【ライブレポート】新世代アーティストが織りなすジャンルレスなライブイベント『HEYDAY! 2024』ココラシカ / KOHAKU / 荒巻勇仁 / HALLEY

望月 柚花

望月 柚花

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これからの音楽シーンを盛りあげる注目の若手アーティストを迎えたライブイベント『HEYDAY!』が、2024年7月31日(水)に新宿MARZで開催された。

この夜の天気は大雨。しかしそんな悪天候の中にあってなお、新宿MARZのフロアに満ちた空気は熱を帯びている。

昨年に続いて2度目となるこのイベントに出演するのは、新世代を担う4組のアーティスト。それぞれ異なるジャンルの音楽性を持つ彼らが一体どんなパフォーマンスを見せてくれるのか、ワクワクした期待感が観客の様子から伝わってきていた。


ココラシカ

個々の持つ確かな技術が支える、パワフルで華やかな魅力

トップバッターは2021年結成、2024年春に高校を卒業したばかりのココラシカ。ギターレススリーピースバンドという特徴的な編成で、「1杯の酔える音楽を」をテーマに掲げて活動している。

開演の時間となり幕が上がると、こうき(Vo./Key.)の「ココラシカです」という声とともに流れるように演奏が始まる。

最初に披露したのは『Signpost』。らな(Ba.)、こた(Dr.)の作り出すこなれた余裕を感じさせるビートが印象的だ。ドラムとベースの作り上げる確かな地盤の上で、こうきの奏でる音色と歌声がのびやかに耳に届く。

続いて演奏したのは『恋よ、踊り出せ』。エネルギーに満ちたパワフルな歌声と、正確にコントロールされた心地のいいリズムで盛り上げていく。ココラシカの楽曲は音源で聴く場合でもぐっと人を惹きつける力を持っていると感じていたが、ライブパフォーマンスではその力が増幅し、より強い輝きを放ちながら会場を照らしていた。

MCでは『HEYDAY!』の開催日と同じ7/31リリースの新曲『最後の花火』についての告知と楽曲への思いを語り、次いで『拳』『占い師』を披露。

バンドの編成としてギターというポジションがいない、それが弱みになることは、彼らの場合では決してないだろう。ギターレスであるからこそ、個性と華やかさ、洗練されたシンプルな美しさが際立ち、ココラシカというバンドの輪郭をより強く描きだしている。

最後はMCで告知された新曲『最後の花火』でステージをしめくくった。

彼らのステージを見ていたら、ある明確なイメージが湧いてくる瞬間がたびたびあった。それは図形の三角形だ。ココラシカはメンバーの3人がそれぞれ独立した点として存在し、その3つの点が線でつながって、均整のとれた三角形になっている。

もちろんそれは、ただバンドメンバーが3人いるだけでは形作ることができないものだ。この美しい三角形は、各々の自力と互いの技術へのリスペクトだけではなく、人間としての信頼なくしては成り立たないのではないだろうか。そんなことを考えた。

ココラシカを眩しく光る特別な存在に感じるのは、若い力と個性あふれる楽曲、ライブの巧さだけではなく、彼ら3人の確かな関係性を、パフォーマンスの端々から感じ取れることも大きく影響している気がしている。

【Setlist】
1. Signpost
2. 恋よ、踊り出せ
3. 拳
4. 占い師
5. 最後の花火

KOHAKU

真っ直ぐに届き、寄り添うように響く音楽

続いてステージに立ったのは、若月樂(Vo./Gt.)、律(Ba./Cho.)、薫(Dr.)からなるスリーピースロックバンド・KOHAKU。

KOHAKUは2021年7月に結成した札幌発・在住の若手注目株だ。会場にはバンドのグッズであるロゴ入りのタオルを持った観客が多く、その人気の高さをうかがわせる。

最初に披露したのは華やかでエネルギッシュな『小心者の歌声は』。どこまでも真っ直ぐに届くような、そんなパフォーマンスが印象的だ。

続く『アンドロメダ』では、聴く人に優しく寄り添い、いつも隣にいてくれるような安心感を与える。雨が降った後にゆっくりと明るく日がさしていくような、そんな爽やかさと清々しさも感じる。

MCでは若月が自己紹介の後、「今日は普段あまり対バンすることのないアーティストのみなさんと一緒ですが、KOHAKUはKOHAKUのライブをちゃんとやるという気持ちです」と真っ直ぐな眼差しで語った。

美しいアルペジオがぐっと心に迫る『町を編んで』。優しくてどこか懐かしく、少しだけ寂しいのに心があたたかくなるようだった。続いて『シティーガール』『アイボリー』を披露し、ステージ上の彼らと呼応するように観客の熱が増していく。

最後は『放課後の過ごし方』で締めくくり、「また会いましょう」という言葉で終えた。

KOHAKUのパフォーマンスを見ていると、エネルギッシュな演奏と真っ直ぐ届く歌声に、自分はひとりで生きているわけではないという安心感を感じる。たとえ今ひとりぼっちの環境に置かれていたとしても、彼らの音楽が隣にある。手を伸ばせば触れられる距離で、いつもそこで鳴っている。

