「このフリーBGM、あの動画の曲だ」
YouTubeを日常的に視聴する人なら、一度は思ったことがあるのではないだろうか。
YouTubeに投稿された動画で使用されている音楽の多くは、作者の厚意により無料で公開され、使用許可が出ている「フリーBGM」と呼ばれるものだ。“よく耳にする音楽”というのは、それだけで強い影響力を持つ。そのため、ネット上における動画文化が高度に発達し大衆化された現代では、多くの人に利用され愛されるフリーBGMが強い力を発揮することも多い。
音楽は記憶と強く結びつく。日常のなかでふとした時に耳にするフリーBGMと共に、動画に映し出される人や物、情景が呼び起こされ、心がふっと軽くなるような経験をしたことはないだろうか。
今回は無数にあるフリーBGMのなかから、そんな記憶を呼び起こさせるような「一度は聴いたことがある」定番のフリーBGMを紹介する。なんてことのない日常を映した動画をも彩る、フリーBGMの力を今一度感じ取ってほしい。
「やっと辿りついた」
その暖かさにいつだって心奪われ、そして癒される
『You and Me』
しゃろう
動画内で使用されたフリーBGMでも、概要欄に名前が記載されていないことは数多くある。そのため、無数のフリーBGMからある一曲を探すのは至難の業だ。しかし、この曲を耳にした多くの人は探さずにはいられないらしい。
寂しくも暖かいこの曲からは、日常をありのままにほんのりと明るく照らすような印象を受ける。寂しくて泣いてしまいそうな夜でも、今日はダメな日だったと反省する夜でも、そっと寄り添ってくれる。そんな押し付けがましくない優しさに、どうしようもなく癒されてしまう。
安定感のあるベースと、流れるようなクラシックギターのリフ、そしてシンセが紡ぐ心地良い旋律…どれも一度聴いてしまえば心を奪われ、忘れることはできないだろう。探さずにはいられないのも納得だ。
なんてことのない一日をリフレッシュした気分で始められる爽やかな曲
『パステルハウス』
かずち
どこまでも広がる青空のような爽やかさと、2010年代に流行したフリーゲームの音楽を彷彿とさせるような懐かしさをあわせもった一曲。
所々に聞こえてくる、バイオリンのピチカート音が可愛らしくて心地よい。雨上がりの快晴のなか、葉っぱをつたう雫が落ちる音のような軽快さ。暗くじめじめした気持ちから一気に解放されたときのような、なんとも言えない心地よさを感じることのできる曲だと思う。
憂鬱な朝に聴けば、「今日も程よく頑張っていこう」と気持ちをリフレッシュすることができるのではないだろうか。
日常を邪魔しないシンプルでストレートなボサノヴァ
『ensolarado』
Kyaai
一人で静かに過ごす時間は、単純に孤独と言えるのだろうか。
日常を穏やかに彩るこの曲は、自身の存在を決して激しく主張しない。クローズハイハットとフルート、そしてピアノを主として構成されたシンプルでストレートなボサノヴァ。にもかかわらず多くの人に愛されるのは、ストレートでシンプルだからこその安定感を感じ取ることができるからだと思う。日常を邪魔しない音楽というのは、それだけで価値があるのだ。
自分の好きなことをして一人で過ごす時間も大切だ。この曲は、そんな大切な時間を過ごすときにこそおすすめしたい。
無邪気で空虚な明るさに癒される夜があったっていい
『全てが終わる夜に』
しゃろう
どこまでも明るい旋律と対になるような重苦しいベースが特徴的で、目まぐるしく変わる曲調と同じように感情が掻き乱される一曲。
タイトル通り夜を彩るこの曲は、深夜にふと訪れる寂しさや不安を昇華してくれるような空虚な明るさを持っている。ただその空虚な明るさは決して悪いものではなく、前向きに生きるためには必要な“根拠のない希望”そのものでもある。ときには、そういった無邪気な明るさを日常で感じることがあったっていい。
この曲が描いているのは終わることへの寂しさなのか、新たに始まることへの期待か。曲を通して、相反する二つの気持ちが自分の中に湧き上がってくる。
上記で紹介した4曲はどれも定番であるため、一度は耳にしたことのある曲ばかりだったのではないだろうか。どの作者も素晴らしい曲を数多く作っているため、自分に刺さる曲があれば他の曲も聴いてみることをおすすめする。
また、今回はインストのみのフリーBGMを紹介したが、歌入りのフリーBGMも数多くあることは押さえておきたい。
冒頭でも述べた通り、音楽は記憶と深く結びつく。今やネット上に無数にあるフリーBGMは、あなたのどんな記憶を呼び起こすだろうか? 呼び起こされる記憶をひとり振り返りながら、ときには誰かと共有しながら、YouTubeにあるフリーBGMを聴く時間を過ごすのも悪くない。
そして、今後どういった記憶がこれらの音楽と結びつけられるのか。未来に想いを馳せて、今この瞬間も生み出されている果てなきフリーBGMの世界を楽しんで欲しい。
(文・宮本デン)