生きるための音楽を。THE BACK HORN『カルぺ・ディエム〜今を掴め〜』 2019.11.18 渋谷WWW Xライブレポート

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古代ローマの詩人・ホラティウスは、自身の詩の中で「Carpe diem(その日を摘め)」と説いた。神々がいつ人間に死を与えるか、我々には知り得ない。ならばその日その日を大切に楽しめ、という意が込められたラテン語である。

結成から約20年、「生きること」を歌い続けてきたTHE BACK HORN(ザ バックホーン/通称バクホン)。ときに人間の汚い部分をえぐり、死を見つめ、またときには優しくまっすぐに生を見据える楽曲を生み出してきた彼らは、21年目の幕開けを飾るオリジナルアルバムを『カルペ・ディエム』と名づけた。そしてそれを、「今を掴め」という力強いメッセージに昇華させた。

そんなアルバムの曲たちが世に放たれる『KYO-MEIワンマンツアー カルぺ・ディエム〜今を掴め〜』は、2019年11月18日の渋谷WWW Xを皮切りに全国各地で全22公演を開催。今回はそのツアー初日の模様を、デビュー時から彼らに支えられ続けてきた一ファン目線で興奮とともにお届けする。


「生きるための言葉を刻もう」

渋谷のスペイン坂にあるWWW Xは、2016年にオープンしたキャパ約700人のライブハウス。THE BACK HORNの都内でのライブによく使用される新木場STUDIO COAST(キャパ約2400人)やZepp Tokyo(キャパ約2700人)に比べ、かなりコンパクトである。彼らとの一体感を存分に感じられる、ツアー初日にふさわしい会場だ。

バクホンのライブで注目すべきもののひとつに、ステージ後方のバックドロップがある。毎回ライブのコンセプトを表現したバックドロップが掲げられており、本人たちが描く場合も多いのだが、今回は「今を掴め」というメッセージを体現するかのような、光に伸ばす手が描かれたアートワーク。その迫力ある絵を前にファンたちは、今か今かと開演を待つ。

19時オンタイムで会場内が暗転し、SEが始まる。ツアー中はフェスなどで使われている定番のSEではなく、Gt.菅波栄純(以下:栄純)がつくるツアーオリジナルのSEが流されるのだが、それも彼らのライブの楽しみのひとつだ。今回は幻想的なムードが漂うクラブミュージックのようなSE。音が最高潮に達すると同時にステージがぱっと赤く照らされ、4人のメンバーが次々と姿を現した。

1曲目は、アルバムの1曲目でもある『心臓が止まるまでは』。怪しげなイントロが響き、Vo.山田将司(以下:将司)がこう歌い出す。

ハローハロー
生きるための言葉を刻もう

THE BACK HORN 『心臓が止まるまでは』 作詞作曲:菅波栄純

このツアーの始まりに、これ以上ふさわしいフレーズはない。「何があっても音楽やり続けてやる!」という気合いを込めて書いたと栄純はコメントしているが、荒々しく生々しい本音をユーモアたっぷりに歌詞に変えるセンスは、彼にしかない表現者としての才能だと思う。サビで流れるように響くシンセの音色もたまらない。

「お手を拝借〜」と「さあ言葉を刻め〜」の部分ではオーディエンスから迷いなく手拍子が起こり、まるで何年も演奏してきた曲のような一体感が会場全体を満たした。ちなみにこの曲、Queenの映画『ボヘミアン・ラプソディ』内の『We Will Rock You』が始まるシーンに影響を受けてつくったらしいが、あまりに栄純節が炸裂しているので感づく人は稀だろう(笑)。

『カルペ・ディエム』の曲から、インディーズ時代の曲まで

2曲目は、アルバムの順番どおり『金輪際』。Ba.岡峰光舟(以下:光舟)が高速で刻むイントロに会場が湧く。これは、ライブを生きがいにがんばる人を描いたという作詞作曲Gt.栄純の曲。1番サビの「儚い光に手を伸ばし続ける」と、最後の「それでも僕ら手を伸ばし続けよう」の部分で、Vo.将司はバックドロップの絵に重ねるかのように右手を宙へ高く掲げた。

ライブ定番曲の『シンフォニア』で会場がさらに盛り上がったあと、Dr.松田晋二(以下:マツ)のMCへ。昨年の結成20周年イヤーを終え、これまでの20年の歩みと今を詰め込んだ最高のアルバムができたこと、そしてそれを引っさげて全国ツアーを行なえることへの喜びを語った。

次に演奏されたのは、Ba.光舟が作詞作曲した『フューチャーワールド』。イントロをはじめ平歌部分をもスラップベースでグイグイ引っ張っていく、幅広いベースプレイとテクニックに定評のある彼ならではの曲だ。