KOHAKUの持つ魅力は、その若いエネルギーや豊かな音楽性だけではなく、つかず離れずの距離感でずっと隣にいてくれる、優しい友達のような存在感でもあると感じた。

【Setlist】
1. 小心者の歌声は
2. アンドロメダ
3. 町を編んで
4. シティーガール
5. アイボリー
6. 放課後の過ごし方

荒巻勇仁

個性あふれる歌唱と洗練されたライブパフォーマンス

ミステリアスな雰囲気を際立たせる衣装をなびかせ、颯爽とステージに登場したのは荒巻勇仁(あらまきゆうじん)。

独自の音楽性、歌詞の世界観、高い歌唱力を武器とする、2001年生まれの若き実力派アーティストだ。

最初に披露したのは『天才になれなかったので』。2022年のリリース後、TikTokで話題となり、総再生回数が1億回を超えた彼の代表曲だ。

フロアから自然に生まれてくる手拍子の音と安定感のある歌声が混ざり合い、心地の良い空気を生み出していく。ステージでは歌いながら笑顔になる瞬間が何度かあり、これまで踏んできた場数に裏打ちされた余裕と抜け感のあるパフォーマンスを見せた。

荒巻勇仁の歌を聴いた時、彼の持ついくつかの魅力のなかで特に個性的で光るものは、この歌声なのだと感じた。肩に力が入っているように見えないのに熱く、パワフルで、決してぐらつくことがない。細部まで丁寧な表現が行き届いている。その歌唱力に思わずぐっとくる。

踊るように軽やかに『過負荷』を歌ったあとのMCでは、今回のライブイベントの出演者が自分以外全てバンドという環境の中、シンガーソングライターとしてこの舞台へ立てたことへの感謝の言葉を述べた。

そして追い風に吹かれて走り出したくなるような純度の高い曲『青春を』、続いて『東京症』を鮮やかに歌いあげていく。

エネルギーにあふれたライブパフォーマンスで、フロアに満ちている空気を熱くしていく荒巻。2度目のMCでは、音楽プロデューサー・Yaffleとともに制作した新曲『憧憬画 feat. 荒巻勇仁』について触れた。

『憧憬画』は、眞栄田郷敦が主演を務める8月公開の映画『ブルーピリオド』の劇中歌として書き下ろされた楽曲。楽曲のこと、映画作品の内容、そして自身が抱いてきた「天才コンプレックス」について、言葉を選びながらひたむきに語った直後、『憧憬画』が披露された。

最初から与えられているもの、どれだけ欲しくても与えられなかったもの、小さな光を自分で集めていくことの喜びと虚しさ、遥か遠くにある憧れの風景が、鮮やかな色で勢いよく描かれていくようなイメージが沸いてくる。

荒巻勇仁はこの日の自身のステージを『未成人』で締めくくった。軽やかなのに力強く、踊るように歌い、何度も楽しそうに笑う。MCで語った自分の中にある「天才コンプレックス」を隠すことなく、一人のアーティストとしてそれを抱えながら歌い続けていく、そんな覚悟が感じられるパフォーマンスだった。

【Setlist】
1. 天才になれなかったので
2. 過負荷
3. 青春を
4. 東京症
5. 憧憬画 feat. 荒巻勇仁
6. 未成人

HALLEY

心地の良い熱が生み出す、ドラマチックなステージ

HALLEY(ハレー)は、張太賢(Vo.)、登山晴(Gt.)、西山心(Key.)、高橋継(Ba.)、清水直人(Dr.)からなる5人組R&Bバンドだ。

早稲田大学ブラックミュージックサークルでの出会いをきっかけに、2021年5月に結成。R&Bを基軸にしながら、様々なジャンルの要素を組み合わせた独自の音楽性で注目を集め、早耳リスナーの間でホットな存在となっている。

1曲目の『Set Free』の演奏が始まると、まずメンバーがそれぞれ作り出す音の分厚さに驚いた。その中にあってさえかき消されることなく存在感を増す、張太賢(チャン・テヒョン)の歌声にも心動かされる。

続く『Cause It’s Too Cold To Walk Alone』『Chicken Crisp』では最初に出した迫力をそのまま残しつつ、心地の良いグルーヴ感を生み出していく。

MCではメンバー同士の気軽なかけあいで、普段の会話のような和やかさを感じた。パフォーマンスの格好良さとの絶妙なギャップが親しみやすく、観客との距離もぐっと縮む。

『Sugary』『Lemonade』は、全パートがそれぞれ個性的な光を放っている姿が印象に残る。『Clear Mind』のパフォーマンスでは演奏と歌唱がさらに熱を増し、会場との一体化も高まっていくのが感じられた。

エネルギーに満ちた『From Dusk Till Dawn』。音を奏でることを楽しんでいる純粋な喜びと、どこまでも行けそうな軽やかな自由さ、ライブの端端であらわれるこなれた余裕と高い演奏技術・歌唱技術を感じさせた。

アンコールでは、「『Whim』と『Daydream』の2曲を用意してきましたが、どちらがいいですか?」という観客とのコミュニケーションを通して『Daydream』を披露した。

人生には理想と現実があるが、現実はなかなか理想を越えられない。私たちはどうにか日々を生きるのに精一杯だ。感動的なことや劇的なことはそう簡単には起こらない。

でも、劇的なことが起こらないこの日々を鮮やかに彩るような音楽がここにある。HALLEYがこの日のステージで見せてくれたのは、そんなドラマチックさだった。

【Setlist】
1. Set Free
2. Cause It’s Too Cold To Walk Alone
3. Chicken Crisp
4. Sugary
5. Lemonade
6. Clear Mind
7. From Dusk Till DawnEn. Whim
En. Daydream

(取材/文・望月柚花)
(撮影・小野秀梧)X Instagram

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