2020年5月現在、新型コロナウイルスの影響で世界中で様々な混乱が生じている。状況は非常に暗澹としており、ただごとではない。音楽界に関しては、ライブハウスは収益を得られず廃業する場所も増え、アーティストたちはライブの中止や延期を余儀なくされている。
「普通の日常」が戻ってくることはかなり難しいのではないかという不安と先の見えなさ、様々な恐怖で誰も彼もが疲弊している。
しかしそんな最中、アーティストや音楽関係者たちが行動を起こしてくれた。SNSを使ったコンテンツや無観客ライブ配信、そして居場所を守るための活動など、その形は多岐にわたる。「こんな時に」と言われるかもしれない。でも「こんな時だからこそ」の音楽だ。
今回は、この状況下で生まれた新しい音楽のコンテンツと、アーティスト・音楽関係者たちのアクションを紹介する。
SNSでの○○つなぎ
うたつなぎ
誰かから指名されたら歌を一節歌い次の人を指名するというバトン形式の企画。様々なシンガーソングライターやミュージシャンたちがハッシュタグをつけて投稿し、話題を呼んでいる。
リフつなぎ
ギタリストやピアニストが楽器のワンフレーズやアドリブ演奏でバトンを繋いでいく。個人的にはTK(凛として時雨)が生形真一(Nothing’s Carved In Stone,ELLEGARDEN)からバトンを受け同氏の楽曲のリフを弾いていたのが印象的だった。なおTKはその次に俳優・綾野剛と、凛として時雨のドラマー・ピエール中野を指名していた。
ライブの配信
新型コロナウイルスの影響でライブを観に行くことは不可能になった。そこでアーティストたちが行ったのは、「無観客ライブ」や「ホームライブ」、YouTubeやインスタグラムのライブ機能を使用した「ライブ配信」などだった。
ライブ配信などは投げ銭機能がコメント欄に付属している場合もあり、アーティスト・音楽関係者への支援の一環としても認識されている。
ライブ配信ではアーティストがリスナーのコメントを読んで質問などに回答してくれるという場面を多く見た。いつもより遠いはずなのにいつもより近いそれは、不思議なあたたかさを感じる新しいライブの形だった。
なかでもNUMBER GIRLがZepp Tokyoより無観客の生中継ライヴを行ったものが印象的で、この無観客ライブでは俳優・森山未來がサプライズ出演した。その映像は3月2日までという期間を設けてアーカイブとして残してあり、NUMBER GIRLを待っていた多くのリスナーが歓喜した。
自宅でのセッション・楽曲制作
origami Home Sessions
CHARA、向井太一等を手がけるmabanuaや、あいみょん、アイナ・ジ・エンド等を手がける関口シンゴなど、アーティストプロデュースや映画・ドラマ・アニメ、CM音楽制作と幅広い活動を行なっているクリエイターチームorigami PRODUCTIONSが、インストのトラックやアカペラのデータを無償提供し誰でもコラボソングの制作やサンプリングが出来る企画「origami Home Sessions」を発表した。
制作した楽曲はネットへのアップロードだけでなくCDやストリーミングでのリリースもOKとしており、アーティストの制作活動をサポートし自粛期間を少しでも盛り上げるための時宜を得たはからいだと感じた。
「私たちの居場所」を守る活動
#SaveOurSpace
新型コロナウイルスの影響で、ライブハウスやクラブ、劇場などが存続の危機に面している。不要不急の外出自粛要請及び人の密集を避けるため、春以降のライブ公演やイベントは多くが中止を余儀無くされた。
しかし自粛要請があるものの、損失補償は未だ提示されていないため会場は営業を続けざるを得ないが、売り上げがほとんどない中で家賃などの維持費用は当然発生し続ける。経営悪化により、閉店を決断した店舗も日毎に増えている。店舗の従業員だけではなく、出演者であるアーティスト、照明・音響エンジニアなども同様に仕事を失い、非常に多くの関係者が被害を受けている厳しい状況にある。
そこで立ち上がったのが「#SaveOurSpace」という署名運動。発起人は(以下敬称略)DJ NOBU、スガナミユウ(LIVE HAUS)、 篠田ミル、Lark Chillout、Mars89。そして賛同人として多くのアーティストや音楽関係者が名を連ねた。
「#SaveOurSpace」は、自粛要請が出た日から新型コロナウイルスが収束するまでを期間と定め、ライブハウスやクラブなどの会場へ観客を入れることを停止し、その期間の助成を国へ求めるための署名運動だ。
3月31日の記者会見に登壇したのは、発起人である篠田ミル、スガナミユウ(LIVE HAUS)、Mars89、そして賛同人のLicaxxx。全員がマスクを着用し一定の距離を保った席に座った。なおこの記者会見は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために配信という形となり、質疑応答もオンラインミーティングアプリzoomにて行われる運びとなった。
3月27日から記者会見の当日である3月31日までに集まった署名は30万筆以上。この署名運動に多くの人が関心を持ち、TwitterなどのSNSでは会場だけでなく音楽業界の現況や国の対応等に対し様々な議論が起こった。
この運動を通して30万筆が集まった事実は、この先更に厳しくなるであろう音楽業界への存続意思の表明として、その活動において非常に重要な結節になったのではないかと思っている。
(文・望月柚花)