この日演奏された中でもっとも古い曲が、インディーズ時代にリリースされた『ピンクソーダ』。最後に「こんな世界なんて爆弾で吹き飛ばしちまえ」と歌う若き日のVo.将司の狂気まじりの声は鳥肌モノだが、20年経った今では色気も加わって、昔とは違った魅力を感じさせてくれる曲となっている。

その将司が作詞作曲した『ペトリコール』は、「怪しい童謡感」をテーマにしたという曲。オルゴールのような音色、スネアとタムが刻む三拍子のリズム、そしてラストに向かって壮大に展開していく構成がライブではより一層映えると感じた。この手の曲はバクホンらしさが感じられて個人的に好きだ。これまでの曲でいえば『シュプレヒコールの片隅で』や『コオロギのバイオリン』のように。

そして、ここからは3曲続けて過去のアルバム曲。暗闇でもがきながら生きる様をダンスに例えた『暗闇でダンスを』、真実の自由とはなにかを考えさせられる『自由』、絶望的なこの世界に溺れまいと警鐘を鳴らす『閉ざされた世界』。いずれも、自分らしく悔いなく生きるために立ち上がる姿を描いた、まさに「今を掴め」を体現する曲たちだ。

ギター・ベース・ドラムが激しくリズムを刻む『閉ざされた世界』のアウトロが終わると、束の間の静寂ののちに『I believe』が始まった。人間関係を築くことが苦手ゆえ、人生のすべてをテレビや雑誌へのハガキ投稿に捧げるツチヤタカユキの私小説『笑いのカイブツ』に衝撃を受けたGt.栄純が作詞作曲した曲だ。

大切な人やものを捨てて自分の夢だけを追い続けてきた人の孤独感、焦燥感、後悔、そして覚悟が、美しいメロディとともに描かれている。将司の切ない歌声に栄純の美声がコーラスで重なり、思わず涙がこぼれた。ふとまわりを見ると、同じように目もとをおさえる人が何人もいた。

もうこの夢だけ抱いて 全部裏切って
もうこの夢だけ抱いて あとは捨ててきたよ
 
ああ 夜が更けていった
ああ 二度と戻れないよ
ああ ひとり闇の中で
描け 光を描け

THE BACK HORN 『I believe』 作詞作曲:菅波栄純

「生きたい」という気持ちにさせる音楽を

『カルペ・ディエム』は4人が平等に向き合って完成したアルバムだと、Vo.将司はMCで改めて語った。Gt.栄純がそれぞれの個性や得意分野をふまえて曲のイメージを割り振り、栄純・将司・Ba.光舟の3人が作曲を担当。アルバムタイトルの発案者でもあるDr.マツは、アルバムの世界観を左右する作詞に注力したという。

「20周年を終えて新鮮な気持ちでつくった曲たちをみんなに聴かせる日をワクワクして待っていた。このアルバムを聴いて心が安らいだり、元気になったり、動いたりしてくれたら」と、将司は率直な思いを口にした。

バクホンといえば、栄純を中心とした楽屋のようなゆるいMCも魅力である。この日の栄純は、本番前に「グミ」の不思議さについて考え込むあまり思い詰めた顔をしており、それを見た将司が「だっふんだ」で元気づけようとしたという微笑ましい(?)エピソードを披露。「グミよりも噛みごたえのあるライブをします」と強引に締め、会場を和ませた。

Dr.マツの切ない詞が光る『ソーダ水の泡沫』、宇多田ヒカルとのコラボで話題となった『あなたが待ってる』、そしてエレキピアノのイントロから始まりストリングスが曲を彩る『果てなき冒険者』とバラードが続く。

『果てなき冒険者』は、「がんばれ」とは言わずにそっと寄り添ってくれる優しい応援歌だ。

心の奥にまだ消せない夢がある
ボロボロに破けたプライドを抱えて
負けれない日々を超える
ひとりぼっちの戦いだって
もし生まれ変わっても同じ道選ぶよ
受け入れた弱さと共に目指すから
悪くない物語さ
大丈夫 まだ明日は見えるよ

THE BACK HORN 『果てなき冒険者』 作詞:松田晋二 作曲:山田将司

「よく『死ぬ気で音楽やってます』とか言うけど、本当に死にたいという思いを抱えている人に失礼だと最近ずっと考えている。死ぬ気でやるのは当たり前として、『生きたい』という気持ちにさせる音楽、ライブをやりたい」

Vo.将司がMCで明かしたその真摯な思いは、自身が作詞作曲した『鎖』、そしてキラーチューンの『戦う君よ』『刃』へとつながっていった。バラードに浸っていた会場は一気にヒートアップし、ダイブとモッシュが巻き起こる。

