(Ba.)、アサミ(Dr.)の3人に、サポートギターのシモヤマを加えた4人編成だ。

ギターをひと鳴らしして「年齢バンドです。お願いします」とよねくぼが言い、1曲目『3年7組』がスタート。このぶっとい轟音で分かる。バンドが好きというなら、ライブが好きというなら、このパワーのあるサウンドと熱いボーカルが嫌いな人はいない。お惣菜で言うならメンチカツ。ガツンとジューシーな音が気持ちを掻き立てる。

早くも汗まみれのよねくぼ。2曲目は『友達だったんだ』。友情を感じる歌詞を優しいサウンドに乗せて歌い上げる姿に、お客さんの1人が酒を飲みながら拳を握る。これこそライブハウスの“通じ合っている”瞬間ではないか。

3曲目『1年2組』で一層アップテンポに。なるしまはベースを振り乱すし、アサミのドラムもフルスロットル。シモヤマはギターをメロディアスに奏で、よねくぼは何度もよろけたり倒れたりしながら魂のシャウトを見せる。

MCではよねくぼが最後まで残ってくれたお客さんに感謝し、間違えて持ってきた(?)という物販のタオルを紹介した後、「多分ここまでの3バンドは自分達より結構年下だと思うので、しゃべりづらさもあったと思うんですけど、自分はしゃべりたいので怖くなかったらしゃべりかけてください……」と話した。パワフルさだけではない彼らの魅力は曲からも伝わっていたが、やはり優しい人間性だということがよくわかるワンシーンだった。

4曲目は『仕方がないほど好きじゃない』を演奏。穏やかに情感たっぷりに歌い上げながらも、その歌は轟音に包まれていて、特にアウトロの演奏は衝動性十分。よねくぼはステージ上で激しく飛び跳ねる。それでも演奏の手を一切抜かない4人の姿は、後輩のバンドの目にも焼き付いたはずだ。

彼らがその姿勢を最後まで崩さなかったことは、6分を超えるラストナンバー『なんの意味もないのにね』で明らかになった。ノスタルジックな感覚に浸れる曲で、曲の終盤にはステージで4人が向き合って演奏するシーンも。そこでまた4人のエネルギーが一層強いものになった気がした。

ライブバンドは「音なんて大きければ大きいほどいい」とも言われるけれど、全バンドが「大きいほどいい」ってわけじゃない。轟音の中に、もの寂しさやノスタルジー、優しさ、友情など様々な心情を入れられるバンドにだけ、許される特権だとも思う。年齢バンドはその特権を持つ希少な永久会員だということが、今夜証明された。

【Setlist】
1. 3年7組
2. 友達だったんだ
3. 1年2組
4. 仕方がないほど好きじゃない
5. なんの意味もないのにね


(取材/文・遊津場)
(撮影・大坪侑雅)X Instagram