本編ラストを艶やかに飾ったのは、Dr.マツが作詞、Gt.栄純が作曲を手がけた『太陽の花』。和の雰囲気をまとったシンセと水の中にいるようなベースの音色が絡み合い、その後アップテンポに変わる2段階構成のイントロには、聴き手の気持ちを高ぶらせる力がある。今のバクホンのすべてを表しているような「命は燃え上がる太陽だ」というフレーズを携えたこの曲は、間違いなく今後のライブの定番曲になるだろう。

「また生きて会おうぜ」

アンコールは、2004年のシングル曲であり代表曲『コバルトブルー』で幕を開けた。

個人的に、コアなファンほどそのアーティストの有名曲に対して「○○(アーティスト名)はこの曲だけじゃないし」と反感を抱く傾向があるように思うのだが、バクホンの『コバルトブルー』に関しては長年のファンから見ても文句なしにかっこいい。どんなに「今日は大人見する」と決めていても、ライブ用にアレンジされたイントロが始まるとその決意は一瞬で吹き飛んでしまう。

潔く散っていくような疾走感が、特攻隊をイメージして書かれたGt.栄純の詞にぴったりと重なる。「さあ笑え 笑え ほら夜が明ける 今」のオーディエンスの大合唱には毎回心が震えるが、今日はいちだんと強い結束感を感じた。

そして、Vo.将司がいつも最後に口にする「また生きて会おうぜ」という言葉のあと、アルバムのラスト曲でもある『アンコールを君と』が始まった。Gt.栄純とBa.光舟の共作である前向きなメロディと、ライブをイメージして書いたというDr.マツの詞が、力強く背中を押してくれる曲だ。

「命を叫ぼう」の大合唱が清々しく響き渡り、「また生きて会おうぜ」という将司の言葉が歌詞となってわたしたちの心に届く。こうしてツアー初日のステージは、実に晴れやかなムードで幕をおろした。


「生きること」と正面から向き合い表現し続けることは、決して容易ではないだろう。それでも、今後もそのテーマを全うしていくという覚悟が、『カルぺ・ディエム』と名づけられた12thアルバムには表れている。

2020年2月15日の新木場STUDIO COASTでのツアーファイナルまで、全国を縦断しながら『カルぺ・ディエム』の曲たちを歌い育てていくTHE BACK HORN。生きるための音楽を奏で続けると誓った4人の新たな歩みは、まだ始まったばかりだ。

(文・三橋温子)

参考
音楽ナタリー
Real Sound


『カルペ・ディエム』
THE BACK HORN

[CD + Blu-ray Disc]<初回限定盤A>

[CD + DVD]<初回限定盤B>

<通常盤>

LIVE SCHEDULE

THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」カルペ・ディエム〜今を掴め〜

2019年

  • 11月18日(月)渋谷WWW X (OPEN 18:15 / START 19:00)
  • 11月21日(木)浜松窓枠 (OPEN 18:30 / START 19:00)
  • 11月23日(土)郡山HIP SHOT JAPAN (OPEN 17:30 / START 18:00)
  • 11月27日(水)HEAVEN’S ROCK 熊谷 VJ-1 (OPEN 18:30 / START 19:00)
  • 11月30日(土)札幌PENNY LANE24 (OPEN 17:30 / START 18:00)
  • 12月4日(水)京都磔磔 (OPEN 18:00 / START 18:30)
  • 12月6日(金)金沢EIGHT HALL (OPEN 18:30 / START 19:00)
  • 12月7日(土)松本Sound Hall a.C (OPEN 17:30 / START 18:00)
  • 12月12日(木)米子AZTiC laughs (OPEN 18:30 / 19:00)
  • 12月13日(金)広島CLUB QUATTRO (OPEN 18:00 / START 19:00)
  • 12月15日(日)福岡DRUM LOGOS (OPEN 16:00 / START 17:00)
  • 12月21日(土)盛岡Club Change WAVE (OPEN 17:30 / START 18:00)
  • 12月22日(日)仙台Rensa (OPEN 16:00 / START 17:00)

2020年

  • 1月10日(金)高松MONSTER (OPEN 18:30 / START 19:00)
  • 1月11日(土)高知X-pt. (OPEN 17:30 / START 18:00)
  • 1月17日(金)心斎橋BIGCAT (OPEN 18:00 / START 19:00)
  • 1月23日(木)水戸LIGHT HOUSE (OPEN 18:30 / START 19:00)
  • 1月24日(金)HEAVEN’S ROCK 宇都宮 VJ-2 (OPEN 18:30 / START 19:00)
  • 1月31日(金)名古屋DIAMOND HALL (OPEN 18:00 / START 19:00)
  • 2月2日(日)鹿児島CAPARVO HALL (OPEN 16:30 / START 17:00)
  • 2月11日(火祝)umeda TRAD (OPEN 16:00 / START 17:00)
  • 2月15日(土)新木場STUDIO COAST (OPEN 17:00 / START 18:00)

チケット代:\4,300(税込・D代別)
※4歳以上チケット必要

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